第八話 -第4回ぷりんちゃん放送局-
……
「はい……え? ホントに始めちゃうの? ……え、入ってる?」
……
「ああ! ……すみません。それでは、本日の放送を始めます。アシスタントのチルです」
……
「はい、メインの彼はというと、例によって例のごとく、突然奇声を発して放送室を飛び出して行ってしまいました。いつまで経っても帰ってきませんので、やむなくアタシ一人で始めることになってしまいました。正直言って、一人じゃかなりきついんで、これを聞いていたらどうか早く帰ってきてください。というか、ピンチヒッターの方でもいいので、早く来て」
……
「はい、それでは本日の曲紹介へいきたいと思います。アイツ、こんなのいつの間に録ってたんだろうなぁ……作詞・作曲・編曲・歌プリンちゃんで『プリン王国国家、第一楽章』です。どうぞ」
――ぷ、ぷ、ぷぷぷ、ぷりんぷりん♪ ぷりんぷりん♪
ぷりんちゃ~~~ん♪
遠い星からやってきたよ、ぷり(以下略)――――
「なんか最近、放送内容がカオスになりつつあるので、皆さんのまともな投稿を心よりお待ちしております。本当は、このまま第一楽章から第十三楽章までメドレーでお送りしようと思っていたのですが、一部の方……というより、うちの部長から苦情が入りまして、ていうか放送内容にケチつけるなら本人出てこいよと、アタシは思ったり思わなかったり――」
――ガララッ!
おまた~!
「遅い! ていうか、なんだその格好は?!」
いやぁ、着替えてたら意外に手間取っちゃって。
「そんな制服、いったいどこから……」
制服汚しちゃいました~って、ジャージ着て保健室行ったら、快く貸してもらえましたよ? 保険室の先生ありがとうございました。後日、クリーニングしてお返ししますね。
どうどう? 似合う?
「いや、だから、リスナー見えてないから」
何言ってんですか、誰もリスナーになんて聞いてないじゃないですか。
どうどう、チルチル? 似合う~?
「……」
ヒドイ、何も言ってくれないなんて……
「あ、いや、その……」
……
「に、似合ってるわよ……」
キャ~!
どうですか皆さん、聞きましたか!?
このチルのツンデレっぷり、神懸ってると思いませんか。
「うっさい! ツンデレじゃない!」
ねぇねぇ、一緒に写真撮ろ~。
「な、何すんのよ、ちょっと!」
…………
……
――パシャ!
はい、それでは本日の放送を……はい、始まってますね。
今日もメインの彼は、そうですね、日本山系の奥地でクマと格闘しておりますので、ピンチヒッターにこのワタクシ、ヒーローはいつも遅れてやってくるでおなじみの、プリンちゃんでお送りしたいと思います。
それでは、本日の曲紹介を。
「終わった終わった」
……チル、あのさ、勝手にワタクシのネタを使われると、すぐ引き出しのストックが底をつ……はい、すみません、ワタクシが遅刻したせいですね。
それじゃあ、今日はどうします?
「どうしたもこうしたも、いつもアンタがまともにリスナーの投稿を紹介しないせいで、質問やリクエストのメールが山のように届いているんだけど」
みんな~、ありがとぉ。
「皆さん、本当に聞いてください。お願いします。最近、こっちへの投稿ばかりが増えていて、メイン放送の方へのリクエストが減っています。どうか、メインの彼の方も構ってあげてください、切実にお願いします」
そうですよ。むこうの彼は、もうやりたくないっていじけてますよ。
「まぁ、やりたがってないのは、最初からなんですけど」
む。そんなことはないですよ。彼は彼で、いかに放送を盛り上げるか日々血の滲むような努力を重ね……
「努力してるの?」
全然。
「だから、そういうことばかり言ってるから、同一人物説とかネタキャラ説が噂されてて」
はい、そうでした。
これまで、ワタクシは皆さんのいくつかの質問メールに答えてきましたが、ワタクシのプライバシーや私生活に関する質問には一切答えておりません。
なぜなら、ワタクシがワタクシのことを語っても、ちっともおもしろくないからです。
そのせいで、ワタクシの人物像が見えてこないということもあり、ニセモノだとか、本体はボイスチェンジャーだとか、実はオカマだとか、様々な憶測が飛び交っております。
「アタシはむしろ、アンタがそうなるよう仕向けてるとしか――」
そこで!
本日は、チル以外にこの学校でワタクシのことをよく知る人物を、特別ゲストとしてお呼びしたいと思います。
「……マジか」
マジですマジです。
というか、今から呼び出したいと思います。
この部屋の電話って使える?
え、内線しか使えない? 外線は無理? じゃあチル、ケイタイ貸して。
「……あの、まさか、ずっと携帯電話通して放送続けるつもり? アタシのケイタイ料金が……」
部費で請求してください。はい、部長さんの苦情は聞きませんよ。
『――プルルルル!』
お、かかりましたね。ちゃんと出てくれるかどうか。
「了承取ってるの?」
やだなぁ、もちろん取ってませんよ。ゲストさんにも部長さんにも。
『――ガチャ! もしもし、どしたのチル?』
もしもし。リッコですか?
『あれ、チルじゃない……? ひょっとして、ヒメちゃん?』
そうです、おひさでーす。
『や~ん、お久しぶり! なになに、どしたの?』
今日の放送、聞いてませんでしたか?
『ごめん、聞いてなかった。今運動場の端っこで、みんなでお昼食べてる。もしかして今日の放送、ヒメちゃん出るの?』
出るもなにも、この会話ごと筒抜けですよ……って、聞いてませんね。
『みんなー、今日ヒメちゃん出てるって。聞こえるとこ移動しよ!』
ああ、いいですいいです! この会話がそのまま流れてるだけなんで。
はい、というわけで、本日は特別ゲストのリッコさんに、ワタクシ達に代わって質問メールに答えて頂きたいと思います。
『うそ! マジで!?』
マジマジ。リッコよろしく。
ほらほら、チルもポカンとしてないで、早く投稿まわして。
『ヒメちゃん、それじゃあさ、このあと放送終わったらこっちおいでよ。お菓子あるよ。みんなもヒメちゃん見たいって』
はーい、時間+心の余裕がありましたら伺うことにします。
それでは、最初の質問です。
「はい。プリンちゃんの外見的特徴を教えてください、っていう質問なんだけど」
可愛いです、以上。
「……やっぱなんていうか、本人が言うとすごーく薄っぺらく聞こえる」
でしょう!
というわけでリッコ、お願いします。
『了解。つまり、ヒメちゃんのスリーサイズを答え――』
違います! 何をどう解釈すればそうなるんですか?! そんなリアルに答えなくていいんです。
『うんとねー、普通に可愛いと思うよ?』
皆さん、知ってますか? 女友達の言う『可愛い』ほど当てにならないものはないんですよ。男性諸君は注意してください。
『あ、ヒメちゃんとチルと、三人で一緒にプリクラ撮ったのあるよ』
『え~、見たい見たい!』
『見せて見せて!』
……何やら、電話の向こうが騒がしいですね。
「あのさ、質問の内容はそんな抽象的な答えじゃなくて、もう少し身体的な特徴とかを聞きたいみたいなんだけど」
らしいです。リッコ、どうですか?
『身体的特徴? そうだねぇ、身長はワタシやチルよりも10センチくらい低いかな。髪はショートだったけど、エクステ買ってたよね。身体もどっちかっていうと小柄な感じ、軽そうだったかな?』
そんなに身長低くないです、それはリッコが高いヒール履いてただけで。
『いや、目線は低かった。髪のボリュームだけじゃ誤魔化されないわ』
そんなにチビじゃないですってば、しくしく。
『なんでそんなに落ち込んでんの。可愛くっていいじゃない。それに、十分胸だってあるみたいだし』
まぁ、チルよりは。
「……」
『ワタシほどはなかったけど、ヒメちゃんはチルより2カップも大きい*カッ――』
わ~~っ!!
「きゃーーーっ!!」
ガガッ!
……
ピ――――
……
……
リッコ、これは生放送です! 編集はできませんので、余計なことは言わないでください。
『なによ、別にいいじゃないこれくらい』
ダメです。これがバレると、いかにチルがズンドウ体型かということが。
「おだまり!」
はい、続いてのメールです。
「続いてっていうか、続きというか。プリンちゃんの性格や好みはどうなの、っていう質問が多いんだけど」
性格は、こんな性格です。
「放送で話してるこのまんまです」
というか、自分で答えようがないじゃないですか。
リッコ、どうですか?
『う~ん、どうも何も、ワタシもそんなに長く話したわけじゃないから。むしろ、それはチルから見てどうなの?』
「……ただのバカですね」
バカじゃない!
「バカです」
バカない!
『はいはい。んじゃ、好みってのはどうなのよ? これは本人答えられるでしょ?』
そうですね、好きなものはババロアです。嫌いなものは、チルの手りょ――
「それは前に答えたでしょ!」
『じゃあ、好きなタイプは?』
……チルみたいないじりがいのある、ツンデレっ子ですね。
「ツンデレじゃない!」
ツンデレです。
「ツンデレない!」
『……なんかさ、アンタ達、羨ましくなるくらい仲いいよね』
というか、すみませんねぇ、特別ゲストに軌道修正任せちゃって。
「うぅ、すみません」
それでは、次の質問メールへ。
『それよりさ、ヒメちゃん』
はいはい。
『なんか、さっき放送の中で写真撮ったんだって?』
はい、撮りましたよ。
『その写メ送ってよ。それか、放送部のHPにアップしてよ。みんな見たいって』
ヤです、秘密です、二人の思い出は宝石箱に入れてそのままお墓まで持っていきます。
「投稿ボックスにも、その写真が見たいとか、プリクラがほしいっていうメールがいっぱい届いてるんだけど」
むぅ、まぁプリクラくらいなら。
リッコ、ほしいって言ってる方にあげてやってください。
『ヤダ。なんでワタシなのよ。時間なかったし、三人で分けてるから少ないもん』
仕方ないですね。
それでは、ワタクシの持ってる一枚をリスナープレゼントということで。
チル、ほしいって書いてるメール、どれくらい来てるの?
「うん、たぶんこの辺の投稿はそうだと思う」
わぁ、けっこう多くきてますねぇ。
はい、というわけで、プレゼントの応募はすでに締め切りました。現在投稿ボックスに届いているものの中から抽選したいと思います。みなさーん、今から応募しても手遅れですよ。
チル、どうやって抽選する?
「そうね……リッコ、好きな二桁の数字言ってみて」
『56!』
「はい、じゃあ投稿メール番号の下二桁が56の人にプレゼントします」
『ちなみに、それはヒメちゃんのウエスト――』
ぎゃーーーー!!
なんでリッコがそれを知ってんの!?
『だから、あの時店員さんと一緒に話してたじゃない』
「グ、グラビアアイドル並み…………ていうか、当たったメールってこれなんだけど」
はいはい、当選番号**(チョメチョメ)の幸運な方は、2年A組のミッ……
「……」
……
『え、なになに?』
……チル、個人的にこの人には送らなくていいと思う。というか送りたくない。
「同感」
というわけで、今回のリスナープレゼントは次回へ持ち越します。次回の放送時に読まれた最もおもしろかった投稿者に差し上げますので、ふるってネタを投稿してください。
『え~! 今回決めないの? 次はね、ヒメちゃんのヒップサイズの――』
シャラーップ!
黙りなさい! ゲストといえど、勝手なマネは許しませんよ。
これ以上に、チルの落ち込む顔は見たくないです。
「うっさい!」
はい、というわけで時間もおしてきておりますので、今日の放送はここまでです。
特別ゲストのリッコさん、本日はどうもありがとうございました。
『ほいほい!』
また最後になりましたが、いつものようにこの放送に関する質問・リクエストは掲示板への書き込みなどで受けつけていますので、どうかよろしくお願いします。
本日の放送は、パーソナリティを務めさせていただきましたプリンちゃんと、ツンデレの――
「ツンデレじゃない! チルでした」
ねぇチル、気づいてる? チルがツンデレじゃないツンデレじゃないって言う度に、加速度的にツンデレ属性が上――
――ピ――ブチン!