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33 カイとミキ③



 カイとミキが目覚めた時にいた村は、大火事にでも見舞われたのか、すでに壊滅していて誰の姿も見当たらなかった。このままこの場所にいても仕方がないので、カイとミキは険しい山岳地帯を離れて下界へ降りることにした。


 互いに誰なのかよくわからなかったが、最初の出会いで言われた「お兄ちゃん」という言葉を思い出すと、カイは感情が揺さぶられた。

 カイは、ミキが自分を「お兄ちゃん」と呼ぶのを自然と受け入れていたし、カイもまたミキのことを妹だと思うことにした。


 麓の街に出る。

 欲望に歯止めは効かなかった。人間の首筋に牙を立てて、好きなだけ貪った。

 

 人間たちは、なぜかカイとミキのことを、夜だけしか活動できない種族だと思ってくれた。

 だが、別に昼でも苦痛など感じない。そのおかげで、狩りは楽に行えた。


 ムラムラと体をうずかせる欲望のまま蹂躙する人間の数は飛躍的に多くなる。

 一年も経たないうちに、一つの国を作れるほど配下の数は多くなった。

 この頃には、二人は、自分たちがヴァンパイアであることを認識していた。

 血を吸い続け、敵を倒し続ける修羅の日々。そんな中で、カイは、何より重要なことを明確に自覚した。

 

 それは、ミキの命を護ること。


 カイというヴァンパイアにとって、ミキの命は、どんな場合においても最優先されるのだ。

 ミキが敵に狙われたとき、尋常ではないほどの殺意が体を駆け巡る。

 そういう時は決まって逆上し、必要以上に八つ裂きにしてやった。


 カイは、地下に国を作ることにした。

 自然と、悪魔族や魔術師どもと協定を結ぶことになる。カイとミキが作った国は、人間や血の商売の拠点として使われるようになった。地下帝国は、「常闇(とこやみ)の国・ヴリコラカス」として栄えることになる。


 もはや全員のことなど覚えていられないほどに配下を増やし、敵国を滅ぼし続けた。

 その理由はただひとつ、ミキが死なないようにすること。

 自分たちの脅威を知らしめ、恐怖させる。それでもミキを狙う奴らは、一人残らず根絶やしにした。


 そんな中、不老不死の霊薬「エリクサー」の噂を聞きつける。

 

 アンデッドの一種であるとはいえ、ヴァンパイアは絶対無敵の存在ではない。

 核を壊されれば簡単に殺される。

 自分たちは核を遠くに隠すことができるが、それでも知識のある奴には殺される可能性があった。

 だから、エリクサーには強烈に惹かれた。これがあれば、ミキは永遠の命を得ることができるかもしれない……。


 エルフどもが護る聖なる大森林に、その薬はあるという。

 カイとミキは、国を配下に任せて、二人で大森林を目指した。


 森に入って何日かした頃、妙な霧に包まれる。

 魔力の濃い森だ。おそらく、地下に龍脈が走っているのだろう。


 その気配には、何か懐かしく思えるところがあった。

 自分たちがまだ土の下に眠っていた頃。その時に浸されていた魔力の感覚と似ている。 


 現在地を確認するため、木にでも登ろうかと思っていたところで異変に気づく。

 いつの間にか霧は晴れ、カイとミキの周囲は、幾つもの光で煌めく四角く高い建物ばかりになっていた。

 

 


◾️ ◾️ ◾️




 黒っぽい色をした道路で佇んでいると、偶然近くにあったマンションの大家に声をかけられた。話を聞く限り、家のない貧しい異世界人の兄妹だと思っているらしい。

 親切にも部屋を無料で貸してくれると言ってくれた。カイとミキは、大家の好意に甘えることにした。


 この感じは、どうやら異世界転移したようだ。あまりにも街の造りが違いすぎる。

 カイは、まずこの世界について勉強することにした。


 知らない世界でいきなり暴れることは、命取りになるのだ。

 どんな世界であっても、国や、国が持つ騎士団などの組織は存在するだろう。もしかすると勇者などもいるかもしれないし、魔王軍などと鉢合わせることもあるかもしれない。


 勇者はヴァンパイアを天敵のように狙ってくるし、魔王の勢力は、自らに従わない者を容赦無く殺す。

 何も知らないうちから、不用意に目立って正体を知られるのは命取りとなる。


 カイは慎重だった。

 絶対に、ミキを死なせられない。だからこそ、慎重に事を進めようとする。

 だが、ミキはそうではなかった。


 すれ違う男性を見ると、ワクワクした。

 好みの男の血が吸いたい。吸いたくて吸いたくて堪らない。

 だが、カイは控えろと言う。ミキからしたら、少しくらい大丈夫だと思うのだ。


 マンションに住み、昼はカーテンを閉めている。

 自分たちの意思に反して人間界に来てからは、ミキはずっと楽しいことなど無いと拗ねていた。


 人間どもなど怖いと思ったことはない。

 だが、カイは手を出すなという。

 だからミキは、仕方なく、人間との接触は最低限にしてきた。


 しばらく勉強すると、ここは、元は人間たちだけが住んでいた世界であるとすぐにわかった。

 魔術など迷信、科学こそが神の真理だと信じられている世界だったようだ。しかし、今の人間界には、カイとミキのように多くの異世界人が転移してきている。なんならアンデッドですら存在するのだ。これをきっかけに、科学教(・・・)は力を弱めたようだ。


 腐った臭いをそのまま撒き散らすアンデッドは、戦場や地下工事などでしか仕事はない。

 だが、ヴァンパイアはそこから進化した高等魔法生物であり、低級アンデッドどもとは一線を画しているため異臭など放たない。

 普通に社会に出て働いているのだ。まあ、夜の仕事が多いが。


 ミキは、金を得るため風俗で働こうかと思ったが、カイはやめろと口を尖らす。

 人間などに奉仕するな、ヴァンパイアの尊厳を持てと。


 まあそれは確かにそう思うが、口うるさくて敵わない。

 カイとはヴァンパイアになってからずっとこんな感じだが、それよりもっともっと前から、何やらそんな調子だった気がしていた。


 ミキは、元来は友達が欲しい性格で、人付き合いをしたいほうだ。

 寂しいのは嫌だ。一人でいると、怖い何かが突然襲ってくる悪夢にうなされる。

 無理やり体を引き千切られ、踏みつけられてバラバラにされる夢だ。

 だから、「変化の赤」を使って、血を吸って友達をいっぱい増やしたいなぁといつも思う。

 

 でも、そんなことをすると、この世界の秩序を守る警察たちに追われることになる。そいつらは、異世界人専門の制圧部隊「対魔術特殊部隊」とかいうらしい。

「絶対に死んではならない」とカイは言う。

 だから、カイの言うことは素直に受け入れた。


 大人しく人間界のルールに従う毎日を、甘んじて受け入れる。

 日が当たらない夜の仕事をし、朝日が昇る前には仕事を終える生活。


 日光を浴びたからと言って死ぬようなことはないが、始まりのヴァンパイアにとっての「昼間」とは、人間で言えば初夏の太陽の下にいるようなもの。

 深刻なダメージを受けるレベルのものではないが、できることなら避けるのが望ましい。毎日続けなければならない仕事ともなれば尚更だ。

 二四時間のファミレスで働くミキは、夜のシフトに入っていた。


 そこで働く人間たちに、ミキはいじめられた。

 凶悪犯罪を犯した者は対魔術特殊部隊が討伐にやってくる。それを盾にして、異世界人をいじめて愉悦に浸る人間もいる。


 ミキは、そんな人間の陰口や嫌がらせに耐えてきた。

 血を吸いたきゃ豚の血でも吸え、と罵倒され続けた。


 朝日が昇る前の道路をうつむいて歩き、独りトボトボ家に帰る毎日。

 そんなある日、ミキは一人の男性と出会う。


 ドリンクバーの補充をしていると、隣でコーヒーを入れる男性客が目に入った。

 短めの髪で、背が高く筋肉質な、美形の男性。


 抑え難いほどの吸欲が湧き上がり、「この男の血を吸え」とミキに命令した。

 しかし我慢しなければならない。こんなところで人間を襲えば、対魔術特殊部隊が来るのは確実だ。

 

 その男性は、ミキの視線に気づいて微笑む。

 視線をそらせなかった。火照った体と伸びた八重歯を必死で隠す。

 また来てくれたらいいな、と期待した。


 嬉しいことに、それから彼は頻繁に来てくれるようになった。

 ミキは、飛び上がりそうなほどに体が軽くなる。

 日中に外へ出かけたい気分だ。人間界でこんな素晴らしい日が来るとは思ってもみなかった。

 

 彼が来るたび、ミキは彼に視線を向ける。

 彼もまた、ミキのことを目で追い、視線が合えば手まで振ってくれた。


 浮き上がりそうなミキの恋心とは裏腹に、その様子に気づいたファミレスの同僚たちは、今まで以上にあからさまな嫌がらせをした。


 挨拶を無視されたり、こちらを見てこそこそ話をされるのはいつものこと。

 それに加えて、店長までが無理やりミキを日中のシフトに入れてくるし、休憩室を離れれば蓋を閉めていたはずのペットボトルに虫を入れられていたし、注文の品を運んでいる最中に足を引っ掛けられて倒された。

 いっそ殺してやろうかと思ったが、それでもミキはカイの言いつけを思い出し、黙って耐えた。

 

 嫌がらせを受けるミキの様子は、彼の目にも入る。

 きっと、かわいそうに思っていたのだろう。注文の品を持ってきたミキに、彼は初めて話しかけた。

 それから、二人は仲良くなった。


 ある日、ミキは、市村シンヤと名乗ったその彼と、飲みにいくことになった。

 入ったのは安い居酒屋だったが、ミキにとって、シンヤと飲むお酒は格段に美味しかった。

 

 ずっと抑えていた欲望が暴れ出し、理性が揺らぐ。

 堪らなく血が吸いたい。

 大好きなシンヤの血が吸いたい。


 店を出た時には、二人は手を繋いでいた。




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