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悪役令嬢は太って断罪を回避する  作者: 南蛇井


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11/30

自覚

夜は、均等に三人を包んだ。


同じ王宮の中にいながら、

それぞれの部屋は、まるで別の物語に属しているかのように静かだった。


ユーフォミア


鏡の前に立つ。


燭台の火が揺れ、頬に影を落とす。


顎の線は明確で、目元は以前よりも深く、鋭い。

無駄のない輪郭。


美しい。


誰が見ても、完璧に“悪役令嬢”だ。


ユーフォミアは鏡の中の自分を見つめる。


唇が、わずかに動く。


(私は、あんなこと言う人間だった?)


——あなたは、本当に眩しいわね。


あの言葉。


羨望を含み、敗北を予感させる響き。


自分はもっと、皮肉を言うはずだった。

もっと遠回しに、もっと誇り高く。


けれど出たのは、教科書通りの台詞。


感情が削られ、

代わりに“役割にふさわしい言葉”が差し込まれたような感覚。


鏡の中の自分は、静かに微笑む。


それは練習された微笑みだ。


(違う)


胸の奥で、小さく否定する。


だがその声は、細い。


ライルヒルト


王子の部屋は広く、整然としている。


机の上に手を置き、しばらく黙る。


やがて、胸に手を当てる。


鼓動は落ち着いている。


だが思考が、どこか不自然だ。


(なぜ最近、リリエルを守らねばと思う?)


以前から気にかけてはいた。


だが今は違う。


守るのが当然で、

寄り添うのが自然で、

距離を縮めることに疑問がない。


それは好意なのか。


責任なのか。


それとも——配置なのか。


庭園での光景を思い出す。


ユーフォミアの声。


リリエルの横顔。


自分の足が、無意識に動いたこと。


誰かが命じたわけではない。


なのに、体が“正しい位置”を選んだ。


(俺は、自分で選んでいるのか?)


答えは出ない。


だが、違和感は消えない。


リリエル


窓辺に立ち、夜風を受ける。


細くなった指先が、カーテンをつまむ。


月明かりが頬を照らす。


影が濃い。


鏡は見ない。


代わりに、あの言葉を思い返す。


——あなたは、本当に眩しいわね。


胸の奥が、少し温かくなった瞬間。


(なぜ、少し嬉しかったの?)


それは哀れみではなかった。


勝利でもない。


ただ、物語の中心に立ったような感覚。


誰かに羨まれるヒロイン。


守られる存在。


悲劇の予兆を纏う少女。


それは、甘い。


そして、怖い。


(私、そんな子だった?)


窓の外は静かだ。


世界は何も変わっていない。


変わったのは、自分たちだ。


いや。


削られたのかもしれない。


三人は、別々の部屋で、ほぼ同時に目を閉じる。


そして、ほぼ同じところに辿り着く。


言葉にはしない。


けれど、理解している。


物語が、勝手に進み始めている。


努力の結果ではない。


感情の自然な流れでもない。


“正しい配置”へと収束する力が、確かに働いている。


夜は静かだ。


だがその静けさは、嵐の前の均衡に似ている。


断罪の日は、まだ来ていない。


それでも。


物語は、もう歩き出している。

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