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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第五章 アトルの街編

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第一話 妹よ、俺は今平穏な日常を過ごしています。

 

「へっくしょん!」


 花粉症かな、時々くしゃみが止まらなくなる。季節の変わり目、風邪をひかないよう気をつけねば。



 スタンピードから一週間が過ぎた。魔獣の素材による好景気で街は活気に溢れているが、大通りから離れた場所にある学校周辺は以前と変わらず長閑なままだ。

 子供達は毎日元気に教室で学んでいる。シスターパトリやオスカーもようやく教師の仕事に慣れてきたのか、以前の様に遅くまで残業することもなくなった。日々成長していく子供達に時の速さを感じつつも、環境の変化に慣れ心に余裕を持ち生活を送る生徒や教師の姿には、ゆっくりとした時間の流れを感じる。その矛盾が俺には心地よい。前世では感じることのなかった感情、これを充実というのであれば妹も喜んでくれているだろう。そんなことを考えながら教室のドアを開けると、そこには溢れんばかりの笑顔を向けてくれる子供達。うん、今日も良い一日になりそうだ。


「おはようございます」


「「「おはようございます!」」」


 元気な挨拶を返してくれた子供達の中には、先週から学校に通い始めたフランの姿もあった。


「フラン、もう学校には慣れたかい?」


「はい」


 そう言うと、同い年のマリシアと目を合わせて微笑み合う。フランの入学はセラ学園にとっても大きな環境の変化になった。共に暮らしている孤児院の子供達だけだった学校にとって始めて外部から生徒の受け入れ。それが貴族でも位の高い公爵家の娘なのだから子供達がかまえてしまっても不思議はない。貴族だからといってフランが高圧的な態度をとるとは思えなかったが、孤児院の子供達が貴族に慣れていないように、フランも平民の子供には慣れていない。おかしな壁が出来てしまえば双方が嫌な思いをしてしまう。そんな俺の不安は、まったくの杞憂だった。


「はーい!トキオ先生、聞いて、聞いて。フーちゃん凄いんだよ!」


 俺に話したくて仕方なかったのか、ミーコが小さな手をいっぱいに広げてアピールする。それにしてもフランは自分より年下の子にはフーちゃんと呼ばれているのか・・・元々はフランツェスカという名前が長いからフランの愛称で呼ばれていた筈なのに、さらに短くなったな・・・


「昨日ね、フーちゃんが立てた作戦でノンちゃん達のクラスに始めたドッヂボールで勝てたんだよ」


「ほぉ、それはどんな作戦か興味があるなぁ。ミーコ、聞かせて」


 今学校では年中組の体育の授業で取り入れたドッヂボールが流行っている。授業を終えてから昼食までの休み時間で年長組と年中組がよく試合をしていた。体力的には年長組が有利だが、人数は年中組の方が多い。そこにフランも加わり戦力バランスは均衡がとれているように思われるが、いかんせん年長組にはアルバが居る。現状、圧倒的基本ステータスの持ち主であるアルバの牙城を年中組が簡単に崩せるとは思えない。事実、今迄年中組は全敗を喫してきた。


「あのね、あのね、まず、小さい子達がね、ぐるぐる回って相手をかく乱させてね・・」


 興奮で説明が覚束ないミーコを見かねて、途中からシオンも加わる。当時の情景を身振り手振りで話す二人の姿は微笑ましく、年上の生徒達は口を出さず見守っていた。


「それでね、最後はガンちゃんの服の中に隠れていたミーコが、アル兄の足にボールを当てたんだよ!」


 一本の映画を語り終えたかの様な満足感を滲ませるミーコとシオン。ちなみに、フランが立てた作戦はこうだ。



 まず、年中組を8歳と9歳で構成されたかく乱組、10歳と11歳で構成された撃墜組の二組に分ける。撃墜組は外野を陣取り、内野にはエースのガインとかく乱組が陣取る。かく乱組は逃げることを優先しコート内を駆け回る。これは、作戦の肝になるミーコから相手の目を逸らせる意図もある。その間、外野の撃墜組が相手エースのアルバを孤立させるべく、他者を徹底的に狙い撃ちする。かく乱組の数を減らしながらもここまでは上手くいき、作戦通りコート内をアルバとガインのエース対決へ持っていくことに成功する。しかし年長組は焦らない。今迄も最終局面でアルバとガインのエース対決になったことは何度もあった。そのことごとくをアルバは勝利してきたからだ。

 ガインが渾身のストレートを叩き込むがアルバは軽々と片手で受け止める。攻守交代。ガイン渾身のストレートを遥かに凌駕するアルバの大砲がガインに襲い掛かる。ガインはキャッチすることができず、ボールは地面を転がった。高々と右腕を突き上げ勝利のポーズを決めるアルバ。歓喜する年長組。次の瞬間、ガインの背中から一つの影が。その正体は伏兵ミーコ。素早い動きでボールを拾うと、勝利のポーズを決めていたアルバの足目がけてボールを投げる。アルバは何の抵抗もできず、ミーコの凶弾に足を撃ち抜かれた。



「いやー、たいしたものだ。あのアルバを倒すなんて。フランの作戦も凄いが、それを見事に遂行した年中組みんなの勝利だね」


「でしょー。みんな頑張ったもん!」


 本当にたいしたものだと思う。まさかドッヂボールのコート内に伏兵を潜ませるなんて、相当に狡賢くなければ思いつかない作戦だ。


「ただし、次からその作戦は禁止とする」


「えぇぇっ、なんでー。次、負けちゃうじゃん!」


「理由は、ガインの体操着が伸びちゃうからだ。物は大切にしましょう」


「うううっ・・・はーい」


 すごく落ち込んでいる・・・年長組に勝てたのが本当に嬉しかったんだな。ごめんね・・・


「安心して、ミーコちゃん。どの道、この作戦は一度しか使えない。そうでしょ、参謀長」


 参謀長!?フランの視線の先にはミル。呼ばれてキラリと目が光った様な気がした。


「フラン将軍の言う通り。敵軍にはネル姉とキャロ姉の二人が居る。すでに作戦コードGMは対策されているとみて間違いない」


 フラン将軍!?作戦コードGM!?えっ、なに、このノリ。みんな授業中より真剣な表情してない・・・


「たしかにアル兄は強大な敵。しかし、絶対に倒せない敵でないことは前回で立証された。すでに次の作戦の草案は出来上がっている。細かい部分をフラン将軍と詰めた後、みんなにも通達する」


 ミルの発表に一つ頷くと、フランは高らかに宣言する。


「みんな聞いた!年長組は強い。アルバさんという絶対的なエースも居る。しかし、私達にはセラ学園最高の頭脳、ミル参謀長が居る。ミル参謀長の立てた作戦をみんなが遂行できれば、私達は負けない!」


 己の作戦に絶対的自信をのぞかせるミル。そんなミルの姿に全幅の信頼を寄せるフラン。二人がどんな作戦を立てるのか期待に胸躍らせる年中組のクラスメイト。一度の勝利がクラス全体の団結力を高めている。なんか・・・凄い。


「フラン将軍・・・ミル参謀長・・・かっこいい!わたしもこれからはフーちゃんのこと将軍って呼ぶ!」


「えっ、それはちょっと・・・できればドッヂボールの時だけに・・・」


 フランの戸惑いを気にも留めず、他のクラスメイトからも将軍と声が掛かる。もう止められないぞ。調子に乗ったフランが悪い。

 まあ、心配しなくても子供は直ぐ新しいものに目移りするから、ドッヂボールブームはいずれ終わる。それよりも、少し冷めたところのあったミルが遊びを真剣に取り組んでいるのは良い傾向だ。



 ♢ ♢ ♢



 魔法の授業は基本的な考え方の講義を終え、属性別の個別講義に入っている。物理や化学の要素が強い火、水、風は主にサンセラが受け持ち、土、光、空間は俺が受け持つ。闇属性は所有者が居ないので講義はなし。時間属性を持っているのはノーランだけだが、他の属性で躓いている段階では時期尚早と判断。とりあえずノーランには基本四属性と何かと便利な空間属性を先に覚えてもらうことにした。よって現在は六つの属性のみ講義を行っている。ミルのみ、他の参加者と目的が違うため好きな講義に出席していいことになっている。


 魔法を使うには、各属性の理解力を高めると同時に魔力量も増やさなければならない。レベルを上げる以外で魔力量を増やすには魔法を使用するしかない。その為、簡単な魔法を使うことも必要になる。水と土に関しては物理的に入手できるため問題ないが、火や風はそういう訳にいかない。俺の「創造」でライターと手で持てる扇風機を作り、構造を理解させてからの魔法を使わせることになった。

 光属性に関しては物理や人体の構造がメインだ。光属性は回復魔法だけの属性ではないが、現在受講しているネル、マザーループ、シスターパトリの三人は回復魔法のみの使用に限定されるため、他は教えていない。ノーランがレベルを上げて光属性も受講するようになれば個別に教えていくつもりだ。




「これは?」


「キューブパズルだ」


 俺の渡したキューブを、謎の物体でも見るかのように恐る恐る手にするオスカー。ノーランは机の上に置いたままのキューブと他の二人の様子をキョロキョロ伺い、ミルは渡されたと同時にカチャカチャ動かし始める。空間属性の講義を受ける三人は性格も三者三葉、見ていて面白い。


「基本四属性に比べて、光と闇、空間と時間は理解するのが格段に難しい。先ずは基本四属性の習得に注力してくれ。オスカーもノーランも魔力量は他の属性で上げられるから、とりあえず空間属性は後回しでいい。ただ、全属性持ちの俺から見ても空間属性はかなり使い勝手の良い魔法だ。普段から空間を把握する意識は持っていてもらいたい。そこで、このキューブだ」


 高等教育の下地があるオスカーと、まだ他の生徒と一緒に計算の授業を受けているノーランでは理解力に差がある。学ぶには順序があり、ノーランは空間属性を学ぶには早すぎる。


「という訳で、基本四属性すべてを持っているノーランは空間属性の講義には出なくてもいい。ただし、そのキューブを遊び感覚でかまわないから毎日触ってくれ。そうすれば講義を受ける頃には、何もしないより遥かに理解が早まる」


 他者に比べて知能のステータスが突出している訳でもないノーランに、属性があるからといっていきなり全てを学ばせるのは無理がある。基本四属性以外はレベルを上げてからでも遅くはない。それに対してオスカーは風属性と土属性だけで基礎学力も高いので、空間属性の講義も先に進めていく。


「一面出来たー!」


 キューブを渡してから一言も発せず動かし続けていたミルが、早くも一面を一色に揃えた。こういった時のミルは凄い集中力を発揮する。


「おっ、凄いぞ。オスカー、このままじゃミルに置いていかれるぞ」


 慌ててキューブを動かし始めるオスカー。ノーランも動かし始めはしたが、揃えられる気がしないのか諦めの表情だ。慌てることはない。ノーランには十分な時間がある。


「二面出来たー!」


「ちょ、ちょっと待ってよ、ミル。早すぎるって・・・」


 オスカーの言葉などミルには全く届いていない。直ぐに三面目に取り掛かりる。結局、講義の間にミルは三面まで完成させた。オスカーは一面。ノーランはゼロ。


「トキオ先生、このキューブ貰ってもいいですか?」


「ああ、勿論。気に入ったかい?」


「うん。これは面白い。絶対に学校で流行る」


 ミルのお墨付きも出た。知的玩具は子供達の教育にもなりそうだし、何個か作って各クラスに配布するか。


 あれ!?これって、商売になるんじゃないか?





 講義を終え、オスカーと帰宅の途に就く。といっても、俺が住む丸太小屋は学校の敷地内だけど。


「週末オリバーさんのところでマジックアイテムの整理に付き合う予定なんだが、オスカーも一緒に行くか?」


「はい、是非お供させてください・・・んっ、先生、今叔父上のことを随分親し気に呼びませんでしたか?」


「ああ。オリバーさんと俺は友達だからな」


「いつの間に!ぬぐぐっ、叔父上め・・・」


 えっ、何、そのリアクション。俺が友達作っちゃダメなの?


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