第5話 城門対峙
王都東門。
石畳の広場を挟み、二つの軍勢が向かい合う。
一方は王弟アルトリウスの旗を掲げた地方騎士団。
もう一方は王家本紋章を戴く王都駐屯軍。
距離は、弓矢が届くか届かないか。
近すぎる。
朝靄の中、鎧の擦れる音だけが響く。
「前進するな」
王都軍の隊長が低く命じる。
盾が揃い、槍先が水平に並ぶ。
対する王弟派も隊列を崩さない。
剣は抜いていない。
だが柄にかけられた手は、いつでも引き抜ける位置。
一触即発。
ほんの一言。
ほんの一歩。
それだけで血が流れる。
王弟側近が前に出る。
「我らは諫言のため参ったのみ!」
声はよく通る。
「なぜ門を閉ざす!」
王都軍の隊長が返す。
「王命により首都防衛体制へ移行中。兵を率いた接近は威圧と見なす」
威圧。
その言葉に空気が張り詰める。
騎士の一人が、わずかに足を踏み出した。
盾がきしむ。
弓兵が弦を引く。
風が止まった。
誰もが理解している。
最初の矢が放たれれば、後戻りはできない。
そのとき。
後方から馬の蹄音。
騎士団の列が割れる。
王弟アルトリウスが姿を現した。
兜は被っていない。
素顔のまま、前へ進む。
「下がれ」
低い一言。
騎士たちが動きを止める。
アルトリウスは城門を見上げた。
城壁上には弓兵。
門前には整列した王都軍。
王命で動いている。
つまり――
甥は、署名した。
決断した。
アルトリウスの目がわずかに細まる。
「……そうか」
誰に向けた言葉でもない。
だがそこにあったのは怒りではない。
測るような視線。
「本日は退く」
側近が息を呑む。
「しかし――」
「剣は抜かぬと言ったはずだ」
静かながら、逆らえぬ声音。
兵は命令に従う。
ゆっくりと隊列が反転する。
鎧の音が遠ざかる。
王都軍は動かない。
追撃もしない。
ただ、見送る。
やがて広場は空になった。
残るのは、踏み固められた石畳と、緊張の余韻。
城内。
報告が届く。
「王弟派、撤退」
玉座の間の空気が、ようやく動く。
王子カイルは椅子に手をつき、深く息を吐いた。
「終わった……のか」
リリアナは首を横に振る。
「未遂」
それだけ。
終わってはいない。
試されたのだ。
そして今日は、退いただけ。
レディアナが静かに告げる。
「正面衝突は回避されました。しかし溝は明確です」
王弟派は引いた。
だが屈したわけではない。
王都軍も剣を抜かなかった。
血は流れていない。
それでも。
今日という日は、確実に歴史に刻まれる。
若王が王命で軍を動かし、王弟が兵を率いて門前に立った日。
内乱は、紙一重で回避された。
だが火種は、より深く燻り始めている。
曇天の空の下。
王都は静けさを取り戻す。
だがその静けさは、嵐の終わりではない。
嵐の“延期”にすぎなかった。




