第二章 第1話 不穏な集結
最初に気づいたのは、市井の商人たちだった。
街道を北から南へ、整然と進む騎士団。
旗印は王家の紋章の下、王弟アルトリウスの家紋。
名目は――合同演習。
だが王都近郊で演習を行う理由はない。
鎧の擦れる音が、石畳に低く響く。
王都の門兵たちは、表情を固くした。
城内では、すでに別の波が立っていた。
評議会。
重臣たちの囁きが止まらない。
「地方騎士団が三隊同時に王都入りとは異例だ」
「護衛強化という話だが……」
「王権が弱体化しているとの見方もある」
誰も口には出さないが、言葉は共有されている。
――王権簒奪。
若き王は双頭体制。
実権は二人の令嬢。
それが面白くない者は多い。
「正統を正す」という大義は、いつでも武器になる。
同じ頃。
レディアナの私室。
机の上には数通の書簡。
封蝋は剥がされ、綺麗に並べられている。
「……やはり」
彼女は一通を手に取った。
差出人は地方伯爵。
宛先は王弟側近。
内容は婉曲だが明白だ。
“王都入りの準備は整った”
“諫言の機は近い”
諫言。
便利な言葉だ。
王に忠言するための兵。
それが数百単位で必要だろうか。
レディアナは静かに目を閉じる。
点と点が繋がる。
評議会のざわめき。
商会への水面下の打診。
騎士団の同時移動。
偶然ではない。
準備された圧力。
扉がノックされる。
「入って」
リリアナが入ってきた。
相変わらず肩肘張らぬ歩き方。
「北門に入ったって」
「ええ。三隊確認」
レディアナは書簡を差し出す。
リリアナはざっと目を通し、鼻で笑った。
「丁寧に隠してるつもりだね」
「ですが意図は明白です」
王弟派は、試している。
双頭体制の“強度”を。
「評議会もざわついてるよ」
リリアナは窓辺に立つ。
遠く、城壁の向こうに揺れる旗。
「“王権簒奪”って言葉が出始めてる」
「想定より早い」
「うん。でも予定通り」
沈黙。
嵐の前の、あの空気。
まだ風は吹いていない。
だが匂いはある。
鉄の匂い。
レディアナは書簡を封に戻した。
「これは示威です。本命は別にある」
「謁見要求かな」
「おそらく」
王を前にして、軍を背に“諫言”。
拒めば横暴。
受ければ威圧。
詰みの形。
リリアナは小さく笑った。
恐れではない。
確認の笑み。
「来たね」
その一言で、空気が固まる。
戦いは、まだ始まっていない。
だが動き出した。
双頭体制に対する、最初の本格的な試し。
王都の空は薄曇り。
日差しはあるのに、影が濃い。




