第五章 夏の恵み
七月に入り、庭は最も豊かな実りの季節を迎えていた。野菜畑では、完熟したトマトが赤々と輝き、ナスやキュウリも次々と収穫時期を迎える。花壇では、ひまわりが威風堂々と空に向かって伸びていた。
「エリシェバさん、私たちの実、もう食べられますよ」
トマトたちが嬉しそうに声をかけてきた。エリシェバは一つ一つ丁寧に収穫していく。
「本当に立派に育ってくれたわね。ありがとう」
収穫した野菜は、近所のお裾分けにも回された。受け取った人々は、エリシェバの野菜の味を絶賛する。
「こんなに美味しい野菜は初めてだわ」
「エリシェバさんの庭には、何か特別な秘訣があるのね」
エリシェバは、ただ優しく微笑むだけだった。花や野菜たちと心を通わせ、愛情を込めて育てる。それが唯一の秘訣なのだ。
ある日、庭仕事を終えて家に戻ろうとしたとき、突然の眩暈に襲われた。暑さのせいだろうか、視界が歪み始める。
「エリシェバおばあちゃん!」
リリアが真っ先に気づき、すぐに駆けつけた。他の妖精たちも集まってきて、涼しい風を送り始める。
「大丈夫、ちょっと休めば……」
その時、天使のガブリエルが現れた。
「エリシェバさん、無理は禁物です。今日はゆっくり休んでください」
ガブリエルに導かれ、エリシェバはベッドで休むことになった。花々は心配そうに窓の外から見守っている。
夜になると、庭から不思議な光が漏れ始めた。好奇心に駆られて窓辺に立つと、そこには幻想的な光景が広がっていた。
花々が月光のように柔らかな光を放ち、その周りを妖精たちが舞っている。天使たちも加わり、癒しの歌声を響かせていた。
その光景に見入っていると、ふと懐かしい香りが漂ってきた。それは、かつてヨハネスが育てていた白いバラの香り。でも、その白バラは彼の死後、枯れてしまったはずなのに……。
「エリシェバさん」
ガブリエルが、静かに語りかけてきた。
「あの白バラは、ヨハネスさんの愛の象徴。今夜、特別に天国から香りだけを届けてくださったのです」
エリシェバの目に、涙が溢れた。それは悲しみの涙ではなく、深い感謝の涙だった。
夏の夜は、そうして神秘的な癒しの時間となった。翌朝、エリシェバの体調は見違えるように回復していた。
「みんな、ありがとう。あなたたちのおかげで、私は本当に幸せ者ね」
朝日に照らされた庭で、エリシェバは心からの感謝を伝えた。花々は嬉しそうに揺れ、新しい一日が始まっていく。




