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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第三章 学校編

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第五話 妹よ、俺は今襲撃を受けています。

 

『師匠、お気お付けください。例の輩が今夜は現れておりません。そちらに向かう可能性があります』


『わかった』


 ブロイ公爵邸から戻り、子供達の教科書を編集中にサンセラから念話が入る。俺とコタローだけならなんとでもなるが、教会にはマザーループとシスターパトリ、孤児院には子供達が居る。血生臭いことにはしたくないが、皆の安全が第一。優先順位を見誤らないよう覚悟を決める。



 サンセラから念話で連絡を受けて二時間、日付が変わった直後に結界が反応した。


『トキオ様』


「ああ、捕捉した」


 侵入者は一人。あえて弱めておいた丸太小屋近くの結界を破り侵入。今は丸太小屋の様子を窺っている。弱めておいたとはいえ俺の結界を破ることのできる手練れだ。万一の事態があってはならない。丸太小屋ごと侵入者を強力な結界で取り囲む。


「転移」


 俺とコタローは「隠密」で気配を消し結界の外へ。とりあえず、侵入者の捕獲は完了。


「何者だ」


「えっ!」


 俺の声に慌てて剣を抜く侵入者。深夜ということもあり、声は捉えられても「隠密」で気配を消している俺の姿までは捉えられない。


「質問に答えろ。何者だ」


「あたっ!」


 質問には答えず、声のした方へ移動を試み結界に頭をぶつける侵入者。結界を破ろうと闇雲に剣を振るが、本気を出した俺の結界はその程度ではびくともしない。


「お前はすでに捕獲されている」


「そんな馬鹿な・・・」


 ようやく状況が理解できたのか、侵入者は剣を振ることを止め暗闇の中俺の気配を探し始める。


「もう一度聞く。お前は何者だ」


「悪党に名乗る名など無い。がはっ!」


 腹に拳を突き刺す。それにしても悪党とは聞き捨てならん。


「次は無いぞ。お前は何者だ」


「お、王都の冒険者だ」


 なるほど。トロンでは依頼を出したところで受理されないから、王都の冒険者を呼んだのか。いや、時間的に不可能だ。イレイズ銀行との話し合いから一週間も経っていない。金貨の移送に警護として雇った王都の冒険者をそのまま使ったな。


「依頼主と依頼内容は?」


「冒険者として依頼主の情報は言えん!」


 ザシュ!


「があああああっ!」


 剣を握ったままの右腕を肩から斬り落とす。


「警告はした筈だ。もう一度聞く。依頼主と依頼内容はなんだ?」


「ハァ、ハァ、ハァ、・・・イ、イレイズ銀行。依頼内容は・・・教会と共謀してイレイズ銀行から土地と金を騙し取った冒険者の調査」


 俺がいつ騙し取ったよ。それで悪党か・・・それにしてもこいつ、たいしたものだ。腕を切り落とされても意識をしっかり保っている。


「おい、右腕を拾って右肩の傷口を近付けろ」


「えっ!?」


「いいから、早くしろ」


 言われるがまま右腕を拾う侵入者。


「もう少し近くだ」


「こ、こうか?」


「よし、エクストラヒール」


 侵入者の右肩が光に包まれ俺が刀を振り下ろす前の状態に戻る。驚きつつもすぐに右腕の動きを確認する侵入者。今すべき最優先事項を的確に判断できるあたり、中々見どころがある。


「今日のところは見逃してやる。明日朝一で冒険者ギルドへ行き、自分が受けた依頼をギルド長に確認しろ。本当に俺が悪党だと思うなら、逃げも隠れもしないからいつでも来い。ただし、次は容赦しない。わかったら行け」


 捉えていた結界を解除してやると闇の中へ疾走していく侵入者。これで俺にとってもイレイズ銀行は明確な敵となった。まあ、マザーループや子供達を狙ったわけではないので今すぐ叩き潰すのだけは勘弁してやる。


『トキオ様、甘すぎませんか?』


「あいつ、そんなに悪い奴じゃないだろ」


『善悪の問題ではありません。トキオ様に剣を向けた時点で万死に値します』


「いやいや、善悪の問題だよ!」


 まったく、うちの聖獣様ときたら・・・コタローの任務が俺の警護なのは理解しているが、それにしても厳しすぎやしませんかね。



 ♢ ♢ ♢



 翌朝、剣の鍛錬を終え朝食を済ませるとシスターパトリが丸太小屋をノックする。


「トキオさん。ブロイ公爵家のオスカー様がいらっしゃいました」


「すぐに行きます。来客室を使わせていただいてもかまいませんか?」


「はい。では、お通ししておきますね」


「お願いします」


 昨日の時点でいつから働くのか正確な日時は決めていなかったが、やる気があるのは良いことだ。早速働いてもらおう。



 来客室に近付くとマザーループ、シスターパトリ、オスカー、三人の会話が聞こえた。


「敬語も敬称も必要ありません。私のことはオスカーとお呼びください」


「しかし、領主様のご子息を・・・」


「パトリ。オスカー殿・・・いえ、オスカーさんは学校で教師として働きながら、トキオさんを師と仰ぎ子供達と共に学ぼうとしているのです。貴族としてではなく一同僚として接してあげましょう」


「わかりました。よろしくお願いします、オスカーさん」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 シスターパトリとの顔合わせが済んだようなので俺も中へ。


「おはようございます、先生」


 満面の笑みで朝の挨拶をするオスカー。うう・・大人に先生と呼ばれるのは政治家みたいであまりいい気はしない・・・


「おはよう。顔合わせも済んだようだな」


「はい」


「マザーループとシスターパトリを俺は尊敬している。迷惑を掛けるなよ」


「勿論です」


 俺の言葉に照れてニヤニヤしているシスターパトリは放っておいて、マザーループに声を掛ける。


「当分の間、来客がない時はオスカーにこの部屋を使わせてもかまいませんか?」


「かまいませんよ」


 マザーループの許可をもらって早速テーブルに俺が編集した教科書を並べる。三人が思い思い手に取りしばし感想を述べあう。


「流石は先生。文章だけでなく絵や図が秀逸だ。これはわかりやすい」


「オスカーにはこれらを見本に礼儀とマナーの教科書を作ってもらいたい。言葉だけでなく、絵や図を用いてできるだけわかりやすいものを頼む」


「お任せください。早速取り掛かります」


 礼儀やマナーについては俺も全くの門外漢。オスカーの作る教科書で学ばせてもらうつもりだ。



「さて、パトリ。我々も自分の仕事に取り掛かりましょう」


 そう言ってマザーループが席を立とうとすると、玄関から声が聞こえた。シスターパトリが対応に向かい連れて来たのは、ギルド長と・・・


「誠に申し訳ありませんでした」


 昨夜、丸太小屋に夜襲を掛けた冒険者。俺に言われたとおり朝一番で冒険者ギルドを訪れ、ギルド長に教会とイレイズ銀行の一件を聞いたらしい。


「マーカス。貴様、先生を手に掛けようとしたのか!」


「オ、オスカー・・・どうしてお前が」


 声を荒げたのはオスカーだった。


「んっ、お前ら知り合いか?」


「はい。この男の名はマーカス ハルトマン。アトルの領主をしておりますハルトマン男爵家の三男で、王都の学校に通っていた時の同級生です。当時から剣を持たせたら右に出る者はおらず、卒業後は数々の誘いを断って冒険者になった筈。たしか今は・・」


「オスカー殿、先にこちらの要件を済ませてからにしてもらえますかな」


 オスカーの説明を止めたのはギルド長。嫌なタイミングだ。何か知られて拙いことでもあるのか?


「ギルド長からすべて聞きました。イレイズ銀行の話を鵜呑みにして確認もせず、トキオ殿を悪と決めつた愚かな行動でした。お許しください」


 深々と頭を下げるマーカス。


『ほら見ろ、コタロー。悪い奴じゃなかっただろ』


『善悪の問題ではございません』


『善悪の問題だよ!』


 本当に、うちの聖獣様は頑固だなぁ・・・


「許せん!悪と最もかけ離れた先生に向かって、貴様という奴は・・・そこになおれ!その首、俺が叩き切ってやる!」


 どうしたオスカー。いくらなんでも怒り過ぎだろ。ここでヘラヘラしろとは言わないが、もう少し余裕を持てよ。


「オスカーさん、言葉を慎みなさい。ここは教会ですよ」


「し、しかし・・・」


「オスカー。マザーループに迷惑を掛けるな」


「・・・はい。申し訳ございません」


 マザーループと俺に諫められ、なんとか怒りを抑え込むオスカー。マーカスは俺を殺しに来たのではなく調査しに来ただけだと後でちゃんと説明しておこう。


「誤解が解けたのなら何よりです。ただ、マーカス殿に一つだけ言わせていただきたい。今回は標的が俺だったから見逃しましたが、もし、マザーループや子供達が標的だったなら俺は全力で排除しましたよ。この意味はおわかりですね」


 顔を上げたマーカスが、ごくりと唾を飲む。


「トキオ殿のご慈悲に感謝いたします」


 もう一度深々と頭を下げるマーカス。はい、これでこの話はおしまい。マーカスもこれからは十分に注意して依頼を受けるだろう。冒険者なのだから、ちゃんと冒険者ギルドを通して依頼は受けましょうね。


「後はギルド長にお任せします」


「了解。イレイズ銀行には冒険者組合から正式に何らかのペナルティーを与えるよ」


 ここからは俺の仕事じゃない。俺の仕事は学校を作ること。冒険者だけど、もうそんなの関係ないもんねーだ。



「オスカー、仕事の続きを始めるぞ」


「はい」


 あれ?仕事をしたいのであえて大きな声でオスカーに声を掛けたのだが、どうしてギルド長たちは帰らないのだ。


 んっ?モジモジするマーカスの背中をギルド長が肘で押しているぞ。早く帰ってくれないかなぁ・・・


 あっ、マーカスが意を決した顔になった。もの凄く嫌な予感がする・・・


「トキオ殿!」


「はい・・・なんでしょうか」


「お願いしたき儀がございます」


 えぇぇ、嫌なんですけど。どうせろくでもないお願いでしょ。


「何卒、お手合わせ願います」


 マジかこいつ。謝罪に来た時より深々と頭下げちゃっているよ。後ろでニヤ付いているギルド長もなんかムカつく。


「マーカス殿、ここは教会ですよ。ねえ、マザーループ」


「はい、その通りです。ここは教会ですので殺傷事はご法度ですが、お互いを高め合う手合わせであれば何の問題もありません」


 うそーん。ここで裏切るのですか。


「何卒、何卒、お願いいたします」


 勘弁してくれ。やらなきゃいけない事が山積なんだよ。


「トキオ君、僕からも頼むよ。君が戦うところを一度見てみたいし」


「お断りします。俺はこう見えても忙しいのですよ」


「しょうがないな。じゃあ、使っちゃおうかなー」


「何をですか?」


「はら、君、僕に借りがあるよね。これで貸し借りなし」


「ちょっと、ズルいですよ」


 この野郎。ここでそれを言うのか。仕方ない、ここはマザーループに泣き付くしか・・えっ、マザーループ?シスターパトリに何を耳打ちしているのですか?ちょっと、シスターパトリ、そっちは孤児院ですよ。どうしてニコニコしながら孤児院に駆けていくの?


「何卒、何卒、お願いいたします」


 こいつも、昨日の今日でよく言えるな。本当に反省しているのかよ。


「先生。時には諦めも肝心ですよ」


 オスカー、お前もか!


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