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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第三章 学校編

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第十七話 妹よ、俺は今引っ越しをしています。

 

「パトリ、今見ている光景は現実ですか?」


「私も信じられません」


 俺、コタロー、サンセラの三人だけで造り上げた学校。この世界では俺にしか使えない魔法や「創造」スキル、コタローとサンセラの正体を秘匿するため誰にも建設現場を見せなかった学校にマザーループ、シスターパトリ、オスカー、マーカスの四人を招待した。


「こ、これを、一月にも満たない期間で・・・」


「ハハハッ・・・本当に、師匠のされることは桁が違う・・・」


 建設を開始してから、この四人に一度として進捗状況を聞かれたことはない。俺はそれを四人からの信頼と受け取った。


「一度学校内の施設を案内します。その後は持ち場に分かれて備品を搬入してください。時間はそれ程ありませんよ」


 四人を呼んだのは学校を見せたかっただけではない。やらなければならないことは沢山ある。


「行きましょう、マザー。子供達も学校が始まるのを待っています」


「そうですね。これ程の学校を用意していただいたのですから、今度は私達が頑張らなければ」



 一通り施設を案内した後、マザーループは図書室で本の整理、シスターパトリは寮で生活に必要な備品の搬入と点検、オスカーは楽器や画材の搬入、俺とマーカスは教室で椅子や机を並べていく。

 最初の教室に椅子と机を並べ終え一息つくと、汗を拭いながらマーカスが話し始める。


「最近になって、ようやく師匠の言葉の意味がわかり始めて来ました」


 ほう、俺のところに通うようになって考え方に変化が表れ始めたか。


「剣しか見えていませんでした。強くなることしか考えられませんでした。もの凄く狭い視界で世界を見ていました。剣に執着するあまり自分の成長を止めていました」


 マーカスは子供の頃から剣士に憧れ、才能も有り努力もした。それ自体は素晴らしいことだ。


「目的を見失っていました。私は強い剣士になるのが目的ではなく、強い剣士となって充実した人生を送るのが目的だったと気付きました。私にとっての剣とは、目的を達成するための手段なのだと。勿論、私にとって剣は一番大切なものです。ですが、他にもこの世界には素晴らしいことが沢山ある。それを見ずして充実した人生と言えるのか」


 規則正しく並んだ机の上に手を置くマーカス。


「椅子と机を並べながら、この教室で子供達が元気に学んでいる姿を想像していました。冒険者を志す子供に剣の稽古をつけている自分を想像しました。教え子が冒険者として大成していく姿を想像しました。そのすべてが素晴らしい」


 すでにマーカスは冒険者としての最高位、S級冒険者に上り詰めた成功者だ。一部の特殊な事例を除いてマーカスに勝てる者など殆ど居ない。これ以上強くなる必要は無い。


「不思議ですね。剣以外のものに目が行った途端、もっと剣を磨き強くなりたいと思うのですから。サンセラ先輩に師匠のお考えを教えていただき、師匠の活動に助力せよと言われた時、心が震えました。何としてもお力になりたいと思いました。師匠の為だけではありません。オスカーも言っていましたが、これ以上充実した人生は想像できませんでした」


 誰一人として同じ人間などいない。幸福感も充実感も十人十色。マーカスが自ら選んだ人生は、師匠であろうと否定することはできない。


「この学校で働けることが楽しみでなりません。子供達や親友と共に学びながら教育の在り方に改革を起こそうとしている師匠のお力になりたい。その為に私はもっと強くなりたいのです。今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します」


 誇らしく宣言し、頭を下げるマーカス。俺の方こそ、マーカスとの出会いを神に感謝する。


「マーカス、お前は強くなれる。剣だけなら俺を超えられる」


「まさか。ですが、いつの日か師匠から一本取ってやろうと密かに思っております」


 ニヤリと笑うマーカス。そうだ、その意気だ。


「「剣聖」10を獲得したら、もう一度立ち合いをしよう。その時は俺も本気を出す」


「はい、よろしくお願いします!」


 また一つ楽しみができた。「剣聖」10の剣士と立ち合える日が待ち遠しい。きっと、そう遠くはない未来だろう。


 この後、上機嫌になったマーカスの働きは凄まじく、あっという間に予定していた教室の椅子と机を並べ終わった。




 午後からは子供達の食事を準備する為教会に戻ったマザーループとシスターパトリに変りサンセラが作業に加わる。警備が薄くなる教会にはコタローに行ってもらった。冒険者としての依頼があったマーカスも午後からは居ない為、俺、サンセラ、オスカー、三人での作業になる。


「オスカー、納得のいく教科書は出来たか?」


 この世界の人間にしかわからないこと、特に礼儀作法の教科書編集はオスカーに任せている。


「納得・・・は永遠にできないでしょう。それでも、今の自分に出来る範囲のことはやれました」


 そうだな。教育に正解なんて無い。常に進化していくものであり、永遠に完成しないものだ。初めての教科書編集で納得など妥協でしかないとオスカーは学んだ。


「教科書作りを通じて教師という職業の恐ろしさを痛感しました。自分が教えようとしていることは本当に正しいのか。もっと良い教え方があるのではないか。常に疑問が付きまといます。でも、それでいいのだと思います。自分を疑い続けることで間違いがあっても受け入れられる。変化を受け入れられる。教育において、固定観念は最大の敵です」


 貴族、それも公爵家という何不自由ない恵まれた環境で育ちながら、初めての教科書作りでこのような考えに至るオスカーは本当に優秀だ。既得権益を持って生まれた人間が固定観念を払拭するのは並大抵ではない。自分自身でも気付いていなかったのだろうが、俺と出会う以前からオスカーにはそういった考えが心の中にあったのだろう。


「お前は本当に貴族らしくないな」


「それは私にとって最大の誉め言葉です。子供の頃から、同じ人間にもかかわらず貴族だと偉そうにのさばる輩が大嫌いでしたから」


 面白い男だ。ブロイ公爵家の自由な家風が幼少期のオスカーを抑え込まなかったこともオスカーの人間形成に大きく関係しているのだろうか。勉強を教えることだけが教育ではない。


「私とて貴族としての固定観念が無かった訳ではありません。今のような考えが潜在的にはあったのかもしれませんが、先生と出会えたことで価値観が一気に変わりました。何事にも本気になれなかった私が、どうしてもこの方の下で学びたいと思ったのです」


 俺の何が琴線に触れたのかはわからないが、あの日のオスカーの行動は常軌を逸していた。オスカーを最も長く見てきたブロイ公爵も始めて見る姿だったのだろう。想いは父親に伝わり今オスカーはここに居る。


「先生と出会い毎日のように固定観念を破壊され続けている今が楽しくてなりません。その上、この学校で教師という新たな挑戦もできる。教え子が社会へ羽ばたく姿を想像するだけでわくわくします。サンセラ先輩に先生の活動を助力せよと言われた時の心の震えは今も続いています」


 ここでもサンセラの言葉が響いてしまったか・・・まあ、オスカーが選択した人生に俺が口出しすべきではない。


「そういえば、この前約束したマジックアイテムだが、お前がどれだけ魔法を使えるようになるかで何にするか決めるから」


「頑張ります。かっこいいのをお願いしますね」


「サンセラみたいなこというなよ」


 二人して笑っているところへサンセラが合流する。


「お待たせしました。へ、へっくしょん!」


 くしゃみをするサンセラを見て、俺とオスカーはさらに笑った。



 ♢ ♢ ♢



 お揃いの真新しい制服に身を包んだ子供達が整列する。各列の先頭に立つのは年長組の七人。移転及びトロンの街を見て回る際、年齢で子供達をバランスよく七つの班に分けた。同行するマザーループ、シスターパトリ、オスカー、警備を担当するマーカス、トロンの盾といった大人達だけでなく、年長組の子供にもはぐれる子が出ないよう注意を払ってもらう。


「街に出てからは先頭がマザー、最後尾が私です。決められた隊列が崩れないよう各班のリーダーは注意してください。昼食、自由時間は班単位で行動してください。何かあればすぐ近くの大人に相談してください・・」


 シスターパトリによる出発前の注意事項を真剣に聞く子供達。街に出る高揚感で集中力が散漫になってもおかしくないが、そんな子は一人も居ない。子供達にとって普段から生活を共にしてきたシスターパトリは文字通り姉なのだ。姉の雰囲気から今聞いている話がとても重要だと子供達はわかっている。


「それでは、出発します!」


 シスターパトリの掛け声とともに先頭を行くのはマザーループとオスカー。トロンの街で最も知名度の高いマザーループと公爵家のオスカーが前に出ることで余計ないざこざが起きないようにする。そのうしろから生徒会長のネルを筆頭に子供達が二列になって続く。ネルがリーダーをする1班は特別班で、年少組に満たない幼い子供が集まった班。1班の歩く速度が全体の速度になる。2班以降はリーダーの横には最年少の子といった具合にバランスをとっている。子供達の周りに等間隔で警護するトロンの盾を配置。最後尾にはシスターパトリと警護班のリーダー、マーカス。総勢四十人以上の大所帯だ。


「コタロー。上空から全体の警護、頼んだぞ」


『御意』


 返事と同時に上空へ飛び立つコタロー。これで警護は盤石だ。


「さて、俺達も始めるか」


「はい」


 俺とサンセラの仕事は孤児院の解体と教会の移転。まずは孤児院から。


 家財道具は既に持ち出され子供達も去った孤児院は本来の姿である講堂に戻っている。子供達が眠りについている夜以外は常に喧騒の中にあったのが嘘のような静寂。二十五年もの長きにわたり子供達の生活を支えてくれた講堂に感謝の気持ちを込め深く一礼すると、俺の気持ちを悟ったのかサンセラも頭を下げる。

 老朽化したとはいえ再利用できる部分は沢山ある。子供達を守り続けた講堂を廃材にはしたくない。姿を変えて子供達の役に立つ日がくることも考慮して丁寧に解体する。


「グラウンドキーパー」


 最後に基礎部分を地中に埋め、孤児院は更地になった。


「あとは教会だけですね」


「ああ。慈悲の女神チセセラ様像やマザーループとシスターパトリの家財道具はそのままだから慎重にいくぞ」


 図書館で本棚を倒してしまった経験を踏まえ、まずは空間魔法で家財道具を固定していく。特に慈悲の女神チセセラ様像は念入りに。一時間ほどかけ教会中の物を固定した。次に教会を基礎部分ごと持ち上げる為、地面を土魔法で緩くする。


「いくぞ、サンセラ。せーの!」


 息を合わせサンセラと二人で切り株のように教会を引っこ抜き、すかさず土魔法で緩くしてあった地面を元の硬さに。


「よし、成功だ」


 念のため教会全体を結界で覆い保護。最後に、未だ限界知らずのマジックボックスに収納。ちなみに、マジックボックスへの収納は俺の意思さえあれば持ち上げた時のような腕力は必要ない。


「以外に広かったんだなぁ・・・」


 教会と孤児院が姿を消し、俺が生活する丸太小屋だけが隅にポツンと取り残された更地は思いのほか広かった。二十五年もの間子供達が駆け回ったセラ教誕生の地は、ここに役目を終える。

 それも一瞬のこと。今度は趣のある教会ではなく、トロンの街のシンボルとなる立派な教会が建設される予定だ。孤児の支援が中心だった教会は学校と併設され、ここには人々の心に安寧をもたらす教会が治療院と共に誕生する。


「行きましょう。新たな生活が待っています」


 感慨にふける俺にサンセラが声をかける。


「そうだな。希望に目を輝かせた子供達が待っている」


 最後に丸太小屋をマジックボックスに収納して完全な更地となった教会跡地に、俺とサンセラはもう一度深く頭を下げた。


 長きに渡り子供達を見守っていただきありがとうございました。




 学校に着くと早速教会を予定された場所に設置。固定に使った空間魔法を解除しながら破損個所が無いかを点検していく。最後に慈悲の女神チセセラ様像にかけた魔法を解除して祈りを捧げる。


『妹よ。ここが俺の作った学校です。今度はこの地で子供達を見守ってください』


 慈悲の女神チセセラ様のコスプレをした妹が笑ったような気がした。



「さて、いよいよ目隠しを外すぞ」


「なんだか、ドキドキしますね」


 結界の目隠しを解除すると、閉鎖された空間から一斉に周りの風景が広がった。遠く離れた場所にぽつりぽつりと点在する民家が見える。大通りのようなざわつきは無く、心地よい風が頬を撫でる。


「いいな、サンセラ!」


「いいですね、師匠!」


 教室で教師の質問に挙手する生徒。体操着を着てグラウンド駆け回る子供達。想像するだけで気分が高揚する。


「すみませーん。トキオ先生、いらっしゃいますかー」


 大声で俺を呼ぶのは守衛を依頼したトロンの盾のリーダー、ヘイダーだ。


「誰でも良かったのに、態々ヘイダーが来てくれたのか」


「ええ、最初くらいは俺がと思いまして。それにしても驚きましたよ。依頼で受けた黒く覆われた場所を目指して歩いていたら、いきなり闇が取り払われて中から学校が現れたのですから」


「驚かせて悪かったな。どうだ、この学校?」


「いやー、失礼ながら想像していた物の何倍も凄いですよ。本当にうちのメンバーが通ってもいいのですか?」


「勿論だ。学びたい者を受け入れるのが学校の使命だからな」


「ありがとうございます。守衛はお任せください。24時間体制で警備させていただきます」


「ああ、任せたぞ。ただし、あくまでメインの仕事は出入り口の監視だ。敵意のある者が来ても一人で戦おうとするなよ。中には俺も居るし学校全体は結界魔法で囲ってある。危険な時は門の中に避難しろ」


「はい。トキオ先生が居ちゃあ戦闘で俺達の出る幕はありませんからね」


 ヘイダーの説明では8時間交代24時間体制で守衛をしてくれるとのこと。今までのように教会の玄関がそのまま敷地内の玄関ではなくなったため、門番が居てくれるのはありがたい。


 正門にヘイダーを残し俺とサンセラは次の作業。子供達の夕食、バーベキューの準備に取り掛かる。


「肉を焼くのに炭をつかうのですか?」


「そうだ。炭は一度熱を持てば長時間高温を維持できる。ただ高火力で肉を焼くより遥かに美味しくなるぞ」


「そうなのですか。師匠の知識は本当に広範囲ですね」


 バーベキュー用のグリルを設置しながらサンセラに蘊蓄を披露しているとヘイダーがこちらへ走ってきた。


「ラーラと名乗る女性が訪れてきました。今日から住み込みで働く予定だと言っています」


「マザーループから聞いている。通してくれ」


 ヘイダーの案内でやってきたラーラさんを見て驚いた。なんと、頭の上に耳がある。この世界で初めての獣人族だ。うしろにはラーラさんのスカートを掴み、半分身を隠した娘さんらしき子供の姿も。


「はじめまして。本日より働かしていただくラーラと申します」


「はじめまして。俺はこの学校で教師をするトキオです。よろしくお願いします」


「同じく、教師兼トキオ様の一番弟子、サンセラと申します」


 相変わらず、サンセラはそれを言わないと気が済まないのだな。


「マザーループは今こちらに向かっています。先に職場となる寮の方を一通りご案内しますので、どうぞこちらへ」


 グリルの設置をサンセラに任せ俺とラーラさん、ラーラさんのうしろに隠れた娘さんの三人で寮に向かう。真新しい設備を説明しながら寮を移動して、最後にラーラさんと娘さんに暮らしてもらう部屋へ案内した。


「こちらがお二人の部屋です。部屋にトイレとお風呂はありませんので、申し訳ありません寮のものを使ってください」


「えっ、私達も寮に住まわせていただけるのですか?」


 驚きの表情を浮かべるラーラさん。何に驚いているんだ?


「当然ですよ、住み込みの契約ですから。何かおかしいですか?」


「いえ、下働きの身でこのような綺麗な部屋を使わせていただけるとは思ってもいませんでした。しかも、お風呂まで使っていいなんて・・・」


 これは良くない。


「ラーラさん、この学校に下働きなどという職業はありません。子供達の生活を支える寮母はとても重要な仕事であり、私達は共に学校を運営していく仲間です。そこに上も下もありません」


「しかし、ここは人族の国で・・・私たち親子は獣人族ですので・・」


 これも良くない。


「それの何が問題なのですか。人族も獣人族も関係ありません。勿論魔族もです。それぞれに個性はあれ、同じ人類ではありませんか。娘さんも寮の子供達とすぐに仲良くなると思いますよ」


 膝を付き、ラーラさんのうしろにずっと隠れていた娘さんと目線を合わせて話しかける。


「はじめまして。俺はこの学校で先生をするトキオといいます。お名前教えてもらえるかな?」


「・・・ミーコ」


 母親のスカートを掴み、少し怯えながらも名前を教えてくれた。


「ミーコか、いい名前だね。何歳?」


「・・・8歳」


「ミーコも新しい学校で一緒に勉強しないか?」


「よ、よろしいのですか?」


 先に反応したのはラーラさんだった。


「当り前じゃないですか。この学校は誰でも通えます」


「お、お願いします。お金なら何としても準備しますので、この子を学ばせてください!」


「お金なんて必要ありません。すべて無料です。ここはそういう学校です」


 口を開けたまま言葉を失うラーラさん。とりあえずラーラさんは放っておいてミーコと話を続ける。


「どうかな?ミーコも一緒に勉強したり遊んだりしようよ」


「でも・・・わたしは、獣人族だから・・・多分いじめられる」


 終始怯えるミーコ。ラーラさんの反応を見てもこの親子は種族を理由に差別を受けてきた可能性が高い。


「この学校にミーコをいじめる子なんて居ないよ。ミーコは可愛いからきっとみんな友達になりたがるさ」


「ウソだ・・・みんなわたしのことを嫌っている」


 前世でも民族間で差別があった。人類において永遠の課題かもしれない。だが、原因はわかっている。すべては無知から起こること。差別は教育でなくせると俺は信じている。


「ウソじゃないよ。何も悪いことをしていないミーコのことを嫌う子なんて居ない。もしそんな子が居たら悪いのはその子だ。俺がちゃんと注意する。でも、この学校にそんな子は居ない。優しい子ばかりだよ」


「・・・ホントに?」。


「本当だよ。ミーコには俺が嘘つきに見えるかい?」


 ミーコはじっと俺の目を見た後、首を横に振った。ミーコだって友達を作りたい。一緒に遊んだり勉強したりしたい。当然だ。差別や迫害を受け、いつの間にか周りを恐れるようになってしまった。まだ間に合う。この学校で友達を作り、将来に希望を持つこともできる。周りがすべて敵に見えている今のミーコには母親以外の味方が必要だ。


「約束する。どんな時でも俺はミーコの味方だ。何か困ったことがあればいつでも相談においで。ミーコは一人じゃないよ。一緒に勉強しよう」


「・・・うん。お母さん、わたし学校に行きたい。友達が欲しい」


 ミーコの手は、いつの間にか母親のスカートから離れていた。


「お願いします。私、一生懸命働きます。どうか、娘に勉強を教えてやってください」


「はい、一緒に頑張りましょう。今日は夕食にバーベキューをする予定なので部屋で荷物を片付けたら準備を手伝ってください。ミーコも手伝ってくれるかな」


「うん。わたしも手伝う。お母さん、早く荷物を片付けてトキオ先生のお手伝いしようよ」


「そうね。ちゃちゃっと片付けちゃいましょう」


 俺の目的が全ての子供達が身分や生まれに関係なく自由に学べる世界だと知っているマザーループがラーラさんを雇ったのは偶然なんかじゃない。俺の目指す世界に種族なんて関係ない。


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