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悪役令嬢は太って断罪を回避する  作者: 南蛇井


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4/30

緊張感が出ない実例

デルガは書類を閉じたまま、淡々と言った。


「実演してみよ」


三人が同時に顔を上げる。


「……実演、ですか?」とライルヒルト。


「断罪だ」


簡潔。


逃げ道はない。


デルガは机の脇に置かれていた台本を一冊、滑らせる。


「儀礼用の標準台詞だ。第一王子が宣告する形式」


ライルヒルトは正座のままそれを受け取り、わずかに膝を崩しかけ――踏みとどまる。


ゆっくり立ち上がる。


その動作だけで、少しだけ呼吸が深くなる。


高い天井。

歴代王の肖像。

重い沈黙。


舞台装置は完璧だ。


ライルヒルトはユーフォミアをまっすぐ見る。


「ユーフォミア!」


声は出た。

悪くない。


「お前の罪を――」


そこで、ほんの一拍。


吸う。


思ったより、空気が足りない。


「――この場で裁く」


最後まで言い切る。だが、語尾がわずかに柔らかい。


静寂。


次の台詞へ移ろうとした瞬間、喉が少し引っかかる。


「……っ」


咳払い一つ。


小さな、しかし確かな綻び。


リリエルが反射的に一歩前に出た。


「だ、大丈夫ですか殿下……?」


心配が先に立つ声。


ユーフォミアも立ち上がり、ドレスの裾を整えながら言う。


「無理なさらないでくださいませ。お水を」


机の端に置かれていた水差しを、自然な動作で差し出す。


王子は一瞬ためらい、しかし受け取る。


こくり。


静かな嚥下音。


……優しい。


場の空気が、完全に優しい。


断罪の刃はどこにもない。


むしろ、家族会議のようだ。


ライルヒルトは水を戻し、小さく言う。


「続ける」


だが、誰も緊張していない。


ユーフォミアはどこか申し訳なさそうに立っているし、

リリエルはまだ心配そうだ。


裁く者と裁かれる者の距離が、近すぎる。


デルガはその様子を、じっと見ていた。


そして、静かに言う。


「ほらな」


その一言が、部屋の温度を下げた。


三人は動きを止める。


言い返せない。


確かに。


今のやり取りに、秩序の再確認はなかった。


観衆がいれば、ざわめいただろう。


「仲が良いな」と。


「本当に裁くのか?」と。


断罪とは、切断だ。


だが今の三人は、つながっている。


ライルヒルトはゆっくりと台本を閉じた。


ユーフォミアは水差しを元に戻す。


リリエルは一歩下がる。


誰も笑っていない。


だが、滑稽ではある。


王子が息を整え、

ヒロインが背をさすり、

悪役令嬢が水を差し出す。


これでは。


これでは、盛り上がらない。


デルガは淡々と告げる。


「緊張は、輪郭から生まれる」


「曖昧な線は、感情を鈍らせる」


高い天井の下。


三人は、自分の身体の重みを、急に意識した。


笑えば済む話のはずだった。


だが。


たしかに今の断罪は、どこにも刃がなかった。

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