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悪役令嬢は太って断罪を回避する  作者: 南蛇井


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14/30

自覚(重)

笑いの余韻が、ゆっくりと冷えていく。


裏厨房は再び静まり返り、

三人の呼吸だけが小さく残る。


空になった皿の上に、パン屑がわずかに光る。


誰も、すぐには動かない。


さきほどまでの軽さが、すこしずつ沈んでいく。


わかっている。


これは逃げだ。


夜の陰に隠れて、冷えたパンを分け合って、

物語の外側に立ったふりをしているだけ。


痩せるのをやめれば。


きっと、収束は緩む。


王子は誰か一人に傾かず、

悪役令嬢は角を丸め、

ヒロインは「守られそう」ではなく「かわいい」に戻る。


物語は、曖昧になる。


だがそれは同時に、


努力を否定すること。


重力に抗った日々も、

空腹を耐えた夜も、

削ってきた時間も。


成長を、なかったことにすること。


そして。


“選ばれない可能性”を、あらかじめ受け入れること。


ユーフォミアが、静かに言う。


「太っていた私は、自由でしたわ」


声に誇りはない。


ただ、事実を置くように。


甘いものを分けて、

棘を丸めて、

誰の物語にも回収されない位置にいた自分。


あれは、確かに自由だった。


ライルヒルトが、低く言う。


「今の俺は、正しい」


王子として。


努力して、整えて、

守るべき者を選び、

責任を引き受ける位置に立つ。


それは、正しい。


正しさには、重みがある。


リリエルが、両手を重ねたまま呟く。


「どっちが、本当なんでしょう」


太っていた自分は、安心だった。


今の自分は、眩しいと言われる。


どちらも自分のはずなのに。


どちらかを選ぶと、

どちらかが嘘になる気がする。


答えは出ない。


出るはずもない。


物語に近づくほど、輪郭は鮮明になる。


けれど鮮明になるほど、余白は消える。


三人は立ち上がる。


皿は空。


粉を払う仕草が、やけに静かだ。


扉を開けると、夜の廊下が広がっている。


冷たい。


整っている。


それぞれ、別の方向へ歩き出す。


振り返らない。


だが目元が、少しだけ熱い。


笑ったからか。


それとも。


涙は落ちない。


ただ、わずかに赤い。


夜は何も言わない。


けれど確かに。


彼らは知っている。


自由と正しさは、同じ形をしていない。

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