三人が納得してしまう瞬間
デルガは、実演の余韻が消えるのを待ってから口を開いた。
責める声音ではない。
「努力不足とは言わぬ」
淡々と。
「食は豊穣の証だ。健康もまた徳である」
三人はわずかに安堵しかける。
だが次の一言は、静かに落ちた。
「だが、象徴は磨かれねばならぬ」
否定ではない。
しかし、逃げ道もない。
沈黙。
ユーフォミアが、ゆっくりと視線を落とす。
指先でドレスの胴をなぞる。
きつい。
ほんの少し前までは、余裕があったはずなのに。
小さく、言う。
「……たしかに、最近ドレスが入らなくて」
誰に向けた言葉でもない。
「悪役として、迫力が」
語尾が弱い。
悪役令嬢は堂々としているべきだ。
だが今の自分は、衣装係に申し訳なさそうに立つだけの存在だ。
ライルヒルトが、視線を横にやる。
歴代王の肖像。
鋭い顎。
引き締まった頬。
自分の横顔を想像する。
「階段で息切れする王子は、たしかに……」
苦笑が浮かびかけ、消える。
「……理想ではないな」
誰も反論しない。
リリエルは胸の前で手を組んだまま、ぽつりと言う。
「儚さより健康診断って感じです……」
言ってから、少しだけ笑う。
自嘲の笑いだ。
「最近、侍女に“血色が良くて安心します”って言われました」
安心。
ヒロインに必要なのは、安心ではない。
守りたくなる危うさだ。
三人の言葉は、誰かに強制されたものではない。
自分で、自分を測り。
自分で、足りないと認めている。
デルガは何も言わない。
ただ聞いている。
追い詰めない。
責めない。
だからこそ、逃げられない。
ユーフォミアが小さく息を吐く。
「……わたくし、最近あまり怖がられませんの」
その事実が、少し寂しい。
ライルヒルトがうなずく。
「民に親しまれるのは悪くない。だが……」
言葉が続かない。
親しみやすさと理想は、似て非なるものだ。
リリエルは視線を上げる。
「もし、断罪が本当に国家の儀式なら……」
喉が鳴る。
「私たち、今のままだと……弱いですよね」
弱い。
その言葉に、三人とも小さく反応する。
部屋は静かだ。
高い天井の下で、
誰も怒鳴られていないのに。
三人は、静かに理解してしまった。
自分たちは今、
象徴としては、少しだけ曖昧なのだと。
デルガは最後に言う。
「自覚があるなら、それでよい」
それだけ。
命令もない。
だが、もう三人の中では決まりかけている。
――磨かなければならない。
笑える話のはずだった。
脂肪の話だ。
だが今。
彼らは、自分の身体を通して、
物語に足りない何かを
はっきりと見せられていた。




