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45.暗黒の天魔竜王エリュシオン

それぞれが遠くから、信じられない光景を目にします。

はたして、実際のところ何が起こっているのか……。


ついに最凶の魔物が、ここに爆誕!


 突然現れた異形の化け物、ゴブリンキングに蹴り飛ばされ、一本足となってしまった木の精霊〈もく〉。

 地面に倒れ伏してしばらく動けなかったのは、あの一瞬で存在の力をかなり奪われたせいだった。

 周囲の精霊に助けられて少し復活したが、状況はけっして(かんば)しくない。


 今のところ森の守護神が、ゴブリンキングを相手に健闘している。

 頑強さと柔軟さで勝る森の守護神と、スピードとワザで勝るゴブリンキング。

 どちらも決め手に欠け、相手を攻めあぐねているが、何がキッカケで勝負がどう転がるかは分からない。

 くやしくも残念ながら〈もく〉や〈すい〉の力では、あのバケモノは倒せない。


 きっと女神ジュリアロスであれば、この憎っくきゴブリンキングをコテンパンに倒し、一瞬でただの消し炭にしてしまうに違いない。

 あるいはまたドクロ公爵であったなら、あの醜い生き物を一刀両断し、芋虫のごとく踏み潰してくれることだろう。

 しかしながら、あいにくと美しいこの森の女神もその騎士たるドクロ公爵も、今ここにはいない。


 だから、留守を預かる自分たちが守り抜くしかなかった。

 これ以上ゴブリンキングに好き勝手はさせない。これまでのように自分たちでこの森を守るのだ。

 そのために、森の総意を決しなければいけない。


 ここは精霊(みんな)がひとつになれるような、何かわかりやすいシンボルとなるような存在が欲しかった──。


 そう考えていた時、ふと野外円卓で〈サン〉に抱かれているエリュシオンの姿が目に入る。

 それから風たちから聞いた、かつての嵐の夜のエリュシオンと女神の言葉を思い出す。


「吾輩はいつまでこの木彫り人形で我慢すればよいのだ? ドクロ公爵やそこの〈サン〉ばっかり、立派な体を持っていてずるいではないか」


「うむ。それでも吾輩はこの百分の一スケールでは、どうにも物足りん」

「百分の一スケール……って。えっ? 暗黒の天魔竜王って、身長30メートルもあるの!?」


〈もく〉はハッとして顔を上げる。そしてジッと野外円卓のエリュシオンを見つめる。

〈サン〉に抱かれるエリュシオンを見ていたら、そのまま自分のするべきことが見えてくるような気がした。


 片足を失っていたが、這うようにして野外円卓までたどりつく。

 ついに森の守護神を倒したゴブリンキングがこちらに目を向けるが、それより早く〈サン〉に目配せして告げる。


『エリュシオン様のカラダはおまえの分身体だ。おまえとあたいとみんなの力を合わせて、エリュシオン様を()()()()()姿()へと目覚めさせるぞ。

 あたいが繋ぎになる。エリュシオン様をこちらに。そして〈サン〉、おまえの力を貸せ』


 深緑の瞳をまたたかせキョトンとした様子の〈サン〉は、首をかしげつつ、腕に抱いていた木彫りのトカゲ人形を〈もく〉に手渡す。

 エリュシオンを受けとった一本足の木の精霊〈もく〉は、すぐさま器用なジャンプで野外円卓の上に飛び乗ると、そのエリュシオンを頭上に高々と掲げてみせたのである。


『暗黒の天魔竜王エリュシオン様っ! 今だっ! 今こそ、その膨大な魔力を解き放てっ!

 そしてあたいらと一緒に、あの憎っくき仇敵、ゴブリンキングを討ち滅ぼそうぜっ!』


 いきなり持ち上げられて「高い高い」されてしまった木彫りのトカゲ人形は、その両手の中でワタワタしながら周囲を見渡し、目を白黒させる。


「は? わ、吾輩か? な、何をしておるのだ、木の精霊よ?」


 もちろんエリュシオンには、解き放つような膨大な魔力などない。

 思い切り困惑するエリュシオンを置いてけぼりに、周囲の精霊たちがいっせいに集まってきて円卓へと魔力を投げかけていく。


『いけえっ! エリュシオン様!』

『やっちゃえ! やっちゃえ! やっちまえ!』

『ボクたちのチカラを分けてあげる! だから、どうかゴブリンキングを、やっつけちゃって……!』


 次々と集まってくるその精霊の数は、いったいどれほどのものか──。

 なにがしかの力を携えた幾千万という光の玉が、〈もく〉とエリュシオンに集まり、やかてまぶしいほどに輝き始める。


『さあ、エリュシオン様! 今こそ我らの総意を糧にして、その偉大なるチカラを現すのですっ!

 みなの者っ! 我らをコケにし続けた、憎っくきゴブリンキングどもに、今こそ目に物を見せようぞぉっ!!!』


 野外円卓の前に現れた岩の精霊〈がん〉が、諸手を挙げてさらに精霊たちをあおり続ける。

 そこには膨大な魔力が膨れ上がっていく。


 その〈がん〉の姿が足下に移動していく──。いや、〈がん〉が下に移動しているのではなく、エリュシオンがぐんぐんと上へ上へとあがっているのだ。


「ぬぁ、ぬぁんじゃああ~~! これはあああぁぁっ!」


 ジタバタと暴れるトカゲ人形の体を、〈もく〉は両手でしっかり頭上に掲げて逃がさない。

 全方位あけっぴろげの高速エレベーターで急上昇するような光景に、木彫りのトカゲ人形から情けない声がもれ出る。

 しかし誰も、そんな戸惑いの声には耳を貸さない。


 さしもの宇宙船も、自身の意図しない急上昇はかなりの恐怖である。

 ジタバタと羽と手足が(くう)をかくが、尻尾はしっかりと〈もく〉の腕に巻き付いている。

 背中に羽はあるが、残念ながらこれは見た目だけのオプションだった。


 どうやら円卓からピコピコと木の芽が生え出て、それがグングン伸びて〈もく〉を飲み込み、エリュシオンを押し上げ、両者は恐ろしい勢いでふたりを天へと持ち上げているようだ。


 しかし異変はそれに留まらない。〈もく〉の手と、伸びてくる木と、エリュシオンの木製の体が癒着し同化して行く。

 そしてそれらを構成する木の細胞が、際限なく増えて膨らんでいく。

 すべてが一体化して、まるで新しい生き物を創造するかのように──。


「ヤ、ヤ、ヤメルのだぁぁぁぁぁ!」


 人工細胞が悲鳴を上げ、ブチブチと脊髄神経が切断される音を聞きながら、エリュシオンはついにチーンとばかりに白目を剥いた。


 ゴブリンキングも思わず足を止めて、目の前の怪異現象を仰け反るようにして見上げている。


 森に巨大な影を落とし、ぐんぐんと伸びていく成長点は、エリュシオンであった木彫りのトカゲ人形の残滓を乗せたまま、そうしてどんどん地上から遠ざかっていく。

 最後にかろうじて生き残った、ノイズの走るエリュシオンの断片的な視界には、もはや青空しか映っていない。

 やがてそれもプッツンと途切れ、完全にブラックアウトする。


「一体、何がどうなったっ! 何が起きているのだっ!……」


 地上のスパイアイからの情報では、近すぎて視界が足りずよく分からない。

 地下深くに埋もれる本船のエリュシオンは、木彫りのトカゲ人形を半ばあきらめ、ドローンを緊急出動させて事態の把握につとめる。


 飛び立った三機のドローンのカメラが捕らえたのは、身長30メートル近くはある、背に羽を生やした木のトカゲ……。

 もとい木製の巨大ドラゴンは、ジュリアロスの森の高木群を胸の辺りに従え、地を踏みしめ天を突き抜けるような雄姿を見せている。


『行けええええっ! 暗黒の天魔龍王エリュシオン!!! ゴブリンキングをメッチャクチャのコテンパンにして、踏み潰せええぇぇ!』


 ぐああああああああおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!


 ドラゴンと一体化したらしい〈もく〉の号令に合わせて、木製ドラゴンはその巨大な体躯に見合うだけの咆哮を周囲に轟かせる。

 大気を震わせ、大地と木々を揺らすような咆哮は、耳を塞がずにはいられないほどの爆音だった。


 木彫りの小トカゲ──エリュシオンは、ここに巨大ドラゴンへと爆誕していた。

 だが実際のところ、本人はその小指ひとつ動かすことはできない。


 精霊の魔法は木をつなぎ合わせて大きく育てることはできても、精密な機械を巨大化させることは出来なかったらしい。

 結果、急速増大させられた木の部分ともども、体内に収められた高度な電子部品は、押しつぶされ引きちぎられ、原形を留めていない。もはや修理など望むべくもなかった。


「わ、わ、吾輩の、きゅーとですいーとなワガママぼでぇーがぁぁぁ……」


 地下深くの宇宙船内で悲鳴にも似た声が上がるが、それこそ誰も聞く者はいない。


 しかし巨大ドラゴンは二足歩行でゆっくりと歩みを進める。

 まさに一歩、一歩が、ドシ~~~ン、ドシ~~~ン、と大地を震わせる超重量だ。

 太いシッポが、ブワワワァァァンッと振られると、辺りの樹木が根こそぎなぎ倒されて一掃される。


 弾かれた大樹や岩は神殿まで飛ばされ、円形テラスを押しつぶさんばかりにドシャっと降り注ぐ。

 もはや災害級の魔物の誕生であった。


 しかし、憎っくきゴブリンキングしか目に入らない巨大ドラゴン、もとい〈もく〉はそれには気づかない。

 ゴブリンキングに噛み付いてやろうと、長い首をくねらせて木々をなぎ払い、巨大な前足を振りおろしては土埃を巻き上げて地響きを重ねていく。


 ゴブリンキングも、さすがにこのドラゴンに殴りかかることはしなかった。

 ゾウとアリに等しい体格差では、如何(いかん)ともしようがない。


 踏み潰されないよう、伸びてくる顎門(あぎと)に捕まらないよう、とにかく逃げるしかないが、幸いにもドラゴンの動きは遅い。

 鋭いかぎ爪の足は歩行だけで大地を陥没させる凶器だが、ドラゴンがまだ動き慣れていないのは明らかだった。

 その動作はいかにもぎこちなく鈍い。


 ドラゴン〈もく〉もそのことに気づいたらしい。前足で捕まえようとしても、後足で踏み潰そうとしても、噛み殺そうとしても、すぐに逃げられてまったく埒があかない。

 そのためゆっくりと体を反転させて、ゴブリンキングがいると思われる方向に向けたのはオシリだった。


 その長くてしなやかなシッポを「ブワワワァァァンッ、ブワワワァァァンッ」と左右に振り回す。

 まったくの当てずっぽうだが広範囲の木々がなぎ倒され、土砂とともにあらゆるものが吹き飛ばされる。もはや敵も味方もあったものではない。


 王都から来た兵士たちはもちろん、ゴブリンキングの手下達も、少し離れていたオットー王子やラナメールたちも、飛んでくるアレコレを避けて逃げ惑う。


「ヤメローーッ!」


 そんな中、勝手口から神殿を飛び出した一人の少年が、飛んでくる(いし)(つぶて)を浴びながら、たたき壊され瓦礫の山となったテラスを乗り越えて叫んでいた。


「もう、いいよ。やめるんだーーーっ!」


 声を張りあげて叫んだが、その声は阿鼻叫喚の地獄と化した森に呑み込まれるばかりだった。





ついに暗黒の天魔竜王エリュシオン、華々しく爆誕──!

と、言いたいところだけど……。

ご本人は「あ然」として放心するばかり……。


次回『46.先行補助追尾型機動二輪(ワンストリーム)

ひさびさに主人公たぶんの登場。

地上の騒動など知らず、のんきに過ごすヴィヴィアンとエンドスカル。

地下迷宮で目的の物を手にいれ、ご満悦──のはずが。

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