第二話 -第1回ぷりんちゃん放送局-
あー。あー。てす、てすてす……
何、いいから早くやれと。下から蹴り入れられました。
それでは、本日のお昼の放送を始めます。パーソナリティはもちろん、後ろの席のヤツからはオマエ、隣の席のヤツからはアンタとしか呼ばれず、もう名前なんてどうでもいいんじゃね、考えるの面倒だしどっかの小説みたいに人称だけの、どうもボクです。
「そのボクちゃんを、アンタとしか呼ばない隣の席のチルです。というか、自分で言ってて悲しくない?」
いえいえそんなことはないですよ、涙がちょちょぎれそうなくらいで、口は至って冷静です、放送には差し障りない程度には。そんなわけで、これから数分間、暇つぶし程度にご清聴願えれば……
うっ……
……
「な、何よ、いきなり」
ううっ……あ、いや……うん……
…………
……
というわけで、先ほどの彼は、自己嫌悪が激しくて立ち直れないとのことなので、バトンタッチを致しまして、本日はワタシがパーソナリティを勤めさせていただきます。
「……ええっ!?」
おや、どうしましたチル、まるで鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして。
「え、ちょ、ちょっと待って!! アンタ、なんで――」
何言ってるんですか、チル。ワタシはボクではなくて――
「まさか、アンタ女に――」
ガッ!!
……
……
ピ――――――
……
あー。あー。てす、てすてす。
皆さん、こんにちは。どうやらチルも納得してもらえたようなので。改めまして本日のパーソナリティを勤めさせて頂きます、ワタシは……そうですね、プリン星からやってきたプリンセス、ババロア姫ということに。
「プリンじゃないのかよ。ていうか、アンタ自分で言ってて恥ずかしくない?」
ごめんなさい、もう言いません、自分で言っていて恥ずかしくて死にそうです、穴があったら埋めてもらいたいです、ワタシにはもう穴があっても突っ込むナニがないもので。
台本投げられました。というか、この放送台本あったんですね、ワタシ初めて見ました。
「それは、アンタが毎回、台本の内容無視して進めるから」
いや~、アンタっていったい誰のことでしょうね。ワタシはスペシャルゲストのプリンちゃんですよ。
「もういい」
えー、放送に関する質問、リクエストなどはいつものように手紙を届けるか、掲示板への書き込み、もしくはメールなどでも受け付けています。
それから、本日の放送につきましては、放送事故みたいなものですので、事前に録音したものを放送させて頂いております、ご了承ください。
それでは、一曲目、二年A組の匿名希望のミッチィさんからのリクエストです。好きな人に思いが届くように、曲名は――
♪~
さて、何やら曲紹介の間に、この声誰だとか、こんなアニメ声のやつ放送部にいたっけとか、某ミッチィさんからの苦情のメールなども舞い込んできているかと思いますが、この放送はあくまで事前収録なので、皆様の質問全てにお答えすることはできません。
ですが、ワタシのプリンパワーをもって先読みを行い、いくつかの質問メールに答えていきたいと思います。
「マジか……」
いや、何言ってんですかチル、あたりまえじゃないですか。リスナーの疑問に答えるべく、ワタシが精一杯の予知能力を駆使して。
「はいはい」
まずは、一通目。
というか、質問メールのほとんどがこれ。
『アンタ、だれ?』
こんな疑問メールがたくさん、それはもう山のように届いていますよ。
それでは答えていただきましょう、チル!
「ふぇぁ!?」
こらこら、冷や汗流しながら、なるようになるさ、まぁ本人に任せておけみたいな、投げやりな気持ちでお茶すすってる場合じゃないでしょう。リスナーの疑問は山のように届いているわけですから。
「って、アタシが答えんの!?」
当然。
では、お答えを。
「……そ、それは、プリン星からやってきた――」
却ーっ下!
同じネタを繰り返すなんて芸がないですね、胸もないですね、あるのはお尻と二の腕についた脂肪のカタマリだけで。
「お黙り!」
ともかく、メールには例の自己嫌悪で降板させられた彼が変声機を使っているんじゃないかとか、ネタに困って新キャラ作ってるとか、しゃべりがまんま一緒だぞとか言われておりますが、決してそんなことはないです。
やだなぁ、変声機にこんな可愛らしい声が作れるはずがないじゃないですか。
それに、変声機ごときに、この立派なおっぱいは作れませんよ。
「リスナー、見えてないから。いや、脱がなくていいから……えっ! あ、ちょ、ちょっと待ってって!?」
そんなに疑うなら、チル、実際に触ってみなさいよ。ていうか、ついでに、確認しとこう。
「だ、だからって、なんでアタシの胸まで……きゃ~!」
ガッ!
ガタンッ!!
……
ピ――――
……
……
あー。あー。
失礼しました。
実はワタシの方が胸があったという衝撃の事実はさておき、チルチル本気で蹴らないでください、メール紹介の続きへいきたいと思います。
それでは、お次のメールです。
『もうあなたの正体なんてどうでもいいです。声に惚れました。付き合ってください』
という、これまた匿名希望の二年B組のタナカくんから頂ました。
いや~嬉しいですね。でも、匿名希望を名乗るタナカくんと付き合うことはできません。
ごめんなさい。罪なワタシを許してね。
なお、何故匿名希望の正体が判明しているのかという質問については、PC部の部長さんと、学内ネット管理担当の情報の先生で、二人でよく話し合ってもらうということで。
すみません、悪ふざけがすぎました、この放送を本気で見捨てないでください。
ちなみに、なぜタナカくんとお付き合いできないのかというと、ワタシは身も心も全てをこの隣にいるチルチルに捧げていますので。
「ぶぉ! ……ごほっ、ごほっ!」
そんなわけで、ワタシ達の愛の巣には決して近づかないでくださいね~。なお、廊下で出待ちを期待している皆さん、何度も言うようですが、本日の放送は事前収録なのであしからず。
それでは、続いてのメールにいきましょう。
ほらほら、何固まってんの、次の紹介メールを見せて。それとも、そんなメールじゃなくて、アナタのカチンコチンに固まったそれを、ワタシが舌で優しくときほぐしてあげるから、早く見せてってばダーリン。
「一回死んでこい」
なんてヒドイ言われよう。ツンデレとして受け取っておきます。
……すみません、これ以上やると健全な青少年にはお聞かせできないどころか、先生方からストップがかかりそうなので自重します。
次のメールは、
えっ、メールじゃなくて、先生の呼び出し?
だから、これは事前収録だって何度も言って……
ホントにコレ読むんですか?――
――ピンポンパンポン♪
放送部顧問の先生、PC部顧問の先生、至急校長室までお越しください。繰り返します、放送部顧問の……
――ピンポンパンポン♪
何があってもこの放送は止まりません、誰にも止められません!
さぁ、続いてのメールです。
なに、これが最後?!
いつの間にか時間と容量がおしてきていますので、残念ながらこれを最後のメールとしたいと思います。
『姫、最後に優しく好きですって言ってください。それだけでもう満足です。ごはん十杯いけます』
という、匿名希望の三年D組の……って、皆さんもう分かってて匿名で送ってきてますね。
それでは、チルがエコーまでかけてくれると思いますので、皆さんこれを録音して目覚ましにするなりおかずにするなり好きなようにしてください。
――大好きだよ、ミッチィ!
……え~、何やら身に覚えがないぞという悲鳴が聞こえてくるようですが。いや~、何のことかな、思わず言っちゃったけど。
そんなわけで、本日は臨時でパーソナリティを勤めさせて頂きました、プリン星からやってきたプリンセスと、
「……どこからどう突っ込んでいいのか分からない、チルでした」
やだなぁ、今なら前と後ろと、あと上の口からも――
――ピ――ブチン!
「アンタねぇ、いったいその身体、どうなってんの?」
そんなのボクが知りたいです。ちなみに、今日はまだ女の子のまま、まだしばらく戻る気配なし。放送中に戻らなくてよかった、またなんか変な設定ができるとこだった。
「って、窓開けてどうするのよ?」
もちろん逃げます。今日は事前収録だって言ってるじゃないか。
こんな姿、これ以上人に曝せるかっての。
皆には、自己嫌悪で立ち直れずそのまま自宅警備員に就職しましたと言っておいてください。
「引きこもんな! てか、ちょっと待ってって! 本気でどう収拾つければいいのよ!? って、ここ二階だから――」
全てチルチルに任せます。
悲鳴のような叫びを背に、ボクは窓を乗り越えた。
こうして、我が校の声美少女伝説は始まった。