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断罪されるはずの悪役令嬢と、断罪したくないヒロインの政変記  作者: 南蛇井
第一章

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第6話 最初の一手

王国議会は、円形劇場のような造りをしている。


 中央に発言台。

 周囲を取り囲む貴族議員たちの席。

 その最上段に、王家の席。


 本来、ここは静かな駆け引きの場だ。


 だが今日は違う。


 舞踏会の一件で王城は揺れている。

 第一王子カイルが正式に来季予算案を提示する日。


 視線が集まる。


 カイルは堂々と立っていた。


「来年度予算案を提出する」


 声はよく通る。

 姿勢も美しい。


 王としての“絵”は完璧だ。


「鉱山都市の税率を一部緩和し、交易を活性化する。同時に港湾整備費を増額する」


 ざわめきは小さい。


 内容自体は悪くない。


 問題は、その先だ。


 私は議員席に座り、資料を静かにめくる。

 リリアナは数列後方。腕を組んだまま、視線だけが鋭い。


「以上が本案である」


 カイルが締めくくる。


 議長が発言希望者を募る。


 わずかな間。


 そして――


 リリアナが立ち上がった。


 場の空気が変わる。


 舞踏会の背負い投げ事件の当事者。


 視線が集中する。


「リリアナ・フェルン、発言を」


 議長が促す。


 彼女はゆっくりと中央へ歩く。


 足音がやけに響く。


 発言台に立ち、真っ直ぐ王子を見上げた。


「殿下」


「……なんだ」


 わずかに硬い声。


「この支出増加分の財源は?」


 静かで、明瞭な問い。


 議場が一瞬、無音になる。


 カイルは手元の資料に目を落とす。


「それは……税収増による相殺を――」


「増収の試算は?」


「ええと……」


 ページをめくる。


 指が止まる。


 ない。


 詳細試算がない。


 ざわ。


 小さな波が広がる。


「概算での見込みだ」


「根拠は?」


 追撃。


 容赦がない。


「過去の推移を基に……」


「具体的な数字を」


 沈黙。


 議場のあちこちで視線が交差する。


 王弟派の席で、誰かが口元を押さえている。


 宰相派は無表情。


 カイルの喉が上下する。


「……現時点では、詳細資料は提出していない」


 ざわめきが、はっきりと音になる。


 リリアナは一歩も引かない。


「では、赤字拡大の可能性については?」


「それは……状況を見て調整を――」


「誰が?」


 凍る。


 問いは単純だ。


 だが重い。


 王子は言葉を探す。


 その瞬間。


 私は立ち上がった。


「補足を」


 議長の許可を得て、中央へ向かう。


 手には書類。


「本予算案における支出増加分について、財源不足が生じた場合の試算を独自に行いました」


 議場がざわつく。


 私は資料を配布させる。


「現行税収の伸び率では、来年度末時点で王都財政は赤字転落の可能性が高い」


 数字が並ぶ。


 逃げ場のない数字。


 カイルが息を呑む。


「……そんなはずは」


「ございます」


 穏やかに。


「殿下の理想は理解しております。しかし、裏付けが不足しています」


 責める口調ではない。


 だが事実は残酷だ。


 議員の一人が声を上げる。


「殿下、この件は再検討すべきでは?」


 別の者が頷く。


「慎重な審議を求める」


 流れが変わった。


 カイルは発言台に立ったまま、動けない。


 助けを求めるように、私とリリアナを見る。


 だが、今回は助けない。


 これは“最初の一手”だ。


 公的な場での、初めての失点。


 議長が宣言する。


「本案は継続審議とする」


 木槌が鳴る。


 会議は一時中断。


 ざわめきの中、カイルはゆっくりと席に戻る。


 その背は、少し小さく見えた。


 私は自席へ戻る。


 リリアナが隣に来る。


「手加減した?」


「最低限です」


「上出来」


 小さく笑う。


 議場の空気は変わった。


 王子は“完璧な象徴”ではなくなった。


 疑問を向けられる存在になった。


 それが、どれほど重いか。


 私は静かに王子を見る。


 彼は俯いたまま、拳を握っている。


 初めての、公的な敗北。


 そして私たちは知っている。


 ここから、流れは加速する。

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