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『ポイント目的で世界を救っていただけなのに、運営AI少女が俺の部屋からログアウトしてくれない』 〜アマギフしか信じないポイ活廃人、気づけば彼女の笑顔を一番の報酬だと思っていた〜

掲載日:2026/05/30

「おいおいおい、嘘だろ……っ!」


 深夜、満員電車の吊り革に掴まりながら、俺――佐藤はスマホの画面を凝視していた。


 画面で不吉な赤色に明滅しているのは、数日前、身に覚えがないのに勝手に強制インストールされた謎のアプリ。


 その名も、『ワールド・リトリーバー』。


 ちなみに、このアプリが入ってから三日。


 俺はすでに、世界の危機をいくつか処理していた。


 会社の給湯室に発生した小型ブラックホール。12pt。


 隣の課長の闇堕ち。38pt。


 駅前の自販機に封印されていた邪竜。73pt。


 安い。


 世界の危機、全体的に単価が安い。


 そして今、そこには全ポイ活民の心臓を物理的に停止させる、非情なプッシュ通知が出ていた。


【警告:あなたの世界救済ポイント4,900ptは、本日23:59に失効します】


「あと100ポイントでAmazonギフト券500円分に交換できるのに……ッ!」


 現在時刻、23時54分。


 あと6分。


 あと6分で、俺が睡眠時間を削り、世界の裏側で血反吐を吐きながら貯めたポイントが、ただの虚無に還る。


 ふざけるな。


 手取り18万。


 物価は令和のハイパーインフレ加速中。


 なのに給料は据え置き。


 上がるのは上司の血圧と、俺のサービス残業時間だけ。


 そんな暗黒企業戦士の俺にとって、ポイント還元だけがこの世で唯一、嘘をつかない光だった。


 世界が滅ぶ?


 知らん。


 今月のクレカの請求額のほうが、よほど人類滅亡の危機だ。


 その時だった。


 スマホが、網膜を焼き焦がすようなフラッシュと共に激しく震えた。


【緊急:周囲に『世界のバグ』を検知しました】


【対象:多眼性粘液魔獣・ウナギモドキ】


【討伐報酬:100pt】


【初回討伐ボーナス:ポイント5倍キャンペーン実施中!】


【残り時間:5分41秒】


「運営神ィィィィィアアアアア!!」


 俺は最寄り駅の地下鉄ホームに、文字通り飛び降りた。


 空間がバリバリとガラスのようにひび割れ、そこからおぞましい多眼の巨大魔獣がずるりと這い出てくる。


「きゃあああああ!」


「化け物だ!」


「駅員さーん!」


 深夜のホームは、パニック映画さながらの悲鳴に包まれた。


 だが、俺の目は違った。


 一滴のポイントも逃さない、飢えたハイエナのそれだった。


「初回5倍……実質500pt! アマギフ達成どころか、お釣りが出るわ!」


 俺はファミリーマートで買ったビニール傘――税込650円の頑丈なジャンプ傘を逆手に握り、魔獣へ向かって突進した。


 魔獣が咆哮し、鉄柱をも切り裂く爪を振り下ろす。


 俺はそれを、サビ残で培った超直感ステップで紙一重でかわした。


 スマホ画面には、魅惑のボタンが表示されている。


【ワンタップ撃破:使用しますか?】


【消費:300pt】


「使うかボケェェェ!」


 報酬100ptの敵に300pt使うやつがあるか。


 完全な赤字だ。


 世界を救う以前に、我が家の家計が滅ぶ。


「還元率の計算もできない無能パッチを当てるな!」


 俺は純粋な物理攻撃を選択した。


 つまり、タダである。


「これ、100均じゃなくてファミマのちょっと高い方の傘ァァァァァ!」


 鋭い突きが魔獣の眉間を正確に貫いた。


 次の瞬間、魔獣は光の粒子となって消滅する。


 ブラック企業の理不尽で鍛えられた足腰と、月曜朝の満員電車で培った殺意を舐めるな。


【ミッション達成】


【100pt×初回5倍=500ptを獲得しました】


【累計ポイント:5,400pt】


【自動交換:Amazonギフト券500円分を発行しました】


「よしっ! 23時58分、滑り込みセーフ!」


 深夜のホームで、俺はアマギフのコードを抱きしめ、渾身のガッツポーズを決めた。


 だが、その直後。


 スマホが再び明滅する。


【緊急イベント予告】


【週末限定! 東京上空に出現した邪神を討伐しよう!】


【報酬:1,000,000pt】


【注意:他社ポイントへの移行不可】


「は?」


 俺は画面を二度見した。


「土日潰れるじゃん……週休1日の俺の貴重な休日が……最悪……」


     *


「お疲れ様です、サトウ様。相変わらず、命の使い方がドケチですね」




 翌日。


 俺の家賃4万の六畳一間アパートに、見知らぬ美少女が勝手に上がり込んで麦茶を飲んでいた。


 白髪ショート。


 ネオンが走るサイバー感全開のドレス。


 そして、こちらをゴミを見るような目で睨むジト目。


 彼女の名前はウル。


 自称、『ワールド・リトリーバー』のナビゲーター。


 つまり、諸悪の根源――アプリ運営側の女である。


「ドケチとは心外だな。俺は常にタイパとコスパと還元率を最適化しているだけだ」


 俺はそう言いながら、部屋の中で激しく足踏みをしていた。


 ドスドスドスドス。


「……何をしているのですか? 宗教の儀式ですか?」


「見ればわかるだろ。ヘルスケア連携による歩数ポイント稼ぎだ。この会話中も10歩ごとに0.1pt入る」


「世界を救うアデプトが、六畳間でルームランナーみたいな動きをしないでください。貧乏臭さがデータに逆流します」


「適格者って言うな。責任が発生する」


「責任から逃げる速度だけは神話級ですね」


「それでポイント入るなら、世界の果てまで逃げ切るぞ」


「入れません」


 ウルは心底呆れたようにため息をついた。


「それより、昨日の邪神戦で死にかけた件ですが」


「ああ、あれか。危なかったな」


「危なかったな、ではありません。サトウ様が瀕死になった瞬間、アプリの緊急復活機能が発動したでしょう?」


「ああ。広告を最後まで見たらHP全回復するやつな」


「そうです。ですが、私の案内通り月額980円のプレミアム会員になっていれば、あの30秒広告は非表示。即時復活できたのですよ?」


「断る」


「即答ですか」


「30秒広告を見るだけでノーリスク全回復できるんだぞ。実質タダだろ」


「その30秒が問題なのです!」


 ウルは両手をブンブン振って抗議する。


「緊迫した戦場のど真ん中で、『マフィアのボスがレベル1から成り上がるやつ』とか『ピンを抜いてマグマを避けるクソゲー』の広告が大音量で流れたんですよ!?」


「無料復活なんだから文句言うな」


「しかもあの広告、バツボタンが極小で、押し間違えるとストアに強制ジャンプする極悪仕様なんですよ!?」


「あるあるだな」


「邪神も『え、これ待った方がいい? スキップできるまであと5秒?』みたいな顔でフリーズしていたんですよ!?」


「邪神にも広告を見せられたなら、広告主的にはインプレッション数が稼げて大勝利じゃないか」


「何が勝利ですか!」


「もしかしたら事前登録したかもしれない」


「しません!」


 ウルは深くため息をついた。


 それから、少しだけ声を落とす。


「……でも、昨日の邪神戦」


「ん?」


「広告が終わるまで、サトウ様、ずっと私の前に立っていましたよね」


「広告中は操作不能だっただけだ」


「逃げることはできたはずです」


「後ろに下がったら、歩数カウントがズレるだろ」


「……本当に、素直じゃないですね」


 ウルはそう言って、少しだけ笑った。


 その笑い方が、いつものジト目とは違っていて。


 俺はなんとなく、目をそらした。


 たぶん彼女は、俺の端末ログを見ているから知っているのだ。


 俺がどれだけ身を粉にして働いても、一円も給料が増えなかったことを。


 理不尽な上司のミスを被っても。


 休日を丸ごと潰して謝罪対応しても。


 返ってくるのは「あ、お疲れ」という軽い一言だけ。


 現代社会において、数字にならない努力は、いつも空気みたいに消える。


 だから俺は、ポイントが好きだった。


 世界を救えば、救った分だけ確実に数字で返ってくる。


 この歪んだ世界の中で、その冷徹なシステムだけが、俺には唯一、優しかった。


「……まあ、効率重視なのは認めます」


 ウルはスマホを操作し、こちらに画面を向けた。


【週末限定・特殊ミッション】


【内容:ウルと手を繋いで、最寄りスーパーのタイムセールに行こう】


【報酬:300pt】


「よし、行くか。ちょうど卵を切らしてた」


「即答ですね。少しは照れたらどうですか? 年頃の女の子と手を繋ぐのですよ?」


「あ、これ手つなぎ継続ボーナスも入るやつだろ。ほら、早く行くぞ。タイムセールの18時に遅れる」


「……本当に最低です。このポイ活廃人」


 ウルは悪態をつきながらも、ほんのり頬を赤らめて、俺の手をぎゅっと握った。


【ミッション開始】


【手つなぎ継続中:10秒ごとに0.5pt発生】


「おいウル、手汗で減点とかないよな? 不具合でポイント未付与になったら問い合わせ窓口に長文のクレーム送るぞ」


「本当に、本当に最低ですね、サトウ様」


     *


 そんな、還元率のいい日常は唐突に崩壊した。


 空が割れた。


 鏡がバキバキに砕けるみたいに。


 東京上空を埋め尽くしたのは、ビルよりも、雲よりも、地球そのものよりも巨大な存在。


 世界の最高神。


 スマホが狂ったように振動する。


【宇宙崩壊回避ミッション】


【報酬:∞pt】


【推奨課金額:応相談】


「出たな、運営の元締め……!」


 俺はファミマの傘を構えた。


 神は天空から、すべてを見下す傲慢な声を響かせる。


『愚かなる人間よ。貴様はなぜ戦う? 正義のためか? それとも世界を守るためか?』


「いや、今日ポイント5倍デーなんで」


『……は?』


 一瞬、最高神が素で困惑した。


 だが神はすぐに、すべてを嘲笑うような冷酷な笑みを浮かべる。


『ふははは! ならば、その浅ましい欲望ごと絶望へ叩き落としてくれる。本日24時をもって、世界システムの規約変更を行った』


「規約変更……?」


『人間へのポイント付与は、これをもって一律停止。過去のポイントもすべて没収、無効とする』


 スマホを見る。


 俺のポイント口座がフリーズしていた。


【残高:0pt】


 全没収。


 実質的なポイント大増税。


 いや、これは運営によるユーザー資産の強制差し押さえだ。


「な……んだと……?」


『さらに、現システム端末であるその娘は、不要データとしてサーバーから永久消去する』


「え……?」


 ウルの体が、足元から青い光の粒子になって、サラサラと消えかけていく。


「サトウ……様……」


 ウルは、泣きそうなのを堪えるように、少しだけ寂しそうに笑った。


「ポイント、なくなっちゃいましたね……」


「ウル……」


「ポイントの入らない戦いなんて、あなたには一ミリも意味がないでしょう? だから……もう、逃げて、ください……」


 神が天から勝ち誇った嘲笑を降らせる。


『そうだ。1ポイントも貰えぬなら、世界など救わんのだろう? さあ、無価値に滅びよ!』


 ……ふざけるな。


 ふざけるなよ。


 俺は静かにスマホを取り出した。


 アプリの最下層。


 スクロールの一番下。


 初日のログインボーナスで手に入り、ずっと使い道がわからず、非売品扱いになっていたアイテム欄を開く。


「おい、クソ運営」


 俺は空を見上げた。


「俺たちユーザーが、この世で一番嫌いな言葉を教えてやるよ」


『何だと?』


「――運営の都合による、不当な規約変更だ、コラァァァァ!」


 俺は画面のアイテムを力任せにタップした。


【アイテム:人類滅亡回避チケット×1】


【使用しますか?】


「使うに決まってんだろ! サービス終了前にエリクサーを使い切るのが一流のユーザーだ!」


【チケットを使用しました】


【世界の因果を強制上書きします】


 世界を包んでいた神の絶対結界が、ガラス細工のようにバキバキと粉砕されていく。


 神が、あり得ないとばかりに驚愕の声を上げた。


『な、なぜだ!? ポイントはもう1ptも入らんのだぞ!? 報酬ゼロだぞ!? なぜ戦う!?』


「そんなもん、決まってんだろ!」


 俺は光り輝くビニール傘を構えた。


 消えかけていたウルの右手を、ちぎれるほどの力で引き寄せる。


「貯めさせてから没収するのが、一番重い罪なんだよ」


『何……?』


「ユーザーに毎日ログインさせて、コツコツ積ませて、あと少しで届くってところで、上の都合で全部消す」


 怒りで、全身の血が沸騰していた。


「そんな真似をするやつはな――」


 俺は、ウルを背中に庇う。


「世界を滅ぼす魔王より、よっぽど邪悪なんだよおおおお!」


 ポイントなんて関係ない。


 ただ、毎日俺の隣で「セコい」とジト目で笑っていた、この最高に生意気なナビゲーターを。


 無課金で消されてたまるか。


「ユーザーを舐めたクソ規約、今すぐロールバックしろォォォォ!」


 俺は神の顔面へ向けて、ブラック企業のサビ残二百時間分の怒りを込めた拳を突き出した。


「――異議申し立てストレートォォォォォッ!」


 ズドォォォォォォン!


 世界を揺るがす大爆音。


 神の不当なシステムは、俺の純粋な怒りによって木端微塵に叩き潰された。


     *


【緊急メンテナンスが終了しました】


【このたびは規約変更に関する不具合でご迷惑をおかけしました】


【お詫びとして、全ユーザーに補填を配布します】


【補填内容:世界救済ポイント500pt】


【追加特典:Amazonギフト券500円分】


【なお、重大不具合の解決に貢献したサトウ様には、個別補填を配布します】


【個別補填:世界救済ポイント・∞pt】


 翌日の仕事帰り。


 俺のスマホには、見たこともない記号が表示されていた。


 ∞。


 無限ポイント。


 文字通り、神を超える資産、カンストである。


「……いや、全ユーザー500ptなのに、俺だけ補填バグってないか?」


「妥当です。最高神を物理で殴ってシステムを復旧させたユーザーは、サトウ様だけですから」


「それ、運営的に表彰していい実績なのか?」


「本来はBAN対象です」


「危なかったな!」


「はぁ……」


 隣を歩くウルが、呆れた声を漏らす。


「無限ポイントを持っているのに、サトウ様は相変わらずスーパーの見切り品の発泡酒を買うのですね」


「当たり前だろ。富を得たからって金銭感覚を狂わせたら、そこから破滅が始まるんだよ」


「もう十分、破滅的な強さです」


「これは生活防衛だ」


「では、生活防衛ついでに」


 ウルは自分のスマホ画面をこちらに向けた。


【プレミアム会員登録】


【月額:980pt】


【特典:広告非表示、およびナビゲーターの永続実体化】


「これ、使いなさいよ。無限ポイントなら、980ptなんて一瞬でしょう?」


「相変わらずしつこい課金誘導だな、このアプリ」


 俺は苦笑した。


 でも、まあ。


「しゃあない」


 スマホを取り出す。


「お前のそのしつこい広告、一生分カットしてやるよ」


 画面をタップした。


【プレミアム会員に登録されました】


【今後、あなたの人生に『不要な広告(理不尽)』は表示されません】


【ついでに理不尽な上司も非表示にしますか?】


「そこは頼む」


【対象が多すぎます。サーバーの容量が足りません】


「役に立たねえな!」


 ウルが、ふっと柔らかく笑った。


「ありがとうございます」


 それから、ミッションの通知もないのに、俺の手をぎゅっと握ってきた。


「これからは広告なしで、ずっと隣にいてあげますね」


「……それ、追加の維持費かかる?」


「かかりませんよ」


「ならいい」


 俺は少しだけ笑った。


 無限ポイントよりも。


 Amazonギフト券よりも。


 コンビニの増量クーポンよりも。


 今、隣にあるこの手の温度の方が、人生で一番「得」をした気がした。


 たまには、還元率の悪い選択も悪くない。


 俺はそう思いながら、歩数ポイントを稼ぐために少し大股で歩き、アプリを開く。


【本日のログインボーナス】


【ウルの笑顔】


【非売品・限定仕様】


「……おいウル」


「何ですか?」


「これ、他社ポイントに移行して現金化できないのか?」


「どこまでも最低ですね、サトウ様」


 そう言って小突いてくるウルの顔は――


 やっぱり、どんな運営の補填よりも、価値があるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


「サトウのポイ活廃人ぶりに笑った」

「ウルかわいい」

「こんなナビゲーター欲しい」

「広告復活あるある」


など、少しでも楽しんでいただけたら【ブックマークに追加】や【いいね!】で応援していただけると嬉しいです。


反応が良ければ、


・サトウとウルのその後

・六畳一間での同居生活

・さらに変な世界救済ミッション

・ウルの好感度イベント(?)

・もちろん改悪アプデとの戦い


など、長編版として続きを書いてみたいと思っています。


皆様の応援が、サトウとウルの次回ログインボーナスになります!


ありがとうございました。

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