表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

流れ骨

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 こーちゃんは、最近になって視力が落ちる人が増える傾向に関して、どう考えてる?

 まあ、目を酷使する機会が増えたってのがよく聞くところだよね。液晶画面を見る時間が増えたのがでかいけれど、中でもスクロールがけっこう目の疲れる分野らしいんだよ。

 だーっと画面が流れるのを目にするでしょ? そうなると、頭は一瞬で通り過ぎる情報で追う必要はない、と思っても目が無意識レベルで追ってしまう。

 超近距離における、動体視力チェックが頻繁に起こる。人間だって、どのような検査をするにせよ、けっこう疲れるもんでしょ? あれと同じような疲れが、どんどんたまっていく。たいした休みも与えられず、集中してだ。

 継続は力なり。これは良い意味以外にも、悪い意味にも使える。悪い習慣も積み重なれば、やがて容易に回復ができない大事へつながっていくんだ。自覚がなかったとしても、ほどほどに休みを設けてやったほうがいいだろう。

 本当にやばいときに、きっちり働くことができるようにね。僕が少し前に、お父さんから聞いた話なのだけど、耳に入れてみない?


 当時、お父さんは13歳だったという。

 その日はある友達と遊ぶために、公園で待ち合わせをしていたのだけど、時間になっても友達がやってこなくて、首をかしげてしまったらしい。

 いつもは自分よりも時間に正確なのに。このときに限って、そのようなこともあるのか……と思ってしばらくとどまっていると、救急車の音が近づいてきた。

 この近辺では、火事のときの消防車と一緒に出動するのを見かけるケースがほとんどで、単独で走る姿というのは少し珍しかったとか。けれど、たいていはそのまま遠ざかっていくサイレンが、今回はいつまでも近辺にとどまって離れようとしない。


 ――もしや、この近くでケガ人もしくは病人が?


 そう思って、ひょいと音の出どころと思しき方向へ目をやったとき。


 数十メートル先に横たわる道路を、何かが横切った。

 赤い光を放ったように思えたから、一瞬音を出している救急車かと思ったけれど、そいつが家から家までのわずかな間を横切っても、音の大きさは変化しない。

 救急車じゃない。でも、エンジン音はみじんも聞こえなかったから、他の車という線も考えづらかった。

 結局、救急車はとどまり続けて、友達は姿を見せないまま。やむなくお父さんは家へ引き返すも、ちょうど祖母が台所から顔を見せた。

 例の遊ぶ約束をしていた子供が、大けがをして救急車で搬送されることになったという。

 まさか先ほどの? と偶然に驚くお父さんだけど、もたらされた情報はそれだけじゃない。


「どうやら、『流れ骨』にやられた疑惑があるらしい。あんたも気を付けたほうがいいね」


 流れ骨。当時の父親もうわさなら聞いたことがある。

 流れ弾、といったら狙った標的に当たらずに、それて飛んでいく弾のこと。自然法則にのとった無差別攻撃だから、これは不幸といわざるを得ない。

 しかし流れ骨は狙った標的へ当てる骨。それも儀式めいた手順を踏んだもの。超自然のならわしにのっとった精密攻撃だから、これは不注意といわざるを得ない。

 あのとき、道路をあっという間に横切っていった、赤い光を放つ物体が気にかかる。もしあいつが流れ骨であったなら、近いうちに自分も狙われるだろうからだ。


 流れ骨は狙った標的の目の前に3回、じょじょに距離を詰めながら現れる。

 早ければその日のうち、長くても5日くらいの間に。

 あのときは、左から右へ横切った。そうなれば次は右から左へ横切り、また右から左。そして四度目は……こちらへじかにぶつかってくる。

 言い伝えによると、日をまたぐ場合は、最初に目にした時間帯とほぼ同じころに姿を見せるとのこと。

 そして、二度目と三度目でケリをつけてしまうのが望ましい。四度目の衝突するときは偶然による回避しか望めず、まず助からないからだ。

 流れ骨は、自然を超えた存在。どのような場所に閉じこもったとしても、あらゆる物質をすり抜けて迫りくる。今までを生きてきた人間にできる対抗策は、当たるより前にケリをつけてやること。


 抜き打ちテストをやらされるみたいで、父親は全然気構えができていなかったそうだ。

 けれども、家の中にもかかわらず、その流れ骨が数メートル先で横切ったことで、緊張の糸を結び直す羽目になる。

 聞いていた通りの骨だ。最初よりもずっと近づいたために形状が分かる。

 頭蓋骨だった。ただし、車と見まごうほどの大きさの、だ。

 その眼窩ひとつで、おそらく父親の身体のすべてを飲み込むことができてしまうだろう。通り過ぎた勢いからして、ピッチャーの剛速球と大差ないとみた。

 次は三度目。そして対策はもう分かっている。

 奴の眼窩を、目を凝らしてにらんでやること、だ。


 父親の熱意に押されたのか。あるいは直後ゆえに気を抜くと思ったのか。

 三度目の流れ骨は、本当に父親の眼前を通り過ぎた。おそらく時間にすれば、またたきの間であったのだろう。

 けれど、父親は激しく回転する頭蓋骨の眼窩を、今度こそ間近の真正面から見た。

 その中にうごめく、金色の水たまりを成す、無数の子ヘビたちの姿を。そいつらの一部が離れて、眼窩の外目がけて飛び跳ねてきたのを。つい、それをかわそうとして身をのけぞったときには、骨はすでに通り過ぎてどこにも姿が見えなくなっていたのを。


 しばらくぼーっとしてしまったようだけど、四回目はいつまで経ってもこず、今に至る。がっちりと中身をとらえられたのが良かった、とは祖母の談。

 おそらくは上手くいったのだろうけど、例の友達はそれから一度も会っていないのだとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ