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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第五章 アトルの街編

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第五話 妹よ、俺は今森の中で特訓しています。

 

「トキオ先生、凄いね。ドンドン他の馬車を追い抜いていくよ!」


「力持ちのサスケにこの馬車の性能が加われば、無理せずこれだけの速度が出せるんだ」


 この世界の馬車が速度を出せないのは、揺れの激しさと横の動きに弱いためだ。逆に言えば、その二点が改善せれば速度は出せる。


「この馬車は本当に凄いです。私がトロンの街に来た時の馬車は凄く揺れて、お尻が痛くて大変でした」


「先生の作られたサスペンションなる装置のおかげですね。これは馬車の革命ですよ!」


 よせやい、褒めたってなにも出ないぜ!


「みんな、みたらし団子食べる?」


「ダメだよ、トキオ先生。今おやつなんて食べたら、お昼ご飯が食べられなくなっちゃう」


「そ、そうだね・・・」


 叱られました・・・



 そろそろ十二時だし、昼食を摂る場所探しでもするか。


『コタロー、頼む』


『御意』


 街道沿いには数十キロメートル置きに開けた場所が整備されている。前世のパーキングエリアの様に飲食店や自販機が有る訳ではないが気持ち程度の魔獣除け結界が張られており、馬に休息を取らせることやテントを張って宿泊することができる。何台もの馬車が利用して人や護衛の冒険者も集まる為、野党や盗賊対策にもなる。

 馬車の旅では貴族や平民に関係なく必要不可欠な場所だが、今回の旅で利用する予定はない。コタローを先行させたのは街道沿いにある休憩所を探す為ではなく、本来は危険とされている街道を離れた森の中にある開けた場所を探す為だ。

 理由は二つ。一つはオスカーのレベル上げ、もう一つは魔獣の大森林以外の森を見ておきたいから。その為に移動を五日間みている。その気になれば、サスケの走力に俺の回復魔法で、アトルまでは三日もあれば行ける。


『トキオ様。次の休憩所を越えて五分くらいのところに巨木が二本あります。そこを左折して十五分程走った所に良い場所があります』


『わかった。馬車が通れるようにしておいてくれ』


『御意』


「マーカス。次の休憩所を越えて五分くらい進んだところに巨木が二本あるから、そこを左折してくれ」


「了解しました」


 オスカーのレベル上げをすることはマーカスにも伝えてあるので、別段何かを質問することもなく了承する。


「えっ、森に入るのですか?」


 質問したのはシスターパトリ。


「ええ。昼食後からオスカーのレベル上げをしますので。シスターパトリとミルの安全は俺とマーカスが守るので安心してください」


「はい・・・」


 そりゃそうだよな・・・シスターパトリは俺の強さを知ってはいるが、だからといって危険な森へ入るのもへっちゃら、とはいかない。


「大丈夫だよ、シスター。この世界でトキオ先生の近くより安全な場所なんて無いから」


 ミルには凄く信頼されている・・・


「それもそうか・・・逆に普段は行くことのできない危険な森でも、トキオさんと一緒なら行けちゃうんだからラッキーかも」


「うん。わたし達は運がいい」


 信頼してくれるのは嬉しいのだが、シスターパトリは子供達を預かる身としてそれでいいのか?



 しばらく進むと大きな木が二本。そこを左折し森へ向かう。緊張しているのかオスカーがやけにおとなしい。


「馬車は一旦マジックボックスにしまわれますか?」


「いや、道があるからそのまま進んでくれ」


「道?・・・あっ!」


 不思議そうにこちらを見るマーカスの視線が一瞬俺の肩に・・・察したな。


 まっすぐ進むと、森にはちょうど馬車一台が通れるくらいの道。そのまま森へ入り、十五分程進んで開けた場所に出る。俺の肩にコタローが戻ったところで、開けた場所一帯に結界を張る。


「よーし、ここでお昼ご飯を食べるよ」


「「はーい!」」


 元気に手をあげて返事をするミルとシスターパトリ。相変わらず顔を強張らせているオスカー。


 緊張し過ぎだろ。オスカーよ、お前はそんなキャラじゃないぞ!



 ♢ ♢ ♢



 昼食はラーラさんが作ってくれた卵サンド。なんとこの卵、学校で飼育している鶏が生んだものなのだ。美味しくいただきました、ごちそうさま。


「さて、やるか」


「は、はい!」


 だから、緊張し過ぎだって。そんなんじゃ本来の力が出せないぞ。流石に見かねたのか、マーカスがオスカーの緊張をほぐそうと声を掛ける。


「お前なら大丈夫だよ、オスカー。学生時代に何度も魔獣とは戦ったことがあるじゃないか」


「わかってはいるのだが、魔法で戦うのは初めてだから緊張するなと言われても無理だ」


 貴族にとって戦いは切っても切り離せないもの。王都の学校では魔獣との戦い方も教えている。学生時代はマーカスに続く武勇を誇っていたオスカーも当然参加していた。それ程強い魔獣ではないが、オスカーは十分に対応できていたらしい。

 二人共、王都の学校はつまらないと言っていたが、結構色々なことを教えてくれるじゃないか。


 ちなみに、オスカーのステータスはこちら。



 名前 オスカー フォン ブロイ(26)

 レベル 10

 種族 人間

 性別 男


 基本ステータス

 体力 380/380

 魔力 710/710

 筋力 370

 耐久 340

 俊敏 380

 器用 690

 知能 700

 幸運 400


 魔法

 風  D

 土  C

 空  E


 スキル

 剣術4 芸術3 音楽3 体術2 交渉2 弓術1 魔力消費軽減1



 魔力と器用が高いのは俺の講義を受けるようになってから上がったもの。風属性と土属性が上がったのも最近だ。それに比べて王都の学校で剣術や戦い方を学んでいたわりには体力系の基本ステータスが低い気がする。教え方が良くないのか、普通はこんなものなのか、特殊な方法でしか基本ステータスを上げたことのない俺には判断がつかない。

 スキルは結構持っているが、戦闘に役立ちそうなのは「剣術」と「魔力消費軽減」くらいかな。キャロも持っていた「魔力消費軽減」は相当使えるスキルだから是非伸ばしてほしい。


「恐怖の感情は必要なものだ。だが、それに支配されては駄目だぞ。最初はオスカーでも十分に対応できる魔獣だけだから、戦うというよりも学んだ魔法を試してみるくらいの気持ちでいけばいい」


「そうですね。街の中に居ては、学んだ魔法もなかなか使えませんし」


「そうそう。俺の魔法と自分の能力を信じろ」


「はい!」


 ほお、急に落ち着きを取り戻したな。それじゃあ・・・と、その前に。


「シスターパトリとミルは、念のためこの中で見学してください」


 マジックボックスから、毎度お馴染みの丸太小屋を出し設置する。普段俺やサンセラが使っているものより大きいく部屋もいくつかある。旅の間、寝泊まりする予定で作っておきましたよ。


「ヒエェェ、家が出てきた!」


 シスターパトリ、いつも良いリアクションありがとうございます。


「シスター、驚き過ぎだよ。トキオ先生がやることなんだから・・・」


「そっか、トキオさんだもんね。ミル、二人で家の中を見に行きましょう」


「うん」


 楽しそうに女子2人が丸太小屋へ入っていく。シスターパトリって少し変わった人だと思うのは俺だけだろうか・・・



『コタロー。とりあえず、ヘルハウンド程度の魔獣を数匹頼む』


『御意』


 すでに俺とコタローはこの辺りに居た魔獣を「索敵」で補足している。コタローに追い立てさせてから結界の一部を開き中に誘い込む算段だ。


「来るぞ。マーカスはもしもの時、すぐ戦闘に参加できる距離で待機しろ」


「「はい!」」


 数秒後、俺のリクエスト通り三匹のヘルハウンドが結界内に入り込む。俺とマーカスは少し離れた場所で気配を殺し戦況を見守る。


 ヘルハウンドはオスカーを敵とみなし、三匹で連携を取って周りを囲む。暫く睨み合いが続いた後、一匹のヘルハウンドがオスカーに飛び掛かった。


「攻撃しながらも、常に防御を忘れるな。二つのことを同時に考えろ」


 オスカーは返事をしない。それでいい。


「ウインドカッター」

「アースウォール」


 飛び掛かかってきたヘルハウンドをウインドカッターで切り伏せると同時に、後方から狙っている二匹の前に土の壁を作り牽制する。土の壁を迂回した二匹は最初に飛び掛かっていった仲間が既にこと切れていることで、瞬時に単体での攻撃を止め二体同時にオスカーへ襲い掛かる。


「サンドストーム」


 砂嵐がヘルハウンドの視界を奪う。二匹のヘルハウンドはお互いの位置を見失わないよう、近距離で防御姿勢をとる。


「疾風の石槍」


 石の槍が高速で発射されると、二匹のヘルハウンドを同時に撃ち抜き絶命させた。



 先程まで緊張していたとは思えない見事な戦いだ。特にサンドストームと疾風の石槍という魔法は、この世界の感覚ではレベル10で使える魔法ではない。どちらも風属性と土属性を掛け合わせることで魔力消費を押さえつつ威力は倍増している。


「マジか、凄いじゃないかオスカー!なんだよ、最後の槍の威力は!あんなの上位ランクの魔法職でもそうそう出せる奴はいないぞ!」


 珍しくマーカスが興奮している。剣士として戦うオスカーを見たことはあっても、魔法職のオスカーは初めてだからわからなくもない。親友が強くなったことを喜ぶのもいいが、その前に今の戦いを振り返っておくべきだ。


「オスカー。なぜ一匹目の様に、最後もウインドカッターを使わなかったんだ?」


「はい。今の自分が出せるウインドカッターの威力ではヘルハウンドの急所である首を一発で切り落とさないと絶命には至りません。二匹同時にそれをおこなうのは今の自分では確率が低過ぎます」


「最後の槍を使う前にサンドストームを使ったのは、敵の視界を奪うためか?」


「視界を奪いたかったというよりも、普段群れで行動するヘルハウンドの習性上、身を近づけて互いを守り合うという習性を利用したくて使いました。ヘルハウンドはそれ程大きな魔獣ではありませんので、疾風の石槍であれば急所に関係なく貫きさえすれば絶命させられます」


「残りの魔力は?」


「正確には分かりませんが、七割程度は残せたと思います」


 滅茶苦茶冷静じゃないか。何年もの間、戦いの場から身を引いていたとは思えないぞ。これは鍛えがいがある。


「オスカー」


「はい」


「百点!」


「本当ですか、ありがとうございます!」


 よほど嬉しかった、今度はオスカーの方からマーカスの肩を抱いて喜び合っている。なんだか青春しているみたいで少しだけ羨ましい。折角だからマーカスにも話をしておこう。


「マーカス、今の戦いでオスカーはもう一つ切り札を隠し持っていた。なんだかわかるか?」


「・・・わかりません」


 魔法に関してはオスカーに後れをとっているマーカスは、きっとオスカーが見たことのない魔法を隠し持っていると誤解している。


「お前が、オスカーと戦うならどうする?」


「兎に角、距離を詰めます。身体能力を生かして自分の距離で戦うことを考えます」


「たしかにマーカス程の剣士なら、距離を詰めた時点でオスカーに勝ち目はない。しかし、並の剣士なら距離を詰めただけではオスカーを倒すことはできない。なぜならオスカーは、そこそこ剣も使えるからだ。剣も使えることが、オスカーの切り札になる」


「なるほど・・・あれだけの魔法を使えるオスカーが剣を振れるとは思わない。近付きさえすれば勝てると踏んで安易に距離を詰めれば、剣で不意打ちを食らう」


「俺が何を言いたいかわかるな?」


「はい。オスカーにとっての剣は、私にとっての魔法。オスカー程ではなくても、そこそこ魔法が使えるだけで私には大きな武器となる」


「その通りだ。だからこそ、マーカスは魔法を、オスカーは剣を学び続けなければならない。敵からすれば、これ程厄介な相手は居ないからな」


「その完全体が師匠なのですね」


「それは違う」


「「えっ!」」


 二人は俺がこの世界最強と信じて疑わない。それもまた固定観念になりかねない。


「少なくとも、俺は自分より強い者を二人は知っている。この世界に俺より強い者が何人いても俺は驚かない」


 まあ、俺が知っている俺より強い者ってのは、カミリッカさんとコタローだから戦うことは無いんだけどね。


「オスカー、次はもう少し数を増やすぞ。剣は最後、絶体絶命になるまで使うなよ」


「はい!」


「マーカス、お前はオスカーの戦い方から魔法職対策を考えつつ、自分の切り札となりえる魔法を想像しろ。今はまだ使えなくてもいい。いつかこんな魔法が使えたら戦闘の役に立つと考えておくだけで、魔法の成長につながる」


「はい!」


 限界なんて無い。有ったとしてもまだまだ遥か先だ。オスカーもマーカスも学び始めたばかりなのだから。それは俺も同じだ。


『コタロー、次は五匹だ』


『御意』



 妹よ、俺の旅は始まったばかりです。


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