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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第四章 トロンの街編

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第十一話 妹よ、俺は今冒険者達に挨拶しています。

 

 冒険者ギルドは閑散としていた。


 二日前にスタンピードの予兆が発表され、ほとんどの依頼が受けられない今の状態ではそれも仕方がない。


「トキオさん、サンセラさん、奥へどうぞ」


 キアさんに案内され初めての部屋へ通される。ここへ来るといつもギルド長室に連行されていたので、他の部屋は勿論、ギルド内にある施設も知らない。ホント、都合のいい時だけ冒険者を名乗ってすみません・・・


 学校の教室と同じくらいの大きさの部屋では、マーカスとトロンの盾副団長のデュランが中心となり第二陣と第三陣の陣形が話し合われていた。


「ヒーラー三名は第二陣の後方に配置して、状況によっては第三陣にも向かってもら・・」


 俺達の到着に気付いたマーカスが話を止めこちらに向かって来ようとするのを手で制止する。


「時間がない、続けてくれ」


 話の主な内容は、同じ戦闘スタイルで配置が重ならないようにすること。魔獣には弱点があり、斬撃に弱いものも居れば魔法に弱いものも居る。A級の剣士が仕留められなかった魔獣でも、B級の魔法職が仕留められる場合もある。また、この世界では上位冒険者となるA級の魔法職でも、魔法を打ち終われば次の詠唱が終わるまでは無防備になり、魔法職を守る為の前衛を近くに配置しておかなくてはならない。


「どうだい、我が冒険者ギルドの精鋭たちは?」


 大量のポーションを抱えて部屋に入ってきたギルド長が、マーカス達に頼もし気な視線を送りながら俺に話し掛けてくる。


「多くのA級冒険者を招集していただき、ありがとうございます。彼等なら問題なく働いてくれるでしょう」


「トキオ君のおかげだよ。君がいなければS級冒険者のマーカスも、トロンの盾もここには居ない。彼等の存在が無ければ、これだけのA級冒険者も集まらなかったかもしれない」


 数か月前、俺がこの街へ来たばかりの頃は、冒険者組合トロン支部にS級冒険者の所属は無く、クランも無かった。

 魔獣の大森林に隣接するトロンは冒険者の街とも呼ばれ、ブルジエ王国で最も所属する冒険者は多い。しかし、優秀な冒険者が多いかと問われれば、そうとは言えない。原因は、まず王都から遠すぎる。次に貴族の数が少ない。仕事の数は多いが優秀な冒険者、特に最高ランクであるS級冒険者からすれば旨味のある依頼がほとんど無い。多くの冒険者にとってトロンの街とは、実力をつけ、ランクを上げ、冒険者として上に行く足がかりの場、前世で例えるなら、マイナーリーグのような場所だ。所属するほとんどがB級以下、ジャッジのようなC級冒険者でもここでは強者の部類に入る。そんな中、強制依頼とはいえA級冒険者を二十名近く招集できたのは奇跡に近い。


「師匠、皆が挨拶したいと」


 話し合いも一段落ついたのか、招集に応えてくれたA級冒険者達がマーカスに連れられ俺のもとへ。流石は何度も修羅場を潜ってきたであろう猛者たち、ジャッジ如きとは面構えが違う。


「はじめまして、B級冒険者のトキオです。この度はスタンピードからトロンの街を守る為、招集に応えていただき感謝いたします」


 こちらはB級。上位冒険者の彼等に敬意を表し丁寧に挨拶すると、モンクだろうか屈強な男がそれに応えた。


「ウィルだ。俺達にそんな態度をとる必要は無い。ここに居る全員、誰もあんたがただのB級だなんて思っていないさ」


「そうか。じゃあ、改めてよろしく。俺のことはトキオでいい」


 そう言って握手を交わすと、他のA級冒険者達も気さくに話しかけてくる。


「S級のマーカスさんが手も足も出ずに弟子入りを志願するB級冒険者なんてあり得ないだろ」


「そもそも、ここに居る大半があんたの大立ち回りを目撃している。あの日はやべぇ新人が来たってギルド中大騒ぎだったからな」


「あのギルド長が、ビビって初日にB級の冒険者カードを渡す奴が普通な訳ねぇだろ」


「大量の金を持ち込んで、銀行を泣かせたらしいな」


「聞いているぞ。トロンの盾をシメたのもあんただって」


 一人一人と一言二言交わしながら握手していく。それにしても、ろくな噂が流れていない・・・


『師匠、こいつらは私がシメておきましょうか?』


『やめなさい。この人達なりの親愛のあかしだから』


『はぁ・・・師匠がそう言われるなら』


 まったく、普段は紳士面しているくせに、こういうところはコタローと変わらないな・・・


「お前等、師匠に対してその口の利き方はなんだ!」


「いいから、いいから・・・」


 落ち着けマーカス。お前と違って彼等は俺の弟子じゃないから、これでいいんだよ。


「そうだぞ、あんたら。トキオ先生を怒らせると、生きたまま地中に埋められるぞ!」


 するか!


 おい、デュラン。頼むから、これ以上変な噂を増やすのはやめておくれ・・・




 その後も初顔のA級冒険者達と挨拶を交わしていき、最後に俺を値踏みするような視線で見ていた斥候らしき軽装の女性冒険者が前に立つ。


「ふーん、あんたがトキオか。マーカスが随分と世話になっているらしいね」


 んっ、マーカスの知り合いか?でも、マーカスは王都からトロンに移籍したばかりの筈だが、随分と親しげだな・・・


「おい、マチャ。師匠に失礼な態度をとるな!」


「マーカスにとっては師匠でも、私には関係ない。A級の私が、どうしてB級に気を遣うのさ」


 なんか、凄く嫌われている・・・俺、あなたに何かしましたか?


「乗り掛かった舟だ、スタンピードの鎮圧には協力してやる。でも、その後はマーカスを王都へ連れて帰るからね。こんな僻地で、たかがB級のあんたにマーカスほどの男が教えてもらうことなんて何もない。なんなら、いまここで私がぶちのめしてやってもいいんだよ」


「いい加減にし・・」

「へっ・・」


 マーカスが俺への暴言を止めるより先に、我慢の限界を迎えた男が殺気を放つ。殺気をもろに受けたマチャはその場にへたり込んだ。


「やめろ、サンセラ!」


「しかし・・・」


「やめろと言っている」


「わかりました・・・申し訳ございません」


 ようやく殺気を収めるサンセラ。しかし、余程頭に来たのか一歩前に出てマチャに話し掛ける。


「お嬢さん、貴女の狭い世界観で物事を語るべきではない。私如きの殺気で腰を抜かす貴女が、どうやって師をぶちのめすというのですか。私は貴女の慕っているマーカスより遥かに強い。その私を全ての面で凌駕する御方が、我が師、トキオ セラ様です。マーカスはそれを知った。自分より遥か高みに居る存在を知ったのです。それでも、マーカスは折れなかった。師から学びたいと頭を下げ、この地に残ったのです。貴女がマーカスを慕うのであれば、すべてを捨て一から学ぼうとしているマーカスを応援してあげてください。マーカスの先輩として言わせていただきます。彼の決意を侮辱することは私が許しません」


「サンセラ先輩・・・」


 なんでマーカスの奴は涙ぐんでいるんだ。俺は全然感動しないんですけど・・・っていうか、女の子虐めんなよ!尻餅ついて泣いているぞ!謝れよ!

 サンセラの後頭部を力ずくで押さえつけて頭を下げさせると、もう一方の手をマチャさんに差し出し起き上がらせる。かわいそうに・・・手、震えているじゃん。


「すみません、マチャさん。弟子が知ったような口を聞いて。ほら、ちゃんと謝れ!」


「痛いですよ、師匠。なぜ私が謝罪など・・」


「いいから、謝れ。女の子泣かしたんだぞ!」


 素直に謝ろうとしないサンセラと言い合いをしていると、殺気から解放され少し落ち着いたマチャさんが口を開く。


「あの、いえ、私の方こそ、失礼な言葉の数々を謝罪させてください。申し訳ございませんでした」


「やめてくださいよ、これから共に戦場へ立つ仲間じゃないですか。謝罪とか要りませんから」


「私には謝罪しろと言ったくせに・・・」


「なんだよ」


「何でもありません」


 なにその態度、反抗期か?ドラゴンにも反抗期があるのか?


「フフフッ、トキオ様、サンセラ様、お二人が途轍もない実力者であり、同時に今のやり取りで人徳者だというのもわかりました。今後ともマーカスのこと、よろしくお願いします」


「いえ、こちらこそ。マーカスには学校の方でも力を貸してもらっていますので・・・」


 ほら見ろ、サンセラのせいで笑われたじゃないか。


「学校ですか?」


「ええ、恥ずかしながら冒険者としての実績はゼロで、本業は教師です」


「えっ、実績ゼロでB級・・・冒険者カードを見せていただいてもよろしいですか」


「はい、どうぞ」


 慌ててマジックボックスから冒険者カードを出してマチャさんに渡す。


「これは・・・しかも、マジックボックスまで・・・A級如きが、大変失礼しました」


 あれ、マチャさんはB+級のこと知っているのかな?イレイズ銀行の支店長も知っていたし、大丈夫か冒険者組合のセキュリティ。


「今回の無礼は、戦場の活躍でお返しします。本当に世間知らずで、申し訳ございませんでした」


「いえいえ、サンセラの言うことなんて真に受けなくて構いませんから」


「私は間違ったことなど言っておりません」


 この野郎、空気読めよ。


 なんか居づらくなってきたので、そろそろ公爵邸の方に移動するか。こっちは問題なさそうだし。


「それでは、公爵邸の方に顔を出してきます。皆さん、明日はよろしくお願いします」


「おう、任せろ。公爵にたんまり依頼料用意しとけって言っておいてくれ!」


 ウィルさんが言うと、皆も笑顔で送り出してくれた。以前に比べ冒険者ギルドの雰囲気は良くなっている。いい改革が出来たようでなによりだ。


「あっ、そうだ、サンセラ様」


「まだ言いたいことがあるのですか。貴女と話すと師匠に叱られるので迷惑なのですが」


 こいつ、女性との口の利き方が本当にわかってないなぁ・・・


「そう邪険になさらないでください。一つだけ、誤解があったようですので訂正しておきたいと思いまして」


「なんですか?」


「私とマーカスは、サンセラ様が思っているような間柄ではありませんよ」


「でしょうね。マーカスが貴女のようなお転婆と恋仲になるとは思えません」


「おい、やめろ。失礼だぞ!」


「失礼なのは彼女の方です」


 態度を改めようとしないサンセラに向かい、マチャさんは腰に巻いた布をスカートに見立て摘まみ上げると、背筋の伸びた美しいお辞儀をする。


「先代ハルトマン男爵家四女、マチルダ ハルトマンと申します。年は離れておりますが、現アトル領主ハルトマン男爵の妹です。サンセラ様、甥マーカスが大変お世話になっております」


 これには俺もサンセラも驚く。どおりでB+級冒険者のことも知っている筈だ。年はマーカスの方が上そうだから、年下の叔母さんか。そりゃ、わからんだろ。


「・・・これはご丁寧に。トキオ セラ様の一番弟子、サンセラと申します」


 サンセラも丁寧なお辞儀を返す。礼に対しては礼で尽くすしかない。ざまあみろ。人を見た目で判断するからこうなる。


「ハルトマン家の方でしたか。そうとも知らず、弟子が大変失礼いたしました」


「何を仰います。今はこちらにおられる方々と同じ一介の冒険者です。これからも登録名のマチャと気軽にお呼びください」


 俺達が挨拶を交わしていると、サンセラがツカツカと速足でマーカスのもとへ向かい、ペシンと頭を叩いた。


「さっさと言え、紛らわしい」


「痛てっ、申し訳ありません・・・」


 トロン冒険者ギルド最上位冒険者のマーカスが頭を叩かれるのを見た他の冒険者は、正体不明だったサンセラとマーカスの力関係を理解した。


 しかしサンセラよ、それは八つ当たりだぞ。


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