第十一話 妹よ、俺は今弟子の家族にもてなされています。
「いやぁー、恐れ入った。これ程の強者が野に隠れていたとは。世界は広いな、タイラー。痛ててっ・・・」
「まったくです、父上。マーカスが手も足も出なかったのも納得です。痛ててっ・・・」
強引に挨拶という名の立ち合いをさせられた腹いせではないが、マーカスからもある程度叩きのめしておいた方が今後の為によいとのアドバイスがあったので、それなりに痛めつけておいた。だってこの人達、寸止めするとすかさず「もう一丁!」って言って終わりそうもなかったから・・・
まあ、流石はマーカスの父と兄。普段から稽古は怠っていないようで基本ステータスもそれなりに高い。「剣聖」のような特別なスキルは持っていないが兵士としては十分に強者の部類に入る。トロンの街のA級冒険者ウィルさんといい勝負をしそうなくらいの強さはあった。
「エリアヒール」
「「えっ!」」
「えっ?!」
なんで魔法を使っただけでこんなにも驚くの?逆にこっちがびっくりしちゃったじゃないか。
「トキオ殿、今のは・・・回復魔法か?」
「ええ、そうですけど・・・」
「無詠唱で回復魔法を・・・トキオ殿は凄腕のモンクではなかったのか・・・」
俺のことモンクだと思っていたの?いや、たしかに立ち合いでは武器を使わなかったけど、腰に刀を差しているでしょうが!
「トキオ殿は魔法職なのか?」
「一応冒険者組合にはオールラウンダーで登録しています。でも、剣と魔法どちらが得意かと問われれば、魔法ですね」
ハルトマン男爵とタイラーが目を合わせると、その視線をマーカスに送る。音は出ていなかったが、口の動きが「マジで?」だった。二人の問いにマーカスは静かに首肯する。
「我々は二人がかりで魔法職に、素手でボコられていたのか・・・」
落ち込んじゃった。ちょっとやり過ぎたかも・・・
「父上も兄上も安心してください。私も師匠と初めて立ち合いをさせていただいた時は刀を抜いてもらえませんでした。素手の師匠に手も足も出なかったのです。最後に一度だけ刀の技を出していただきましたが、目視すら出来ず私の剣は真っ二つに切られ、気づいた時には首筋に刀の刃が寸止めされていました」
「お前の剣でもか・・・」
「はい。私の剣技など師匠からすれば子供のチャンバラ遊びにすら劣ります。今は体の使い方を一から学ばせていただいています」
マーカスの言葉を聞き、ハルトマン男爵は黙り込んでしまう。反対にタイラーは声をあげた。
「ちょ、ちょっと待て、マーカス。と言うことは、トキオ殿は剣士としてもお前を遥かに凌ぐ使い手だということか?」
「兄上、蟻とドラゴンを比べるような発言は慎んでください。今の私など師匠との比較に値しません。私が千人居たところで、師匠が本気になれば瞬殺できます」
流石にそれは無い。魔法有ならいけるかもしれないけど。
「待て、待て。今トキオ殿は剣より魔法の方が得意だと言っていたぞ」
「師匠の魔法は我々が知っている魔法職とは格が違います。先日トロンの街で起きたスタンピードでも、師匠の魔法一撃で一万匹以上の魔獣が倒されました」
「はぁ?あり得んだろ、神話でもあるまいし」
まあ、正確には俺とコタローとサンセラ、三人の魔法だけどね。
「事実です。奇跡でも神話でもなく、師匠はそれだけの力をお持ちです。今後は軽々しく立ち合いなど希望しないでください」
マーカスはそれが言いたかったんだな。気を遣わせて悪いね。
遂にタイラーも言葉を発せられなくなる。そんな中、黙り込んでいたハルトマン男爵が意を決した表情で顔をあげた。嫌な予感がする・・・
「トキオ殿、いえ、トキオ師匠。私を弟子にしてください!」
「ズルいですぞ、父上。私も、私も弟子にしてください、トキオ師匠!」
ほら来た・・・勝手に師匠とか呼ぶとやめてもらえませんかねぇ・・・絶対に弟子入りなんて認めませんから!
場所を変え、現在は豪華な食事を五人で囲んでいる。客人扱いの俺とオスカーをハルトマン男爵とタイラー、そこにマーカスも加わってもてなしてくれている形だ。
先程ハルトマン男爵の夫人であり、マーカスの母親とも挨拶を交わしたが、こちらは至って常識人で感じの良い人だった。挨拶と言う名の立ち合いをこっぴどく叱られていたハルトマン男爵とタイラーを見て、なんとなくだが力関係も理解できたので、これは好機と弟子入りを懇願されて困っていること伝えたところ一喝してくれた。これからは困ったら夫人に相談だ。
「さあ、トキオ師匠。こんな物しかお出しできないのはお恥ずかしい限りですが、腹一杯食べてください。オスカー殿も遠慮なさらず」
「はい、どれも美味しそうですね。あと、俺のことはトキオでいいですよ」
俺はあなたの師匠ではありませんから。
「息子の師匠である以上、私にとっても師匠同然のお方。トキオ師匠と呼ばせてください」
「同じく。弟の師匠である以上、私にとっても師匠同然のお方です」
何理論?全然違うから。この二人、何が何でも俺を師匠と呼ぶつもりだな。どうせ俺がやめろと言っても聞かないから、あとで夫人に言いつけてやる。とりあえず、お腹が減ったからご飯食べよっと。
美味しく頂きました。マーカスに聞いていた通りパスタやピザなど前世のイタリア料理みたいなものが多く、味に馴染みがあって非常に食べやすかった。上質な小麦が手に入りやすいのだろうか。ただ、あまりにも知っている料理が多すぎる。上田誠(仮)の影響があるように思えてならない。以前予想したとおり上田誠(仮)が俺の生きた時代の二三十年前の人物であれば、丁度日本でイタリア料理が流行り始めた頃だ。
「どうでしたか、トキオ師匠。我が領地の名物料理は?」
「美味しかったです。特にパスタは絶品でした。昔からパスタやピザは名物だったのですか?」
「ええ。この辺りでは上質な小麦が取れますので、古くから食べられていました。ただ、今のように細い麺料理が主流になったのは百数十年前からだと言われています。当時、ある店がパスタを麺料理として売り出しブームになったそうで。チーズやトマトソースを使ったピザなどもその店発祥だと言われています」
絶対上田誠(仮)だ。その店に奴が関わっているのは間違いない。
「その店は今もあるのですか?」
「いいえ。ブームを起こして直ぐ閉店してしまったらしく、店の名前も、何処で開いていたかも定かではありません」
何らかの事情で閉店することはあるかもしれないが、場所も店名もわからないなんておかしいだろ。普通ブームの火付け役ってのは歴史に名を残すものだ。これも意図的に歴史から抹消されたと考えて間違いなさそうだな。
「そうだ!料理と言えば、リッカ教会が食堂を始めることになったのですが、許可などは必要ですか?」
「いえ、別段必要ありませんが・・・どうしてトキオ師匠が?」
「行きがかり上、移築を手伝うことになりまして」
「デラクール神父の店を移築するのですか?それはまた大掛かりな。新築した方が安上がりだと思いますが・・・」
そう考えるのが普通か。でも、建てるとなると時間が掛かるんだよなぁ・・・
「ハルトマン男爵、先生であれば一瞬で移築できます。セラ教会も先生が学校の敷地内に移築されましたから」
「はぁ?オスカー殿、それはどういう意味ですかな」
オスカーが学校建設から教会の移築までをハルトマン男爵とタイラーに話すが、俺の魔法をいまいち理解していない二人には想像が難しいらしく上手く伝わらない。元々武闘派の二人は魔法自体をほとんど使ったことが無いらしい。
「父上、まあ、良いではありませんか。アトル一と言われていたデラクール神父の店が復活して喜ばない者などおりませんよ。神父になると言って店を閉店させたときは父上も残念がっていたではありませんか」
「そうだな。またデラクール神父の料理が食べられるのなら民も大歓迎だろう。タイラー、何か困りごとがあれば相談に乗ってやれ。教会が出す食堂なのだから、税制面でも優遇してやれよ」
「はい。近いうちに顔を出してきます。教会運営で困ったことがあればいつでも話は聞くと言っているのに、デラクール神父は全然我々に相談してきませんから」
まったく政治に関心がないのはセラ教会と同じだな。まだ出来たばかりだから仕方のない部分はあるが、教会は街のシンボルでもあるのだから領主や街の有力者との関係も大事にしないと。
「俺からもお願いします。リッカ教会が営む食堂は一般のお客さんから得た収入を元に、空腹で苦しむ子供を食事で支援するのが目的です。リッカ教会へ行けば食事が貰える、空腹を我慢する必要も、犯罪に手を染める必要ないとできるだけ多くの子供達に知らせてください」
食堂の目的が子供の食事支援だと俺の口から聞いたハルトマン男爵は不機嫌そうに言う。
「なんであいつはそういう話を直ぐ私のところへ持ってこないのだ。腹を空かせた子供達もアトルの大切な民なのだから、領主が協力するのは当然だろうに。タイラー、私も一緒に行く。なんでも自分達だけの力でやろうとするなと、一度ガツンと言ってやらんとな。子供達を支援したいと思っているのがリッカ教会だけだと勘違いしているかもしれん。まったく!」
それはいい。シスターパトリから言われただけでなく、ハルトマン男爵からも同じようなことを言われれば、今後は何かと相談もしやすくなるだろう。高潔なのは結構だが、結局皺寄せがくるのは支援を受ける子供達だからな。
「ところで、トキオ師匠。それだけの力をお持ちなら武闘大会に参加されてはどうですか?今からでも主催者枠で出場は可能ですよ」
武闘大会?そういえばマーカスが言っていたな。
「マーカスは出ないのか?」
「はい・・・以前、優勝した際に何かと問題が起きましたので」
たしかに、主催者の親族が優勝しちゃ拙いよな・・・出来レースを疑われても仕方がない。だからと言って、俺が出るのもなぁ・・・正直、マーカスでも優勝できる大会に今更俺が出ても、面白くも何ともない。目立つのも嫌だし。
「オスカー。お前、出てみないか?」
「私が、ですか?」
武闘大会とは無縁だと思っていたのか、急に話を振られてオスカーが驚く。
「ここへ来る前に魔獣との戦闘はある程度身に付いたが、まだ対人戦で魔法を使うのには慣れていないだろ。いい経験になると思うんだが」
「なるほど。今のオスカーなら十分に優勝も狙える。何より、魔法職は対人戦の訓練がほとんどできないから良い機会だ。オスカー、折角だから出場してみてはどうだ」
「そうですね・・・しかし・・・」
学生時代はそれなりに戦えたオスカーだが、ブランクが長かったせいか煮え切らない。ここは餌をぶら下げてみるか。
「なあ、オスカー、以前お前と約束したマジックアイテムの件だが、実はもう完成させてあるんだ。トロンの街に戻ってから渡そうと思っていたんだが、武闘大会に出場するなら先に渡しておくぞ」
「本当ですか。出ます。出場させてください!」
食い付き抜群だなぁ・・・
「よし。それじゃあ明日の朝稽古の時に渡すから、早速マーカス相手に試してみろ」
「はい。ありがとうございます!」
フフフッ、今回オスカー用に作ったマジックアイテムはコタローに渡したネタ武器と違って、オスカーの弱点を補うことのできるなかなかの自信作だ。使いこなせるようになれば相当なアドバンテージになる筈。期待して待っていなさい。




