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サイコパスの道徳予習

作者: 舳里 鶏



馬鹿な話を書こうと思ってがんばりました。

楽しんで貰えると嬉しいです。

 「予習というのは大事なものだ」

 放課後の教室に残った男子、陸翔が胸を張って机の向こうに座ってホチキス綴じをする女子、さつきにそう話しかける。

 「……………」

 「何を教えるつもりなのか、それを知っておくことで授業の理解度が違う」

 「………………」

 「理想は、次の授業の範囲である英単語を調べるぐらいまでいくと完璧なのだが、最悪時間がない場合は、教科書を読んでおくだけで大分違う」

 「………………」

 「特に明日は授業参観。流石に中学生にもなれば親にいいところを見せたいという思いはほぼ消える。だが、それは失敗してもいいという意味ではない」

 「……………」

 「ソツなくこなす。これを遂行するためにもやはり、予習というものは欠かせないのだ」

 「……………言いたいことは分かった」

 「分かってくれたか!!」

 さつきはホチキスの手を止めるとジトっとした目を向ける。

 机の上に開かれた教科書と陸翔の顔を見比べてからゆっくりと口を開く。

 








 「因みに明日の授業参観の科目、『道徳』なんだけど、分かってる?」

 

 






 「当然だ。その上でお願いしたい」

 陸翔は、ぶりっ子ポーズをとる。

 「道徳の予習に付き合って☆」

 「あほか!!どこの世界に道徳の予習する奴がいるんだよ!!」

 こいつの言うことは無視してやろうと思っていたが限界だった。

 さつきに突っ込まれた陸翔はぶすっとした顔で、ぶりっ子ポーズをやめる。

 「しかし、うっかりヤバい奴みたいな回答をするわけに行かないだろ?そのためにはやっぱり正解を学んでおくべきだと思うんだ」

 「もう、その言葉がやべぇよ…………何だよ、道徳の正解って………」

 さつきは自分の頬が引きつるのを感じていた。

 「そりゃあ、正解だって求めたくなる。何せ、俺は。昔、失敗したんだからな」

 「道徳の授業で?」

 「ああ。しかも今回と同じ授業参観だったんだ」

 「おう………」

 「内容としてこんな感じだ。たかし君がお母さんにこういうんだ。『僕は、お掃除も、お皿洗いもしてる、言われる前に宿題もやっている。だから、三千円をくれ』と」

 「へえ。それで?」

 「すると、お母さんは、にっこり笑って、三千円を渡した後、『お掃除代0円、料理代0円、孝の看病代0円』と書かれた請求書を一緒に渡すんだ。この話を聞いて皆さんはどう思いましたかというものだ」

 「ん~、それって、アレか?お母さん、ないしお父さんはお金にならなくても君たちに愛情を注いで大切に育てているという話?」

 「そう、そういう話だった。愛情とはなにかという道徳の授業だった」

 「なるほど。道徳の授業としてこれ以上ないほど大切なものだな。それで、お前はなにをやらかしたんだ」

 「『三千円ぐらい渡すの普通のことだと思う』と挙手をして言った」

 「……………お母さんからの請求書がゼロ円だったことについてはなんて言ってんだ?」

 「ただでラッキー」

 「……………………………」

 「教室の空気が凍るというもの初めて感じた八歳の夏の記憶だ」

 流石に今ではこの返答がまずかったことは自覚しているようだ。

 「もう二度と、あんな悲劇を起こさないようにしたいんだ」

 「なるほど、お前の悲劇は分かった。それで、具体的に何をしたいんだ?」

 「基本的にクラスのみんなが答えるのが正解だから、出来るだけそれに合わせるように調整したいんだ」

 「それは、正解じゃない。擬態だ」

 「多数決こそ正義だろ」

 「その台詞は道徳を学ぶ人間が絶対口にしちゃいけないワードだ」

 「おお、早速予習が出来た!!ありがとう」

 「見たことないぐらい、いい笑顔で言いやがったよ………」

 自分の功績で言われた感謝の言葉だと言うのに全く嬉しくないという初めての体験に戸惑うばかりだ。

 「この調子で俺は明日、何としてもソツなく授業参観を終えたいんだ、協力してくれ」

 「この調子ってどの調子?言っとくけどスタートラインに立ったわけじゃねーからな?スタートラインの引き方を覚えただけだからな?」

 もうさっそく頭を抱えたくなってきた。

 「安心しろ。スタートラインには立っている。これを読み込んだ俺に死角はない!!」

 そんなさつきの前に陸翔は自信満々に冊子をポンと置く。

 「…………………何これ?」

 「道徳の指導要領だ」

 「聞いたことねーよ!!道徳の予習のために指導要領を読み込む奴!!うっわ!!変な折癖ついてる!!マジで読み込んでやがる!!」

 「指導要領によるとだな」

 「いい!!いい!!聞きたくねーよ、こんなの。例えるなら、父ちゃんの部屋から『思春期の娘との接し方』とかいう本を見ちまったような気まずさだよ」

 「安心しろ。俺は母さんの部屋から『男の子育て方』という本を見つけたことがある」

 「どこに安心すればいいの!?今、お互い傷を晒しただけだぞ!!」

 「さて、これによるとだ、」

 「無視すんな!!というか、何で学校で配布されたタブレットで見ないの!?」

 「タブレットのて検索履歴確認されてバレたら嫌だろ」

 「何でそこだけ理性と常識があるんだよ!せめて全部失っててくれよ!!」

 中途半端に常識があるせいで、ヤバいことになっている。

 ドン引きするさつきに構わず陸翔は続ける。

 「道徳の目標は、『よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う』ことらしい。

 そしてそのために『主として自分自身に関すること』『主として人との関わりに関すること』『主として集団や社会との関わりに関すること』『主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること』この四点に整理し順番に学んでいくらしいぞ」

 得意げに話す陸翔に向ける顔が分からないさつきは、とりあえず、引きつり笑いを浮かべることにした。

 「…………………………それをどうやって、予習するんだよ。道徳の教科書読むか?といっても授業であんまり教科書を使った記憶はないけど……」

 「一番いいのは、先生に明日の授業の内容を聞くことだと思うが………」

 「それは一番いい方法じゃなくて一番楽な方法ってだけだからな」

 これほどどうやってやるかかが問題になるものも珍しいだろう。

 「やはり、先生がびっくりする方がいいと思ったから、別の方法を探したんだ」

 「エライネ」

 「と言うわけで、俺は考えた。ここ一週間毎晩八時間寝ながら考えた。」

 「ただの睡眠報告じゃねーか。ポ〇モン〇リープか、お前は」

 呆れるさつきを前に、大きな紙袋を引っ張り出した。

 「何これ?」

 「フッ、聞いて驚け」

 「見て驚いてやるから早く出せ」

 どや顔を叩きつぶされ少し寂しそうな顔になった後、彼は渋々、紙袋の中の物引っ張り出した。









 中から出てきたのは、人生ゲームだった。

 

 

 


 


 「……………………………………………………何これ?」

 微妙な沈黙の後、さつきは何とか絞り出した。

 「これは、人生ゲームと言うものだ。一般的なすごろくのように見えるが、決定的に違うのは、最終的な金額を競うというもので………」

 「いやいい。私が聞きたいのは、そうじゃない」

 「じゃあ、何が聞きたいんだ?」

 「人生ゲームが道徳の授業とどう繋がるんだ?」

 「いいか、これをもう一度よく見ろ」

 「いいよ、もう指導要領は………」

 嫌がるさつきに構わず、蛍光ペンが引かれたページを見せる。

 蛍光ペンが引かれたのは、

・主として自分自身に関すること

・主として人との関わりに関すること

・主として集団や社会との関わりに関すること

・主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること

の四か所だ。

「人生ゲームで困難を乗り越えどのように金を稼ぐか、これで『自分自身に関すること』を学び、結婚を通して『人との関わりについて』学べ、職業カードに関するイベントで『集団や社会に関すること』が学べ、出産祝いで他のプレイヤーから金を巻き上げることにより『生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること』を遊びながら学べる。まさに最強の道徳の教材と言えるだろう」

 「友情破壊ゲームの一角が道徳の教材になるわけねーだろ」

 「友情破壊ゲーム?人生ゲームが?なぜ?」

 心底不思議そうな顔の陸翔にさつきは、人差し指を向ける。

 「勝敗が付く、更に言えば、これは妨害が付き物のゲームだぞ。友情が持つわけねーだろ」

 友情破壊ゲームと言われると、テレビゲームのイメージが強いが、ボードゲームにだっていくらでもあるのだ。

 というより、勝敗が付くならカルタだって泣きだす奴がいるレベルだ。

 それはさておき、ここまで説明されても、陸翔は不思議そうな顔のままだった。

 「それは、お前の努力が足りない。ちゃんと調整して機嫌の悪そうな奴を勝たせないからそういう事になるんだ」

 「…………………………は?運がほとんどのゲームでどうやってそんなことするんだよ」

 「まず、自分が中盤までに一番金稼ぐ。で、俺のルーレットを一番負けてる奴に適当な理由を付けて回させるんだ。すると、そいつは、俺が負けるように加減して回し出す。そうすれば俺が最下位になって、そいつの機嫌が直るって寸法だ」

 「お前、どうして、そんな性格がサ終してる奴と人生ゲームやってんだよ」

 「小学校の時に学ばなかったか?みんなと仲良くしましょうって。つまり、色んな奴と仲良くする方法を学べる。ゲームの進め方も道徳と言い切っていいだろう」

 「接待の間違いだろ」

 はあとさつきは大きなため息を吐く。

 「まあ、どちらにせよ、私はやらねーよ。この作業やんなきゃだからな」

 そう言って見せるのは何かの資料だ。

 「明日の生徒会の資料。早く作らねーと帰れないんだよ」

 「なんだ。そうならそうと早く言え。俺も手伝うぞ」

 「え?」

 「とぼけた声を出すな。ほら、半分寄越せ」

 「あ、ありがとう」

 「礼などいい。困っていたら助けるのは当たり前の話だ」

 陸翔はそう言うと黙々とホチキスをかけ始めた。

 「それより、机の上にあるそれはなんだ?」

 「なんか、父ちゃんが、今日までに解いてとか言った奴」

 「ふーん。まあ、思春期の娘と話そうと頑張っているんだな」 

 「おい、傷口広げるんじゃねーよ」

 陸翔の話が終わり、おまけに手伝ってくれたおかげで思ったよりも早く終わった。

 しかし、そうは言っても外は暗くなっている。

 「お前、帰る友達はいるのか?」

 「いや、いないけど………」

 「なら、家まで送ってやる。早く支度しろ」

 「あ、うん。分かった」

 帰り支度をまとめて外に出ると街灯が付き始めていた。

 「さあ、帰るぞ。明日は勝負の日だからな」

 「授業参観でどんだけ気合を入れるんだよ………」

 そんな会話をしながら陸翔は、車道側を歩く。

 車道に少しはみ出る人生ゲームの入った紙袋は、少し邪魔そうだ。

 「つうか、お前、家反対方向じゃなかったか?」

 「夜道を女子一人で歩かせるわけないだろ」

 「あ、男女差別」

 さつきに言われ少し考える陸翔。

 「成程。確かに良くないな………女性のみに絞った扱い方、人との関わりに関することに点で見れば良くない……更に昨今の男女平等に関する考え方から鑑みても集団や社会との関わりに関することと言う点でも整合性が悪い………どうしたものか………」

 「よし。では、この道では未解決の殺人事件があったことにしよう!!犯人がいるかもしれないから、一人で帰るのは危険なんだという噂を流すぞ。そうすれば、誰も俺の行動を咎めるものはいなくなるはずだ!」

 「どうして、人が考え付かない上に倫理感が終わってる答えが出てて来るんだよ!!おかしいだろ!」

 「そうか?かなり合理的だと思ったのだが……」

 そんな少し変な会話をしているといつの間にか、さつきの家についた。

 「何事もなくウチについたな。じゃあ、俺はこれで」

 手をシュタっと上げて、陸翔は踵を返す。

 「いや、お前は、いいのかよ」

 「ああ。そこの公園で親を呼ぶ。じゃあな。また明日」

 「あ、うん、そのありがとう」

 「気にするな。それじゃあな」

 再び言うと、陸翔は帰路についた。

 見送るとさつきは家に入る。

 そして頭を抱えて蹲った。





 (何で、行動だけまともなんだよ!!)

 あの道徳に対してどうしようもない解釈をしていた陸翔など、何処へやらというレベルでまともな行動をしていた。

(私の事、手伝ってくれたし、当たり前のように送ってくれたし、あんなにナチュラルに車道歩くなんてあるぅ!?)

 未だにう〇このネタで爆笑しているような男子たちが多い中、一体どれほどの男子があのような行動が出来るのだろうか。

 (言動全部おかしくあってくれよ!!何で、動の部分だけまともなの?) 

 脳がバグりそうだった。

 無駄に疲れた頭を抑えながら、リビングの扉を開く。

 「ただいま…………」

 「おかえり」

 返事のした方を見ると父親が、新聞を見ていた。

 さつきは、カバンから紙を取り出す。

 「はい。父ちゃんに言われたのやったよ」

 「そうか」

 そっけなくそれでいてちょっと嬉しそうな声で受け取る父。距離感が迷子になっているのはお互い様だ。

 父は、もう一つの紙を出して何やらチェックを始めた。

 「何々、あんた何やったの?」

 先ほどまでテレビで見ていた姉が興味津々と言った様子で寄ってくる。

 「分かんない。父ちゃんにやってって言われた奴だから」

 「ふーん。父ちゃん何やらせたの?」

 「心理テストだ。中学生の女の子は好きなんだろう?」

 「別に全員が全員そういうわけじゃないけど………どこ情報?」

 「職場の人がそんな話をしていた」

 不思議そうな顔の姉と違い、本当の情報源を知っているさつきは、目を反らした。

 「ふーん。ところで、どんな、心理テスト?」

 









 「俺もよく知らないが、えっと、『サイコパス診断』だそうだ」

 








 「え?」

 






 姉とさつきの時間が止まった。





 「職場のおば……えふん。お姉さん達の話によるとだいたい十四歳ぐらい子は、この診断が大好きだと言っていたからそのクイズがまとめてあるものを見つけて問題をまとめたんだ。」

 「いやあの……」

 「サイコパスというのがなんなのかよく分からないが、サイコパスというのがみんな好きでそれに近づくような回答をするんだろ?そして、ほn……えふん。知り合いの話によれば女の子は心理テストが好きだと言う話を聞いたのでな。色々調べたんだ」

 父の話を聞く限り、どうやらサイコパスがどういうものか理解していないようだ。

 本当だったらさつきも知らないフリをしたかった。

 しかし、無知を装うには、ネットが身近な環境は、都合が悪すぎる。

 (大丈夫、私なら零点だ絶対!!)

 「おお!すごい!!さつき、お前、満点だぞ」

 純粋な笑顔で褒める父。

 残念ながらさつきの願いは、脆く消え去った。

 「これで、お前は立派なサイコパスだ!!」

 全力の悪意のない誉め言葉。

 どんな反応をするのが、正解なのだろうか?

 「とりあえず、お前に返しておく。明日、学校で自慢するといい。明日は授業参観だろう?俺はいけないが、母さんの前で自慢するといい」

 「あぁ……うん……そうだね……その、母さんは?」

 「仕事が長引いているみたいだ………と、そんなことを言っていたら、お迎えコールが来た。じゃあ、ちょっと行ってくる」

 父は車のキーを持って家を出て行った。

 楽しそうな父を見送り、さつきはギギっと油の切れた機械のようにゆっくりと顔を動かして姉を見る。

 見られた姉は気まずそうに目を反らす。

 「姉ちゃん………」

 「何?」

 「実は、明日、参観日なんだ」

 「言ってたね」

 「そしてね、授業参観の科目が、『道徳』なの……」

 「へぇ…………そうなんだ。それで?」

 この先の言葉をまさか自分が言うことになるとは思わなかった。しかし、言わねばなるまい。






















 「道徳の予習に付き合って…………………」















参考文献

文部科学省ホームぺージより

・中学校学習指導要領(平成29年告示)

・【特別の教科 道徳編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説




一応、言っておきますが、何かを否定したいわけではないんです!!

面白いかな?と思って詰め込んだだけです!!


では、またべつのお話で

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