三人の視線
壇上。
静まり返った大広間の中心に、
三人は立っている。
糾弾の構図ではない。
勝者と敗者の位置取りでもない。
誰も跪いていない。
誰も背を向けていない。
ただ――三人。
ユーフォミアが、ふっと息を吐く。
その唇が、わずかに緩む。
無理に作った微笑ではない。
長い間、張りつめていた糸が、
ようやくほどけたあとの笑み。
隣で、リリエルが目を丸くしたあと、
つられるように小さく笑う。
ぎこちないが、確かに温度のある笑い。
その二人を見て、
ライルヒルトも肩の力を抜く。
王子としての顔でも、
物語の主役としての顔でもない。
ただ一人の青年としての表情。
断罪は起きなかった。
怒号も、涙も、崩れ落ちる姿もない。
劇的な幕引きもない。
けれど。
誰も孤立していない。
視線は交差するが、刺さらない。
誰も排除されていない。
立ち位置はそのまま。
三人とも、この場にいる。
そして――
三人は並んでいる。
かつては三角形だった。
頂点があり、
対角に敵意があり、
辺には緊張が走っていた。
均衡は不安定で、
いつか崩れることを前提とした形。
だが今。
三角形は消えた。
線は、一直線に伸びる。
横並び。
優劣でも、
上下でもなく。
ただ、人と人として。
ライルヒルトが、二人を見る。
そこに“役”はない。
悪役も、ヒロインも、王子も。
あるのは、
共有した時間と、
甘味の記憶と、
少し増えた体温。
観客たちは、まだ戸惑っている。
だが壇上の三人は、
その戸惑いの外側にいる。
物語の頂点を失ったはずの瞬間に、
別の均衡が生まれている。
派手さはない。
喝采もない。
だが確かに。
三人は、崩れていない。
断罪の代わりに残ったもの。
それは、
誰も欠けなかったという事実。
三人は、並んで立っている。
静かなまま。
それでも、
初めて人間として。




