デルガ視点:数値の最終確認
王宮塔・最上階。
観測室は薄暗く、壁一面の水晶板だけが淡く光を放っている。
壇上の様子は、魔力投影によって空中に映し出されていた。
三人の立ち姿。
観客のざわめき。
そして、そのすべてを数値化した指標。
デルガは静かに手をかざす。
水晶が反応し、最新値が浮かび上がる。
威厳指数:基準値 −3%
ほんのわずか。
だが、王子の冷厳さを示す曲線が、理論値より下に沈んでいる。
デルガの眉が動く。
次。
儚さ係数:停滞
上昇すべき局面。
断罪直前、ヒロインは最も“壊れやすく”見えなければならない。
だが、曲線は平坦。
血色の影響か。
親和性上昇の副作用か。
そして。
緊張誘発値:想定値 −12%
ここで、デルガの指が止まる。
−12%。
誤差と呼ぶには、やや大きい。
広間の空気が、張り詰めきらない理由。
最後に。
敵意収束率:拡散
本来なら、観客の視線は一方向に集束する。
悪役へ。
罪へ。
断罪の正当性へ。
だが今、感情は散っている。
困惑。
戸惑い。
微妙な共感。
デルガは目を細める。
「……まだ軌道修正は可能だ」
低く、呟く。
数値は崩壊していない。
破断もしていない。
完成率は依然として高水準。
決定的なのは、あの瞬間。
王子の宣言。
断罪の明言。
それさえ決まれば、場は引き締まる。
空気は一気に収束する。
観客は自ら感情を選び直す。
物語は“宣告の瞬間”で完成する。
それが設計だ。
デルガは水晶に映るライルヒルトを見る。
姿勢は正しい。
立ち位置も完璧。
あとは台詞。
あの一行。
「ユーフォミア、貴様の罪を――」
その瞬間、威厳指数は急上昇し、
儚さ係数は最大値へ、
緊張誘発値は理論値に到達するはず。
デルガは自分に言い聞かせる。
「問題ない」
誤差は収束する。
物語は自浄する。
完成は、目前だ。
水晶の光がゆらめく。
壇上の王子が、息を吸う。
デルガの視線が鋭くなる。
ここだ。
ここで、すべてが整う。
――整うはずだった。




