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46.先行補助追尾型機動二輪(ワンストリーム)

地上の騒動はさておき。

その地下深くにある廃墟、かつてのシャンデール宇宙空港では、

ヴィヴィアンがお目当てのモノを見つけて、ご満悦な様子ですが……。


 ジュリアロスの森の地下深く──。

 かつてシャンデール宇宙空港だった施設のひとつ。第205番備品格納庫の奥まった空間にて、照明球に照らされ何やらぶつぶつとつぶやく人物がいた。


 精霊たちがあがめる女神ジュリアロスこと、ふて寝エルフのヴィヴィアンである。


 シートにまたがって複雑な機器の部品を開いてのぞき込み、その心臓部に通信を繋げて人工角膜の拡張現実をモニター代わりに、次々と機器の状態の診断を行っていく。


「お嬢。そろそろ休憩になさってはいかがでやんす」


 そのいかつい肩に、スパイアイ一機を載せた虹色に光るドクロ男──。エンドスカルが、温かいお茶の入ったマグカップを、ヴィヴィアンに差し出してくる。


「……ん? ああ、そうだな」


 立ち上る湯気の香りに、ヴィヴィアンの意識も現実へと引き戻される。

 ひと目コレを見た瞬間から期待が爆発して、つい、少しだけ、もう少しだけ……と状態を確認しているうちに、いつの間にか夢中になって取り付いていたようだ。


 そのことに気づいて、ヴィヴィアンは苦笑する。シートから降りるとエンドスカルからカップを受け取り、満足そうにその香りを楽しむ。


 思った以上に素晴らしい機体だった。

 汎用型のシンプルなデザインだったが、性能も充実しているし、馬力もそこそこある。

 しかも何十機もあるうちのこの一機は、無茶な使い方をしなければ、すぐにも動かせそうな保存状態の良さだった。


 誰かのお気に入りだったのだろうか。これは特別な一機なのだろう。隠ぺいの魔法がうっすらと掛かっていて、(ほころ)びがなければウッカリ見落とすところだった。

 精霊の保存魔法がかけられ、もうずっと長い間、ここで眠りについていたようだ。


 同じく、3579年の長い眠りから目覚めて以来、ヴィヴィアンの移動手段は徒歩のみであった。

 いくら身体能力が優れようとも、徒歩で世界を移動するには限界がある。

 優れた交通手段がいくつもある魔導文明の世界を生きたヴィヴィアンにとって、徒歩の移動はあまりにもまどろっこ過ぎた。


 エリュシオンにも四人乗りの小型宇宙船や水陸両用バギーは積載されているが、保存状態と原動力の問題ですぐには動かせない。

 よってより少ない原動力で動く、お手軽な乗り物が欲しかったのだが、これは丁度良い感じだった。


『先行補助追尾型機動二輪、ワンストリーム』


 馬のように跨がる乗り物だが、四本の足はない。代わって前後に幅広のタイヤがつき、これでかなりのスピードで力強く大地を走り抜けることができる。

 しかもこれは舗装された路面だけでなく、森の中を滑空できるところがウリだった。

 タイヤが収納されると、浮上航行が可能になる。

 それなりの魔力を持っていかれるが、原動力は乗り手の魔力でまかなえ、これ以上お得な乗り物もない。


 あまり高度はとれないが、3mくらいは軽く浮くことができる。先行補助器の情報によって視界が効かない闇夜や濃霧であっても問題なく走れる。障害物を自動で避けて道なき森の中はもちろん、水の上だって着水することなく飛んでいくことができる。

 爽快なスピードであちこちを駆け回れることを思うと、ニマニマが止まらない。


 エリュシオンの原動力確保の探索にとっても、これは大きな弾みになるというものである。


「初っ端からそう根を詰めても、その機動二輪は逃げやいたしやせん」

「そりゃあ、そうだけどね。んー。ホントに嬉しいんだよ。ここに来れてよかった。

 あとはどうやって、コイツを持ち帰るかだな」


 ニッコリと満面の笑みでマグカップを受け取ったヴィヴィアンだが、その香りだけで「クウゥゥー」と盛大に腹の虫のなく音がその場に響き渡る。


「お嬢。ついでに食事にいたしやしょう」

「ははは、はぁ……。そーいや、食事ってまだだっけ? あぁー。なんかゴメン。ついコイツに夢中になって、忘れてた」


 エンドスカルに申し訳なく思いながら、受け取ったマグカップのお茶を一口すすり、床に広げられた敷物の上に腰を下ろす。

 それから荷物をたぐり寄せて、ごそごそと中身をあさる。


「じゃん! 毎度おなじみのカロリーバー、イチゴ味っ! こちらはハチミツ・ナッツ、そして大豆フレーク・キャラメル!」


 保存がきいて栄養価も高いこれらの携帯食は、なんとレッド・ジョーカー先生のお手製である。

 お弁当代わりに持たされたのだが、どれもヴィヴィアン好みの味付けで、パクリと口にした途端、疲れも吹っ飛ぶほどに、際どい甘さを極めている。


 何かアヤシイ薬を混ぜている可能性もあるが、ヴィヴィアンを害することはないはずなので、そこは考えずにありがたく頂くことにする。

 エンドスカルに用意されたのは、同じくカロリーバーだが、こちらは甘さ控え目、大人な味付けにされている。


「ああ。このイチゴの甘酸っぱさがたまらない~。まさにチンチャードワーフ様々だよ」

「チンチャードワーフのマジメな勤労ぶりには頭が下がりやすが、これを用意したレッド・ジョーカーの仕事ぶりもなかなかでやんす」

「うーん。そうなんだよねぇ」


 イチゴバーにかじりつきながら、ヴィヴィアンは赤い蓬髪(ほうはつ)のぬしを思い出す。

 何を考えているのか分からない自称主治医は、偏執狂のセクハラ魔神であり、ニイッと口元だけで笑いながら、常に何かたくらんでいそうな雰囲気をにじませている。


 とりあえず様子見で放置しているが、自分からダグ少年の食事の世話をし始め、それとは別にヴィヴィアンの食事の用意まで始めたのだ。

 エルフはあまり食にこだわらないと思っていたが、長い歴史の中ではこだわりを見せる時代もあったようで、レッド・ジョーカーが作るモノは、見た目もなかなか手が込んでいて、しかもかなり美味しい。


 ヴィヴィアンの作る素朴なスープも悪くはないと思うのだが……。何をどう計算しているのか、くやしいがレッド・ジョーカーの作るモノの方が、一枚も二枚も上手(うわて)だった。

 手際も良く、台所を散らかしたままということもない。後片付けまでしっかりやってくれるのだから、文句の付けようがなかった。

 さらにこちらの食事の好みまで把握されては、もう完敗だった。

 エンドスカルの言う通り、今やいい仕事をしてくれるウチのおさんどんである。


 いや、医者なんだけどね?


 あとはやたらペタペタと、ヴィヴィアンにお触りしようとしなければ、いいのだが……。

 そう思いながら苦い顔をしていると、気付いたエンドスカルが口を開く。


「レッド・ジョーカーはエリュシオンから独立した別機関でやんす。目に余るようなら、切り棄て御免にいたしやしょう。実のところ、お嬢に医者は不要でやんしょう」


 エンドスカルの冷淡な物言いからは、ヒヤリとしたものを感じる。

 ヴィヴィアンだって「コイツは不要だ」と一度は思った。

 だけど、せっかく苦労して甦らせたのだ。少しは何かの役に立てば良いと思い、すぐに主電源を落とすことはしなかった。


「レッド・ジョーカーかぁ……」


 ここにいるAIたちは、思考して言葉を話し、自我をもち個性もある。そして命令を実行するだけの人形ではなく、自ら考えて行動している。

 けれどその根底には、ヴィヴィアン(エルフ)のために、という理念がある。


 別にうぬぼれでも何でもなく、そうエルフによってプログラムされているのだ。

 エルフにつくすこと。エルフのために行動すること。それがAIの行動理念の根幹に深く埋めこまれている。


 ただときどき、それがエルフの思いよりも先走り、不具合を起こすことがある。

 独りよがりな、よかれと思ったAIの行動が、裏目に出てしまうのだ。

 簡易診断では異常がなかったレッド・ジョーカーだが、やはり人格が壊れているのかもしれないし、そういう性格なのかも分からない。


 だが思考や行動がズレたままでは不安しかない。ヴィヴィアンの望むことを理解させ、勝手な行動は制限しなければいけない。

 通じるかどうかは分からないが、ようは話し合いが必要、ということだ。


 しかしこれは自己完結型のエルフの発想ではなかった。

 たいていは命じて従わせることに重点を置き、対話するようなことはしない。自由勝手にしゃべり動くレッド・ジョーカーのようなAIなど、処分しかないのだ。


 そういう意味では、ああいったAIを許容していた宇宙船エリュシオンの代々の持ち主らは、そうとう変わったエルフと言える。

 先代の持ち(マスター)、ドグミッチ・メイケリル・カルバハルしかり、そしてヴィヴィアン・ジュリアロス・ベルコしかり……。


「たぶん、わたしは欲張りなんだ。わたしに医者はいらないけど、美味しいゴハンを作ってくれる、おさんどんは手放したくない。

 ああ、ホント一筋縄ではいかないな。レッド・ジョーカーのヤツ……」

「そいつは、ガッツリと胃袋を掴まれた、ということでやんすね」


「わたしだけじゃないぞ、ダグだってそーだろ? エンドスカル、お前もじゃないのか?

 ああ、もう。おいしいよねぇ! たかがカロリーバーのくせに!」


 お行儀悪く口いっぱいに頬張って、モグモグと咀嚼する。そうして口からこぼれそうになる甘味の幸福世界を、ゆっくりと堪能するヴィヴィアンだった。




 その肩をトントンと軽く叩く者がいる。

「んっ、だれだ?」といぶかしく思いながら振り返る。


 もちろん背後には誰もいない……はずだった。エンドスカルは前にいる。

 うしろはヴィヴィアンの影が長く伸びて、格納庫の暗がりへと繋がっているはずだった。


 だが、振り返ったヴィヴィアンは、そこでパチパチと目をしばたかせる。

 思いもしないものを目にして、思考が追いつかなかった。


 一本の極太ケーブル(?)が肩を叩いたのだ。

 ヘビのように鎌首をもたげているが、ヘビではない。

 おとなの握りこぶしほどもある先端には、目も口もなくツルリと丸まっていて、ついでに言えば敵意も感じられない。


 そんな極太ケーブル(?)の先端が、いつの間にかスルスルと背後から這い寄り、まるでよく知った友達のように気安く肩を叩いてきたのだ。

 だがあいにくとヴィヴィアンは、ケーブルの(たぐ)いに知り合いはいない。

 というか、コイツが何なのか、ヴィヴィアンには想像も付かなかった。


 暗がりのどこから伸びてきているのか判らないが、首をもたげて肩を叩いてきた極太ケーブル(?)──。

 感電したかのように怖気をふるい、ヴィヴィアンは「ひやぁぁぁっ!」と叫ぶと、一足飛びにエンドスカルの背後へと移動する。


「で、で、で、出ぇたあぁぁ~~~! エンドスカルぅぅ~! お化けえぇぇぇ~~~!」


 いまさらながら恐怖に打ち震え、身もフタもなくエンドスカルの背に隠れて雄叫びを上げる。

 エンドスカルはそんなヴィヴィアンに「ぎょっ」とした様子だ。

 

 極太ケーブル(?)はちょっと困ったかのように、しなやかな先端を傾げてみせるのだった。




出た! お化けっ!

いえいえ。お化けではありません。

よく見てください。あの人ですよ、ほらあの人……。


次回『47.再会の使者』

正解は「……」でした!

わかったかな?


って……。わかるかいっ!

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