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悪役令嬢は太って断罪を回避する  作者: 南蛇井


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15/30

宣告の確定

大広間は、音を吸い込むように静まり返っていた。


高い天井。

磨き上げられた床。

中央に敷かれた赤い絨毯の上に、三人は並ぶ。


配置は、完璧だった。


ライルヒルトは中央に立つ。

背筋は伸び、顎は引かれ、視線は揺れない。


堂々。


王子という輪郭が、くっきりと浮き上がっている。


その右にユーフォミア。


細い顎の線。

わずかに伏せた睫毛の影。

口元には冷ややかな微笑。


鋭い。


断罪を受けるにふさわしい、整いすぎた悪役令嬢。


左にリリエル。


淡い色のドレスが光を受け、

首筋は細く、影は繊細。


儚い。


守られるべきヒロインとして、申し分のない姿。


三人の立ち位置は、まるで最初からそこに刻まれていたかのように自然だった。


正しい三角形。


デルガが、報告書を閉じる。


乾いた紙の音が、大広間に小さく響く。


「仕上がってきたな」


低く、満足げな声。


ゆっくりと三人を見渡す。


「威厳指数、良好。

 儚さ係数、理想値に接近。

 緊張誘発値、安定上昇」


淡々と読み上げる。


最後に、はっきりと告げる。


「断罪の日程を正式に決定する」


間。


「三ヶ月後だ」


完璧なタイミング。


季節も、社交界の流れも、政治的背景も。


すべてが、物語として美しい位置に揃っている。


空気が張り詰める。


王子は動かない。


ユーフォミアは微笑を崩さない。


リリエルは視線を伏せる。


誰も、異を唱えない。


デルガは満足げに言う。


「物語は正常軌道に乗った」


その言葉が、ゆっくりと広間に沈む。


正常。


正しい。


整っている。


だからこそ。


三人の胸の奥に、同じ感覚が広がる。


怖い。


何一つ乱れていないことが。


努力が成果として数字に現れ、

役割が外見と態度に定着し、

断罪が予定通りに進むことが。


完璧に、物語だ。


ユーフォミアは目を伏せる。


ライルヒルトの指先が、わずかに動く。


リリエルの喉が、小さく鳴る。


だが、誰も言葉を発しない。


今ここで抗えば、それもまた“物語らしい反抗”になる。


だから、沈黙する。


三角形は崩れない。


光の角度まで計算されたかのように、美しい。


デルガは背を向ける。


「準備を怠るな」


扉が閉まる音が、やけに重い。


広間に残された三人は、しばらく動けない。


正常。


それが、こんなにも息苦しいものだとは。


物語は、順調だった。


あまりにも、順調すぎた。

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