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第27話 窮地のハンゾウ、炎隠れに活路を求めし件

(他には……いないな)


 心気の波紋で探ってみたが、探知できる範囲に敵兵はいなかった。


(よし。兵舎の一部を焼かれただけで済んだ。これなら戦に影響はない)


 一旦は城の守りに貢献できた。ロクロウはそう判断した。


(足を失って初めて仙道が身につくとは。おれは本当に出来損ないだ)


 今も術の威力が上がったとはいえ、体力は落ちたままである。足をしっかり治療し、不自由な左足という弱点を抱えながら番衆としてどこまで働けるか。

 これからはそれを突き詰めていかねばならない。


(しかし、今日のところは城の守りだ。兵舎、兵糧蔵、武器庫が狙われた。残る狙いは本陣、マシュー様の命だ!)


 もちろんマシューの周りにはドンを始めとする護衛がついている。陽動作戦を潰した以上、滅多なことは起こるまい。


(それでも、敵の背後を抑えれば確実に仕留められるはずだ。行くぞ、本陣に!)


 ロクロウは呼吸を整えると心気を練った。再び繰り出す飯綱走りの術。

 人気のある城内で使うような術ではないのだが、非常事態である。ロクロウは真夜中の路地を風となって滑走した。


 ◆◆◆


「糞っ! 猿が消えた!」

「ハンゾウ、どうしたら良い?」


 敵の姿を見失った。夜の闇の中で、これほど不安なことはない。

 数々の修羅場をくぐって来た武将であるサイバッタが、思わずハンゾウを問い詰めたくなる。


「一箇所にとどまっては危ない。この場を離れましょう!」


(水遁、氷壁!)


 サイバッタに返事をしながら、ハンゾウはヨウキとの間に障害を設けるべく氷壁を築き上げた。

 ヨウキ自身が空から地表に落とした水分が、有り余るほどに地表に残っている。水遁を使うには持ってこいの状況であった。


「殿、走りますぞ!」


 サイバッタにそう声をかけ、ハンゾウは先に立って走り出した。近くの仮(うまや)に走り、サイバッタを馬に乗せるのだ。


 ハンゾウ単独であれば、高跳びの術など遁術を駆使して距離を稼げる。しかし、サイバッタがいる。

 サイバッタを担いで走ることも不可能ではないが、それは最後の手段だ。


 馬に乗せた方が早く動けるし、途中襲われた時に対処がしやすかった。馬を叩いて、サイバッタを先に逃がしながら戦うこともできる。


 陣幕の角を曲がれば厩が見える。ハンゾウは走る速度を落として、慎重に角の向こうを覗き見た。


(待ち伏せされてはいないか)


 厩までの道は無人であった。心気を澄ませてみても、人の気は感じられない。


(急ごう)


 ハンゾウはサイバッタを促して、足早に厩へと向かった。

 手早くサイバッタの愛馬に鞍を乗せ、主を馬に乗せる。


「殿、これよりは馬に任せて駆けに駆け、敵から距離を取ります。一旦、後詰めの軍と合流してから態勢をを立て直しましょう」

「うむ、わかった。案内致せ」

「では!」


土生金(どしょうこん)! 金遁、飯綱走り!)


 ハンゾウは雷気に乗って滑走しようとした。すると、行く手の地面から稲妻が斜めに走った。


 バリバリっ!


 「むっ!」


 地を伝い、襲って来ようとした雷気を、ハンゾウは咄嗟に空に散らした。


 バンッ!


 扇の骨のように地面から放射状に放電光(スパーク)が広がった。一瞬あたりが明るく照らし出される。

 オレンジ色の光を受けて、前方に真っ赤な顔が浮かび上がった。


「猿……!」


 反射的にハンゾウは遠当ての術を放った。身にまとう心気を真っ直ぐに飛ばす。ある意味最も自然で、直感的な技であった。

 目に見えぬ心気の塊はヨウキの胴体を捉え、上下に引き裂いた。


「何っ? そんなはずは……」


 咄嗟に放った遠当てである。体当たり程度の効果はあるが、人間の体を引き裂けるわけがない。


 どさっ!


 大きな物音がハンゾウの背後で(・・・・・・・・)起こった。


「……殿っ!」


 サイバッタを乗せた馬の首が斬り飛ばされ、地面に落ちた音であった。即死した馬の四肢が力を失い、サイバッタを乗せたまま地面に倒れた。


「ぐふぅっ!」


 左肩から地面に叩きつけられたサイバッタは、その衝撃に息を吐き出した。馬体の重みが下敷きになった左脚にかかる。

 ハンゾウはすぐさま主の下に駆け寄ったが、助けの手を差し伸べることができない。


 闇に潜むヨウキに対する警戒を優先しなければならなかった。


(猿は……どこだ?)


 焦る心を抑えて、ハンゾウは周囲に心気の波紋を広げた。術を放てば心気がうねる。

 ハンゾウは闇の中で脈打つ心気を見出した。


(そこか! 風陣の術!)


 ハンゾウは風を呼び、自分たちを囲む竜巻を作り出した。風に守られながら、サイバッタを馬の下から救い出す。


 ばふっ! ばふっ!


 続けざまに火球が飛来して竜巻に巻き込まれた。火球の炎は竜巻に引き込まれ、帯のように巻きつく。


(我らを蒸し焼きにするつもりか。……よし、骨は折れておらぬ)


 ハンゾウは素早く主の体を調べた。打ち身はあるものの、骨が折れたところはない。


「殿、立てますか?」

「くっ。大丈夫だ!」


 サイバッタは痛みをこらえて立ち上がった。次々に飛来する火球が竜巻をますます赤く燃え上がらせていた。


「馬をなくしました。わしが殿を担いでこの場を逃れます」

「わしを担いで走れるのか?」

「心配ご無用。軽身(かるみ)の術を用います。揺れますがご辛抱を」


 そう言うと、ハンゾウはサイバッタを背負い、ずり落ちないように縄で背中に固定した。


「目を閉じて! 木生火(もくしょうか)! 火遁、炎隠れ!」


 一気に心気を膨れ上がらせて、自分を中心に風を爆発させながら火遁の術を放った。敵が放った火遁に加えて、自らの術で火気を呼び、爆風と共に破裂させたのだ。風が内側に壁を作り、爆風はすべて外側に飛んで行く。


 辺りは真っ白な光に包まれた。

 目を開いているものがあれば、強烈な明るさに一時的に視力を奪われたであろう。


 ハンゾウは自らに土遁の術をかけ、炎の爆発に紛れて宙に飛び出した。

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