三人の違和感
夜の廊下は、昼よりも広く感じられた。
壁に等間隔で灯る魔導灯が、長い影を落とす。
窓の外は静かな闇。王宮は眠りに入りかけている。
その中央で、三人は偶然、足を止めた。
ユーフォミア。
ライルヒルト。
リリエル。
ほんの一瞬、視線が交差する。
以前なら、誰かがすぐに何かを言ったはずだった。
「また走らされましたわね」とか。
「明日は重力倍増らしいぞ」とか。
「もう森の味は嫌です」とか。
今は、ない。
沈黙が先に来る。
その沈黙が、妙に整っている。
ユーフォミアが、口を開く。
「……順調ですわね」
自分でも驚くほど、平坦な声音だった。
王子が頷く。
「ああ」
短い。
無駄がない。
リリエルが、微笑む。
「はい」
それだけ。
三人の言葉が、廊下に落ちる。
転がらない。
広がらない。
終わる。
沈黙が戻る。
誰かが、何かを続けるべきなのに。
冗談でも、愚痴でも、息抜きでも。
けれど、続かない。
まるで台本がそこまでしか書かれていないかのように。
ユーフォミアは、ふと気づく。
会話が短いのではない。
削れている。
余白がない。
感情の前置きも、遠回しも、躊躇も。
まるで物語の台詞のように、
必要最低限の意味だけを運ぶ言葉。
ライルヒルトが視線をリリエルに向ける。
それも自然すぎる角度だ。
守る者が、守られる者を見る距離。
リリエルは、控えめに目を伏せる。
応える者の仕草。
ユーフォミアは、その構図を外側から見ている。
立ち位置が、きれいに三角形になる。
誰も指示していないのに。
「では、おやすみなさいませ」
ユーフォミアが言う。
「ああ」
「おやすみなさい」
また、短い。
それぞれが別の方向へ歩き出す。
足音が静かに離れていく。
廊下には、何も残らない。
ただ、違和感だけが残る。
三人は仲違いしていない。
憎んでもいない。
怒鳴ってもいない。
なのに、どこか冷たい。
言葉が整いすぎている。
役割に合いすぎている。
軽口が消えた代わりに、
物語らしい台詞が増えている。
ユーフォミアは歩きながら思う。
(これは、正しい形なのかしら)
正しい。
きっと、正しい。
だからこそ。
少しだけ、怖い。
会話が、テンプレートに収まり始めていた。




