第9話:公開弾劾
王都中央広場。
石畳を埋め尽くす民衆のざわめきが、冬の空気を震わせていた。臨時に設けられた演壇。その背後には王家の紋章、そして両脇に並ぶ評議会の旗。
異例だった。
王権と評議会が、同時に公の場へ姿を現すなど。
双頭体制――それを揶揄する声もあったが、今日ばかりは意味が違う。
王子とリリアナが並び、レディアナが一歩前に出る。
「本日、王都の安定に関わる重大な事実を公表いたします」
静まり返る広場。
「近時、王都への無断兵力移動、物資流通への不当な圧力、ならびに評議会内への不正な接触が確認されました」
ざわめきが広がる。
名指しはしない。だが、誰もが理解している。
王弟派だ。
リリアナが口を開く。
「“合同演習”という名目での騎士団集結。市場での同時的な価格吊り上げ。偶然にしては、出来すぎている」
声は穏やかだが、言葉は鋭い。
「我々は、これを王権への圧力行為と判断します」
その瞬間、広場の一角から低い声が響いた。
「証拠はあるのか!」
振り返る視線の先。
豪奢な外套をまとった男が、取り巻きと共に立っている。
王弟アルトリウス。
堂々とした姿勢、揺るがぬ表情。
「私は王家の一員として、王都防衛の憂いを憂慮したまで。物価高騰は商人の判断だ。私の関与を示す証拠などあるまい」
民衆の間に迷いが走る。
だがレディアナは、冷静に一枚の文書を掲げた。
「こちらは、王弟殿下直轄領から発出された通達写し。特定商会への優遇税制と引き換えに、王都出荷の遅延を示唆しています」
ざわり。
「さらに、地方騎士団への移動命令。王都到着日時が、評議会開催日と一致しております」
アルトリウスの眉が、わずかに動く。
「推測の域を出ぬな」
「ええ。ですから法に照らします」
リリアナが続ける。
「王国基本法第三条。王都への兵力移動は王命を要す。これに違反すれば、反逆未遂と見なされる」
言葉は静かだが、広場に重く落ちた。
アルトリウスは笑う。
「未遂? ならば何も起きておらぬ」
「起きなかったのは、撤退したからです」
王子が、前へ出た。
初めて、彼自身の声で。
「叔父上。あなたが退いたことで、血は流れなかった。そこは感謝します」
広場が静まる。
「でも、圧力は続いている。王都の民が苦しんでいる」
王子は群衆を見渡す。
「僕は若い。未熟かもしれない。でも、だからといって、操られる王にはならない」
その一言が、空気を変えた。
ざわめきの質が変わる。
「王弟殿下」
レディアナが最後に告げる。
「法に基づき、兵力移動および経済介入の詳細説明を正式に要求します。拒否された場合、調査権限を発動いたします」
公開の場での牽制。
名誉を傷つけず、だが逃げ道も狭める。
アルトリウスは一瞬だけ黙り込む。
取り巻きたちの視線が揺れる。
これまで“是正”を掲げていた大義名分に、初めて疑念が差した。
「……王家のためだということを、忘れるな」
それだけを残し、彼は踵を返した。
広場には、低いざわめきが残る。
「本当に関係ないのか?」
「兵を動かしたのは事実だろう……」
確信ではない。
だが、疑いは芽生えた。
王子は小さく息を吐く。
「……逆転、できるかな」
リリアナが肩をすくめる。
「風向きは変わり始めた」
レディアナも頷く。
「世論は、事実を積み重ねた側に傾きます」
王城へ戻る三人の背後で、民衆の声は少しだけ柔らいでいた。
双頭体制。
かつては混乱の象徴と囁かれたその形が、今は別の意味を持ち始める。
対立ではなく、均衡。
暴発ではなく、法。
王弟の支持基盤に、わずかなひびが入った。
まだ決着には遠い。
だが確かに――
世論は、動き始めていた。




