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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第五章 アトルの街編

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第三話 妹よ、俺は今旅の準備をしています。

 

 毎日忙しく過ごしている。朝はマーカスと稽古、午前中は授業、午後からは冒険者希望組の特訓や魔法の講義、夜はトロンの盾に読み書き計算を教える。空いた時間に動物の世話や子供達の相談に乗っていると、一日はあっという間に終わってしまう。

 先日、子供達の制服が夏服に変った。初めて教会を訪れた日に比べ少しだけ背の高くなった子供達を見ていると、月日の流れを感じる。見違えるほど強くなったマーカス。好きなことを見つけ始めた年中組。目標に向かって歩み続ける年長組。基本ステータスが倍以上になった冒険者希望組。半分以上が既に卒業したトロンの盾。確実に成長していく周りの人々に俺だけが取り残されているのではと、奇妙な感覚を覚える。


 いかん、いかん。センチな気持ちに浸っている場合ではない。今日も子供達が教室で待っているのだ。朝のホームルームには少し早いが、教室に向かうとするか。




「にじゅうなな、にじゅうはち、にじゅうきゅう・・・」


「できた!」


「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」


 なにやら騒がしい教室をそっと覗いてみると、子供達がミルを囲んで歓声をあげている。どうやらキューブパズルを完成させたらしい。


「凄いよ、ミルちゃん!六面揃えるだけでも凄いのに、三十秒を切るなんて」


 現在、学校では空前のキューブパズルブームだ。元は空間魔法を学ぶために作ったキューブパズルだったが、ミルの助言を受け各クラスに十個ずつ配布した。前世でも大ブームを巻き起こしただけはあって、子供達が食い付く、食い付く。マジで売り出そうかな・・・

 やはりと言うか、他の子が苦労する中、ミルは俺が渡した翌日には六面を完成させていた。それでも飽きずに、授業間の休み時間にカチャカチャ回している姿をよく見る。


「みんな、席に着いて」


「「「はーい!」」」


 俺の言葉に皆が席に着く。うん、素直な良い子達だ。


「おはようございます」


「「「おはようございます!」」」


 元気に朝の挨拶を交わしみんなの顔を見渡す。体調の悪い子は居なさそうだ。


「はい、はーい。トキオ先生」


 元気な子供達の中にあって、特に元気なミーコが大きな声を出しながら手をあげる。ここへ来た時、母親のうしろに隠れていた面影は微塵もない。あの日、友達が欲しいと言ったミーコが、今はクラスの元気印として大活躍だ。


「はい、ミーコ。どうしたの?」


「あのね、ミルちゃん凄いんだよ。さっき、キューブを六面揃えるのに三十秒掛からなかったの」


 知っているよ、見ていたから。


「それは凄いな。みんなはどれくらい揃えられるようになった?」


「六面揃えられるのはミルちゃんだけ。でもね、マリ姉とフーちゃんが四面まで行った。わたしはまだ二面しかできないけど。トキオ先生は六面揃えられますか?」


 ぬぬ、それは俺への挑戦状か?ミーコの言葉に乗って、ミルがカチャカチャ回しながら嬉しそうにキューブを持ってくる。


「じゃあ、挑戦してみようかな。ミルが俺に手渡したらスターだ。何秒掛かるか、みんなで数えてね」


 ミルがカチャカチャ回している間、両手で受け取る体制をとり目を閉じる。キューブを回す音が止まり、俺の手に置かれたと同時に「スタート」の声が掛かった。


「「「いーち、に・・」」」


「できた!」


 フフフッ、驚きのあまり全員言葉を失っている。俺は子供相手の遊びでも手を抜かないタイプの大人なのだよ。


「す、凄い・・・やっぱり、トキオ先生は超絶凄い!」


「アハハハハッ・・・」


 ちょっとやり過ぎたかな。実のところキューブパズルにはコツがあり、俺とミルが正解へたどり着く時間はそれ程大差ない。差があるのは基本ステータス。中でも器用のステータスが最も高い俺は、この手のものが得意なだけだ。ミルの言葉を聞いて他の子供達も騒ぎ始める。手品に近い感覚に見えたのかな?


「はーい、みんな静かに。ミルも席に戻って」


「はい」


 六面揃ったキューブパズルをミルに渡すと、宝物を貰ったかのように両手で包み込んで席に戻る。


 さて、一時間目の授業を始めますか!



 ♢ ♢ ♢



『サスケの奴、上手くやっておるようですね』


「ああ、ようやくノーラン達も馬への恐怖心が無くなってきたみたいだな」


 午後からは光属性魔法の講義予定だったが、怪我をした冒険者が運び込まれてきたのでマザーループとシスターパトリは治療に向かい、ネルは見学している。現場での経験は何よりも勉強になるので講義の予定を変更した。緊急の社会見学だ。よって、空いた時間でコタローと冒険者希望組の乗馬訓練を見学中。


「下を見ない。視線は常に正面だ。馬を信じろ」


「「「はい!」」」


 乗馬の講師はオスカーが務めている。オスカー自身も馬に乗って講師をしているが、学校の馬ではなくオスカーが個人で所有している馬だ。乗馬の授業がある日、オスカーは馬で学校に出勤してくる。

 オスカーの乗馬技術は非常に高い。王都の学校で乗馬は必須科目、オスカーとマーカスは成績トップを争っていたらしい。二人共学校に通う前から乗馬は家で叩き込まれていたので習う必要は無く、非常に退屈な時間だったと同じ感想を語っていた。


「安心して身を任せろ。馬は頭の良い動物だ、お前達が乗馬に慣れていないこともわかっている」


「「「はい!」」」


 人生とは不思議なものだ。学生時代は退屈に感じていた授業が、今こうして役に立っている。オスカーもまさか、こんな形で乗馬を教えることになるなど想像もしていなかっただろう。


『まだ、乗っているというより、乗せてもらっているといった感じですね』


「焦る必要は無いさ。オスカーとサスケに任せておけば問題ない」


 今はまだオスカー監視の下、ゆっくりと歩く馬にまたがっている事しかできない生徒達だが、数カ月もすれば颯爽と馬を操る姿が想像できる。この世界はやる気のある者には優しい世界だ。なにせ、この世界を造ったのはあの優しい創造神様なのだから。



 乗馬訓練が終わった後、生徒たちの手のより馬房に戻った三頭の馬には質の良い餌が与えられた。


『お疲れ様。サスケ、少し相談したい事があるのだが』


『はい、ご主人様。私で力になれることがあれば、何なりと』


 サスケは俺が思った以上に賢い馬だ。当初は俺に良いところを見せようと、子供達の乗馬技術を強引に上げたりしないか心配だったが、まったくそんなところはなかった。俺の要望を理解し確実に乗馬技術が身に付くよう、時間をかけ丁寧に取り組んでくれている。


『来月、遠くの街に行く予定だ。サスケに馬車を引いてもらいたいのだが、何人までならいける?』


『十人でも、二十人でも可能です。ですが、それでは私の能力が露見してご主人様にご迷惑を掛けてしまう恐れがありますので、一頭で馬車を引くのであれば多くても五六人までがよろしいかと』


 なるほど、サスケの言う通りだ。こいつは本当に賢い。


『今のところ三人、増えても四人といったところだ』


『それならば、何の問題もありません』


 俺とアトル出身のマーカス。セラ教会からマザーループの名代としてシスターパトリが行くことは決まっている。オスカーも連れていくつもりだ。


『それじゃあ、来月な。それまでは引き続き子供達を頼む』


『はい、お任せください。楽しみに待っております』


 行ったことのない場所へ転移魔法は使えない。この世界初めての旅だ。前世でも修学旅行以外で旅行をした経験はほとんどないから、ゆっくり行くのも楽しいだろう。オスカーが同行できるのであれば、行きでレベル上げもしたいと考えている。なぜ行きだけかって、帰りは転移魔法で一瞬だからだよ。

 さて、時間のあるうちに馬車の制作に取り掛かるか。まずはこの世界でどんな馬車が主流かの視察だな。




 ということで、久しぶりに街ブラへ繰り出す。スタンピードから随分経つが街の活気は衰えていない。それどころか、さらに人通りが増えている。孤児院を大通りから移転させて正解だったな。

 大通りを多くの馬車が行き交うが、荷馬車ばかりなのであまり参考にならない。当然、馬車屋なんて看板も見当たらない。前世の自動車ディーラーみたいな店もない。馬車ってどこで買うの?

 わからない時は知っている人に聞けばいいのだ。


「ご苦労様です、マイヤーさん」


「おう、トキオじゃねぇか。こんな昼間に珍しいな」


 トロンの街でわからないことがあれば、とりあえずマイヤーさん。


「教えて欲しいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」


「もう直ぐ交代だから、休憩所で待っていてくれ」


 休憩所に入ると、後を追うようにマイヤーさんも入ってきた。同僚の方が気をまわしてくれたようだ。


「ほら、飲め」


 マイヤーさんが出してくれたのは、黄金色の液体。


「これ、麦茶じゃないですか!」


「お前、こんなの好きだろ?」


「はい。探しに行こうと思っていたんですよ」


「この前と同じ店だ。帰りにでも寄るといい」


 やはりあの店は麦茶も取り扱っていたか。前世と同じで、この世界でも麦茶は夏に飲むんだな。これもセイジョウデンが普及させたっぽい。


「それで。まさか麦茶のことを聞きにきたわけでもあるまい」


「そうだ、そうだ。実はですね・・」


 馬車を作る参考にしたいので大通りを散策していたのだが見つけられなかったことを話し、何処に売っているかと聞いてみる。


「お前なぁ・・・馬車なんて売っているわけないだろ。職人に頼んで作ってもらうんだよ」


 なるほど。用途や引く馬の頭数によってサイズも変わるし、貴族などは装飾にもこだわるから考えてみれば当然か。でも、中古馬車屋くらいあってもいいと思うけど・・・あれ、これって商売になるんじゃない。なんだろう、最近商売のアイデアがよく浮かんでくる。これは神様が商売をしろと言っているのだろうか?


「家具なんかをメインに作っている工房が馬車も請け負っている。でも、今注文が入っているかはわからんぞ。馬車を見たいだけなら、工房へいくよりブロイ公爵に見せてもらった方が早いんじゃないか?」


「いえ、俺が作りたいのは貴族用の派手な馬車ではないですから」


「軍隊の移動用馬車もあるだろうが。そっちは装飾なんてねえよ」


「なるほど、流石マイヤーさん!」


「大袈裟だっての。お前、賢いのに時々抜けたところがあるな」


 いい話が聞けたところで立ち上がって麦茶をいっきに飲み干す。美味し!


「では、早速オスカーに頼んでアポを取ってみます」


「直接行きゃあいいじゃねえか。お前の訪問なら公爵様も断れねえだろ」


「親しき中にも礼儀あり、ですよ」


「はぁ、律儀なこって。まあ、そこがお前の良いところでもあるか・・・」


 休憩所を後にする。わざわざ外まで見送りに出てくれるマイヤーさんも、中々の律義者ですよ。


「ありがとうございました。あっ、そうだ、これよかったら使ってください」


「んっ、腕輪か・・・って、これ時計じゃねえか!」


 時計が無いと何かと不便なので最近仕事用に作ったのだが、それを見たオスカーがえらく羨ましがったので皆の分も作ってプレゼントした。この世界で機械時計は貴重な為、懐中時計がメインで外部に出す腕時計は普及していない。どこかにぶつけて壊れでもしたら大変だからだ。


「もらえるか、こんな高級品!そもそも、俺が時計を腕になんてはめたら直ぐ壊しちまうのが目に見えている」


「その時計には強化魔法が付与してあるのでぶつけても大丈夫です。あと、俺が作ったものなので高級品でもありません。遠慮せず、どうぞ」


「本当にいいのか?」


「はい。評判が良かったので、お世話になった人に配っているだけですから。便利なので、是非使ってください」


「悪いな。大切に使わせてもらうよ」


 腕に嵌めた時計を嬉しそうに眺めるマイヤーさん。おっさんでも、こういった姿は可愛い。



 ♢ ♢ ♢



 トキオの背を見送りながらマイヤーは呟く。


「なんで機械時計は作れるのに、馬車は作れねえんだよ・・・」


 街の喧騒にかき消され、その声は誰の耳にも届かなかった。


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