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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第四章 トロンの街編

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第七話 妹よ、俺は今コレクションを自慢されています。


 蔵の捜査が終わるのを待つ間、オリバー男爵の書斎に招待される。数あるマジックアイテムの中でも、オリバー男爵が気に入っている数点は書斎にある金庫で厳重に保管されているらしい。

 すぐにマジックアイテムを見せてもらおうと思っていたが、書斎のテーブルにはお茶が用意されていた。オリバー男爵との顔合わせも中途半端に終わっていたので、挨拶がてら休憩することとなった。



 香りの良いお茶を頂きながらオリバー男爵の貴族界での立ち位置や現在の活動などの説明を、甥であるオスカーが話してくれる。

 オリバー男爵に貴族として目立った功績はない。兄であるブロイ公爵との間に跡目争いが起きないよう、敢えて目立たぬようにしてきた。跡取りを兄エリアス、軍部を弟クルトに譲ったオスカーと同じような状況だ。もとより領地経営に興味はなく、貴族としての栄達も望んでいない。貴族としては変わり者の部類に入る。そんな叔父の姿を幼いころから見てきたオスカーは、オリバー男爵から多大な影響を受け育った。子供の居ないオリバー男爵は、自分と同じく今の貴族社会に疑問を持ち、趣味嗜好も合うオスカーを我が子のように可愛がった。ブロイ公爵が言っていた「変わり者同士気が合う」には、こういった背景がある。


 貴族としての実績はないオリバー男爵だったが、別の部分では才能を遺憾なく発揮し、広くその名を轟かす。オリバー男爵には人を見る目と先を見通す力があった。

 才能のある商人、この先発展する事業への投資を次々と成功させたのだ。貴族としてはパッとしないが投資家としての能力は抜群。これが貴族界のオリバー男爵評となる。

 オリバー男爵は大金を得ることが目的ではなく、純粋に若い才能や将来人々の生活に役立つだろう事業の応援がしたかった。結果的に大金を得ることになったが、それは副産物でしかない。そのため、投資で得た金は惜しみなくトロン発展のため寄付された。図書館だけでなく、トロンの街にはオリバー男爵が寄贈した施設は他にもいくつかある。


 元来、成金主義の貴族に嫌悪感を持っていたオリバー男爵は、兄のブロイ公爵に恥をかかせない程度には身の回り金を掛けるが、それ以上は興味がない。そんなオリバー男爵が唯一自分の為に金を惜しみなく使ったのが、マジックアイテムの収集である。



「なるほど。オスカーの貴族らしくない人柄は、ブロイ公爵家の自由な家風だけでなく、オリバー男爵の影響が多分にあったのですね」


「ええ、兄には申し訳ないことをしました。私の話に興味を持つオスカーが可愛くて、しなくてもいい話を聞かせ過ぎたのかもしれません。気付いたときには、私に引けを取らない変人になっていました」


 変人扱いされたオスカーが、鼻高々に上機嫌で笑みを漏らす。なあオスカーよ、変人とは間違っても誉め言葉ではないぞ・・・




「ではそろそろ、私のコレクションの中でも選りすぐりのマジックアイテムをお持ちしましょう」


 お茶を飲み終えたところで、オリバー男爵はもう待ちきれないとばかりに勇み立ちあがった。気持ちはわからなくもない。収集家が最も喜びを感じるのは、最高の品物を手に入れた時ではなく、それを他者に自慢している時だと何かで読んだことがある。


 オリバー男爵自ら本棚をスライドさせると、奥から巨大な金庫が出現。ベタだなぁと思いながらも声には出さず見守る。ダイヤルを左右にカチカチと回し最後に取っ手の隣に埋め込まれた宝石に魔力を流すと、グゥワンという音とともに扉が開く。オスカーに尋ねると魔道金庫といわれる物らしく、非常に高価だが貴族の屋敷には大概あるらしい。

 最後に魔力を流していたが、あれって登録者が急死したらどうなるのだろう。この世界には開かずの金庫が沢山ありそうだな、なんて考えながら待っているとオリバー男爵が30cm程ある二体の像をテーブルに置いた。


「どうぞ、手にとってご覧ください」


 と、勧められたが、正直触りたくない。「最上位鑑定」で確認したが、なぜこんな物を大切に金庫で保管しているのか、まったく理解できない。


「オリバー男爵は、これが何なのかご存じですか?」


「実は、用途まではわかっていません。ですが、どのような効果があるかはわかっています。魔力を流すことで黒い悪魔像が悪臭、白い天使像が爽やかな香りを出します。私が考えるに、この二体は対で何かの儀式に使われていたレガシーアイテムなのではないでしょうか」


 はい、まったく違います・・・と、いうか、これゴブリンと中年のおばさんじゃなくて悪魔と天使だったのか。像のクオリティー低すぎるだろ。

 さて、どうしたものか、真実をそのまま話してもよいものか・・・


 これが、ただ単にオリバー男爵の収集品自慢に付き合わされているだけなら、適当なことを言ってお茶を濁してもかまわない。しかし、今は緊急事態。気を遣っている場合ではないのはわかっているが、期待して俺の言葉を待っているこの状況では何とも言い辛い。


「残念ですが、この二体は対ではありません。黒い像が約三百年前、白い像が約二百八十年前に作られたもので時代が若干異なります」


「なんと、見ただけでわかるのですか?」


「はい。私は「鑑定」のスキルを持っていますので」


「失礼ですが、「鑑定」のレベルは?」


「10です」


「なっ・・・」


 これにはオリバー男爵だけでなくオスカーも絶句する。そういえば「鑑定」がカンストしていることはオスカーにも話していなかったっけ。


「それならば間違いない。トキオ殿、教えてください。この像の正体を!」


「わかりました。まず、こちらの黒い像ですが・・・」


「はい・・・」


「動物避けです」


「えっ・・・」


「プッ!」


 鑑定結果とオリバー男爵の反応に思わず吹き出したオスカーが慌てて口を押える。儀式に使われたレガシーアイテムだと信じて疑わなかったオリバー男爵には酷だが、当時の使用方法を詳しく説明する。


「主に畑で農作物を荒らしに来る動物避けに使ったものです。禍々しい像である必要もなく、そもそも液体を直接散布しても同じ効果が得られるのでマジックアイテムである必要すらありません。結果、殆ど浸透しませんでした」


 要は、三百年前の不人気商品である。


「こ、こっちは!こっちの天使像はどうですか?」


「こちらの白い像ですが・・・」


「はい・・・」


「トイレの芳香剤です」


「へっ・・・」


「プッ、ププッ!」


 肩を震わせ必死に笑いを堪えるオスカー。オリバー男爵は魂が抜けたような表情をしている。


「良い香りを送るという着眼点は良かったのですが、トイレに置くには大き過ぎて邪魔だったこと、黒い像と同じくマジックアイテムである必要がないことなどの理由から殆ど浸透しませんでした。ちなみに、黒い像の制作者がジャン バーラ、白い像の制作者がベン バーラ、二人は親子です」


 要は、似たもの親子の不人気商品である。


「ブハッ・・・もうダメ・・・ハハッ、アハハハハハッ!」


 ペシンッ!


「笑うな、馬鹿者!」


 笑われたことに腹を立て、オスカーの頭を引っ叩くオリバー男爵。だが、オスカーの腹筋崩壊は止まらない。


「も、申し訳ございません。しかし・・・プッ、アハ、アハハハハッ!」


「ぐぬぬ・・・」


 一度笑いのツボに入ってしまうとなかなか抜け出せない。あまりオリバー男爵に恥をかかすのも本意ではないので、そろそろ助け舟を出すか。


「確かにこの像はマジックアイテムとしての価値は殆どありません。門外漢ではありますが、芸術的な価値も低いでしょう。しかし、何の価値も無いという訳ではないですよ」


 俺の言葉にオリバー男爵が期待を寄せる。オスカーもようやく爆笑から戻ってきた。


「このアイテムからは、約三百年前の人々の生活を垣間見ることができます。マジックアイテムとしてでも芸術品としてでもなく、当時の文化を知る社会的資料としての価値が十分にあります。マジックアイテム収集家のオリバー男爵からすれば不本意かも知れませんが、社会的資料を未来へ繋ぐためにも是非大切に保管していください」


「なるほど。流石は学校を作られたほどのお方。貴族上がりの似非教師と違って物事を多角的な視点で捉えておいでだ。そういうことであれば、今までどおり厳重に保管してまいりましょう」


 まあ、嘘は言っていない。どんなにくだらない物であれ、三百年も経てばそれなりに価値はある・・・と思う。



「トキオ殿、もう一つ見ていただきたいマジックアイテムがあるのだが、よろしいかな?」


「ええ、かまいませんよ」


 俺もマジックアイテムは嫌いじゃない。どうせ蔵の調査が終わるまでは待たなければならないのだ、珍しいアイテムが有るのなら見ておきたい。


「叔父上、遂にあの水晶を出されるのですな」


「ああ。そういえば、裏ギルドの件で取り上げられそうなところをオスカーが庇ってくれたそうだな。それに免じて、先程私のマジックアイテムを笑ったことは不問にしてやる」


「ちょ、ちょと、叔父上。折角収まったのですから、思い出させないでくださいよ」


「うるさい。お前もこっちに来て運ぶのを手伝え」


「はいはい、わかりましたよ」


 なんだかんだと言いながら、二人仲良く大きな箱をテーブルまで運んでくる。一辺が50cm程の箱。この中に入っているのなら、相当巨大な水晶だ。オリバー男爵が自慢の一品を見せる収集家の顔になり蓋を開けると、中から出てきたのは前世で見たことのある物だった。


「これは・・・ミラーボール」


 バブル全盛期にディスコの天井に吊るされ、光を当てながら回転させると部屋中に光を反射させる、あのミラーボールだ。ということは、製作者は・・・


「トキオ殿、この水晶をご存じなのですか?」


「ええ。念のため「鑑定」させていただきます」


 やはり、製作者はセイ ジョウデン。アイテムの名称もミラーボール。だが、前世のミラーボールと同じものではない。前世のミラーボールは全面に鏡が貼られており、光を当てることによって反射するものだったのに対し、このミラーボールは魔力を流すことにより自らが光を放つ。


「少しだけ魔力を流してもよろしいですか?」


「どうぞ」


 魔力を少しだけ、数値にして10流す。キラキラと美しい光がランダムに発射され、五分間続いた。原理こそ違うが、ミラーボールで間違いない。多分、用途も前世と同じだろう。上田誠(仮)は何故こんな物を作ったんだ?この世界にディスコかダンスホールでも作ろうとしたのか?


「トキオ殿、そのマジックアイテムは・・・」


「このアイテムの名称はミラーボール。魔力を注ぐことでランダムに光を発生させる物です」


「それだけですか?」


「ええ、それだけです」


 がっくしと肩を落とすオリバー男爵。魔道金庫に保管されていたマジックアイテムは、黒の像、白の像、ミラーボールの三点。すべてマジックアイテムとしては価値が低く、わざわざ魔道金庫で厳重に保管するような物ではない。オスカーもミラーボールには期待していたようで落胆の様子だ。


「ただし、このミラーボールは俺にとっては価値があるものです」


「先生には価値がある・・・もしかして!」


「ああ。このミラーボールの制作者は、セイ ジョウデンだ」


 このミラーボールが何の為に作られたか、今考えても答えは出ないだろう。しかし、このミラーボールによって上田誠(仮)の新たな情報は得られた。

 ミラーボールを見て俺が最初に思ったのは「実物を始めて見た」だ。言葉や映像では知っていた。だが、実際に見たことはない。俺が育った時代にディスコは絶滅していた。ダンスホールは探せばあっただろうが、社交ダンスでもやっていない限り一般的ではない。

 これらのことから、上田誠(仮)と俺が生きた時代には約三十年から四十年の開きがある可能性が浮上する。この差は大きい。前世で三十年以上も違えば、科学の進歩がまったく違った時代を生きたことになる。三十年前にスマートフォンは無い。インターネットも無い。そもそもパソコンが一般家庭に普及していない。LEDライトもない。夜、羽虫が光に集まるのではなく、紫外線に集まっていることも知られていない。宇宙ステーションも出来ていないどころか、建設すら始まっていない。俺と上田誠(仮)では、この世界で使える前世の知識に差があることになる。

 上田誠(仮)に出来て俺に出来ないこと。隠蔽の指輪の作成や「忍者」スキルを生み出すのに、少なくとも近代三十年間に生み出された知識は関係ないことになる。勿論、これはあくまで可能性であり、今すぐそうだと決めつけるのは早計だ。上田誠(仮)の情報をもっと集める必要がある。


「ありがとうございました、オリバー男爵。このマジックアイテムを見せていただけたことで、俺は大きく一歩前進することができました」


「トキオ殿のお役に立てたのなら、私のマジックアイテム収集も無駄ではなかったのでしょう。自分のアイテムを見る目の無さには辟易していますが・・・」


 まったく、驚愕の事実だ。投資家として誰もが認めるほど先見の明があるオリバー男爵が、マジックアイテム収集家としてはポンコツなどと想像もつかなかった。下手の横好きどころではない。あえて役に立たないマジックアイテムを選んで金庫にしまっていると言われた方がまだ信じられる。


 こうなると蔵に納められているマジックアイテムの方が良い物の可能性も出てきた。もし、収集家の間でオリバー男爵の目利き能力がバレていたのなら、その情報がジャンセンに入っている可能性は高い。奴の目的を把握する為にも、取られたマジックアイテムを知る必要がある。既に盗まれてしまった以上、何時ジャンセンが動き出してもおかしくないのだから。


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