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41 魔王、友達になる



 自称魔王ちゃんが突如参戦することになった、あたしの魔特歓迎会。

 居酒屋の座敷で倒れ込んでオエオエ言ってた金髪女子高生は、そのまましばらく戦線離脱していたが、ようやく調子が戻ってきたのかヨロヨロと起き上がって水を飲み始める。


 しかしこいつは一体何者だろうか……なんて考えていると、誰が頼んだのか、またあたしの冷やが自然と運ばれてきた。

 まあせっかくなので、あたしはおちょこでクイッと一杯やりつつ、女子高生の正体探りも兼ねてコミュニケーションをとることにした。


「あんたさ。なんで佐藤ケイコなんて名前にしてんの?」

 

「知らんのか? この日本で一番多い女性のフルネームがそうなんやで。きっと人気あるんやろ。ウチはブームに乗る主義やからな! そやから『佐藤ケイコ』で住民登録したんや……おぇ」

   

 異世界人て、そんな奴ばっかかよ。


 佐藤ケイコは、体調が回復してくるにつれ、やたらとミノルにベタベタ触って自分の腕を絡ませる。


 この場でカタをつけるとかなんとか言ってたくせに、こんなふうに絡みついて。

 だいたい、こいつミノルとどういう関係なんだ?

 なんかイライラする。別にこいつらがどうなってもあたしには関係のないことだが、人の目ってものを気にもしない、この図々しい態度はいかがなものかと思う。


「ちょっと。なんでそんなベタベタしてんの?」


「ウチらはもう、体の隅々まで見せ合った仲やからなあ」


「……あんた、魔王だってんなら、なんでそんなところで働いてんだよ」


「金がないと、人間界では生きていかれへんからな。手っ取り早いんや。それに、ホストクラブには、ウチのことをわかってくれるええ兄ちゃんがおってなあ。きっとウチに、ほんまのほんまに惚れてるんやと思う。星矢くんって言うんやけどな、ウチ、星矢のためやったらなんでもするわぁ。そやから、もっともっと稼がんと」


 ミノルは、そんな佐藤を横目で呆れたように見て。


「色恋営業だよ、気づけっての」


「そんなわけないやろ! あれはマジの目や! 本気と書いてマジや! ウチがほんまの本命彼女や! だって半同棲までしてるのに」


「じゃあ本命営業だね」


「ちゃう!」


 自分がそのホストの本命だと盲目的に言い張る佐藤。

 本命の男がいるのに、他の男にこういう態度をとる奴の気持ちは、あたしには全然わからない。

 だからあたしは、


「じゃあ、なんでミノルにもベタベタすんだよ」


 と言ったのだが。

 この一言を聞いた瞬間、佐藤は、何かを理解したかのような顔をして、あたしをじっと見つめる。


「ほぉ〜ん。気になるんか?」


「ば、馬鹿なことを。ただ、筋が通ってないなと思っただけで」


「ウチはミノルちゃんのことも好きやで? そんなら筋通っとるやろー?」


 女子高生は、あたしにキスでもするのかと思うほどに顔を近づけ、意地悪そうに言った。


 どうやら、こいつはミノルのことが好きらしい。

 だから、どうだっての? 

 あたしが気を揉むことじゃないだろ。

 ……と、心の中でブツクサ唱えていると、佐藤は表情をガラッと変えて、屈託のない笑顔になった。


「……はははっ。可愛いなぁ。伊織はポリのくせに嘘がつけへんタイプやな! ウチはそんな奴、好きやけどな。正直者は悪人に騙されんで!」


 マジでなんだこいつ……とイライラしてしまう。

 とりあえず、こいつに絡まれるたびに「出ていけ!」と叫んでやる。

 ケイコは「ひどい!」とか叫んでいた。


 場を見渡すと、ミノルとケイコは、いい加減飲み過ぎな感じだ。


 ジジィもまあまあ飲んでいるが、このおっさんがどうなろうとあたしの知ったこっちゃないし。しかも、メンバーの様子を眺めながら一人晩酌するかのようにニヤニヤしつつ飲んでいる。本当に気持ち悪い。


 瑠夏は、酒に関しては鬼ツヨなので、一切の顔色変化を伴っていない。タチが悪いのは、どんどんミノルとあたしに飲ませてくるところだ。


 しかも瑠夏は、「伊織は飲ませれば簡単に夜這いを掛けれるよ」とかいうロクでもないアドバイスをミノルにする始末。マジでこいつ友達か? 

 それに対するミノルの答えは「知ってます」。


「おい。お前があたしの何を知ってるってんだ! ……そういや、酒に酔った次の朝、なんであたしはいつも下着姿なんだろ……」


「君が、『あたし抱き枕がないと眠れないの』って潤んだ目で僕のことを見つめるからだよ! 僕はいっつも抱き枕代わりにされてるんだ。『脱いだほうが気持ちいいからお前も脱げ』って言われて、僕まで脱がされてるんだからね。マジでとばっちり」


 ずっと誰にも話してこなかった秘密を大暴露される。場が「わぁぁぁ」と(ざわ)めいた。

 あたしは愕然とした。きっと、一瞬で酒が抜けて、顔色だって青ざめていたんじゃないだろうか。


「ど、ど、どどどどうしてお前がその事実を……っっ」


「おー、事実なんだぁ! 伊織、やっぱ可愛いとこあるよねー。ねえミノルくん、その時の伊織の様子をもっと詳しめに教えてよ! 友達の私にすら、それ教えてくれてないし」


「いいっすよ! そん時の伊織、めちゃくちゃ可愛いんですよ。甘えん坊になるというか。つい、抱きしめたくなるというか」


 トークの調子が上がってきたミノルの口は止まらない。つらつら滑るように出てくるあたしの恥部の羅列で、瑠夏と村上さんはどんどんテンションが上がっていく。

 この流れを止める力を、あたしは持っていなかった。あたしは滝のように汗を流し、ただただうつむいて、嵐が過ぎるのをひたすら待った。

 

 そうしていると、ようやく話題が散っていく。


 村上さんは、タマキともまあまあ仲がいいので、大体はタマキと喋っていた。

 というか、このおばちゃんはタマキにまで男を紹介しようとしている。

 タマキはタマキで、案外真剣に相談しているようで、なんだかあいつの可愛い一面を垣間(かいま)見てしまった。つーかお前の意中の人はおっさんだろ。早いこと告白しろ。次の飲み会で話題づくりの生贄にしてやるからな!


 ミノルとケイコと瑠夏は、しきりにあたしへ酒を勧めてきたので、「あたしは自粛してんだよ!」と言い張ることにした。

 するとミノルが、


「僕、酔っ払った伊織が色っぽくて好きだなぁ」 


「はぁ? 意味わかんない」


「ね? ちょっとだけ」


 ミノルの手には、冷やが入ったとっくり。

 あたしはそれをじっと眺めて考える。


 冷静になってみれば、もうこの状況で、誰もあたしのことをクールなキャラだとは思ってくれないだろう。

 最初が肝心だったのに。全部台無しだ。

 なので、


「……ちょっとだけだぞ?」





────…………





「ウチは、前の世界やったら魔王やったんやぞ? 泣く子も黙る魔王リオ・グレオリッチ様を知らんというんかぃ! いーちゃんなんぞ、ウチの結界の魔力だけで消し飛ぶわいな」


「おお? 何をおっきなことを言ってんだ! 僕がお前の魔力を全部吹っ飛ばしてやったから、お前は逃げてったんだろが!」


「何やと!? あ、あれはあれ、これはこれや! そんなら、もう一回ウチとガチンコ勝負せぇやこのクソっカスエルフ!」


「二人とも何を派手にハッタリかましてんらぁ? ケーコていろが魔王なら、あらしは大魔王にゃ!」


「お────っ! 大魔王いおり」


「ははぁ──っ」


 




────…………  


 

 



 ──はっ!


 ガバッと上体を起こして見回せば、そこはあたしの部屋。

 もうこのシチュエーション、デジャブだ。というかトラウマだ。

 あたしはベッドの上で、またもや下着の状態。そして昨夜のことはまた何も覚えていない。


 このパターン。どうせ隣には、またいつものエルフがいるんだろ! 

 どうやらあいつは、あたしの抱き枕要員として、あたしの隣でいつも寝させられていたらしいからな。

 

 誰も頼んでねぇよ、と毒づきながら、ふと隣に視線を落とす。

 スヤスヤ眠っていたのは、誰だかよくわからない金髪の超絶美少女だった。


 なんか、朝起きると知らない奴があたしの家のベッドで寝ていることに慣れてしまった感がある。そら恐ろしい。あたし、昨日はこの女を抱き枕にしたのだろうか?

 慌てて時計を確認し、ホッと胸を撫で下ろした。

 とりあえず、遅刻はしない時間帯だ。


「おい。誰だお前。何やってんだよ、起きろ」


 あたしは、涎を垂らして眠る少女をゆっさゆっさと揺さぶる。

 ちょっと異常事態に慣れすぎている。もはや、いつ誰に乱暴されたり殺されたりしても、全くおかしくはない。


 そして謎の美少女、起床。よく見ると、見覚えがある気が。

 記憶では、確か泡姫だ。

 ミノルが体の関係を持った女。それだけは、なぜか強く印象に残っている。


「この色街の遊女が。なんであたしんちにいんの?」


「ふぁ……おはよ、伊織。昨日は楽しかったわぁ」


 ぐーっと背伸びして限界まで引き伸ばしたにもかかわらずその存在感を全く失わない胸を見せつけられてなぜかイラつく。

 少女は、白い歯をイーっと剥き出すようにして微笑んでいた。なんかこうしてみると、ミノルと同じでこいつも子供っぽい。


「下の名前で呼び捨てすんな、いつの間に友達になった。昨日ってなんだよ、早く帰れ」


「え──っっ、昨日は友達になってくれるって言うとったやん! ひどい」


「全然覚えてねえわ。……あったま痛」


「じゃあ、もう一回言うんやけどさ。ウチ、この世界で友達少ないんよね。伊織、ウチと友達になってくれへん?」


「ミノルで十分じゃない? 何であたしが。ってか下の名前で──」


「お店の子たちとも喋るけどさ、伊織みたいなタイプも連れになって欲しいなあ、って」


「ダメ。あたしは遊んでる暇ないの」


「きつね色、キタ───────っっ」


 あたしが拒絶の意思を表明したところで、キッチンから歓喜の叫びが轟いた。

 ミノルの声だ。朝っぱらから一体何やってんの、奴は。


 ミノルは、いくつかの皿やらマグカップを浮遊魔術でぷかぷか浮かばせて、キッチンからテーブルへ運ぼうとしていた。

 テーブルの上に元々置いてあったコップや大量のビール缶も、浮遊魔術を使って床へ退()ける。いやだからどうして床に置くの!? 中身がこぼれちゃうだろが。魔術使えるならキッチンに移動させろよこの不精者が!


 物の配置を終えたミノルは、泡姫と二人でベッドに座っているあたしへ言う。


「伊織。こいつと仲良くしておくと、君の目的に近づくかもしれないよ」


 テーブル上に置かれているのは、ミノルが自分で作ったらしき朝食。

 焼いたトーストにマーガリンを塗って、その上に目玉焼き。あたしの教えそのままだ。ところどころ焦げてはいるが、努力のあとは見られる。確かに、一応きつね色と言えなくもない。

 朝食は三人分あった。

 

「……どうしてだよ」


「あ、逆にガッツリ遠のく可能性も、無きにしも(あら)ず」


「じゃあ、お断り──」


「決まり! ウチといーちゃん、今から()れな! そんで話変わるけどレヴィ──違った。ミノルは今日、どこ行くん? また競馬? そういや、もうすぐ天皇賞やもんな! 前哨戦か」 


「そんなわけないでしょ。今日は仕事だよ、仕事中にそんなことするわけないじゃん公務員が。僕は二度と伊織を悲しませないって誓ったんだから」


「目が笑ろてんで」


 くそ。あたしは一体、何をやってんだ!? 





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