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悪役令嬢は太って断罪を回避する  作者: 南蛇井


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7/30

異世界式体型矯正・開始

訓練場の空気は、朝霧のように薄く冷えていた。


王宮の奥、石壁に囲まれた半円形の空間。床には古い魔法陣が刻まれ、中央で淡く光っている。

その上を、三人は走らされていた。


「魔力循環走。止まれば循環が乱れる」


デルガの声は、風よりも静かに背後から落ちる。


ユーフォミアは歯を食いしばりながらも、姿勢を崩さない。裾を揺らし、汗をにじませながら走る悪役令嬢など、本来あってはならない。


「……悪役令嬢は汗をかかない設定でしたのに」


息を乱さず言い切るあたりが、彼女の矜持だった。


隣でライルヒルトが苦笑する。額から一筋、はっきりと汗が落ちた。


「設定は今、書き換え中らしいぞ」


走り終わると、次は重力調整スクワットだった。


床の魔法陣が脈打つ。体が急に重くなる。


「ひっ……!」


リリエルが小さく悲鳴を上げる。細い肩が震える。だが倒れない。必死に膝を曲げる。


ライルヒルトは数を数えながら言った。


「これ、断罪よりきつくないか?」


「断罪は一瞬ですわ」


ユーフォミアは沈んだ姿勢のまま返す。


「これは永遠ですの」


その言い方に、リリエルが吹き出した。


「ヒロインって、もっと自然に痩せるんじゃ……? こう、花びらが舞って、気づいたら少し細くなってる、みたいな……」


「それは演出ですわ」


「じゃあこれは何?」


「現実ですの」


三人、同時に沈み、同時に立ち上がる。


息が荒い。


髪が乱れる。


だが目は、どこか楽しそうだった。


休憩と称して差し出されたのは、低糖質エルフ料理。彩りだけは完璧で、量は控えめ。味はやたらと滋味深い。


「……味が森ですわ」


「森だな」


「森ですね……」


最後はドラゴン式呼吸法。


地面に座り、背筋を伸ばし、深く吸って、ゆっくり吐く。


「脂肪は蓄積された余剰魔力だ。燃やせ」


デルガの指示は簡潔。


三人は顔を見合わせる。


「脂肪って、そんな壮大な存在でしたの?」


「俺の腹のこれは、余剰か」


「私のも……?」


くすり、と笑いがこぼれる。


笑うと腹筋が痛い。


痛いのに、また笑う。


汗で前髪が額に張りつき、ドレスも訓練着も関係なく乱れている。王子も令嬢もヒロインもない。ただ、同じ強度で息を切らしている三人がいる。


まだ、役割は薄い。


まだ、距離は近い。


訓練場の石壁に、三人の笑い声が小さく跳ね返る。


そのときだけは。


断罪も、嫉妬も、物語の収束も、まだ遠い。


彼らはただの仲間だった。

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