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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第四章 トロンの街編

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第十三話 妹よ、俺は今魔法をぶっ放しています。

 

「これから君達が行くのは安全が保障された場所ではない。少しでも私の指示に従わなかった場合は、即座に学校へ帰還させる。わかったな」


「「「「はい」」」」


 深夜三時半。オスカーはトキオの指示に従いノーラン、アルバ、キャロの三人を城壁に連れていくため孤児院の前に集合させた。


「ところで、なぜ君がここに居る?」


 しかしその場にはもう一人、肩から水筒を掛けたミルが当たり前のようにキャロの隣に並んでいた。


「わたしも行きたいからです。オスカー先生の指示に従うので連れて行ってください」


「ダメに決まっている。これから行く場所は君には危険だ」


 オスカーは焦っていた。大通りまで徒歩で三十分、そこから門まで歩き城壁に登る時間も考えると一時間はみておきたい。ここでいらぬ問答に割く時間はない。


「トキオ先生が昨日から帰っていません。きっとスタンピードの鎮圧に行ったのだと思います。トキオ先生が行ったからには安全が保障されたのと同じです」


「違う。先生が行かなければならないほど危険なのだ」


「だったら、ここも城壁の上も同じです。トキオ先生が鎮圧できないスタンピードなら、どこに居ても助かりません」


 オスカーは困っていた。ミルを言い負かす言葉が見つからないことに。彼女の言葉は正しいとオスカーも思っている。どうしたものかと考えあぐねていると、背後から人の気配が近づく。


「私がミルも連れていくことを許可します」


「シスターパトリ・・・」


 現在、聖堂で祈りを捧げているマザーループに代わり、教会の全権はシスターパトリに移譲されている。だからと言ってオスカーも簡単には頷けない。


「しかし・・・」


「ミルは賢い子です。きっと今日の経験が役に立つ日が来ます」


「・・・わかりました。ミル、君の歩く速度では予定した時間に間に合わない。私が背負っていく」


「大丈夫です。自分で歩けます」


「私の指示に従えないのならば置いていく」


「・・・わかりました。お願いします」


 自分だけ背負われて行くことに抵抗があったのか、ミルは少し恥ずかしそうにオスカーの背に身を預ける。


 オスカーは感謝していた。数ヶ月前から剣の稽古をつけてくれた親友に。あの稽古で体力をつけていなければ、どの道予定した時間には間に合いそうもなかった。



 ♢ ♢ ♢



 城壁の前には、十メートル間隔で百人のブロイ公爵軍が三重の陣を形成している。そこから五十メートル先にはトロンの盾、さらに五十メートル先に冒険者の陣が敷かれていた。

 日の出とほぼ同じ時刻、遠くに立ち込める砂煙が目視される。当然、トキオとコタローの「索敵」は、とっくに魔獣の群れを捕捉していた。


「マーカスは魔獣を屠りつつ陣形維持を心がけろ。リーダーのお前が功を焦るようなことはするなよ」


「はい、心得ております」


「よし。作戦通り最初に俺達が、ここからでも見える特大の魔法で攻撃する。それを合図に戦闘態勢をとれ。数を減らすことより強い魔獣を倒すことを優先しろ。雑魚はうしろの連中に任せればいい」


「はい」


「それじゃあ、行ってくる」


「ご武運を・・」


 マーカスが言い終わる前に俺とサンセラは駆け出す。第二陣から五十メートルほど距離が離れてから、俺は中央、サンセラは右翼に向かった。冒険者達には見えていないだろうが、左翼にはコタローが向かっている。さらに、そこから五十メートルほど前へ進み、第二陣と百メートルほど距離が開いたところで一旦止まる。


『さて、特別にデカい魔法を三人合わせてお見舞いしてやろうじゃないか』


『『御意』』


 右翼には巨大な竜巻、左翼にはこれまた巨大な火の玉が出現する。中央を陣取る俺の頭上数十メートル先には、晴天にもかかわらず真っ黒な雲が沸き上がった。


『撃て!』


 コタローとサンセラが魔獣の群れに向かって同時に魔法を放つ。着弾のタイミングに合わせて俺も魔法を発動する。


「スーパーセル」


 上空の雲から数えきれないほどの雷、正面からは巨大な火の玉と竜巻が魔獣の群れを同時に襲うと、けたたましい爆音が響き渡った。


『俺の雷が一番魔獣を倒したな』


『お言葉ですが、私の火の玉が一番倒したかと』


『お二方共、どう見ても私の竜巻が一番倒したじゃないですか』


 各々、自分の魔法が一番魔獣を倒したと主張する。まあ、誰が一番だったかなんてどうだっていい。今の一撃で一万は倒した。ここからは広範囲の攻撃魔法で倒し切れなかった魔獣を一体ずつ狩っていく。


『切り込むぞ!』


『『はい!』』


 今日は、久しぶりにレベルが上がりそうだ。



 ♢ ♢ ♢



「ご武運を・・」


 言い終わる前、既にトキオとサンセラの姿は数十メートル先にあった。二手に分かれたとき、トキオの肩から飛び立つ鳥をマーカスは見逃さない。その数秒後、信じられないものが現れる。


「あれは、魔法なのか・・・」


 上空に浮かぶ巨大な火の玉と竜巻。冒険者としての依頼で魔法職とは何度も共闘してきたマーカスだが、こんな規模の魔法は見たことがなかった。戦闘中、魔法職が常に残りの魔力量を気づかいながら戦っていることをマーカスは知っている。限界を超えた魔法を使えば魔力は一瞬で枯渇して最悪死につながる場合もある。少なくとも、その後数時間は身動きが取れない。

 然程魔法を学んでいないマーカスにどれだけ魔力量が必要な魔法かはわからない。ただ、コタローとサンセラの魔力が規格外なのはわかった。


「雲が・・・」


 両翼の大規模魔法に度肝を抜かれていた冒険者達も中央上空、不自然に集まる黒い雲に気付く。晴天の空の一部分、まるで人の意思で動かしたかのように真っ黒な雲が集まっていく。


「あれが、師匠の魔法・・・」


 天候は人の意思で自由に出来るものではない。子供の頃マーカスは、父からそう習った。習うまでもなく、当然のことだと思った。天候を操れるのは神のみだと。


「これも、固定観念だったのか・・・」


 固定観念は成長を妨げる。トキオから最初に受けた教えだった。その意味を、ようやくわかり始めたと思っていたマーカスの固定観念が、またも破壊される。


 ──俺は剣より魔法の方が得意だぞ


 初めて剣を交えた後、トキオが放った信じられない言葉をマーカスが思い出した次の瞬間、爆音が響き渡った。


「全員戦闘態勢!」


「「「おう!」」」


 第二陣が一斉に武器を構える。第一陣の魔法を見て数々の修羅場を潜り抜けてきたA級冒険者達は確信した。このスタンピードは止まると。



 ♢ ♢ ♢



「なんだ、あれは・・・」


 思わず漏れた呟きとは裏腹に、ヘイダーはわかっていた。突如湧き出した黒い雲から突き出す無数の雷がトキオの魔法であることを。


 ここ数週間でヘイダー達に起きた劇的な変化。自分を教師だと言うたった一人の若造によって、アジトと共に裏ギルドは壊滅した。それだけでは終わらない。若造はマザーループ襲撃事件の実行犯を除く裏ギルドメンバー全員を強引に表の世界へ連れ出した。気付けば、ヘイダーをはじめとする元裏ギルドメンバーは、若造を先生と呼んで慕っていた。


 ──そうだな・・・「トロンの盾」ってのは、どうだ


 ヘイダーはあの時の感動を忘れない。トキオが命名してくれたクランの名は、裏ギルドがこれまでしてきた活動を肯定してくれる名だった。


「あれがトキオ先生の力だ。てめぇら、俺達に「トロンの盾」と名付けてくれたトキオ先生に、恥をかかすような仕事するんじゃねぇぞ」


「「「おう」」」


 トロンの盾メンバーに熱いものが込み上げる。裏街道からしか貢献できなかったトロンの平和維持を、今はA級冒険者やブロイ公爵軍と共に堂々と行える。子供の頃に憧れた冒険者として。しかも、先頭で戦っているのは自分達を表の世界に出してくれた大恩人。燃えない訳がない。


「影の軍団ってのも悪くはないが、やっぱり表の世界で仕事できた方が良いよな・・・」


 ──普段は凄腕冒険者として活躍するクラン、しかしその実態はトロンの街に迫る犯罪を事前に防ぐ影の軍団。その名もトロンの盾。彼等は人知れず今日も街の平和を守る。(シスターパトリ談)



 ♢ ♢ ♢



「・・・・・・・・・」


 見たことのない巨大な火の玉と竜巻。さらには、見たことも聞いたこともない無数の雷が地面を揺らす中、クルト以下ブロイ公爵軍は驚嘆の声をあげることなく戦況を見守る。


 ──クルト殿、思うところはあったでしょが、今回は俺の作戦に協力していただき感謝いたします


「気を遣わせてしまったな・・・」


 クルトは幼少時代から、将来はブロイ公爵領で軍部を率いるため己を磨いてきた。王都での学生時代には多くの強者に師事を仰ぎ、その過程で達人と呼ばれる武人にみられる共通点に気付く。

 達人と呼ばれる武人には人徳者が多い。勿論、全員とは言わない。中には根性の捻じ曲がった者も居たが、それらは達人とは名ばかりの大した実力でない者がほとんどだった。強き人となるには、良き人でなくてはならない。クルトが王都で得た数少ない学びだ。

 卒業してトロンに帰ったクルトは、新兵を採用する際強さだけでなく人間性を重んじるようになる。結果、ブロイ公爵軍の精強さはブルジエ王国内でも随一となった。


 トキオと初めて顔を合わせたあの日、ブロイ公爵家はトキオに大きな借りを作った。前日から腹痛を訴えていた母を医師でもないトキオが治療したのだ。クルトはトキオに会った瞬間から自分とは比較にならない、今迄の人生でダントツにナンバーワンの尋常でない強者だと気づいていた。だからこそ、トキオの人間性を注視した。治療の対価に何を求めるのか、どんな要望をだすのか、人間性を判断するのにその時を待った。

 トキオは何も要求しなかった。礼をしたいと懇願する父に対し平然と、目の前で苦しむ人が居れば手を差し伸べるのは当然と言ってのけた。思い返せばトキオは治療の際も、自分が治してやるではなく、治療させて欲しいと言っていた。慈悲を具現化したような人物であるマザーループでさえ、トキオには一目置いている。そしてクルトはようやく気づく。自分が何故弱いかを。


 自分は何様だ。マザーループが認めている人物を、なぜ自分如きが見定めようとしている。自分が世界で一番高い人間性を持っているとでも思っているのか。クルトは知らぬ間に慢心していた自分を恥じた。自分が最強だと感じた目の前の人物は、ここへ来てから一度として謙虚な姿勢を崩していない。


「第三部隊、弓を持て」


 トキオのように強くはなれない。トキオのような人間にもなれない。それでも、トロンの街を思う気持ちだけは、決してトキオにも負けない。


 どれだけ魔獣が押し寄せようと、一匹たりとも城壁は超えさせない。クルトに選ばれた三百名のブロイ公爵軍は皆、同じ覚悟を持って命令を待つ。


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