第二十話 妹よ、俺は今武闘大会決勝戦を観戦しています。
「只今より、第四十五回夏の武闘大会決勝戦を行います。まずは東口より、予選からここまで危なげなく勝ち上がってきたモンク、ガイアソーサ!」
パチ、パチ、パチ、パチ
「魔王」スキル所持者の魔族、ガイアソーサの名が紹介され会場からは申し訳なさ程度の拍手が送られる。力の差があり過ぎて決勝戦まで圧勝だったせいか、ガイアソーサの戦いはいまいち観客には受けが良くないようだ。それにしても、モンクって・・・呼び込みのアナウンサーにはガイアソーサが腰に差している剣が見えていないのか?
「続きまして西口より、魔法職にして華麗なる必殺キックの使い手、オスカー!」
うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!
凄い人気・・・ここまで観客が盛り上がってしまうと、最後はラ〇ダーキックで決めないといけない気がしてくる。今更あのキックは皆さんが思っているほどの威力はありませんとは言えない雰囲気だ。まあ、力を隠そうとするオスカーの作戦が上手くいったともいえるのだが。
両者が向かい合う。圧倒的な強者を前に、普段と変わらない表情で向き合うオスカー。相変わらず肝の据わり方は大したものだ。さて、二人はどんな会話をしているのやら。少し聞いてみるか。
「ヒアリングエイド」
「君、凄い人気だね」
「ハハハッ、まさかこんなことになるとは、私も想定外です」
「僕は騙されないよ。君が無詠唱魔法の使い手であり、まだ大量の魔力を温存しているのはわかっている」
「それはこちらも同じです。あなたはモンクではない。腰に剣をさしてはいるが、剣士という訳でもない。ヤバい量の魔力がビンビン伝わってきますから。ガイアソーサ殿、あなたはオールラウンダーですね」
「そうだよ、よく気付いたね。まあ、別に隠しているつもりは無いんだけど」
「たまたまです。私は世界最強のオールラウンダーを知っていますので」
「へぇー、そうなんだ。その人、僕より強いの?」
「あなたでは比べるに値しません。まあ、あなたより弱者の私が言っても信憑性は薄いでしょうが」
「僕の方が強者なのは認めちゃうんだ。でも、なんかムカつくなぁ」
「私は聞かれたから事実を言っただけです。ただ、弱者だからといっても、試合の勝敗は分かりませんよ」
「そうだね。強者が必ず勝つなら、君はこの場に居ない筈だから」
「お見通しですか・・・まあ、弱者ながらに精々足掻いてみせますので、どうかお手柔らかにお願いします」
「ダメ。君はいい奴そうだけど、戦闘ではしたたかだから。隙を見せたら、喉元に嚙みついてくる」
なんか、バチバチにやっている・・・
だが、コタローが言ったように「魔王」スキル所持者の魔族、ガイアソーサは純粋に武闘大会を楽しんでいるだけで他意はなさそうだな。
両者が距離をとり、いよいよ試合開始が近付く。観客のボルテージも上がってきた。
「オスカー先生、がんばれー!」
「オスカーさん、怪我しない程度に頑張ってくださーい!」
ミルとシスターパトリの声援が届いたのか、相変わらず余裕の笑みで手を振るオスカー。さあ、どんな戦いを見せてくれる。
「決勝戦、はじめ!」
ゴーン!
銅鑼の音と同時に両者が中央に駆ける。いきなりの接近戦にライ〇ーキックを期待する観客の声援が闘技場を包み込む。
二人の距離が五メートルなったところでオスカーがストップ。魔法を発動した。
「アースウォール」
ドゴーン!
目の前に現れた土の壁を肉体だけで突き破るガイアソーサ。オスカーのアースウォールは土属性に空間属性を掛け合わせて強化されているがもろともしない。予選では誰一人としてオスカーが出した土の牢を破れなかったことを考えても、基本ステータスが他の参加者とは桁違いなのがわかる。
だが、オスカーは想定済み。土の壁はガイアソーサの勢いを一瞬止める為に出したもの。ここでオスカーは隠してきた一つ目の力を見せる。
「トルネード」
土属性の使い手だと思われていたオスカーが初めて出す風属性。ガイアソーサを竜巻が襲う。
「ストーンバレット」
すかさず石礫を連射。竜巻の中に吸い込まれた石礫がガイアソーサの体を切り裂く。数秒後、収まった竜巻の中から全身に傷を負ったガイアソーサが現れるが、致命傷には至っていない。それどころか、ガイアソーサは笑っていた。
「いいねー。凄いよ、君の魔法。威力はそれ程でもないが、無詠唱による圧倒的なスピードは素晴らしい。君みたいな魔法職と対戦できるなんて、武闘大会に出場して本当に良かったよ」
「それはどうも。あなたのような方に褒めていただけて嬉しいです。できれば、もう少しダメージを負っていただけると、もっと嬉しいんですけどね」
オスカーの魔法に怯えることなく、再び突進するガイアソーサ。先程と違いオスカーはその場にとどまっている。
「グラウンドピット」
目の前に開いた穴をガイアソーサは勢いを殺さず華麗に躱していく。それも想定済みのオスカーは交わした方向に向かって魔法を放つ。
「ウインドカッター」
だが、それもジャンプして躱される。しかし、オスカーも負けていない。
「グラウンドピット」
今度は着地点に穴を開けて逃げ場を塞ぐ。斜面に着地したガイアソーサは見事なバランス感覚で転倒は防いだが突進する勢いは止められた。
「アースジェイル」
ガイアソーサを土の牢獄へ閉じ込める。すぐさま拳で土の牢を粉々に砕くが、オスカーが欲しかったのは一瞬の停滞。レッドボアの眉間をも貫くオスカー最大威力の魔法がガイアソーサに襲い掛かる。
「疾風の石槍」
土属性で作った石槍の先端を空間属性で固定して強度を高め風属性でスピードを増した、オスカーが持つ三属性すべてを掛け合わせた魔法。その威力に、ガイアソーサはこの大会始めて剣を抜く。
刹那、ガイアソーサの剣が一瞬早く、石槍は撃ち落される。
「なに!」
次の瞬間、もう一本の石槍がガイアソーサに迫る。オスカーは無詠唱どころか、無言でもう一本、疾風の石槍を放っていた。
ザシュッ!
一瞬の判断。ガイアソーサは剣を持っていない左腕を犠牲に、致命傷を避ける。
「一瞬でよく見切った。やるな、あの男」
「ええ。素晴らしい判断です」
観客でも俺とマーカスしか気付いていない、一本目と二本目の差。見た目は変わらないが、まだ無詠唱魔法を覚えたてのオスカーは、無言で魔法を放てても威力は落ちる。石槍のスピードが僅かに違うことでそれを見抜いたガイアソーサは、左腕を盾にしても致命傷にはならないと判断した。
「先程の失言を詫びるよ。君、いや、オスカー殿の魔法はスピードだけでなく威力も素晴らしい。こんな魔法は見たことが無い。しかも、ここまでその力を隠し続けてきたのには脱帽だ。素晴らしい経験をさせてもらった。そのお礼に、ここからは僕も全力を見せるよ」
「お礼なら、もう少し力を抜いていただけるとありがたいのですが」
ガイアソーサは左腕から石槍を引き抜くと、何事もなかったかのように剣を構える。今まで出会ったことのない未知の魔法を使う相手、時間を掛ければ何が飛び出すかわからない。魔法も封じられている。詠唱無しで魔法を使えないガイアソーサはどうやってもスピード勝負でオスカーには勝てない。ならば、剣しかない。
「行くよ。これが最後だ」
「そうですね。そろそろ魔力もきつくなってきましたので、ここらで決着をつけましょう」
ガイアソーサがオスカーに向かって一直線に駆ける。今までと違い、オスカーは勢いを止める為の妨害を一切しない。ガイアソーサの剣がオスカーに迫る。
「結界」
振り下ろした剣をオスカーの結界が弾く。
「空間魔法だと・・・だが、長くは持たないはず」
ここにきて新たな属性を見せられてもガイアソーサは冷静だった。結界で身を守れるなら、もっと楽に戦えた筈。多分、オスカーが結界を使えるのはほんの一瞬。しかもかなりの魔力を消費する。
ガイアソーサの読みは当たっていた。
もう一度切り込むガイアソーサ。またも、オスカーは迎え撃つ。
「結界」
今度は剣を弾かれぬよう、力を込めるガイアソーサ。ここからは我慢比べだ。そして、この我慢比べは残りの魔力量が少ないオスカーが圧倒的不利。勝利を確信した次の瞬間、ガイアソーサはこの大会始めて、飛び跳ねて大きく後ろに後退した。
観客は何が起きたのかわからない。それも当然。ガイアソーサ自身もどうして自分が後退したのかをわかっていない。オスカーは攻撃の姿勢をとろうともしていないのだ。だが・・・
直感。何か恐ろしい攻撃を隠し持っていると本能が告げた。ガイアソーサは今までいくつもの危機を、この「直感」で回避してきた。
『今のは「魔王」のスキルが発動したんじゃないか?』
『多分、そうでしょうね。今の後退は不自然でした』
一旦後退したものの、オスカーがどんな奥の手を持っているか分かりようもない。今まで自分を守ってくれた「直感」が危険だとも告げている。だが、ガイアソーサはそれを見たい好奇心が抑えられなかった。どの道、剣で切り込むしか残された道は無い。強く剣を握り、覚悟を決める。
ガイアソーサとオスカーの視線がぶつかる。次の瞬間、オスカーはニヤリと笑うと、右手を真っ直ぐ上げた。
「降参します。もう、魔力が尽きました。私の負けです」
「なっ!」
オスカーはそう宣言すると、ガイアソーサに背を向け自ら舞台を降りた。
「それまで!」
「ま、待て・・」
観客の声援がガイアソーサの声を打ち消す。入場時はまばらだった拍手も、二人の戦いに興奮した観客から、今度は割れんばかりの歓声とともに勝者であるガイアソーサに降り注がれた。
左腕に怪我を負っているガイアソーサのもとに回復魔法をかけるため魔法職が駆け寄るが、ガイアソーサは心ここにあらず。受け答えも上の空だ。
それでも、観客はガイアソーサに声援と拍手を送り続ける。それが、大会の成功を物語っていた。
「負けちゃったけれど、オスカー先生、凄かったね」
ミルが誇らしげに言う。
「ああ、本当によく戦ったよ。オスカーが魔法を覚えたてだと知ったら、会場中が驚くんじゃないかな」
そう、オスカーはまだ、俺から魔法を習い始めて数ヶ月。実践訓練に至っては数日だ。これからものびしろは十分にある。オスカーが歩んだ道が、冒険者希望の子供達に還元されていくと思うと、可能性は無限だ。
決勝戦終了から十五分程してオスカーが特別席に顔を出す。負けはしたが、表情は晴れやかだった。
「オスカー先生、かっこよかったよ!」
「声援、聞こえたよ。応援してくれてありがとう」
ミルとシスターパトリが駆け寄る。二人共普段と違うオスカーの戦う姿を見て興奮気味だ。キックや魔法が凄かったとオスカーの大健闘に湧く特別席だったが、一人だけ納得していない人物が口を開く。
「どうして、奥の手を出さなかったのだ。相手はオスカーが剣も使えることを全く想像できていなかったじゃないか。なぜだ!」
毎日、朝早くから剣の稽古に付き合ってきたマーカスの気持ちも理解できる。俺から見ても、ガイアソーサが初見でオスカーの剣に対応できたとは思えない。剣が通用しなかったのなら負けを宣言しても納得がいくだろうが、使わずして負けを宣言してしまったことにマーカスは腹を立てている。
「私は武闘大会で優勝する為に先生から魔法を学んでいる訳ではない。学校の子供達を守るために、冒険者希望の子供達を導くために学んでいるのだ。奥の手は、守りたいものの為に使う。ここで使ってしまっては本当に使うべき時に手の内がバレてしまっている可能性があるではないか」
オスカーの奴、そんなことを考えていたのか・・・
「ただ、悔しかったから、殺気だけは飛ばしておいた。ガイアソーサ殿が後ろに飛び退いた時点で、マーカスとの稽古が身に付いているとわかって、私は満足だったよ」
「オスカー・・・」
怒っていたのが嘘のように、目頭を熱くしてガシガシとオスカーの肩を叩くマーカス。痛いからやめろと言ってマーカスを引きはがし、オスカーはようやく俺のもとへ。
「申し訳ありませんでした、先生。ガイアソーサ殿は今の自分には強すぎました」
「何を謝ることがあるんだ。素晴らしい戦いだったじゃないか。俺が教えた魔法の使い方を自らも考えて使いこなしているオスカーを見て感動したよ。お前は、自慢の弟子だ」
「せ、先生・・・今・・私を、で、弟子と・・・」
「変なことにこだわって悪かったな。もう、冒険者とかどうでもいい。俺の魔法を身に付け、使いこなしているオスカーのような弟子がいることを、俺は誇りに思う」
「あ、ありがとうございます。先生、いえ、師匠に頂けたその言葉は、私にとって武闘大会で優勝するよりも遥かに価値があります」
武闘大会中、終始余裕の笑みを見せていたオスカーが大粒の涙を零す。それを見て感極まったマーカスがオスカーに抱き付いた。
「良かったな、良かったな、オスカー。本当に良かったな」
「ありがとう、ありがとう、マーカス。お前のおかげだ」
闘技場では表彰式が行われていた。ハルトマン男爵から賞状と賞金を渡され、万雷の拍手が優勝者のガイアソーサに送られている。
妹よ、この世界で始めて見た武闘大会は、素晴らしい大会でした。




