第10話:双頭の宣言
王城・大広間。
重臣、貴族、騎士団長、各商会代表までが集められ、空気は張り詰めていた。
玉座の隣には、蒼白な王。
その一歩後ろに、王子カイル。
そして左右には、レディアナとリリアナ。
静寂を破ったのは、宰相の声だった。
「国王陛下のご病状を鑑み、王位継承は予定通り執り行われます」
ざわめき。
だがそれは想定内。
「あわせて発表いたします」
宰相は一枚の勅令を掲げた。
「新王即位と同時に、政務補佐官二名を任命する」
場が凍る。
王位継承は前例がある。
だが即位と同時の補佐官設置は異例。
「その名は――」
間。
「レディアナ・ヴァルクレア」
視線が彼女に集中する。
彼女は一礼するだけ。
「リリアナ・エルフェルト」
今度は露骨な動揺が広がる。
王子失脚の舞踏会事件の当事者。
議会での追及者。
その二人が、政務の中枢に入る。
これは補佐ではない。
実質、双頭体制。
王子の手が震えているのが、最前列からでも見えた。
書記官が勅令を差し出す。
インク壺が揺れる。
カイルは一瞬、リリアナを見る。
その視線には問いがあった。
本当に、これでいいのか。
リリアナはわずかに顎を引く。
逃げるか、戦うか。
あの夜の問いの続き。
王子は震える指で署名した。
ペン先が紙を擦る音が、異様に大きく響く。
その瞬間、王国の統治構造は変わった。
拍手はまばらだった。
祝福というより、様子見。
嵐の前の静けさ。
いや――
嵐の目の中の静寂。
夜。
城の一室。
蝋燭の灯りだけが揺れている。
窓の外では風が唸り、雨が石壁を叩いていた。
嵐だ。
偶然とは思えないほど、象徴的な。
リリアナは窓辺に立ち、闇を見つめる。
「後戻りできないよ」
低い声。
もう失脚も、退場もない。
失敗すれば、粛清か内乱。
どちらかだ。
レディアナは書類を閉じ、静かに顔を上げる。
「最初から、そのつもりです」
迷いのない声音。
「王子は象徴。私たちは歯車。いえ……制御装置」
「うまいこと言うね」
リリアナは小さく笑う。
だがその目は鋭い。
「火種は消えてない。王弟派も、宰相派も、きっと動く」
「承知しております」
レディアナは窓の外を見た。
雷光が一瞬、夜空を裂く。
内乱の芽は、確実に燻っている。
三年以内。
その未来を、ねじ曲げるための賭け。
「共犯だね、完全に」
「ええ」
短い肯定。
風が窓を揺らす。
嵐は激しさを増していく。
だが室内の二人は、動じない。
決めたのだ。
王を立て、国を握る。
守るために、奪う。
リリアナは振り返る。
「さあ、仕事だ」
レディアナは微笑む。
「はい、閣下」
その夜。
王国は新しい形で息を始めた。
そして嵐の向こうで、
内乱の火種が静かに燻り続けていた。
第一章 了




