第九話 妹よ、俺は今リッカ教の今後の方針をアドバイスています。
「グスッ・・・美味しいです。本当に・・・美味しいです。なあ、ニモ」
「グスッ・・・はい。味も勿論のこと、健康にも気を使われているのがわかる、愛情に溢れたお弁当です・・・」
一つ一つのおかずを、ゆっくり味わいながら食べるデラクール神父とシスターニモ。一口食べる度に美味しいを連発すので、なかなか食が進まない。。折角美味しいお弁当を食べているのだからさ、泣きながら食べるのはやめてもらえませんかねぇ・・・
二人は三十分以上かけて、ようやくお弁当を食べ終わった。十分もかからず平らげたシスターパトリは、その間にお茶を二回もお代わりしている。
「ニモ、この空箱は綺麗に洗ってから、宝箱として厳重に保管しておこう」
「そうですね、神父。教会の宝として・・」
「やめなさい!」
慌てて二人のからお弁当の空き箱を取り上げ、マジックボックスに収納する。なんだよ「ほうばこ」って、ただのお弁当の空き箱だぞ・・・なんでもかんでも宝と付ければいい訳じゃないからな、まったく!
「トキオさん、私が食べた空箱も捨てておいてください」
何気ないシスターパトリ一言に怒気の含まれた視線を向けるデラクール神父とシスターニモ。いや、これに関してはシスターパトリの方が正しい。
「さて、お弁当を食べ終わったところで話の続きですが、もうお分かりですね。お二方がカミリッカさんに選ばたれ理由は」
「はい。「料理」スキルですね」
「そうです。勿論、お二方の人柄と篤い信仰心を評価されてでしょうが、決め手は高いレベルの「料理」スキルを持っていたからでしょう」
カミリッカさんの狙いはわかったが、問題はここからだ。
「教会の敷地に余裕はありますか?」
「はい。いずれはセラ教会さんのように孤児院を建てたいと考えておりますので、敷地に余裕はあります。ですが、資金が枯渇してしまい、未だ建設予定すら立っていないのが現状です。私の力不足です」
「街から支援金などは出ていないのですか?」
「いいえ。この教会は街からの支援金で建てていただきました」
んっ、だったら資金的には余裕があるんじゃないのか?デラクール神父は個人的な資産を持っていなかったのかな?
「私が準備していた金貨二千枚もすべて女神像に費やしてしまい、孤児院の建設に残すことができませんでした。今は銀行と交渉しておりますが、なかなか良い返事がもらえません。せめて、私が以前経営していた店に買い手がつけば状況も変わるのでしょうが・・・」
なんで、あんな巨大フィギュアに金貨二千枚もかかるんだよ。絶対におかしいだろ!
「女神像に金貨二千枚は高すぎる。騙されていませんか?」
「いいえ、その様なことはございません。教会を開くよう神託を賜った時も、トキオ様を助力せよと神託を賜った時も、言葉数の少なかった愛の女神カミリッカ様でしたが、女神像に関しては細部まで事細かな神託を賜りました。作っては直しを何度も繰り返し、ようやく愛の女神カミリッカ様もご納得頂ける女神像が出来上がった時には、準備した資金は底をついておりました。私の力不足です」
いや、違うでしょ!何をやらせてんだよ、カミリッカさんは・・・どうりで、やたら再現率が高いと思ったよ、あのフィギュア・・・
まあ、敷地もあるし、デラクール神父の店が売れていないのは結果的にラッキーだ。
「カミリッカさんは教会の敷地内で、お二方に食堂をださせたいのだと思います」
「食堂ですか・・・」
「はい。セラ教会が治療院を併設していたように、この教会に食堂を経営させ運営資金を得ると同時に、満足に食事を摂ることのできない子供達や貧困層への支援を目的とした食堂です」
お腹がすいて泣いている子供達をカミリッカさんが放っておける訳がない。セラ教会とは順序が逆になるが、食事目的で子供達が教会へ足を運ぶようになれば、食堂で資金が貯まる前に街も孤児院建設に動く可能性だってある。
「・・・申し訳ありません。愛の女神カミリッカ様に選んでいただき、トキオ様に今後の方針を示していただいたにもかかわらず・・・私には・・・食堂を建てる力がありません。期待にそぐえず・・・本当に申し訳ございません」
マザーループと同じだ。デラクール神父も他人を当てにすると考えを端から持っていない。何もかも、全て自分でしなければならないと思っている。
「問題ありません。デラクール神父が以前経営していた店を教会の敷地内へ移築しましょう」
「その資金が・・・ありません」
「俺がやるので資金は必要ありませんよ」
「な、なりません。トキオ様に資金を出させるなど、愛の女神カミリッカ様への冒涜です!」
なぜそうなる。仮に俺が金を出すとしても、誰よりもカミリッカさんの世話になったのだから当然だろ。まあ、金を出すわけじゃないけれど。
「デラクール神父。私からよろしいでしょか?」
「はい、なんでしょうか?」
デラクール神父がたじろぐ。声を掛けたシスターパトリは、先程までとはまるで違い厳しい表情をしいた。
「愛を持って多くの人々を救いたいと考えているのが、あなた方二人だけだとお思いですか?」
「それは、どういう意味でしょうか?」
「愛によって人々を救うのは、リッカ教だけの特権ではないと言っているのです。多くの方が子供達の将来を憂いています。弱き者に手を差し伸べたいと思っています。その思いを拒否する権利は誰にもありません」
「私が・・・」
「一人の人間が出来ることなど、たかが知れています。何もかも自分達だけで出来るなどと思うのは間違いです」
「シスターパトリ・・・」
悲壮感が抜け、真っ直ぐにシスターパトリを見つめるデラクール神父。そんな神父に、シスターパトリは満面の笑みを返し、頭を下げる。
「生意気を言って申し訳ございません。今言った言葉は、マザーと私がトキオさんからお叱りを受けた時の言葉です」
「叱ってなどいません。意見を聞いていただいただけです。何度も言っていますが、俺はお二方を叱れるような人間ではありませんよ!」
「そういう事にしておきます」
何が「そういう事にしておきます」だよ。毎回、毎回、俺に叱られたって言っているくせに。もしかして、根に持ってんの?
「ありがとうございました。今の言葉、しかと胸の内にとどめておきます。ですが、流石に店の移築となると相当な資金が・・・下手をすると新築するより金貨が必要になるかもしれません」
普通はそう考えるわなぁ。説明しづらいんだよな、魔法とか基本ステータスが関わってくるから。
「大丈夫です、資金はかかりません。文字通り、俺が移築させますから」
「それは、どういうことでしょうか・・・」
どう説明したものか。俺の力をある程度知っていたマザーループ達とは勝手が違うからなぁ・・・
えっ、なんかシスターパトリがキラキラした瞳でこっちを見てるいですけど。私に任せろってこと。大丈夫ですか?とりあえず頷いてみる。
「お二方はセラ教会が学校と一緒に移転したのはご存じですか?」
「はい。移転の際、マザーループより書状を受け取っています」
そっか。教会を移転するには色々なところに知らせなきゃいけなかったのか。マザーループが全部やっていてくれたんだ。
「学校は新築ですが、教会はそのままの建物を移築しました。私達が孤児院の子供達を連れて徒歩で移動している最中に、トキオさんが教会を移築してくださったのです」
その説明では余計混乱するんじゃないですか?
ほら、デラクール神父とシスターニモが頭の上にクエスチョンマークを浮かべていますよ。それなのに、どうしてシスターパトリは勝ち誇った表情をしているのですか?あまりいい予感がしないのですが・・・
「トキオさんは物凄い魔法が使えます。しかも、滅茶苦茶力持ちです。さらに、この国が丸々入るくらいのマジックボックス持ちです。だから、お店の移築なんて楽勝です」
下手!説明超下手!どうしてその説明でドヤ顔できるの?
「なるほど。トキオ様なら、人知を超越した力をお持ちなのも頷けます」
伝わった!なんで!俺がズレてるのか?
「ちなみに、トキオさんは剣を持っても超絶強いです。先程一緒に挨拶したマーカスさんは知っていますよね?」
「勿論です。アトルの街でS級冒険者マーカス ハルトマン殿を知らぬ者など一人もおりません。近接戦では最強と呼び声高く「聖剣」スキルの保持者としても有名です」
「そのマーカスさんですが、トキオさんとの立ち合いでボコボコにされました。今はトキオさんに弟子入りしてトロンの街に拠点を移しています。共に腕を磨きながら学校で冒険者希望の生徒達の臨時講師をしてくれています」
「なんと、あのマーカス ハルトマン殿をボコボコとは・・・」
やめとけ!噂には尾ひれが付くから。余計なことを言いふらすんじゃないよ・・・
「他にも、素行の悪い冒険者を全員シメたり、悪い銀行をとっちめたり、裏組織を壊滅させて正義の軍団に変えちゃったり・・」
あかん、お調子者が本領発揮しやがった。そろそろ止めないと。シスターニモの目がキラキラし始めているし・・・
「はい、はい、はい、シスターパトリ、俺の話は、もういいですから」
「えぇぇぇっ、ここからが面白いところじゃないですか。スタンピード編を語らずして、トキオさんの語り部は名乗れません」
名乗るな、あんたシスターだろ!なんだよ、スタンピード編って!勝手に人の人生を章分けするんじゃないよ!
「早速、店の販売を停止してきてください。土地はそのまま売りに出してもらってかまいません。移築は目立たない夜の方がいいですね。今晩は用事がありますので、明日の夜にでもおこないましょう。店の設置場所を決めておいてください」
「は、はい、わかりました。よろしくお願いいたします」
デラクール神父とシスターニモは今一この状況が理解できていないかもしれないが、移築してしまえばどうとでもなるだろう。あとは・・・これを渡せばいいか。
「これは寄付金です。金貨千八百枚あります」
「き、きき、金貨千八百枚!頂けません。頂ける訳がありません!」
まあ、そう来るわな。シスターニモに関しては、完全に時が止まっている。でも、受け取ってもらわなければ困る。
「この金額はセラ教会に寄付したのと同額です。大恩あるカミリッカさん、いえ、愛の女神カミリッカ様の教会に、セラ教会よりも少ない寄付額では師匠の顔に泥を塗ってしまいます。どうぞ、遠慮なさらず受け取ってください」
「しかし・・・」
額が額だけに、デラクール神父が躊躇するのもわかる。さっきから貰っていいものかとシスターパトリに目で問いかけている。
「安心してください。超絶お金持ちのトキオさんにとって金貨千八百枚など、はした金です」
言い方!あと、「超絶」は止めろ。子供達がまねするだろうが!
なんとか寄付金も受け取ってもらえた。今日はこんなところか。あれ、何か大切なことを忘れているような気がする・・・あっ、そうだ、「誓約」がちゃんと解除されているか確認できていない。
「そろそろ、お暇しようと思いますが、カミリッカさんから俺宛てに伝言はありませんか?」
「はい、賜っております。トキオ様が立ち去る直前に伝えよとの神託を」
「お願いします」
「愛の女神カミリッカ様の御言葉をそのままお伝えします。「その必要はありません」以上です」
そう来ましたか、カミリッカさん。素直に解除してくれないのではないかと薄々感じてはいましたよ。いいでしょう、わかりました。まだ数日は滞在する予定なので、また作戦を変更して伺いますよ。この件に関して、カミリッカさんと俺は完全に敵対していますから、覚悟しておいてくださいね。
「俺はマーカス達とハルトマン邸に挨拶してきます。今晩はそのまま宿泊させてもらう予定ですので、一晩だけミルをお願いしますね」
アトルの街に滞在中、シスターパトリはリッカ教会、オスカーとマーカスはハルトマン邸、俺とミルは初日を除いて宿屋に泊まる予定だ。教会からもマーカスからも何日でも泊っていってほしいと言ってもらったが、折角他の街まで来たんだからミルには宿屋も含め色々な経験をさせたい。俺もこの世界に来てから一度も宿屋には泊まったことがないので少し楽しみにしている。
「それでは、明日の夜伺います」
「お待ちください、トキオ様。宝書をお忘れです」
だから、宝書って何?そもそも、それは俺が「創造」で作ったコピーだし。
「ああ、それは差し上げます。強化魔法をかけてありますので劣化もしません」
「よ、よろしいのですか。ありがとうございます。これは当教会の宝として厳重に保管せねば。ニモ、すぐに金庫の一番奥を開けてくれ」
うん、うん、じゃないよ、シスターニモも。
「駄目ですよ、金庫の奥になんてしまっちゃ。もう忘れてしまったのですか?お二方がすべきことは、そのレシピに乗った料理を再現することですよ。どうしても厳重に保管したいのであれば、せめて全ページ書き写してからにしてくださいね」
「はっ、そうでした。あまりの宝書を前に、つい・・」
「それはカミリッカさんが書いた原本ではなく、俺がスキルで作ったコピーですよ」
「はい。愛の女神カミリッカ様が書かれた原本を、弟子であるトキオ様が神の如きスキルで複製した、この世界に二つとない宝書です。命に代えても守るべき、リッカ教最高の宝です」
もういいや、好きにしてくださいな。カミリッカさんもお弁当の空き箱を後生大事に持ち続けられるよりはマシだろうし・・・
妹よ、始めて行く教会は毎回もの凄く疲れます。




