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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第二章 教会編

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第十二話 妹よ、俺は今交渉しています。

 

 数日が経ち、いよいよ明日はイレイズ銀行が教会に来る日。そんな中、俺は今冒険者ギルドに向かっている。ミルの一言が理由で。



「それじゃあ、出かけてくるね」


「いってらっしゃい、トキオ先生。お仕事がんばってね」


 図書館の本は大方読み終え昨日書籍の購入予定リストも作りシスターパトリに渡した。街の散策も一周目を終え、今日は何処へ行こうかと思っていたところへミルの一言が突き刺さる。


 俺、この世界に来てから一度も仕事をしていません・・・




 冒険者でごった返すギルドの中に入ると俺の前に道が・・・凄く警戒されている。前回派手にやらかしたから仕方がない。

 海を割ったモーゼが如く開いた道の先にはキアさん。俺に気付くと奥に駆けだし大声で叫ぶ。


「ギルド長!トキオさんが来ましたー」


 目立つからやめてよ・・・


 キアさんに連れられてギルド長登場。


「トキオ君、どこに居たのさ。全然ギルドに顔を出さないから街中の宿を探したよ」


「すみません。色々と立て込んだ事情がありまして・・・」


「立て込んだ事情?まあいい、奥で話そう」


「はい・・・」


 仕事を選ぶ間もなくギルド長とキアさんに、ギルド長室へドナドナされました・・・




「そんな事情が・・・しかし、イレイズ銀行も馬鹿なことをしたね。この街でマザーループを敵に回してまともな商売が出来る訳ないだろうに」


「まったくです。マザーを騙すなんて絶対に許せません。イレイズ銀行の悪い噂をあること無いこと言いふらしてやります」


 現在の寝床とここ一週間の出来事を二人に聞かれ掻い摘んで話した結果、ギルド長はあきれ、キアさんは憤慨する。


「お二人共、マザーループと親交が?」


「そりゃそうだよ。駆け出しの冒険者や光属性持ちが居ないパーティーにとってマザーループとシスターパトリは頼みの綱だからね。ギルド長としては感謝も兼ねて毎月教会に顔を出して寄付をさせてもらっている。孤児院出身のギルド職員も三名いて、その内の一人がキアだよ」


 こりゃ驚いた。怒る筈だ。


「マザーは私にとって母親同然です。冒険者をしていた両親が不慮の事故で亡くなってから生活の面倒を見ていただいただけでなく、読み書きや計算も教えていただき冒険者ギルドに就職することが出来ました」


 孤児院出身であることに引け目どころか誇りすら感じさせるキアさんを見ても、この街で孤児院出身者が多く活躍していることが窺える。


「キアのようにマザーループが孤児院から送り出し、今現在もトロンの街で活躍している人達がどれだけ居るか。その家族、さらには怪我の治療で世話になった冒険者や貧民層も居る。マザーループが望もうと望まなかろうと彼女を慕う人達がこの街の一大勢力であるのは間違いない」


 やっぱりそうだよな。これだけ長い期間孤児の受け皿となり、お金の無い人達の治療をしてきたマザーループとシスターパトリが支持を得ない訳がない。困った人が居れば分け隔てなく慈悲を与え続けた二人が、自分達が困ったときは誰にも頼らないからこんなことになる。高潔すぎるよ、あの二人は・・・



 その後、教会を移転して学校を建てる計画を話すとキアさんは我がことのように喜んだ。ギルド長に協力の約束も取り付ける。一つ目の社会見学先確保!


「そういうことなので、これからも冒険者活動はあまり出来そうにありません」


「いいよ、いいよ。居場所さえわかっていれば問題なし。この街に学校を建ててトキオ君が教師をやるってことは、有事の際は当てにしていいってことでしょ。ギルド長としては万々歳だよ」


 そういうことになるか・・・今後は学校側の人間として横の繋がりも大事になるだろうし、良とするか。


「ところで、今教会と孤児院が建っている土地はどうするんだい?」


「ですから、イレイズ銀行の土地と交換し・・」


 ギルド長が首を横に振る。


「トロンに進出して二年目のイレイズ銀行は根本をわかっていない。あの土地に新店舗なんて建てられないよ。そんなことをしようとすれば暴動が起きる。マザーループを陥れようとした時点でイレイズ銀行の運命は終わったのさ。新店舗を諦めて土地を売り出しても誰も買わない。地域住民の支持を得ている教会を立ち退かせた土地なんて、何を建てても批判の的になるのはわかりきっているからね。結局、あの土地を利用できるのはマザーループだけなんだよ」


 なるほど、言われてみればその通りだ。立ち退いて魔法で更地に戻した後、土属性魔法で地盤をゆるゆるにして新店舗を建てられなくするつもりだったが、必要なさそうだな。


「イレイズ銀行がどうしようもなくなったところで僕が買い取っておこうか?」


「いいのですか?」


「お安い御用だよ。こんなことでトキオ君に借りが作れるなんて、僕にも美味しい話さ」


「どれくらい金貨を用意しておけばいいですかねぇ・・・」


「百枚もあれば十分だよ」


「百枚!確か地価の相場は金貨一万枚以上だと記憶していますが・・・」


「関係ないよ。何も建てられない、何にも使えない、そんな土地は金貨百枚でも高いくらいさ。それで、イレイズ銀行との話し合いはいつだい?」


「明日です」


「僕も顔を出すよ。また契約が反故にされても面倒だろ」


「助かります」


 これはありがたい。ギルド長が立会人になってくれるのなら、俺の魔法で契約を無理矢理履行させる必要もなくなる。


「因果応報とはいえイレイズ銀行は本当に馬鹿なことをしたね。この街で領主に匹敵すると言っても過言ではない影響力を持つマザーループだけでなく、最強の冒険者まで敵に回すなんて」


「勘弁して下さい。俺は最強の冒険者なんかじゃありませんよ」


「いいや、ギルド長の僕が言うのだから間違いない」


「ギルド長、トキオさんってどれくらい強いのですか?」


 これ!キアさん。余計な話を振るんじゃありません。


「僕の見立てでは、ドラゴンにだって負けないくらいには強いね」


 ぬぬ、なかなかの慧眼。流石はギルドの長にして「鑑定」8のスキル持ち。


「それほどですか!戦闘狂のギルド長が立ち合いすらしようとしないから相当の実力者だとは思っていましたが、これは認識を改めなければなりませんね」


 あんた戦闘狂だったのかよ!


「僕なんて相手にならないよ。スピードが売りの僕が、まったく本気を出していないトキオ君の動きを目で追えないのだから。少なくとも僕が今まで出会った冒険者の中では最強だ」


「S級冒険者も含めてですか?」


「ああ、ステージが違う。ドラゴンより強いなんてS級冒険者でも聞いた事が無いだろ」


 盛るな、盛るな。


「ふぇー、トキオ様とお呼びした方がいいですかねぇ・・・」


「二人とも止めてください。トキオでいいですよ、トキオで。俺は何処にでもいる若造の新人冒険者トキオです。今後ともそれでお願いしますよ」


「はいはい、そういうことにしておくよ。キアも今までどおりでよろしく」


「わかりました。なんだか勿体ない気もしますが、トキオさんにはトキオさんの生き方がありますものね」


「ご理解いただけてなによりです。それでは明日、頃合いを見てコタローを使いに出しますので」


「コタロー?」


 そうか、ギルド内では「隠密」で気配を消したままだったな。


「こいつのことです」


 俺の肩にとまっているコタローが「隠密」を解除して姿を現す。


「わぁ、可愛い小鳥さん!」


「ちょっ、ちょっと。その子、ただの小鳥じゃないよね!もの凄い圧を感じるのだけど・・・」


 うーん、やはりギルド長クラスになると感じるものがあるのか・・・


「俺の従魔です。これ以上の詮索はダメですよ」


「う、うん。了解」



 結局、今日も仕事は出来ないまま冒険者ギルドを後にすることとなった。まあいいか、ギルド長が立会人になってくれることになったし。



 ♢ ♢ ♢



 迎えた当日。交渉の場には気難しそうな担当者だけでなく、イレイズ銀行トロン支店支店長まで同席して始まった。でっぷりとした腹の支店長が余裕の笑みを携え口火を切る。


「長きにわたってこの地で人々の支えになってきた教会が終焉を迎えるのは誠に残念ですが、契約は契約。信用商売である我々銀行が契約をたがえる訳にはまいりません。断腸の思いだとは心中お察ししますが、マザーループ、何卒ご決断を」


 自分達が終わらせにきてよく言うよ。何が契約は契約だ。その契約が嘘だらけで信用商売などと、どの口が言う。


「あのー、今日は借金返済のお話ではないのですか?」


「ええ勿論。ですが我々もこれ以上待つ事はできません。今日全額返済して頂けないのであれば、約束通り教会の土地を・・」


「ああ、よかった。それではトキオさん、後はよろしくお願いします」


 マザーループ、完璧です。なかなか役者の素質がありますね。


 話しを遮られた支店長が口を半開きにしたまま頭の上に?を浮かべている。さて、反撃とまいりますか。


「はじめまして、B級冒険者のトキオと申します。まずは契約書を確認させてください」


「冒険者の方がどうしてここに。我々は部外者と話をしているほど暇ではありません」


 土地の譲渡ですんなり終わる筈だった話がおかしな方に向かい始めたのを察知して担当者がしゃしゃり出る。大方、冒険者の力を借りて借金返済期限を延ばすつもりだとでも思っているのだろう。


「いえいえ、部外者ではありませんよ。マザーループが借金でお困りだと耳にしましたので、これは大恩をほんの少しでもお返しするチャンスだと、立て替えに来ました」


「立て替えにだと、B級冒険者ごときが。金貨700枚だぞ!」


 おぉー、こめかみに血管が浮き出ているよ。随分と気の短い担当者さんだ。俺が金貨700枚もの大金を持っているように見えないのはわからんでもないが、そんなにはっきりと表情に出すのは元営業マンとしてどうかと思うぞ。


 ガシャン!


 マジックボックスから金貨の詰まった袋を出す。

 俺がマジックボックス持ちだったのに驚いたのか一瞬目を見開いた担当者だが、その表情はすぐに緩んだ。


「ほら見ろ。その袋ではせいぜい金貨100枚だ。分割は一切認めない。全額一括返済だ!」


 立ち上がり勝ち誇った顔で俺を見下す担当者に袋の中から金貨7枚だけ取り出してテーブルに放り投げる。


「ほら、さっさと契約書を出せよ」


「は、白金貨・・・」


 ぷぷっ、担当者さん震えている。


 昨日、冒険者ギルドで金塊を買い取ってもらおうとしたら銀行に行くことを勧められた。俺自身の信用がないので冒険者ギルドで買い取ってもらいたいと言うと、ギルド長が銀行まで同行してくれることとなり二人で銀行へ。勿論、イレイズ銀行じゃない、信用できる銀行だ。

 銀行でマジックボックスから約100㎏の金塊を出すと、ギルド長と担当者はびっくり。こんなの運べないと担当者に泣き付かれその場で十分割。鑑定してもらった買取価格は金貨15000枚。キロ単価金貨150枚、日本円にして150万円。これには俺がびっくり。

 前世ほどの価値にはならなかったが俺の予想を遥かに上回った。こっちの世界では普通に金貨が使われているため金の価値はもっと低いと思っていたが含有率が違うらしい。金は堅い鉱石ではないのでそのまま金貨にするとすぐに削れてしまう。金貨とはあくまで金色の貨幣で本物の金は大した量を使っていないんだってさ。

 俺が出した金塊は金鉱石を精錬して金を取り出した物なので価値が物凄く高いとか。


 金貨15000枚の内5000枚はそのまま、残りの10000枚は白金貨100枚にしてもらい受け取った。帰り際ギルド長に「仕事する必要なくない?」と言われてしまったが、子供達の教育上、大人が仕事もせず日中ぶらぶらするのは良くない。

 まあ、結局仕事は出来ていないのですけど・・・


「文句ないでしょ。契約書出してくださいな」


 しぶしぶ鞄から契約書を出す担当者。口を挟まず俺達のやり取り見ている支店長は、すでに余裕の表情から商売人の顔に変っている。


「ふむふむ、それにしても酷い契約だ。マザーループ、本当にこんな契約で融資を受けたのですか?」


「まさか。いつの間にか私の持っている契約書と全く違う内容になっていて驚きました」


「なんですかそれは。どちらかの契約書が偽物ということですか?」


「人聞きの悪いことを言うな!出るところに出てもいいんだぞ」


 俺達の三文芝居にイラついた担当者が大きな声を出す。短気は損気、この人営業向きじゃありませんよ支店長さん。


「安心してください、マザーループ。俺は「鑑定」のスキルを持っていますので、契約書がいつ誰の手によって作成されたものか、サインは本物か、すべて確認できます。それで担当者さん、出るところってどこですか?詳しく聞きたいですね」


 アワアワと小刻みに震える担当者。それに対して座った目で俺を見続ける支店長。そろそろ動き出しそうだ。

 さあどうする支店長さん。このまま白金貨7枚持って帰るなんてしないよな。それなら本当に出るところに出ちゃうよ。と言わんばかりの表情で支店長の顔を窺うと未だ怒りに震える担当者を制し、ようやく真打の登場。


「双方契約に行き違いがあったようで申し訳ございません。マザーループがお持ちの契約書を確認させていただけますか」


 流石は支店長まで上り詰めただけはある。ここで担当者と一緒に恫喝してくるようでは三流だ。


「はい、こちらです」


 ダメダメ。まったく、他人を疑うことを知らない人だ。一度敵に渡せばどんな偽造をされるかわかったものじゃない。支店長の手に渡る前にマザーループから契約書を奪い取り、イレイズ銀行側の契約書と並べて魔法を発動する。


「フィックス」


 これで安心。俺オリジナルの偽造防止固定魔法。


「はい、どうぞ」


「今のは?」


「俺は魔法が得意でしてね。偽造防止の固定魔法です。証拠は残しておかないといけませんから。さあ、存分にご確認ください」


 僅かだが支店長の眉間に皺が寄った。やはり何かしようとしたな。どうせマザーループが持っていた契約書になにか偽装を施し、裁判になってイレイズ銀行側の契約書が偽物とバレても、どちらも偽装されていることにしようとしたのだろうがそうはいかない。


「確かに内容が大幅に違っていますね。一度持ち帰って精査させていただいて構いませんか?」


「その必要はありませんよ」


 時間は与えない。それ以上にマザーループとシスターパトリを早く心労から解放してあげたい。


「金利が一年で40%とはまともな金融機関のやることではないと思いますが、それがイレイズ銀行さんのやり方なら仕方がありません。とっととその金貨を持って帰ってください。たかが金貨700枚に時間をかけるほど俺は暇ではありません」


 担当者の言葉をそのままブーメラン。

 さあ、どうする。土地は諦めるか。いいや、諦められないよな。


「修繕された孤児院の調子はどうですか?」


 来た、来た。


『行け、コタロー』


『御意』


 誰にも気付かれないよう「隠密」で姿を隠したコタローが窓から飛び立つ。


 さあ、ここからが第二ラウンドだ。


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