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7.指令総監──コマンドー

さて、ようやく主人公の登場で~す!

長かった……。前置きが、本当に長かった。


だけど、あれ? 主人公の登場、なんだよねぇ?


 彼女の名はヴィヴィアン・ジュリアロス・ベルコ。この世界で唯一無二のEX(エクストラ)・エルフだ。


 ちょっと変わった女エルフだが、ある日、大好きな人が口にした「ありえない」「その気は無い」「勘弁してくれ」を聞いてしまい、その傷心を癒やすために「ふて寝」を実行する。

 それは、ほんのチョットだけ長めにもぎとった有給休暇──、のつもりだったのだが……。

 目覚めてみたら、なんだかあれこれと様子がおかしい。ここはどこ? 精霊は? みんなは?


 ふざけているのか真面目なのか分からないAI(人工知能)や、自分勝手な三精霊、可愛らしい妖精たちに出会いながら、3579年の時を経た新しい世界で、ヴィヴィアンは力強く生きることを決意していた。




 今日も今日とて、そんなヴィヴィアンはポテポテと、穏やかな景色を見せるジュリアロスの森を散策する。

 季節は巡り、夏の気配がしだいに濃厚になっている。


 いつもならその芳しい風に、長い灰黒色の髪をなびかせ、黒い瞳を愉しげにほころばせているのだが……。


『な、な、な、何奴(なにやつ)じゃあああ! どこから入り込んできたああああっ!』


 唐突に叫びだしたのは、岩の精霊にしてこのジュリアロスの森の長老〈がん〉である。

 思わず「えっ」と声を出して立ち止まると、目の前で(いか)れる〈がん〉の隣に、水の精霊〈すい〉と木の精霊〈もく〉が続けて現れる。それぞれ居丈高な態度で、ヴィヴィアンの前に立ちはだかった。


『おい、コラっ。誰だ、てめぇ。ここをどこだと思ってやがるっ。三千年の眠りから目覚められた女神ジュリアロス様が治められる、ジュリアロスの森だぞ!』


 相も変わらず口の悪い〈もく〉は、木の精霊とは思えないガラの悪さである。せっかくキレイなお姉ちゃんなのに、人を見下す視線はまるでゴロツキだ。


『痛い目を見たくなかったら、今すぐこの森から立ち去りなさい。それとも、全身バラバラになって、この森の栄養分になりたいのかしら?』


 笑顔がコワイ美女〈すい〉の、その目は笑っていない。この水の精霊は、いとも簡単に人の首を切り落とそうとする。残虐さではある意味、隣の二精霊以上である。


 相変わらずの三精霊に、やれやれと軽いため息をつき、おもむろに口を開こうとしたそのとき「何事でやんす」と、新たな人物が現れる。


 漆黒のロングコートをまとう長身の男は、目深にフードを被って顔は見えない。

 だが三精霊は「はっ」として居住(いず)まいを正すと、その男に対してうやうやしく頭を下げる。

 さっきまでの横柄な態度とは、打って変わった神妙な行儀の良さである。


「これはこれは、ドクロ公爵様。実はこの通り、かなり怪しいヤツを見つけまして、追い出そうとしていたところにございます」

「そりゃあ、何というか。仕事熱心なことでござんすが……。怪しいヤツですかい?」

「左様にございまする。一体全体、どこから入り込んできおったのか、気がついたらこんな所におりまして、すぐに追い出しますので……」


 ずいぶんと流暢なエルフ語をしゃべるようになったなぁと、ちょっと感慨深げに〈がん〉を眺めていると、少し困ったようなドクロ公爵ことエンドスカルの視線を感じる。

 ヴィヴィアンの意図を図りかねたのか、どうしたらよいのかと、少し戸惑った様子でこちらをうかがっている。

 それもそうだろうなと思い、ヴィヴィアンは軽やかに声を掛ける。


「やぁ、精霊諸君。()()姿()では初めてだったな。わたしのことは〈コマンドー〉と呼んでくれ。略して〈コマー〉でもいいぞ。そこのエンドスカルとは友達だし、もちろんジュリアロスもよく知っている。ここには時々、顔を出すから覚えておいてくれ」


 三精霊はキョトンとした顔になり、それは本当かと確かめるようにドクロ公爵に視線で問うている。


「へ、へぇ。そうで、やんしたね。〈コマンドー〉さん、でやんす。お嬢──、いやジュリアロス様とも、懇意の間柄でやんす──。(……ってことで、いいんでやんすか?)」


 後半、小声になってインカムで確認を取ってくるので、ヴィヴィアンは鷹揚にうなずく。


 そう。コマンドーこと、ここに立つヴィヴィアン・ジュリアロス・ベルコは、なぜか精霊たちから女神ジュリアロスと呼ばれ、いつの間にかこのジュリアロスの森を治めていることになっている。


 実際は、この三精霊が森の管理を行い、うまく回してくれていて、ヴィヴィアンはその上に乗っかっただけの、お飾り女神なのだが……。しかしてその実体は、EX(エクストラ)・エルフと種族名ばかり立派な、3579年をコールドスリープで寝過ごした、ふて寝エルフである。


 そんなヴィヴィアンの目下の最大目標は、エネルギー問題の解決だった。

 というのも、もう一人の相棒である宇宙船エリュシオンが、かつて宇宙空港だったこの地の地下格納庫でヴィヴィアンと共に眠り続け、長い時を過ごすうちに、すっかりエネルギーを枯渇させてしまったのだ。

 今はあの手この手でなんとかごまかしているが、早急に手を打たないと、今となっては幻の超高度魔導文明と永遠にサヨナラである。


 そのためエネルギーとなる物、魔力結晶や魔力溜りを見つけたかった。

 けれどそれらは、付近に見当たらない。この森の外まで探しに行かなければいけないのだが……。


 そこでひとつ、大きな問題が浮上したのである。


 それはかつてエルフが築いた高度文明の中で、知らぬうちに身に染みついた衛生観念だった。

 野生児だの普通じゃないだのと、かつていろいろ言われたものだ。しかしここに来て、自分が意外と潔癖症であることに、ヴィヴィアンは気づいてしまったのだ。


 エルフ社会の中では野生児でも、本当の大自然の中ではまるで脆弱(ぜいじゃく)なモヤシっ子だった。


 何がコワイって、まず虫がコワイ! ここジュリアロスの森にも虫はいるが、エルフには害のない虫がほとんどである。


 だが一歩、結界の外へ出れば、未知の昆虫が凶暴性を増して襲いかかってくる。

 無防備なまま外に飛び出し、知らぬ間に十数箇所の刺し傷を受けたヴィヴィアンは、恐れをなしてジュリアロスの森へと逃げ帰った。


 さらにその昆虫を媒介にした、細菌やウイルスの感染はないかと、内心では戦々恐々だった。幸いその心配はなさそうだったが、赤く腫れ上がった皮膚の痛みとかゆみに、一週間以上も苦悩したのである。


 魔法で防御壁を張れば、蚊やアブやヒルの類いは防げるかもしれない。だがそれも、何かの拍子に破れたら、その隙を突いて襲われるかもしれない。

 それに呼吸をする以上、目に見えない異物の侵入や、ウイルスの空気感染までは防げない。


 魔獣なら丸コゲにすればおしまいだが、最強の敵はそういった未知の微小生物なのだ。

 この森の外には、一体どんな毒虫、細菌やウイルス、バクテリアが存在するのか──。


 きれいな空気と水の純粋培養で育ったヴィヴィアンである。神経質だと笑い飛ばすには、きわめて未知な部分が多い世界だった。


 そこで思いついたのは、惑星探索に使う宇宙服である。


 スッポリと全身を包み込み、気密性は完璧。着ぶくれして動きにくくなり、視界も遮られるのが少々難点だが、病原体との遭遇確率はほぼゼロである。

 背負ったエアタンクの容量で活動時間が制限されても、虫を無視して衛生観念に縛られずに済むのはありがたい。


 試しに装着してみると、白いボディスーツは思ったより可動範囲が広く、魔力で触感を補えば指先の細かい作業も行うことができる。

 フルフェイスの前面は有害線カットの硬化樹脂で、もちろん電波の範囲内ではエリュシオンとの通信も可能である。


 衝撃や裂傷に強く大抵の攻撃は跳ね返し、さらには光学迷彩が付いているので、この世界では見慣れない宇宙服姿も見つかりにくい。光学迷彩を使ったときの気分は、まさに透明人間だ。

 気配を遮断すれば、精霊だってごまかせるのは、すでに実証済みだった。


 そうして様々な状況を想定し、ようやく今朝、あらためて意気揚々と森の外へと出たのであった。




田舎の虫って、なんかデカイよね。

豊かな自然いっぱいの世界には、あこがれるんだけど……。


次回『8.未知との遭遇(2)』

ツルッとして、ストンとして、半分透けてる、アレ。

あれ? どこかで見たような……?

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