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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第四章 トロンの街編

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第十七話 妹よ、俺は今自分の思い違いに気づきました。

 

 サンセラとマーカスに遅れること約三十分、整地を終わらせトロンの街に戻ると、ブロイ公爵軍、トロンの盾、A級冒険者、スタンピード鎮圧に参加した全ての者が、門の前に整列して俺とコタローの帰りを待っていた。

 中央にはブロイ公爵とギルド長。その斜め後ろにはオスカーとノーラン、アルバ、キャロの冒険者希望組。なぜかキャロの隣にはミルが並んでいた。


「遅くなって申し訳ありません。わざわざ待っていただかなくてもよかったのですが」


「君は本当に謙虚だねぇ。これだけの大仕事をしたのだから、少しぐらい偉そうにしても罰は当たらないよ」


 ギルド長の軽口に緊張感のあった場の空気が少し和む。そんな中、ブロイ公爵が一歩前に出て話そうとすると、一瞬でもとの緊張感ある場に戻った。


「トキオ殿、この度の働き領主として心より感謝する」


「やめてくださいよ。俺一人で戦った訳じゃありませんから」


「皆もよく戦ってくれた。それでも言わせて欲しい。トキオ殿が居てくれて本当に良かった」


 こういうの、慣れていないんだよなぁ・・・全校集会でみんなの前で賞状を貰っているみたいで、なんだか照れ臭い。


「さあ、トキオ君。最後の仕事だ」


「最後の仕事?」


 場の空気を読んでか、またギルド長がおかしなことを言い出す。


「勝鬨だよ、勝鬨。こういう時は最大の功労者が最後を締めると相場は決まっている。ビシッと決めてよ」


「そういうの、苦手なんですよねぇ・・・そうだ、マーカス、お前がやれ。ジャンセンを打ち取ったのはお前なのだから」


「私ですか?!」


「そうだよ。ビシッと決めてくれ」


「わかりました・・・」


 俺に言われて仕方なくマーカスが前に出る。共に戦った皆の視線が集中する中、マーカスが声を張り上げた。


「スタンピードは終わった。ブルジエ王国始まって以来最大規模、魔獣二万のスタンピードを我々が終わらせたのだ」


 一呼吸置くと、マーカスは鞘から剣を抜き高々と掲げた。


「死傷者はゼロ、トロンの街の完全勝利だ!」


「「「おぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」


 雄叫びと同時に隊列がいっきに乱れる。勝利を、無事を、トロンの街を守れたことを、様々な想いが混ざり合い、戦いに参加した者達の感情が爆発する。



「トキオ先生!」


 皆が喜び合う中、俺に向かって一目散に飛び込んできたミルを受け止める。


「トキオ先生。トキオ先生。トキオ先生。トキオ先生・・」


 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、ひたすら俺の名前を連呼するミルを抱えながら、そっと頭を撫でた。


「心配させてごめんね。さあ、学校へ帰ろう」


「うん・・・帰る。トキオ先生と一緒に」


 創造神様、カミリッカさん、そして妹よ、トロンの街を守れたのは、俺に大切なものを守る力を与えてくれた皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。



 ♢ ♢ ♢



 スタンピードの終結が発表された直後、冒険者ギルドから城壁の外に溢れかえる魔獣の除去依頼が出された。依頼報酬が安い代わりに取れた素材は全て冒険者の懐に入れていい条件が好評でランクも問わない為、ギルドのカウンターは依頼を受けたい冒険者で溢れかえっている。

 カウンターの喧騒をよそに、スタンピード鎮圧に参加したA級冒険者とトロンの盾は別室に集められ、ブロイ公爵とギルド長直々に報酬が渡されることとなった。


 A級冒険者には一律で金貨百五十枚。トロンの盾はB級冒険者のヘイダーとデュランに金貨八十枚、その他十六名には金貨四十五枚、合わせて金貨八百八十枚が支払われた。金の為ではなかったが、やはり高額の報酬は嬉しい。ウィルやヘイダーを中心に打ち上げの相談が始まり、室内は大いに盛り上がる。そんな中、問題が発生した。


「重大な命令違反を犯しました。報酬は辞退させていただきます」


 マーカスが報酬を辞退したのだ。


 唯一のS級冒険者であり、A級冒険者達をまとめながらも自らが先頭に立って戦い、ジャンセンの首級も上げているマーカスには金貨五百枚が用意されていた。

 その奮闘ぶりを間近で目撃していたA級冒険者の手前、なんとか報酬を受け取ってもらおうとブロイ公爵とギルド長は説得するがマーカスは頑なに受け取りを拒否する。重大な命令違反とやらも説明しようとしない。最終的にはマーカスが受け取る筈だった金貨五百枚を、A級冒険者とトロンの盾に均等に配分することでこの話は決着した。


 問題はこれで終わらない。


 今回のスタンピード鎮圧最大の功労者がトキオとサンセラであることは、共に戦った誰もが知っている。魔獣二万の内、実に八割以上は最前線で戦ったトキオとサンセラ(実際はコタローも含む)が倒したのだ。死傷者を一人も出さず今こうして喜んでいられるのも、トキオとサンセラ無しでは考えられなかった。

 そんな二人にブロイ公爵は破格の報酬を用意した。トキオには金貨三万枚、サンセラには金貨二万枚。冒険者組合トロン支部歴代最高記録を大きく上回る金額である。だが、金額を決めた後になって、ブロイ公爵とギルド長は重大なミスに気付き蒼褪めることとなる。


 ジャンセン達がオリバー男爵邸からマジックアイテムを盗難した際、現場に居合わせジャッジを無力化したトキオは即座に緊急会議を提言した。ブロイ公爵邸で行われた会議の中心となり、盗まれたマジックアイテムから最上位種の悪魔と大規模なスタンピードの危険があることを皆に伝えたのもトキオである。その後、スタンピードに対抗する作戦を立てたのもトキオであり、A級冒険者に強制依頼をするようブロイ公爵に頼んだのもトキオだ。そのことに本来作戦の中心になる立場にあったブロイ公爵とギルド長は何の疑問も持たなかった。


 そして現在。スタンピードを退け、報酬を払う段階になってようやく二人は気づく。トキオには冒険者ギルドから依頼が出されていなかったことに。勿論、トキオはブロイ公爵の部下でもなければ、軍に所属もしていない。トキオは誰からの依頼も命令も受けずスタンピード鎮圧に参加していたのだ。


「マノア殿、これは拙いぞ・・・」


「ええ、拙いですね・・・」


 ブロイ公爵とギルド長はトキオの人柄をよく知っている。今更後付けで依頼書を作ったところで、それをトキオが受理するとは思えない。トキオが報酬を受け取らなければ、当然サンセラも受け取らない。結果、金貨五万枚はブロイ公爵家に戻ってくる。


「このままでは、トキオ殿に散々働かせた挙句、甘い蜜だけは公爵家が奪うことになってしまう」


「それは冒険者ギルドも同じですよ・・・」


 今トロンの郊外には二万を超える魔獣の亡骸がある。そこから採れる素材は莫大な利益を生み、今後トロンの街ではスタンピードによる特需景気が予想された。当然、領主であるブロイ公爵家には莫大な税収、冒険者ギルドには莫大な手数料が入る。最大の功労者であるトキオの懐には一枚の金貨も入らない。


「せめて、素材の買い取りから得られた利益の何割かを受け取ってもらうか・・・」


「そんな金、トキオ君が受け取る訳ないじゃないですか・・・」


 今思えば、当の本人であるトキオは端から報酬のことなど考えていなかったのだろう。勝利に沸き立つ現場で「それじゃあ、俺は授業の準備がありますので」と一言残し、冒険者ギルドにも寄らずとっとと帰ってしまった。



 高額報酬に盛り上がる冒険者達を尻目に、ブロイ公爵とギルド長は解決策の見えない問題に頭を抱えるのであった。



 ♢ ♢ ♢



 学校への帰路、ノーラン、アルバ、キャロの三人に本物の戦いを目の当たりにしてどう感じたのかを聞く。ちなみに、ミルは俺と手を繋いで上機嫌だ。


「トキオ先生とサンセラ先生の魔法には驚きを超え感動しました。人は理解を深めればあんなに凄い魔法が使えるのだと、実際に体験できたことは今後の修行にも大きな励みになります」


 そう答えたのはキャロ。早い段階で大規模な魔法を見せられたことは、これから成長していく上で自らの限界を知らぬ間に決めてしまうのを防ぐためにも良かった。


「ブロイ公爵軍だけでなく、普段は別々の依頼を受けている冒険者の方々も連携が取れていたことに驚きました。個々の能力も勿論重要ですが、数に任せてただ闇雲に突っ込んでくる魔獣と違い、数では劣ってもお互いの弱点を補いながら最大限の力を発揮する冒険者の方々の戦い方は見ていてとても勉強になりました」


 アルバは良いところを見ている。勇者と魔法職、いずれは強い火力を持つノーランとキャロの能力を最大限生かせるかは、アルバにかかっていると言っても過言ではない。まだ基礎訓練の段階で自分の役割に気付き始めているのは良い兆候だ。


「トキオ先生とサンセラ先生の魔法が炸裂した時、一気に場の空気が変わったのを感じました。信じられない数の魔獣が砂埃を上げて押し寄せてきた時に感じていた不安が払拭され、みんなの気持ちが勝利に向け一つになったように見えました。マーカスさんが冷静な指示を出しながらも冒険者の先頭に立って奮闘する姿も印象的でした」


 大規模な戦いにおいて象徴となる人物の重要性をノーランが学んでくれたのなら嬉しい。ただ自分が強くなるだけでなく、「勇者」であるノーランが先頭に立つことで周りにも影響が出る。「勇者」とは、勇気のある者ではなく、周りを勇気づけられる者だ。


「みんなの良い勉強になったのならなによりだ。これで益々修行に身が入るな」


「「「はい!」」」


 実際の戦いを始めて見て、まったく恐怖を感じないなんてことはあり得ない。口にこそ出さないが、三人もそれなりに恐怖は感じただろう。それも大切なことだ。それ以上に三人共が自分の将来像を見据えてやる気を持ってくれたことは素直に嬉しい。


「ただし、勉強を疎かにする奴は修行に参加させないから、そっちも頑張るように」


「「「えぇぇぇぇぇっ」」」


「当り前だ!」


 まだまだ子供。強くなるだけでなく、社会人として学ばなければならないことは沢山ある。




 それからは談笑しながら学校までの道のりを歩いた。ミルが城壁までオスカーに背負われて来たことをノーランに揶揄われてプンスカ怒り出す。その仕返しに、学校に着くまで延々とノーランの武勇伝(失敗談)を俺やサンセラに語り続ける。学校が見えたところでようやくノーランの泣きが入りミルから許しを得た。

 いつもは正門にトロンの盾の誰かが居るのだが、今朝は全員スタンピード鎮圧に参加していたため誰も立っていなかった。子供達は朝食を摂りに孤児院へ帰らせ、俺、サンセラ、オスカーの三人で無事帰還した旨を報告に教会へ入る。


「あれ、二人共居ないな。孤児院かな?」


 ノーラン達が戻ったのを知ってその内教会に戻るだろうと来客室で待つこと数分、シスターパトリが部屋へ飛び込んで来た。


「トキオさん、サンセラさん・・・よかった・・・」


「すみません。ご心配を・・」


 話し始めて気付く。シスターパトリが涙を流していることに。


「あれっ、私ったら、ごめんなさい。直ぐにマザーを呼んできますね」


 涙を隠すように目を擦りながらシスターパトリが向かった先は聖堂だった。叫ぶようにマザーループを呼ぶ声が来客室で待つ俺達にも届く。


「マザー、マザー、トキオセラ様とサンセラさんがお戻りになりました!お二方共ご無事です!マザー、トキオセラ様が教会に帰ってきてくださいました!」


 思い違いをしていた。


 二万の魔獣とはいえ、所詮は魔獣の大森林に入ったばかりの場所で集めただけ、最奥地で修行してきた俺が負けることは無い。そのことを知っているマザーループとシスターパトリは安心してスタンピードに送り出してくれたのだと勝手に思っていた。

 彼女達にとって安心な戦いなど無いのだ。俺がどれだけ強かろうと、敵が何だろうと、彼女達は安心などしない。常に俺の身を案じてくれる。


 シスターパトリが聖堂を出たマザーループを連れ来客室へ戻る。マザーループの修道服が普段着ている物とは違った。疲れているのか、顔色も悪い。それでも、表情は慈愛に溢れている。


「トキオさん、サンセラさん、お帰りなさい」


「・・・はい。只今戻りました」


 それ以上は言葉が出なかった。帰る場所があり、帰りを待ってくれている人達が居る。そのことを、只々幸せに思う。


 前世では妹が入院していた病院と仕事以外で人と接することが殆どなかった俺が、トロンの街では多くの愛すべき人達と出会えた。マザーループ、シスターパトリ、オスカー、マーカス、ギルド長、キアさん、マイヤーさん、ブロイ公爵家、そして子供達・・・



 妹よ、俺は今周りの人に恵まれています。


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