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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第二章 教会編

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第七話 妹よ、俺は今最初の授業をしています。

 

「マザーループ、この建物は修繕したのですよね」


「はい、一年前に。その前は雨漏りが酷くて」


「修繕業者はどうやって決めたのですか?」


「イレイズ銀行に紹介していただきました」


 うーん、こりゃ業者もグルだな。マザーループは雨漏りが止んで喜んでいるが、俺の見立てではもってあと一年。屋根はある程度手を加えたのだろうが外壁は腐食部分を塗装で誤魔化しているだけ、どうせ中も似たようなものだろう。これでグルじゃないのなら相当腕の悪い業者だ。少し補強しておくか。


「リインフォース」


 ついでに悪者が入ってこられないように・・


「結界」


 これで今日明日に倒壊するようなことはない筈。どんな人間に対しても性善説をもって対応するのはマザーループとシスターパトリの美点でもあり欠点でもある。二人にもっと用心しろと言ったところで人間の性格は簡単には変わらない。今のところは誰かが目を光らせておくしかなく、これは今後の課題だな。


「トキオさん、今の・・」

「トキオ先生、今の魔法はなんですか?」


 ミルの質問がマザーループの声をかき消す。好奇心とは偉大なり。


「初めが建物の補強で、使った属性は土と空間と時間。二つ目が結界で、使った属性は空間と時間だよ」


「どうしてトキオ先生は複数の属性を掛け合わせて使うの?」


 的を射た質問だ、いいぞー。


「例えば土を固めて球を作ろうとした場合、ミルなら何の属性を使えばいいと思う?」


 答えを教えるのは簡単、だけどその前に考えさせる。


「土属性です」


「普通はそうだよね。だけど俺なら土、空間、時間の三つを掛け合わせる。理由は二つあるけど何だと思う?」


「えーっと・・・土属性は土を操る魔法で・・・空間属性で固くして・・・時間属性で固定するから・・・強固で長持ちするからですか?」


「半分正解。じゃあ実際土の球を作ってみるから違いを見てみよう。実験だ」


「実験!」


 おお、目が輝いた。いいねぇー、世界が変わっても子供が実験大好きなのは変わらない。早速ミルの前に土属性だけで作った土の球と三属性で作った土の球を出してあげる。


「まずは土属性だけで作ったこっちの球を足で踏んでみて」


「えい!簡単に潰れちゃった」


「次は三つの属性を掛け合わせた方」


「えい!えいえい!潰れない」


「ミルが答えたとおり三つの属性で作った方が硬くなった。良い物が出来た訳だ。でも理由はもう一つある。何だと思う?」


「ごめんなさい、わかりません」


「謝る必要なんてないよ。わからないってことは新しく学ぶ機会を得たのだから喜んでいいくらいさ」


「はい!」


「じゃあ正解を教えるね。二つの球は使った魔力量が全然違うんだ。土属性だけで作った方は使った魔力は25、三つの属性で作った方は・・」


 ミルの興奮がマザーループとシスターパトリにも伝わったのか、三人が息を呑む。


「3だ」


「「「えぇぇぇぇぇ!」」」


 いいねぇー、その反応。一番声が大きかったのがシスターパトリだったのはご愛敬だ。


「ど、どうしてなの、トキオ先生教えて!」


「それぞれのいい部分を使っただけさ。土属性は土を準備しただけで球体にしたのは空間属性、空間属性を維持し続けるのに使ったのが時間属性だよ。だから空間属性を解除すれば・・」


 パチン!


 指を鳴らして空間属性を解除するとあら不思議、ミルが何度踏んづけても壊れなかった土の球の形が崩れる。


「凄い、凄い、トキオ先生、凄い!」


 大喜びのミル。マザーループとシスターパトリも手を叩く。


「それぞれのいいところを持ち寄れば少ない力でも良い物を作ることが出来る、これは何も魔法に限ったことだけじゃないよ」


「どういうこと?」


 ここからが今回の授業で一番大切なところ。


「ミルはとても賢いから便利な道具を思いついた。作ろうとしたけど材料が重くてまだ小さなミルでは持ってくるだけで大変。ようやく材料が揃って作り始めるが、なかなか思ったとおりに作ることが出来ない。どうすればよかったのかな?」


「力持ちの人と物作りが得意な人に手伝ってもらう!」


 おお、即答。やはりこの子は賢い。


「正解。ミルが考え、力持ちの人に材料を準備してもらい、物作りが得意な人に制作してもらう。ミルが一人で作るより三人で特技を生かせば時間も早く少ない労力で良い物が出来る。これは適材適所と言って何をするに大切なことだからね」


「はい」


 快活な返事をしたミルはマザーループのもとへ、どうした?


「マザー、どんな切れ端でもいいので、あとで紙を貰えませんか。トキオ先生に教えてもらったことを忘れないように書いておきたいから」


「そうね・・・なにかあったかしら・・・」


 そうか・・・この子達にはノート一冊でも貴重品。学びたくても簡単に学べる環境じゃないから、特に賢いミルは学ぶことに飢えていたのか。


「ミル、これをあげるよ」


 マジックボックスから取り出したノートと筆箱。筆箱の中には鉛筆三本に消しゴムと小型の鉛筆削り。


「えっ、ノート!凄い、お貴族様みたい」


 筆記用具の使い方を教えている間ミルは興奮しっぱなしで「凄い」を連発する。最後にペンでノートの表紙に「ミルノート1」と書く。


「ミルノート1?」


「そう。これからミルが学んだことをどんどんノートに書いていくんだ。これは最初の一冊」


「でも・・・どんどん書いたらすぐに字でいっぱいになってノートが使えなくなっちゃう・・・」


「大丈夫、それは俺が作った物だから沢山あるしいつでも作れるから、気にせずどんどん使って。後で沢山シスターパトリに渡しておくから、文字でいっぱいになったら新しいのを貰いに行ってね。他の子の分も十分にあるからミルは何も心配しなくていいよ」


 宝物のようにノートを胸に抱えたミルが信じられないといった表情で俺を見てポツリと言った。


「トキオ先生は神様ですか?」


「ち、違うよ。ミルと同じ、ただの人間さ」


「でも・・・凄い魔法を使えるし、ノートや鉛筆も作れるし、何でも知ってる」


「何でも知っている訳じゃないよ。知らないことも出来ないことも沢山あるから勉強するのさ。ミルだっていっぱい学んで、いっぱい遊んで、一杯ご飯を食べれば俺なんかより沢山のことを知ることが出来るよ」


「遊ぶのも大事なの?」


「もちろん。遊びからしか気付けないことも沢山あるし、人生に無駄なことなんて何も無い。ミルはまだ子供だから今は大人の助けが無いと生きられないけれど、将来は何にだってなれるし何処にだって行ける。その時に勉強や遊びで学んだことがきっと役に立つ」


「何にだってなれるし、どこにだって行ける・・・」


「そうさ、可能性は誰にだってある」


「私にも?」


「もちろん。可能性の塊じゃないか」


 ノートを抱えたままミルが涙を流す。俺はミルが泣き止むまで頭を撫で続けた。

 これがこの世界の現実だ。持つ者と持たざる者、力が在る者と無い者には格差があり簡単に覆す事は出来ない。


 ここから変えていく。世界を変えるなんて大それたことは言わない。手の届く範囲から変えていく。目の前の少女の、孤児院の子供達の可能性を潰させはしない。その為なら俺はいくらでも力を使う。正しい世界の方向性なんてわからない。ただ、子供達が笑っていられる世界の方がいいに決まっている。




 孤児院の中は講堂を無理矢理改築したのがわかる造りになっていた。前世でいうなら間仕切りで部屋を区切った被災地の体育館みたいな感じだ。男女で別々の寝室に食堂や簡易的なシャワールームっぽいのもある。清潔な環境が保たれているのはマザーループとシスターパトリの努力の賜物だろう。

 俺が訪れた時マザーループが教会に居なかったのは食事を作っていたからだった。現在教会が預かっている子供は三十四人、それだけの子供達の食事を朝昼晩と二人で準備しているのには頭が下がる。


「年長の子供達が手伝ってくれるので、それほど大変ではありません」


 子供はちゃんと大人を見ている。マザーループとシスターパトリを見て育ったからこそ自分達が出来ることは率先してやろうとする。年長の子供達に今寝間着を着せてもらっている子が数年後は着せる立場になる。そうやってこの大家族は循環していく。


 食事を摂ってすぐ俺のところに戻ってきたミルだがうつらうつらし始めた。子供はそろそろ寝る時間だ。


「ミル、そろそろお布団に行きましょうか」


「やだ、眠たくない。まだトキオ先生と一緒に居る」


 シスターパトリの言葉に反発するミル。


「ミル、寝るのも大切なことだよ。特に子供の内は寝ている間が一番成長するからね」


「でも・・・寝ている間にトキオ先生が居なくなっちゃう・・・」


「大丈夫。しばらくは毎日顔を出すつもりだから」


「本当!」


「ああ、約束だ」


 安心したのか一気に睡魔が押し寄せたミルはシスターパトリに連れられ寝室へ。最後に子供らしい一面を見られてほっこりする。二人が寝室に入るのを見届けてからマザーループが口を開いた。


「御見それしました。先程のミルに対しての対応、大変勉強になりました。子供の好奇心は蓋をするのではなく育むもの、肝に銘じておきます」


 マザーループにそう言ってもらえるのは素直に嬉しい。これから俺がやろうとしていることの自信にもなる。


「それも踏まえて今後のことをもう少しお二人と話したいのですが、お時間は大丈夫でしょうか」


「はい、それでは教会の部屋に戻りましょう」


 シスターパトリは子供達を寝かしつけてから来るとのことなので、マザーループと二人で教会に戻る。


「そういえば宿はお決まりですか?」


「いいえ、この後取るつもりです」


「この時間では難しいでしょう。すぐに私の部屋を空けますのでお使いください」


「とんでもない。いきなり押しかけて女性に部屋を空けさせるほど無神経ではありませんよ」


「しかし・・・・・」


 マジか・・・宿は何時でも取れるものだと思っていた。こういった常識が無いのは問題だがこればかりは時間が必要だ。とりあえず今晩は・・・


「庭の隅を使わせていただけますか?」


「野宿なさるおつもりですか!たとえトキオさんの言葉でも承諾できません。何卒、私の部屋をお使いください」


「いいえ、野宿ではなくてですね・・」


 庭の隅まで行きマジックボックスに手を入れる。フフフッ、こんなこともあろうかと準備してありますよ。


「えっ、えっ、えぇぇぇぇぇ」


 マジックボックスから取り出したのは八畳程の丸太小屋。

 マザーループはびっくり、そいつを軽々抱えて庭の隅に設置する俺にさらに驚いて開いた口が塞がらない。


「ということで、部屋は空けてもらわなくても大丈夫です」


「あっ、は、はい・・・」


 余程驚いたのか教会に戻るまでマザーループは胸を手で押さえたままだった。来客室のソファーに座ってようやく一息ついたマザーループ。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 そこへ奇声が届く。見に行かなくても何が起きたのかはわかった。子供達を寝かしつけたシスターパトリが教会へ戻る途中、庭の隅に突然現れた丸太小屋に驚いたに違いない。


「プッ」


 マザーループが思わず吹き出す。


「プッ」


 そんな彼女を見て俺も吹き出す。


 慌てて来客室に飛び込んできたシスターパトリを見て俺とマザーループは遂に我慢できなくなり、大声でケラケラ笑った。


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