第六章 夏の思い出
八月の庭は、まさに生命の輝きに満ち溢れていた。蓮の花が優雅に咲き誇り、ブルーサルビアが深い青で庭を彩る。野菜畑では、トウモロコシが風に揺れ、エダマメの実が膨らんでいた。
エリシェバは早朝から、花々や野菜たちと語らいながら庭仕事に励んでいた。
「エリシェバさん、昔のお話を聞かせてください」
蓮の花が、静かに願い出た。
「そうねえ……」
エリシェバは、懐かしい記憶を辿り始めた。
「ヨハネスと初めてこの家に来たとき、この庭は荒れ果てていたの。でも、二人で一緒に耕し、花を植え、野菜を育てた。毎日が発見と喜びに満ちていたわ」
花々は静かに聞き入っている。妖精のリリアも、エリシェバの膝元に腰を下ろした。
「特に、あの白いバラを植えた日のことは忘れられないわ。ヨハネスが『このバラは、私たちの愛の証』って……」
エリシェバの声が少し震えた。リリアが、そっと彼女の手を握る。
「でも、悲しいことばかりじゃないの。だって、あの人との思い出は、今でも私の中でこんなにもしっかり生き続けているもの」
その時、一陣の風が吹き抜けた。と同時に、庭全体が淡い光に包まれ始める。
「エリシェバさん、見てください!」
蓮の花が声を上げた。庭の空間が揺らぎ、そこに過去の光景が浮かび上がってくる。
若かりし日のエリシェバとヨハネスが、楽しそうに庭仕事をしている姿。二人で白いバラを植え、愛情を込めて育てている様子。日曜の午後、ベンチに腰かけて穏やかに語り合う二人の姿。
「これは……」
「思い出の光景です」
ガブリエルが、エリシェバの傍らに立っていた。
「花たちが、エリシェバさんの心の中にある大切な記憶を映し出してくれているのです」
エリシェバは、涙を拭いながら微笑んだ。過去の光景は、まるで古い映画のフィルムのように次々と移り変わっていく。そのどれもが、幸せに満ちた思い出だった。
夕暮れ時になり、光景が徐々に消えていった。しかし、エリシェバの心は不思議な温かさで満たされていた。
「ありがとう、みんな。こんな素敵な贈り物をしてくれて」
花々は誇らしげに揺れ、妖精たちは嬉しそうに舞い踊った。天使たちも、穏やかな微笑みを浮かべている。
その夜、エリシェバは久しぶりに、ヨハネスの夢を見た。二人で庭の手入れをしている、あの頃のように。夢の中でヨハネスは、優しく微笑みかけてくれた。




