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ループ4回目、引き籠もる事にしました!

作者: 有梨束
掲載日:2026/03/15

「また、この日に戻ってきたの…」

鏡を見ると、さっき死んだ時より少し幼いのに、15歳とは思えない顔色の悪さだった。


これで、『4回目』だ。



この顔、死相というものじゃないかしら…。

そう思うと、過去に3回繰り返した人生は、疲れるものだった。


どうせ死んでも、王太子候補に選ばれた日に戻ってきてしまう。


「…だったら、もう好きにしてもいいわよね」

鏡に映る自分が「いいよ」と言ってくれている気がする。


その時、なんとなく昔馴染みのイルの顔が浮かんだ。

イルのことだ、「クソつまんないことしてないで旅行でも行けば?」と言いそう。


フフッと、気の抜けた笑いが漏れて、鏡の私が少し安心したように見えた。


よし、決めたわ。

今回の人生は、徹底的に引き籠もってやりましょう!




1回目の人生は、王太子候補に選ばれて嬉しかった。


本気で目指して、お父様にもお願いして教師を改めてつけてもらい、徹底的に自分の実力を見直した。

積極的に慰問に行ったり、王妃様と仲を深めたり、寝る間も惜しんで努力をした。

見事未来の王太子妃に選ばれたのだけれど、他の候補者だったハーパー公爵令嬢に毒を盛られてあっけなく死んだ。


2回目の人生は、夢かと思ったけれど、殺される恐怖に怯え、王太子候補は辞退を申し出た。


一介の令嬢のそんな意見は通らず、候補者のままだったので何もしなかった。

ハーパー公爵家とは近づかないようにだけ、努力した。

その態度が他の候補者の反感を買い、差し向けられた殿方に辱めを受けそうになり、3階から飛び降りて死んだ。


3回目の人生は、他殺でも自殺でも死ねないとわかり、戻ってきたその日に家を出た。


15歳の高位貴族の娘にしては、ふた月も身を隠せたのは頑張った方だと思う。

昔の知り合いを訪ね、匿ってもらっていたのだが、街に買い物に行ったときに捕まった。

何も言わずに王太子候補を蹴ったものだから、王家反逆の疑いをかけられ、護送中の馬車の事故で死んだ。


そして、また同じ日に戻ってきたらしい。


しかも回数を重ねるごとに、死ぬまでの時間が短くなっている。

これだけバラエティ豊かに死んだのだ。

次もどうせ、あと1年もしないうちに死ぬんだろう。


だったらもう好きに過ごしましょう…!


王太子殿下?

ハーパー公爵令嬢?

貴族としての義務?

知らないわ、そんなものっ!

私の心の方がよっぽど大事よっ!


4回目にもなれば、度胸もつくというものだ。

1回目の私の方がもっと可愛げがあった気もするけど、この4回目の私らしく生きよう!



「おめでとう、ジェシカ!王太子候補に選ばれたぞ!」

「お断りしておいてください」

「…は」

「ああ、断れないのなら首を括って死にますので、縄の用意をしておいてください」

「……え、いや」

「では、あとはよろしくお願いしますね、お父様」

ニコッと笑って、お父様の執務室をあとにした。


さ〜て、何をしようかしらね。

ふあぁ、とあくびが漏れそうになったら、急に眠くなった。


ひとまず、ゆっくり眠りたいかも。

さっきまで護送車の中にいたし、拘束されていたから、あまり眠れていなかった。


「そうしましょう!どれだけでも眠るって、一度やってみたかったのよ!」


自室に戻り、誰を呼ぶことなく寝巻きに着替えて、さっさとベッドに潜った。

昼間から眠るというのは、小さい頃のお昼寝以来だ。


今日も一日よくがんばりました、おやすみなさい私。


そう心の中で自分に声をかけて、眠りに落ちた。




「ジェシカお嬢様、まだ夕方にございます。具合でも悪いのですか?」

気持ちよく眠っていたところを、侍女に起こされた。

ああ、扉の前に立ち入り禁止とでも書いておけばよかったわ。


起き上がる気も、ましてや部屋も出る気がないので、放置しましょう。


「…まだ寝るから」

「いけません。これから夕食のお時間ですよ」

「いらないわ」

「やはり具合がよろしくないのですか?」

「ううん、生きるのを辞めたの」

それだけ言って、布団を被り直した。




翌朝も起こされたけれど、生返事だけして、再び眠った。

声をかけられるたびに「死んでいるから気にしないで」と言って、眠る。

そうして、ゆるゆると3日ほど経って、ようやく眠気が取れた。


「…人ってこんなに眠れたのね。道理で死にそうな顔をしていたわけよ」

ベッドに横になったまま、水差しを手に取って、喉を潤した。


こんな行儀の悪いことをしたのも、はじめてだ。

たくさん眠ったあとの水が美味しい。

ぷは〜っと、令嬢らしからぬ飲みっぷりをして、また布団に潜る。


いいわね、この生活。

ずっと続けたいわ。

時間に追われずにただ生きているだけで、満たされるものだったのねぇ。


今回は死ぬまで寝ているのもアリかもしれない。

そうしたら、どうやって死ぬのかしらね。


その時、窓がコンコンを鳴った。

見てみると、1人の男が手を振ってニコニコしている。


私は詠唱なしに人差し指をくるっと回して、窓の鍵を開けた。


「イル、あなたねぇ…。窓から入ってくるなといつも言っているでしょ?」

「ジェシカの家の玄関、仰々しいから嫌いなんだって」

そう言って、むさ苦しい格好で入ってきたイルは、物珍し気に私を見下ろした。


「ジェシカ、どうしたんだ?まだ寝巻きなんて、はじめて見たぞ」

「もう死んだからだね」

「意味わかんねえけど」


頭をポリポリ掻いているこの男は、唯一の平民の友人であるイルだ。


私が5歳の時に家の前で倒れていたのを連れ帰って、療養させたのがきっかけで、今でも交流が続いている。

今は町外れに住んでいて、そちらに顔を出す時には、イルの友人たちにも会うこともある。

3回目の人生で匿ってもらった伝手は、イルの友人だった。


「そういうイルはどうしたの?最近、こちらには来ていなかったじゃない」

「ああ、準備を整えていたんだ」

「準備?」

「ジェシカ、迎えにきたぞ」

イルはしゃがみ込んで、ベッドに横になる私と目を合わせてきた。

赤い瞳が水面のように見えて、不思議な気持ちがしてくる。


「迎えって、どこか行くの?」

「行き先はどこでも」

「意味がわからないわ」

今度は私が首を傾げると、イルはニカリと笑った


「俺、ジェシカの眷属なんだよね」

「…はい?」

自分の口から出たとは思えないほどの素っ頓狂な声が出た。

それで、さすがに起き上がった。


「イル、あなたもとうとうおかしくなっちゃったの?」

「ジェシカに拾ってもらった時、俺ボロボロだったじゃん?」

「ええ、そうね。いかにも行き倒れだったわ」

「そう。それで、魔力コントロールをミスったらしい」

「というと?」

「一族に伝わる生涯にたった1人の主人との契約魔法を発動していたみたいだ」

「…それで、えっと、何が言いたいのかしら」

「あの日以来、ジェシカが俺の主人だから、守るのが俺の務めってわけ」

相変わらず胡散臭そうな笑みをしながら、堂々と言ってのけた。


1回目の王太子殿下と比べたら、爽やかの欠片もないわね…。


あれ、そういえば過去3回の時って、イルはどうしていたんだっけ?


「守るって何もしてもらったことないけど…?」

「それはこれからな」

「ええ〜、何それ」

「先月故郷に帰ったら、親父に『いつ眷属契約したんだ!?』って問い詰められて、大騒ぎでさ。自覚なかったから、主人探しに時間かかってたんだよな」

「それで最近、姿が見えなかったのね」

「そゆこと」

イルは、そばにあった椅子にドカリと座ると首を傾げた。


「ジェシカの方こそどうしたんだ?もっと、こう、お嬢様らしいお淑やかさみたいなものがあった気がするんだけど?」

「ああ。死んでいるうちに、どこかに置いてきちゃった」

「さっきから言っているそれ、何?つーか、俺がいる限り死ぬのは難しいと思うよ」

「どういうこと?」

「主人に先に死なれるのは、眷属契約違反だからな。主人に何があっても命が守られるようになってる」

イルはなんでもないことのように言うと、勝手に水を飲み始めた。


命が守られる…?

その契約で、イルより先に死ねないってこと?

えっ…、じゃあ、今までの死に戻りって…。


「イルだったの!?」

「うおっ、なに、びっくりしたー」

「イル、その契約私が5歳の時からなのよね!?」

「そうだよ」

「それって、ずっと継続しているのよね!?」

「そう、俺が死ぬまで」

「もし私が先に死んだら、蘇るってことっ?」

「そんなこと滅多にないけど、そうなったら守れなかったことをやり直すために、主人の時間が巻き戻るよ」

「それだあああああああああああああ」

私は、イルの肩をガッシリ掴んで揺さぶった。

イルは体格がいいので、全く揺れなかったけど。


「それよっ、それそれ!私が死んでここに戻ってきた理由!!」

「え、もう死んだの?」

「毒殺、身投げ、馬車の事故!」

「死にすぎだろ…、何したんだよ」

「王太子の婚約者候補に選ばれたらよ」

「王子疫病神じゃねーか」

「それは不敬よ」


なるほどね…?

意味はわからないけれど、謎は解けたわ。

となると、私は死ぬということから、ある意味守られていたわけだ。


「眷属って何をするの?」

「基本的には主人のそばにいる」

「私の侍従にでもなるつもり?」

「そんな堅苦しいもん無理。だから、迎えにきた」

「どこに行くのよ」

「手始めに旅行でも行くか?俺、行きたいとこあるんだよね」

「自分の用事じゃない…」

呆れてため息を吐いてしまったけれど、いや待てよと考え直す。


このまま王太子候補として過ごしていても、死の危険性は変わらない気がする。

だったらいっそのこと、正式に家を出るのはどうだろう。

その道は、まだ残っているわよね…?


「ねえ、イル。旅行じゃなくて、住まいを変えるっていうのはできないかしら?」

「ん?王都に住んでいなくていいの?」

「王太子候補になってから3回も死んだのよ?もう王都にいたくないわ」

「そりゃあ、そうだなぁ…?」

「ついでに王太子候補もお断りしたいのよ。だから、除籍して家を出ちゃうのがいいんじゃないかしら?」

「貴族、やめるのか?」

「そう!どう?」

嬉々として提案したのだけれど、イルは珍しくシュンとなった。


「…俺の契約のせい?」

「イルの契約のおかげで逃げられるのよっ!」

私が笑ってそう答えると、いつもの不遜そうな顔に戻った。


「…ふふっ。逃げたいなら、いっそのこと俺の故郷に住むか?」

「イルの故郷?」

「そう。この魔術を継ぐものが生まれる場所」

「どこにあるの?」

「地図上にはない。人からはわからない離れ小島に住んでいる」

「そんなところがあるの…?」

「おかしな利用をされないために、閉ざして暮らしている」


へえ〜!ちょっと面白そうかも?

見えない離島なら、世間に追われることもないし、ここからも物理的に離れられる。

それに島ってことは、部屋とは比べ物にならないほど、世俗から引き篭もれる…!?


…ああ、どうしましょう、魅力しか感じないわ。


「そうしましょう!そういうことなら、お父様に言いに行きましょう!」

「さっきから気になっているんだけど、その豪胆さはいつ身についたの?」

「3回死んでいる間によ」

「成長したんだねぇ〜」

子どもをあやすみたいな物言いに腹が立つところだったけど、今はそれではない。


「早く、お父様のところに行くわよ!」

「勝手に行っちゃダメなの?」

「それ検証済み、死ぬわ。だから、正式に許可をもらいにいきましょう」

私は軽やかにベッドから降りた。


そして、悪役令嬢のごとく悪い笑みを浮かべて、イルを連れ立って廊下を出た。





「ですので、お父様。私を亡き者にしてほしいんですの」

「…いや、そこまで言うのなら療養というのはどうだい?体調を悪くしていることにして、領地で何年か過ごしたら…」

「そんなの、王家の命令に逆らったとかなんとか、どこからか苦情が来るかわかったものではありません」

「しかし…っ」

「1回死んだことにしないと、候補者の話は断れません。それはお父様もよくご存知ですよね?」

「…そんなに嫌なのかい?」

「はい!もう死にたくありません!」

「さっきから、その死の話はわからないが…、そうか…」

「…しょうがないですわね。じゃあ今から死ぬので、きちんと死亡届を出してくださいね。はい、イル。この縄持って」

「…本当にやるの?」

「当たり前でしょ?」

私は侍女に用意させた太めの縄をぐるっと首に回して、その両端をイルに持たせた。


「はいっ、グッと思いっきり引っ張って」

「…俺、死なせるんじゃなくて、守るのが仕事なんだけど」

「これも立派な守り方よ!ほら、ちゃんと締めてよ」

「…せーの」

「待った待った待った!やめるんだ!ジェシカ、死ぬなっ…!」

「では、私を除籍するために、死亡届を出していただけますね?」

「…可愛い娘に死なれるより、遥かにマシだからね」

こうして、正式に王太子候補辞退をもぎ取った。




貴族の娘、ジェシカはこの世からいなくなった。


「これでただのジェシカね」

「嬉しそうだな」

隣でイルが可笑しそうに、ニヤニヤしている。


その顔にムカついても、咎めようとは思わなかった。

きっと、私も同じ顔をしているから。


私は今まで住んだ屋敷を振り返ることなく、イルより先を歩いた。



「ええ!だって、島での引き籠もり生活が待っているからね!」







お読みくださりありがというございました!!  毎日投稿74日目。

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