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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第六章 生徒編

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第二話 妹よ、俺は今魔王と将棋を指しています。

 

「・・・しつれいしまーす」

「・・・・・・・しまーす」


 小声で挨拶をしながら職員室を恐る恐る覗いているのはミルとカルナ、俺を見つけると伏し目がちでやってくる。不思議なもので世界が変わっても職員室に呼び出された生徒は同じような行動を取る。


「トキオ先生・・・わたしとミル、何か悪ことをしたの?」


「ハハハッ、もちろん違うよ。あっ、もしかして、二人は何か悪いことをした自覚があるのかな」


「な、無いよ。わたし達悪いことなんてしていないよね、ミル」


「う、うん・・・たぶん」


 そこは自信をもって言いなさいよ・・・


「二人を呼んだのは、自由課題のことなんだ」


「自由課題?もしかして、私の書いた物語の出来が酷かったから・・」


「違う、違う、その逆。カルナの書いた物語とミルの論文は出来が良すぎたんだ」


「えっ、でも、わたしもミルも賞に選ばれなかったよ」


 悪いとは思ったが二人の作品は賞から除外した。ミルの論文はこの世界の常識を揺るがしかねないし、カルナの書いた物語は素晴らしすぎた。


「二人共夏休み前から取り掛かっていたから今回は賞から除外した。と、言うのは建前で、二人の作品は夏休みの宿題の域を越えている。然るべき場所で正当な評価を受けるべきだ」


「どういうこと?」


「まずミルの論文だが、俺は学会に発表するべきだと思う」


 学会と言われてもカルナにはチンプンカンプン。ミルは口を開けたまま固まってしまった。


「そこでも、この論文は評価されるとだろう」


「む、無理だよ、子供の書いた論文なんて、学者さん達は真剣に読んでくない!」


「ミルは将来学者になっても、子供が書いたという理由で論文を読まないの?」


「わたしはそんなことしな!でも・・・」


 ミルの懸念もわかる。たとえ大人だったとしても、一般人が書いた論文など学会が相手にしない可能性は十分考えられる。


「論文の出し方にも色々あるさ。年齢なんて書かなくても問題ない」


「でも・・・()()学者さん達が真剣に読んでくれるとは思えない。わたしはトキオ先生に褒めてもらえただけで嬉しい」


 俺と出会い、知らなかったことをどんどん吸収しているミルは、この世界の物理や化学のレベルが低いことに気付いている。読んでもらう以前に、俺以外に理解できるのかを疑っている。


「ミル、人間を見くびっちゃいけないよ。必ず、ミルの論文を理解してくれる学者は居る。興味を持つ学者はもっと沢山居る。なぜなら、ミルの論文は俺が読んだかぎり正しいからだ。俺には世界中の学者がミルの論文を読んで興奮する姿が目に浮かぶ」


「トキオ先生にはちゃんと読んでくれる学者さんの知り合いがいるの?」


「いいや、学者の知り合いは居ない。でも、興味を示しそうな学者さんを知っている友達が居るから大丈夫。まずはその友達に読んでもらって感想を聞いてみよう」


「・・・わかった。トキオ先生の友達なら信じる」


 フッー、なんとかミルの承諾を得られた。この論文は絶対世に出す。世界中の学者に、あなた達の考え方は根本的に間違っていると知らせるいい機会だ。数年後には、この世界の学問の先頭をミルが走っているかもしれない。教え子が世界のトップに立つなんて教師冥利に尽きるってものだ。




「次にカルナ、君の書いた作品は書籍化して広く読まれるべきだ」


「書籍化って、本にして売るってこと?」


「そう。こんなに面白い物語は絶対にヒットする」


「む、無理だよ、子供が書いた物語なんて、お金を出して本を買ってまで読む人なんていないよ!」


 ミルもそうだったが、この世界では大人の方が子供より優れているのが当たり前の常識なっている。まあ、前世も似たようなものだが・・・原因はわかっている、教育だ。この世界は貴族の子供でさえ一定の年齢に達しなければ学校に通わない。平民の子供に至っては学校に通うことなく、いきなり社会人だ。学ばない、教えないのだから優れた子供が出てくる訳がない。俺と出会わなければミルのような天才児でさえ、そこそこ機転が利く子で生涯を終えていたかもしれない。これは世界の損失だ。


「カルナは図書室の本を選ぶときに何歳の人が書いたかで選んでいるの?」


「そうじゃないけど・・・」


「そもそも、作者が何歳かなんて書いてないし、カルナも気にしていないだろ」


「うん、でも・・・」


 カルナが不安がるのも当然。初めて書いた物語をいきなり書籍化なんて前世でもビビるのに、本を読むことが平民にとって当たり前ではないこの世界なら尚更だ。


「とりあえず、出版社の人に一度読んでもらおうよ。書籍化する、しないは別にして、プロに読んでもらって感想を聞くのは勉強にもなるし」


「トキオ先生には出版社の知り合いが居るの?」


「いいや、出版社の知り合いは居ない。でも、出版社とツテのある友達が居るから大丈夫。まずはその友達に読んでもらって感想を聞いてみよう」


「・・・わかった。トキオ先生の友達なら信じる」


 よし、カルナの承諾も得られた。この世界には面白い創作物語がほとんど無い。だからいつまでもセイジョウデン伝説が一部貴族の間で人気がある。上田誠(仮)の痕跡を消す協力をする訳ではないが、もっと読書を一般化する為には面白い物語が必要だ。そんなに面白いなら自分も読んでみたいと思う平民が増えれば識字率も上がるかもしれない。読書好きの俺としても異世界人の書いた小説は読んでみたい。なにせ、読書は前世の俺にとって唯一の趣味だったのだから。カルナの書いた物語が火付け役となり、この世界に創作物語ブームが起きないかと期待している。数年後、カルナはベストセラー作家になっているかもしれない。教え子が売れっ子作家になるなんて教師冥利に尽きるってものだ。




「トキオ先生の友達、凄いね」


「ああ、オリバーさんというんだ。オスカーの叔父さんだよ」


「えっ、オスカー先生の叔父さんということは貴族様!」


 うーん・・・カルナのこの反応も当然か・・・ミルは貴族に慣れているが、今迄なんの接点もないカルナにとって貴族は恐怖の対象かもしれないなぁ・・・


「トキオ先生、そのオリバーさんって、お土産に空気循環器を買っていた人?」


「そうだよ」


 質問に答えると、ミルが笑顔でカルナに言う。


「カルナ、安心して。多分その人、面白い人だから」


「本当に?」


「うん、間違いない。それに、怖い人や悪い人とトキオ先生が友達になる訳ないじゃん!」


「そっか、トキオ先生の友達だもんね!」


 すみません、オリバーさん。発明家バーラ一族の人形のせいで、会たこともない子供達に面白い人認定されちゃいました・・・



 ♢ ♢ ♢



 サンセラの丸太小屋に顔を出すと、一心不乱に十字手裏剣を投げている。なかなかの腕前だが「投擲」スキルを得られたのではなく、ただ単に身体能力と反復練習の賜物だ。ここまでやっても「投擲」スキルを得られないということは十字手裏剣と「投擲」スキルの獲得は関係なさそうだ。もしかしたら、そもそもドラゴンには「投擲」スキルを得られない可能性がある。だって、ドラゴンが物を投げているイメージないし・・・だとしたら、余計なことやらせて悪いことしたなぁ・・・


「サンセラ、「投擲」スキルの件はもういいぞ。それだけやってダメなら十字手裏剣は関係ないだろうし」


「そうですね。でも、手裏剣とクナイを投げるのは私の新たな趣味ですから、これからも続けます」


 けったいな趣味だなぁ・・・まあ、他人の趣味をとやかくは言うまい。


「これからガイアソーサと将棋を指すけど、お前も観戦しに来るか?」


「面白そうですね、行きます」



 俺、コタロー、サンセラで孤児院へ。実は移転以来孤児院に入るのは初めてなのだ。マザーループやラーラさんからは食事を摂りに来て欲しいと何度も言われていたが、孤児院の運営資金は教会と街からの支援金で賄われている。俺はあくまで教会に雇われた一教員であり、厚意で敷地を間借りさせてもらっているだけで食事をする資格は無い。

 理由は他にも。俺が来る前から孤児院は皆で協力して年上の子供が年下の面倒をみていた。小さな子にはお兄さんお姉さんがいつも寄り添い、それが次の世代へと循環していく。マザーループとシスターパトリの作り上げた環境は素晴らしく、子供達は自然と人を思いやれる人間へと育つ。そこに俺という異物が入る必要は無い。



「おじゃましまーす」


 入り口をそっと開けると、ミル、カルナ、シオン、ミーコの仲良し四人組が待ち構えていた。


「ガイアさーん、トキオ先生来たよ―!」


 嬉しそうに叫びながらミーコが共有スペースへ駆けていく。そんなミーコをこれまた嬉しそうにシオンが追っていく。子供というのは少しの変化でもテンションが上がるものだ。ほぼ毎日顔を合わせている俺でも、初めて家にあげるとなるとイベントのように感じるのかもしれない。


「トキオ先生、サンセラ先生、上がって。わたし達が案内するから」


「う、うん・・・ありがとう」


 ミルとカルナに手を引かれて孤児院の中へ。しかし、案内するって・・・ここを建てたのは俺なんですけど・・・



 共有スペースに入ると、将棋盤の前に座って俺を待つガイアソーサを取り囲むように子供達が輪を作っていた。とはいえ、みんながみんな将棋に興味がある訳ではない。別の場所ではシスターパトリと小さな子供数人がキャッキャッと笑いながら遊んでいる。何をしているのか覗いてみると、ミルがアトル土産に買ってきた福笑いで変顔を作っていた・・・遊び方、間違っていますよ。


「お待ちしていました、トキオ先生。よろしくお願いします」


「ああ、ついでに良い物を作ってきたよ」


「これは?」


「対局時計だ」


 右のボタンを押すと左の秒針、左のボタンを押すと右の秒針が動く機械式の対局時計。本当は魔力で動くものにしたかったが、それだと子供達だけのときに仕えない可能性があるから機械式にした。早速使い方の説明を始めるとガイアソーサだけでなく、将棋に興味のある子供達も興味津々。


「これは素晴らしいアイデアだ。長考や「ちょっと待った!」の防止になる」


 どの世界でも将棋には「ちょっと待った!」があるんだね・・・


「子供達も見学しているから時間をかけるのもなんだし、持ち時間は二十分でいいか?」


「はい」


「先手はガイアソーサでいいぞ」


 最前列の特等席、俺の右側にはミルとタティス。左側にはサンセラとさっきまで姿の見えなかったマザーループ。いつの間に・・・


「マザーループも将棋に興味があるのですか?」


「え、ええ、多少・・・」


 珍しく歯切れが悪い。その理由をミルが小声で教えてくれた。


「・・・マザーは昨日シスターに負けたの。多分、ものすごく悔しかったんだと思う」


 ほぉ、シスターパトリがマザーループを倒すとは、どんな対局だったのかちょっと興味があるなぁ。


「それじゃあ、はじめるか」


「はい!」


 期待する子供達の視線。中でも最前列を陣取るミルとタティスはノート持参で気合が違う。ガイアソーサよ、その期待に二人で応えてやろうじゃないか。


 俺の気持ちが伝わったのか、ガイアソーサも小さく頷く。


「「お願いします」」


 二人、声を合わせて一礼。


 いざ、勝負!


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