表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

肉まんの中身

作者: hiroki26

感想をお聞かせください。

肉まんの中身は……


肉まんを開くと、そこには少女が立っていた。


「きゃ、何見てるんですか!! 」


俺は戸惑った。今日は寒いから肉まんを食べようと思ったのに。これは一体どういう事だ?

とりあえず、わけがわからないので俺は肉まんを、そっと閉じた。


「きゃーくらーい、誰かたすけてー! 」


肉まんから叫び声が聞こえている。肉まんって叫び声がする食べ物だっただろうか?遠くにある空を見上げながら、俺は秋らしく物思いにふけってみた。読書の秋という事もあって、最近はライトノベルをよく読むのだが。全くと言っていいほど、ライトノベルによく似た展開である。このあと肉まん少女との、熱い恋愛がおこるのだろうか?俺はそんな事をこの数秒の間ふけってみたが、やはり肉まんから叫び声が聞こえてくるのである。


おそるおそる、もう一度肉まんを開いてみた。


「ちょっと、あなた!暗いじゃない!なんで急に閉じ」


俺はもう一度肉まんをそっと閉じてみた。


まだ中からごにょごにょと叫び声が聞こえている。

人生で何回あるだろうか?肉まんを開いたり閉じたりすることは。いや、そんな事絶対にない、絶対だ。何せ肉まんをひらいたら、そのまま口に頬張って。豚肉の味と肉汁を堪能するのが、肉まんの正しい食べ方だからだ。そうそう、一度開いた肉まんを閉じるなんて、肉まんに失礼ではないか。もう一度、秋らしくもの思いにふけってみることにした。それにしてもいい天気ですね。秋空とはこういった、清々しい空のことを言うんですね。遠くには銀杏の木が黄色に染まっていて。なんとも秋らしいいい景色ですね。ええ。


肉まんからは、まだ叫び声が響いていた。

すこしうるさいので、肉まんにそっと手を置いた。叫び声が聞こえないように、覆いかぶせたのである。

肉まんからの叫び声を覆い隠した俺は、これが現実のものなんだなと、しみじみと感じた。これから肉まんの中に入った少女とどんなことが起きるのだろうか?そんなのも思いにふけってみるの悪くない。肉まんを両手の中に閉じ籠めて、俺は再び物思いにふけってみた。

秋だしこれくらいはいいよね?ね?



しかし、肉まんはそんな事では許してくれなかったのである。



肉まんの中に入っていた少女が、自分でこじ開けて出てきた。そして肉まんから出てきた少女は、元気な声でこういった。



「肉まんから生まれた女、肉娘!」



肉娘のあたまそっと、親指で押し当てて肉まんに戻した。そして、もう一度両手で封印した。やはり呪文を唱えてみるべきだろうか?「肉娘封印!」とでも叫べばいいだろうか。親指からは、肉汁の匂いが漂っている。


それにしても、肉まんから生まれた肉娘とは。ももから生まれた桃太郎ですら、自分の名前を少し捻って考えているのに。肉娘とはなんと何の捻りも、語集もない奴だ。こいつは一体なんなんだ。そして俺のこの冷静さには、俺自身が一番驚いている。

しかし、落ち着いている今ならば、冷静に考える事が出来る。この肉娘とは肉まんから出てきたわけだから、やはり肉まんの化身かなんかなのだろうか?

日本には八百万の神といわれるほど、神様がたくさんいるわけだ。もしかしたらこの少女も神様かもしれない。そんなことを考えていると、封印している下の手が肉汁だらけになっていた。やはり、肉汁の香りは食欲をそそる。


 いつまでも肉まんを両手で封印していては、物事が進展しないので。とりあえず開印してみることにしよう。


俺は心の中で、「肉娘開印!」と叫んで肉まんの中身を両手で開いてみた。



肉まんの中には、パンツ一丁のオッサンが立っていた。


びちゃびちゃに手に付いた肉汁を、俺は見直した。この汁は本当に肉汁だろうか?おっさんがもらしたんじゃないだろうか?もし漏らしたものでなかったとしても。この肉汁はオッサンの大量の脂汗にちがいない。俺はほんの数秒の間に、様々な想像をした。


そして、俺は吐き気を催した。いかりのあまり、オッサンを肉まんから摘み上げる。


「ちょっと、ちょっと。まてまて、俺は人違いだ」


オッサンは慌てて叫んだが俺は無視をした。肉娘と楽しい会話をするはずだった。この俺が、オッサンと会話しなければならない。俺のイライラは絶好調に達していた。

オッサンの頭のこめかみぐりぐりと、押してみる。オッサンのからだから、あふれんばかりの肉汁が飛び出した。


……おいしそうな肉汁の正体は。やはりおっさんからしみだしていた。


俺はおいしそうな肉まんを地面におとして。おっさんを両手でつかみ、思いっきり捻りあげた。


「ぎゃああ、やめて、やめて! でちゃう、でちゃう」


こころのそこで死んでしまえばいいと思いながら。全身全霊をこめてオッサンを締め上げた。


そして、手の中のおっさんは消え、溢れんばかりの肉汁が俺の周囲に散らばっていった。

手の中にオッサンはいない。よかった。


こんな奇妙な経験をしたのは去年の秋。

そして、今年もおいしい肉まんのシーズンがやってくる。皆も肉娘と出会ったら。素直に会話してほしい。オッサンとであったら。思い切り締め上げて欲しい。俺が肉まんに言えるとはこれくらいである。


                                     終わり


感想をお聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ