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悪役令嬢は太って断罪を回避する  作者: 南蛇井


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17/30

微調整作戦

裏厨房で誓ってから、三人は驚くほど冷静だった。


激情も、破滅願望もない。


あるのは、計画表だけ。


――微調整作戦。


完璧を壊すのではない。


削る。


ほんの少しずつ。


① 魔力循環を止める


夜明け前の訓練場。


石畳の上を、三人はいつものように走る。


循環走。


呼吸と歩幅を合わせ、体内の魔力を回し、燃やす。


これが彼らの細さを支えていた。


ライルヒルトが、ほんの一瞬だけ歩幅を狭める。


呼吸を、浅く。


吸って、吐く。


吸って――ほんの少し、溜める。


魔力の燃焼率が、わずかに落ちる。


ユーフォミアも同じ。


胸を張る角度を、半度だけ緩める。


魔力の流れは止めない。


ただ、勢いを殺す。


リリエルは、最後尾でリズムを崩す。


走る。

でも、燃やしきらない。


デルガは遠くから記録板を見ている。


数値は表示される。


燃焼率、循環効率、持久係数。


すべて良好。


ただし、誤差。


小数点第二位が、ほんの少し揺れる。


誤差の範囲。


正常値内。


デルガは満足げに頷く。


気づかない。


三人は走りながら、目を合わせない。


合わせたら、笑ってしまうから。


湿った笑いが喉の奥で転がる。


――燃やさない勇気。


それが、こんなに高度な技術だとは。


② 高カロリー菓子を密輸


午後。


厨房の奥。


大鍋の陰で、ひそやかな密約が交わされる。


ユーフォミアが指示を出す。


「バターは、気持ち多めで」


料理長は困惑しつつも頷く。


王家の意向には逆らえない。


焼き上がるのは、表面がさくりとした菓子。


内側は、しっとり。


蜂蜜漬けのナッツは、艶やかに光る。


夜には、温めたミルク。


甘く、優しい。


だが量は控えめ。


一日、+150kcal。


ほんの一枚の焼き菓子分。


劇的ではない。


急激でもない。


ライルヒルトが半分に割る。


「均等だ」


ユーフォミアが受け取る。


「共有は、基本ですわ」


リリエルが微笑む。


「……甘い」


かつてのように、菓子は緩衝材になる。


尖りすぎた言葉が、丸くなる。


場が、柔らぐ。


脂肪が戻る前に、まず関係が柔らぐ。


それが、可笑しい。


完璧な役作りのために甘さを断った三人が、

今は戦略的に甘さを摂る。


目的は逆なのに、やっていることは似ている。


湿った笑いが、また落ちる。


③ スライム運動をサボる


弾力負荷トレーニング。


通称、スライム運動。


透明な魔性生物の上で跳ね、全身を締め上げる訓練。


効率は抜群。


削れる。


だからこそ、削りすぎる。


ある日。


ライルヒルトが額に手を当てる。


「今日は会議が長引く」


真顔。


ユーフォミアは書類を抱える。


「政務の確認がございますの」


完璧な言い訳。


リリエルは小さく咳をする。


「少し体調が……」


嘘ではない。


少し、疲れている。


削り続けることに。


訓練回数は、三回に二回。


ゼロにはしない。


怠惰ではない。


放棄ではない。


努力を消さない。


ただ、完璧を崩す。


スライムは、今日は静かに桶の中で揺れている。


跳ねる音がしない訓練場は、妙に穏やかだ。


三人は並んで廊下を歩く。


以前より、ほんの少しだけ足取りが柔らかい。


体重計の数値は、まだ変わらない。


だが、魔力の燃焼は落ちている。


甘さは増えている。


負荷は減っている。


誤差。


すべて誤差。


けれど誤差は、積み重なれば形になる。


ユーフォミアがぽつりと言う。


「完璧を壊すのって、意外と地道ですわね」


ライルヒルトが答える。


「鍛えるより難しい」


リリエルは笑う。


小さく。


「でも、少し楽です」


夜風が吹く。


三人の影は、以前よりもわずかに丸い。


まだ誰も気づかない。


デルガも、社交界も。


だが、物語の輪郭が、ほんの少し滲み始めていた。

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