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断罪されるはずの悪役令嬢と、断罪したくないヒロインの政変記  作者: 南蛇井
第二章

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第9話:公開弾劾

 王都中央広場。


 石畳を埋め尽くす民衆のざわめきが、冬の空気を震わせていた。臨時に設けられた演壇。その背後には王家の紋章、そして両脇に並ぶ評議会の旗。


 異例だった。


 王権と評議会が、同時に公の場へ姿を現すなど。


 双頭体制――それを揶揄する声もあったが、今日ばかりは意味が違う。


 王子とリリアナが並び、レディアナが一歩前に出る。


「本日、王都の安定に関わる重大な事実を公表いたします」


 静まり返る広場。


「近時、王都への無断兵力移動、物資流通への不当な圧力、ならびに評議会内への不正な接触が確認されました」


 ざわめきが広がる。


 名指しはしない。だが、誰もが理解している。


 王弟派だ。


 リリアナが口を開く。


「“合同演習”という名目での騎士団集結。市場での同時的な価格吊り上げ。偶然にしては、出来すぎている」


 声は穏やかだが、言葉は鋭い。


「我々は、これを王権への圧力行為と判断します」


 その瞬間、広場の一角から低い声が響いた。


「証拠はあるのか!」


 振り返る視線の先。


 豪奢な外套をまとった男が、取り巻きと共に立っている。


 王弟アルトリウス。


 堂々とした姿勢、揺るがぬ表情。


「私は王家の一員として、王都防衛の憂いを憂慮したまで。物価高騰は商人の判断だ。私の関与を示す証拠などあるまい」


 民衆の間に迷いが走る。


 だがレディアナは、冷静に一枚の文書を掲げた。


「こちらは、王弟殿下直轄領から発出された通達写し。特定商会への優遇税制と引き換えに、王都出荷の遅延を示唆しています」


 ざわり。


「さらに、地方騎士団への移動命令。王都到着日時が、評議会開催日と一致しております」


 アルトリウスの眉が、わずかに動く。


「推測の域を出ぬな」


「ええ。ですから法に照らします」


 リリアナが続ける。


「王国基本法第三条。王都への兵力移動は王命を要す。これに違反すれば、反逆未遂と見なされる」


 言葉は静かだが、広場に重く落ちた。


 アルトリウスは笑う。


「未遂? ならば何も起きておらぬ」


「起きなかったのは、撤退したからです」


 王子が、前へ出た。


 初めて、彼自身の声で。


「叔父上。あなたが退いたことで、血は流れなかった。そこは感謝します」


 広場が静まる。


「でも、圧力は続いている。王都の民が苦しんでいる」


 王子は群衆を見渡す。


「僕は若い。未熟かもしれない。でも、だからといって、操られる王にはならない」


 その一言が、空気を変えた。


 ざわめきの質が変わる。


「王弟殿下」


 レディアナが最後に告げる。


「法に基づき、兵力移動および経済介入の詳細説明を正式に要求します。拒否された場合、調査権限を発動いたします」


 公開の場での牽制。


 名誉を傷つけず、だが逃げ道も狭める。


 アルトリウスは一瞬だけ黙り込む。


 取り巻きたちの視線が揺れる。


 これまで“是正”を掲げていた大義名分に、初めて疑念が差した。


「……王家のためだということを、忘れるな」


 それだけを残し、彼は踵を返した。


 広場には、低いざわめきが残る。


「本当に関係ないのか?」

「兵を動かしたのは事実だろう……」


 確信ではない。


 だが、疑いは芽生えた。


 王子は小さく息を吐く。


「……逆転、できるかな」


 リリアナが肩をすくめる。


「風向きは変わり始めた」


 レディアナも頷く。


「世論は、事実を積み重ねた側に傾きます」


 王城へ戻る三人の背後で、民衆の声は少しだけ柔らいでいた。


 双頭体制。


 かつては混乱の象徴と囁かれたその形が、今は別の意味を持ち始める。


 対立ではなく、均衡。


 暴発ではなく、法。


 王弟の支持基盤に、わずかなひびが入った。


 まだ決着には遠い。


 だが確かに――


 世論は、動き始めていた。

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