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第20話 サイゾウ陣幕外を大いに騒がせる件

 サイゾウは懐から取り出した鉄丸に土行の気を籠めると、炎を噴き上げる穴の一つに放り込んだ。

 鉄丸から解き放たれた気は急激に膨れ上がって引力を操り、穴の底から土砂を吹き飛ばした。


 逃げ場のない爆発は、燃え上がる枯れ枝をも上空に噴き上げる。飛礫(ひれき)と炎が側に立つ敵忍びを襲った。


「うわぁああーっ!」


 炎はたちまち衣服に燃え移り、敵の体に広がった。


(それっ! 木生火(もくしょうか)! 木遁、風蛍(かぜほたる)!)


 サイゾウの起こした風が炎を煽り、敵の体がたいまつのように燃え上がる。


「が、がはっ……」


 火傷で死ぬよりも先に、酸素を奪われて敵は倒れた。


 「うぬっ! 逃さぬぞ!」


 横に走り出したサイゾウを目掛けて、手裏剣が飛んでくる。黒く塗られた手裏剣は炎の光も映さず、闇を裂いて飛来する。だが――。

 

 (()()()()()()など利くものか。土生金(どしょうこん)! 飯綱(いづな)落とし!)


 サイゾウが体にまとう陰気が金行の気に変化した。生じた電磁波で手裏剣の軌道をあらぬ方向にそらせる。


(お返しだ!)


 サイゾウが撃ち返す鉄丸が雷気を帯びて加速した。目では追えぬ速度に達し、電光を発しながら敵の体を撃ち抜く。


「ふぐっ!」

「がっ!」


 敵二人を撃ち抜いた鉄丸は、真っ赤な炎を上げながら闇の中に飛び去った。


「ひるむな! 敵は一人(・・)だ! 火炎で囲むぞ!」


 小頭らしき男が忍びの群れをまとめて、術を仕掛ける。


「行くぞ。木生火(もくしょうか)! 火遁、火炎獄!」


 男の号令に合わせて、部下の忍びたちが火遁の術を放った。術の摂理はサイゾウが使った「風蛍」と同じ。水を分解した燃気(水素)清気(酸素)が、落とし穴から燃え上がる炎を更に高く燃え上がらせた。


 小頭が起こす風に乗り、炎は火炎流となってサイゾウを襲おうとする。


(くっ! 水剋火(すいこくか)! 瀑布(ばくふ)の術!)


 サイゾウは水を呼び防火の壁を作ろうとした。


(だめだ! 足りない!)


 巨大な火炎が燃え続けた地表では、大気の水分が失われていた。水遁の術を使おうにも、水行の力が弱まり切っている。


「ははは。焼け死ね、猿め!」


(水が使えぬなら……。木剋土(もくこくど)! 木遁、山おろし!」


 サイゾウはありったけの鉄丸を上空に投げ上げ、ダウンバーストを発生させた。急激な下降気流が地表を叩きつける。

 同時に、高跳びの術で炎の壁を跳び越え、内陣に突入した。


「いかん! 炎を避けよ! 跳べっ!」


 小頭は危険を悟って、必死に叫んだ。上空の新鮮な空気は炎に酸素を供給しながら、爆発的な火炎を地表に広げた。

 小頭は心気の鎧を厚く固めながら、上空高く跳び上がった。


「うわぁーっ!」

 

 逃げ遅れた数人が、炎に飲み込まれて燃え上がる。


「猿は陣屋に入ったぞ! 我に続け!」


 小頭は広がる炎の内側に着地すると同時に、陣幕の内側に走り込んだ。燃え盛る炎は、陣幕の内側まで明々と照らしていた。


 ◆◆◆


「ぐわっ!」


 背中から気の塊を食らって、足軽が吹き飛んだ。


 陣幕の内に入り込んだヨウキは遠当てを連発して、敵を倒しながら進んでいた。間合いが近い乱戦では遠当ての術が使いやすい。発動が速く、打撃効果も確かだった。


 更に進めば敵も増え、乱戦になって来る。突然襲い掛かる敵に対しては、手足を使った肉弾戦となる。

 突きや蹴りに気功を乗せて、敵を一瞬で跳ね飛ばす。


 多勢に無勢の状況で、しがみつかれたら突進が止まってしまう。足を止めれば狙い撃ちに遭い、槍衾(やりぶすま)を突き立てられるに決まっていた。

 それを避けるために、走り回り、跳び回る。


「糞っ! 猿だ! そっちに跳んだぞ!」

「おのれ、ちょこまかと目まぐるしい! 止まれ! えぇい、止まれ!」


 いらだち、騒ぐヨーダ兵の混乱に乗じ、ヨウキは敵の頭を跳び越え背後に飛び降りながら気を飛ばした。相手は背中を撃たれて、地面に倒れた。

 振り返りつつ慌てて槍を突き出して来る相手に対して、ヨウキは余裕を持って身をかわす。踏み込んでしまえば槍の間合いではない。引き戻そうとする柄の中間を掴み、驚く相手に雷気を流し込んだ。


 ばあんと空気が割れる音を立て、敵は焦げ臭い匂いを発しながら吹き飛んだ。


 両手のやけど以外、大したケガではあるまいが、感電のショックで意識が飛び、体は麻痺していた。


 目の前の敵を倒すたびに、倒れた敵が障害物となってヨウキを守ってくれる。

 迫って来る敵兵に奪い取った槍を投げつけながら、ヨウキは更に陣屋の中心方向に走った。


 陣幕は二重に張り巡らされていた。その内側の陣幕にあと一歩と迫った時、幕の向こうに心気が膨れ上がった。ヨウキは咄嗟に腰を落とし、両手を挙げて心気の盾を構えた。


 ぼっ! ぼっ!


 陣幕を突き抜けて2本の手裏剣が飛来する。手裏剣は宙を裂きながら炎をまとい、ヨウキの胸に迫った。

 術を練るには時間が足りない。いかんせん陣幕からの距離が近すぎた。


 ヨウキは心中に「水」を念じながら、心気の盾で火炎手裏剣を受け流す。


(ええい、水剋火(すいこくか)!)


 小舟を飲み込む大波のように、水行の気を宿した心気がうねり、手裏剣はヨウキの前から流されて行った。

 体勢を立て直したヨウキは見えない盾を押し出すようにして、練り上げてある水行の気を氷に変えて撃ち出した。


 手裏剣のお返しとばかりに、氷の剣が二本陣幕に開いた穴目掛けて飛ぶ。

 どす、どすと低い音を立てて幕の向こう側で氷が体に突き刺さる音がした。


「ぐぅうっ! う、うう……」


 どさりと人が倒れた気配があった。


(うん? 術の利きが悪い)


 ヨウキが狙ったほどには氷が成長しなかった。水遁の術に微妙な違和感がある。


(大気の水が薄くなっている?)


 ヨウキは目の前の陣幕を引き裂いて、内側の空間に踏み込んだ。

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