呼び出し
王城・宰相執務室。
天井は無駄に高かった。
音が上に吸われ、言葉が小さくなる高さだ。
壁には歴代王の肖像。
どの王も、顎の線が鋭い。
その下で。
三人は並んで正座していた。
悪役令嬢ユーフォミア。
第一王子ライルヒルト。
そしてヒロイン、リリエル。
石床は硬い。
ユーフォミアは背筋を伸ばしているが、ドレスの胴回りがわずかに張っている。
座ると余計に目立つ。
ライルヒルトは、静かに膝の位置をずらした。
王族である。
だが今は正座である。
しかも長い。
リリエルは呼吸を整えようとしているが、ほんの少しだけ荒い。
階段を上がってここに来るまでに、軽く息が切れたのだ。
重厚な机の向こうに座るのは、宰相デルガ。
書類をめくる音だけが、部屋に落ちる。
ぱらり。
ぱらり。
沈黙が重い。
ライルヒルトが、口元だけで小さく呟いた。
「……正座、王族免除にならないのか」
ユーフォミアが横目で見ずに返す。
「今その腹で免除を求めますの?」
「腹は関係ないだろう」
「大いにありますわ」
リリエルが小声で慌てる。
「お、お二人とも……聞こえます……」
実際、静かすぎて、少しの囁きも響く。
ライルヒルトは背筋を伸ばした。
その瞬間、わずかに衣擦れの音。
ユーフォミアは視線を正面に固定したまま言う。
「殿下、息」
「切れていない」
「切れておりますわ」
「切れていない」
リリエルが心配そうに覗き込む。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
言いながら、ほんの少しだけ呼吸が深くなる。
その様子を、机の向こうから静かに見ている男がいる。
デルガ。
笑っていない。
書類を閉じる。
ぱたん。
その音だけで、三人は同時に背筋を正した。
広い執務室に、視線が落ちる。
天井の高さが、急に圧迫感を持つ。
デルガは、ゆっくりと顔を上げた。
何も言わない。
ただ、三人を順番に見る。
ユーフォミア。
ライルヒルト。
リリエル。
その視線は冷たいわけではない。
怒りもない。
ただ、測るような目だった。
沈黙が続く。
ライルヒルトの膝が、そろそろ限界に近い。
ユーフォミアのコルセットが、わずかにきしむ。
リリエルは、呼吸を整えきれない。
そしてデルガは、ようやく口を開いた。
「……諸君」
低く、落ち着いた声。
「国家は、劇である」
三人は、顔を上げた。




