第十九話 妹よ、俺は今武闘大会決勝トーナメントを観戦しています。
「見ていろよ、サンセラ」
シュッ!
「おお、流石は師匠」
「次はもっと凄いぞ」
シュッ!シュッ!シュッ!
「お見事!かっこいいですよ、師匠」
ミルが寝た後、サンセラの寝泊まりしている丸太小屋へ転移。只今、十字手裏剣の実演中。俺とミルが簡単に「投擲」スキルを獲得出来たことを説明して実験に付き合ってもらう為だ。
「この十字手裏剣はサンセラへのアトル土産だ。重心は俺が調整しておいたから十個全部揃っている。もし、サンセラも「投擲」スキルが得られたなら、十字手裏剣は「投擲」スキル獲得に効果が高いと証明される。俺達が帰ってくるまで、暇な時間でいいから練習しておいてくれ」
「わかりました。それにしても、十字手裏剣のフォルムは最高にかっこいいですねぇ」
「そうか・・・クナイもあるけど、いる?」
「お願いします!」
渡してやると、十字手裏剣とクナイを両手にサンセラは不敵な笑みを浮かべた。
「フフフッ、遂に揃いましたね、コタロー様。三種の神器が」
『ああ、サンセラ殿。まきびし、十字手裏剣、クナイ、正に忍者三種の神器だ』
違うよ。何言ってんの?こんなの、作ろうと思えばいつでも作れるんですけど・・・
「武闘大会が終わったら帰る。それまで頼むぞ」
「はい。しかし、オスカーがそこまで師匠の魔法を使いこなせるようになったとは。大したものだ」
「そうだな。元々魔法の才能があったとはいえ、オスカーは理解が早い。変に魔法を学んでいなかったのも良かった」
「現地で見られないのは残念ですが、師匠がお戻りになってからの土産話を楽しみに待ってます。いってらっしゃいませ」
「それじゃあ、あとは任せる。転移」
トキオとコタローがアトルの街へ転移すると丸太小屋内は静寂に包まれた。何度経験しても、サンセラは目の前からトキオが居なくなる感覚に慣れることが出来ない。直ぐに帰ってくるとわかっていても、毎回トキオと出会う前には持っていなかった感情が揺さぶられる。
十字手裏剣を的に向けて投げる。
「うーん・・・やはり、師匠のようにはいかないなぁ」
寂しさを振り払うように、サンセラは一心不乱に十字手裏剣を投げ続けた。
♢ ♢ ♢
「やったー!ミル、昨日と違うお菓子がある!」
「もう、シスター。恥ずかしいから、少しは遠慮してよ!」
ミル、もっと言ってあげなさい。素直なところはシスターパトリの魅力の一つだとは思うが、少し素直すぎやしませんかねぇ・・・まったく、これじゃあオスカーの応援に来たのではなく、お菓子を食べに来たようなものだ。
あっ、ハルトマン男爵とタイラーが目を合わせて小さくガッツポーズをしている。これが見たくて昨日とは違ったお菓子を用意したんだな・・・特別席に招待してくれている二人が喜んでいるのなら、まあ、いいけどさぁ・・・
現在、闘技場では決勝トーナメントのクジ引きがおこなわれている。1dayトーナメントは勝ち上がるのにどれだけ余力を残せるかが鍵だ。特に魔法職のオスカーとルバレスはできるだけ魔力を残しておきたい。
「一回戦は魔法職どうしの戦いになりましたね。順調に行けば二回戦はタッカーか・・・」
「あの男と決勝まで当たらないのはラッキーだな」
昨日と同じように、オスカーは余裕の笑みでこちらに手を振っている。相変わらず、肝の据わった男だ。
俺の見立てでは、決勝トーナメント進出者の中でも「魔王」スキルをもつ魔族の男は頭一つ、いや、二つは抜けている。オスカーが普通に戦っても勝つ可能性は極めて低いうえに、一回戦、二回戦は強敵。さあ、どうする、オスカー。
「一回戦、はじめ!」
ゴーン!
開始の銅鑼と共にルバレスが詠唱を始める。かなりの魔力を使った魔法のようで、詠唱も長い。昨日マーカスは、盾役の居ない決勝トーナメントには何らかの策があると言っていたが、攻撃力の高い魔法で一気に方を付けるつもりのようだ。
「大した策じゃなかったな」
「・・・ええ。どうやら優勝が目的ではなく、魔法を見せて登用されることに重きを置いているみたいですね」
それもまた一つの生き方だ。少なくとも、盾役さえいれば十分戦力になると予選でアピールは出来ている。
対するオスカーは魔法を使う様子もなく、ゆっくりとルバレスに近づいていく。観客も長い詠唱で大きな魔法を撃つのを察知し、ルバレスが初撃で決めるのか、それともオスカーが躱すのかを注目している。
ルバレスの詠唱が終わろうとしたとき、先にマーカスが無詠唱で魔法を放った。
「グラウンドピット」
オスカーが使ったのは地面に穴を開ける魔法。足元に穴が開き、ルバレスは体勢を崩すと詠唱は不完全な状態で途切れた。次の瞬間、オスカーは猛烈な勢いでルバレスとの距離を詰める。
「ガハッ!」
オスカーが繰り出した攻撃は魔法ではなく、距離を詰めたときの勢いをそのまま乗せたキック。その姿は日本人なら世代じゃなくても知っている、バッタみたいな仮面でオートバイに乗った主人公が最後に出す必殺技のアレだ。
体勢を崩したまま、オスカーのラ〇ダーキックをまともに食らったルバレスは、そのまま後ろに倒れて一回転。すかさず追撃に出ようしたオスカーは、そこで動きを止めた。
「それまで!」
なんと、ルバレスはオスカーのキック一発で気絶してしまった。肩透かしを食らった気分だが、以外にも観客は盛り上がっている。
「すげー!なんだ、あのキックは!」
「見事な蹴り技だ。美しい・・・」
「あいつ、魔法職じゃないのか?」
「飛んだ!今飛びましたよ、オスカーさん!」
「オスカー先生、かっこいいー!」
マジか!どの世界でも、こういう技は人気があるんだな・・・
「やるな、オスカー。あんな技を隠し持っていたとは」
はぁ?マーカス、お前まで何を言っているんだ?あんなの派手なだけで技の内に入らないだろ。避けられたら隙だらけじゃん。まあ、ルバレスには避けられない自信が、オスカーにはあったのだろうけど。
「魔力が温存できたのは良かったな・・・」
「魔法職だからといってルバレスの奴、身体強化を怠っていたようですね。フフフッ、帰ったらこの一戦をキャロに話してやらねば」
「う、うん。でも、キャロは身体強化・・・頑張っているよ」
何はともあれ、無事一回戦突破!
「ハルトマン男爵、ずしと言う食べ物はないのですか?」
おいおい、遂にリクエストし始めたぞ・・・シスターパトリ、あなたの辞書に遠慮という言葉は載っていないのですか?
「ずしとは、えどめーずしのことでしょうか?」
「そうです。デラクール神父からもの凄く美味しいと教えていただいて直ぐ買いに行ったのですが、どこぞの鬼畜が買い占めてしまったようで・・・その後は屋台を見つけることができず、まだ食べていないのです」
き、鬼畜・・・
「あの屋台はいいネタが入った時しか営業しませんからねぇ」
「貴重なずしを買い占める鬼畜には、いずれ慈悲の女神チセセラ様が罰を与えられるでしょう」
やめろー!しかし、食べ物の恨みとは恐ろしいな・・・俺はそっとマジックボックスから包みを一つ取り出す。
「ミル、これ、シスターパトリに持っていって」
「ダメだよ、トキオ先生。シスターを甘やかしちゃ」
「うん。でも、慈悲の女神チセセラ様から罰を与えられるのは嫌だから・・・」
不服そうではあったが、ミルがシスターパトリにずしの包みを持っていく。
「今朝偶然見つけまして、よかったら食べてください」
妹よ、お兄ちゃんは嘘をついてしまいました・・・
「いいのですか、トキオさん。では早速、いただきまーす!」
いいのですかと聞いたくせに、返事を待たず口に運んでしまうシスターパトリ。もう、逆に清々しい。
「美味っ!なんですかこれ、物凄く美味しいです。こんなにも美味しい物を独り占めするなんて、酷い人間が居たものです。絶対に地獄へ落ちますよ」
シスターパトリ、あなた自分の職が何なのかわかっていますか?軽々しく地獄へ落ちるなんて言っちゃダメでしょ。
妹よ、こんなことで俺に罰を与えるのはやめてください。
そうこうしているうちに、オスカーの二回戦が始まる時間。選手が入場すると闘技場は大歓声に包まれた。しかも、歓声の大半はオスカーに向けられたもの。一回戦のライ〇ーキックでオスカーは一躍人気者になってしまった。
「二回戦、はじめ!」
ゴーン!
最初から思っていたのだけど、銅鑼いる?「はじめ!」の声がかかってから鳴らしているけど、正確にはどっちが戦闘開始の合図なの?
くだらないことを考えていると、大剣使いのA級冒険者タッカーがオスカーに向かって駆け出す。さすがはA級、巨漢だが動きは悪くない。
「グラウンドピット」
ドテッ!
コケた。なんでこの世界の人は学習しないのかなぁ・・・
すかさずタッカーとの距離を詰めると、勢いそのままにジャンプ。〇イダーキックを期待する観客が大歓声で沸き立つがこれはブラフ。大剣を盾代わりにガードを固めたタッカーの前でくるりと一回転。
「コーティング」
タッカーが盾にした大剣を土でコーティング。これは上手い。鋭利さが失われるだけでなく、重量も増える。武器はバランスが命。剣士としての鍛錬も怠っていないオスカーはそのことをよくわかっている。
冷静に一旦距離をとるオスカー。一回戦の相手だった魔法職のルバレスとは違い、タッカーは屈強な剣士だ。ライ〇ーキックを決めたところで、「体術」のレベルが2のオスカーではタッカーを戦闘不能に持ち込むことは出来ない。
体勢を立て直したタッカーが、またも突進する。大剣の良いところは打撃武器としても使えるところ。A級冒険者、それも力自慢ともなれば、大剣で殴るだけでも十分にオスカーを戦闘不能に追い込める。
「グラウンドピット」
ドテッ!
またコケた。なぜ学ばない・・・
「ストーンバレット」
今度は距離を詰めながら石礫を連射するオスカー。これには堪らず、タッカーは大剣で顔をガードする。視界が遮断された一瞬をオスカーは見逃さない。
「アースステップス」
オスカーは魔法で自分とタッカーの間に高さ3メートル程の土の階段を生み出すと、勢いよく駆け上がる。石礫の攻撃が止んでタッカーの遮断された視界が元に戻ったときには、オスカーは最上段からジャンプしていた。
そこから繰り出した技は、またもやラ〇ダーキック。足りない威力を高所からの重力で補ったキックがタッカーの顎に炸裂する。脳を揺らされたタッカーはそのまま意識を失った。
「それまで!」
闘技場は割れんばかりの大歓声。特別席で観ていた俺以外の五人も大声でオスカーに称賛を送っている。何が琴線に触れたのか、この世界の人達はオスカーのライ〇ーキックが殊の外お気に入りの様子。なんだか俺だけが取り残された気分だ。
「やったー、オスカー先生が決勝進出だ!」
「飛んだ、さっきより高く飛びましたよ。凄いです、オスカーさん!」
俺がズレているのか?異性にモテないのはこの辺りの感覚がズレているからなのか?
『コタロー、今の技どう思う?』
『オスカーには申し訳ないですが、派手なだけで技と言えるレベルではないと思います』
だよねー。良かった、俺だけじゃなくて。
俺的に〇イダーキックはアレだが、オスカーは実に戦闘センスがある。派手な技で印象付けることによって本来驚くべきである無詠唱魔法を上手くカモフラージュしているだけでなく、手の内もほとんど見せていない。必要最低限の魔法しか使っておらず、まだ八割以上魔力を残している点も素晴らしい。学生時代、才能で遥か上を行くマーカスのライバルとなれたのも頷ける。
それにしても、この世界の冒険者はもう少し考えてから行動するべきだ。今まで戦った二人は基本ステータスや魔力量でオスカーを上回っているが戦術面で完封されている。勿論、これは試合であり、殺し合いではない。本当に命を懸けて戦えば結果はわからないが、それにしてもいただけない。
妹よ、俺は今日冒険者希望の子供達には訓練だけでなく、しっかり勉強もさせなければいけないと改めて思いました。




