開幕:壇上の違和感
王宮大広間。
天井の高みから吊るされた燭台が、無数の光を落とす。
赤絨毯は真っ直ぐに壇上へと伸び、両脇には貴族たちが隙間なく並ぶ。
ざわめきは、低く、期待に満ちている。
断罪。
その瞬間を、この国は何度も“美しく”演出してきた。
壇上には三人。
完璧な三角配置――の、はずだった。
中央にライルヒルト。
一段高く、堂々と立つ。
肩幅は変わらない。姿勢も崩れていない。
だが。
頬が、ほんのわずかに柔らいでいる。
鋭さよりも、温度。
冷厳な王子というより、息づく青年。
右にユーフォミア。
漆黒のドレスは問題なく身体を包んでいる。
布地は張りすぎず、ゆるすぎない。
けれど、線が違う。
以前のような刃のような輪郭ではない。
指先の動きが、どこか穏やかだ。
左にリリエル。
淡色のドレスが光を反射する。
透けるような儚さは、まだ残っている。
だがそれ以上に、頬に血色がある。
消えそうな存在ではない。
そこに、立っている。
観客席の前列で、誰かが小さく息を漏らす。
「あれ?」
別の声。
「……思ったより、緊迫感がない?」
その違和感は、説明できない。
三人は揃っている。
衣装も整っている。
構図も間違っていない。
なのに。
“美しい悲劇”の輪郭が、少しぼやけている。
王子は冷酷に見えない。
悪役令嬢は尖っていない。
ヒロインは壊れそうに見えない。
完璧な三角形のはずが、
どこか角が丸い。
空気が、張り詰めきらない。
糸を強く引けば鳴るはずの弦が、
わずかに緩んでいる。
ざわめきは広がらない。
怒りも湧かない。
期待していた“断絶”の緊張が、立ち上がらない。
観客は戸惑う。
「……本当に断罪なのか?」
その疑問が、広間の天井へと昇っていく。
壇上の三人は、静かに立っている。
完璧な役者の顔ではなく。
ただ、互いの呼吸を知っている人間の顔で。




