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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第二章 教会編

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第六話 妹よ、俺は今思い出しました。

 

 冷めてしまったが折角シスターパトリが淹れてくれたので紅茶を頂く。うん、流石は高級なお茶だ、冷めても美味しい。

 コタローが帰ってくるまではどうせ暇だし今のうちに色々と確認しておくか。


「孤児院を見学させてもらってもかまいませんか」




 教会の裏口から中庭に出ると子供達の声が聞こえる。芝などは生えていない土の中庭は、庭というよりグラウンドだ。ぱっと見ただけでも凸凹しており石も転がっている。以前は庭の周りを木が囲んでいたようで切り株が幾つもあって子供達が駆け回るには少し危険だ。


「シスターパトリ、少しの間だけ子供達を庭の端にどかせてもらえますか」


 シスターパトリに誘導された子供達は庭に一人立つ俺が何をするのか興味津々。それでは期待に応えてやりますか。


 まずは力任せにスッポンスッポン切り株を引っこ抜く。切り株とは氷山の一角で土の中に伸びている太く長い根が厄介なのだがそんなのお構いなし。マザーループとシスターパトリお口をあんぐり、子供達はやんや、やんや。

 抜いた切り株はマジックボックスにどんどん収納。目の前から突然消える切り株に子供達は大歓声、マザーループとシスターパトリまで拍手喝采。

 掴みはOK。一つだけ残しておいた切り株に何をするのか子供達の関心が集まる。期待に満ちた瞳に応えてあげようじゃないか。


「創造」


 光に包まれた切り株がお洒落なベンチに早変わり。マザーループとシスターパトリはもちろんのこと騒いでいた子供達まで言葉を失う。うん、うん、わかるよ。人間は驚きが過ぎると言葉を失ものだからね。それじゃあ仕上げと行きますか。


「グラウンドキーパー」


 俺が魔法を使うとあら不思議、切り株を抜いた痕も凸凹だった庭も平らに整地され石ころは土に吸収されていく。


「もう遊んでいいよー」


 子供達が一斉に庭へなだれ込む。


「お庭が真っ直ぐになったー」

「石ころも無くなったよ」

「土もふかふかだ」


 興奮した子供達が思い思いの感想を大声で叫びながら生まれ変わった庭を駆け回る。それに引き換え胸の前で手を組み、祈りを捧げるマザーループとシスターパトリ。俺は神様ではありませんよ。勿論死んでもいないので祈るのはやめてください・・・

 一仕事終え二人のもとへ向かうとシスターパトリがハッとした顔で何かに気付き大きな声を張り上げる。


「これこれ、庭を整地してくださったトキオさんにお礼を言うのが先でしょ」


 シスターパトリの声で子供達の動きが止まる。庭で遊んでいた中で一番大きな男の子がちびっ子達を集め何かを伝えると皆の視線が俺に集中した。


「お兄さん、庭を綺麗にしてくれてありがとう」

「「「ありがとう」」」


「どういたしまして」


 なんていい子達だ、こっちがお礼を言いたいくらいだ。今日ほど力を得て良かったと思えた日はない。お兄さんは子供達を笑顔に出来るのなら魔力が尽きるまで魔法を使い続けてもかまわないぞ。


 チョン、チョン


 んっ!


 小さな女の子に太腿をチョンチョンされました。


「どうしたの?」


「今のは土属性の魔法ですか?」


 魔法に興味があるのかな?


「そうだよ。あと一緒に空間属性と時間属性も使ったけどね」


「三つも!どうして?」


「雨が降ると砂の粒子が地下に落ちて石が出て来ちゃうからだよ」


「粒子ってなに?」


 グイグイ来るな、この子。


「粒子っていうのは、小さな物質のことだよ」


「一番小さいのが粒子?」


「いいや、一番小さいには素粒子って言うんだ。物質を作っている小さな粒子が原子、原子が結びついているのが分子、原子を作っている電子、陽子、中性子などの物質の素が素粒子って、ごめん難し過ぎるね・・」


「難しくない。もっと教えて」


 この子・・・凄くない?ちょっとステータスを確認。



 名前 ミル(9)

 レベル 1

 種族 人間

 性別 女


 基本ステータス

 体力  8

 魔力 11

 筋力  8

 耐久  8

 俊敏  7

 器用 10

 知能 32

 幸運 13


 魔法

 水  E

 風  E


 9歳で知能32!嘘でしょ!俺がレベル1だったときは21歳で知能26だったぞ。

 皆さーん、ここに天才児が居ますよー。


「不思議に思ったことはいつでも聞きにおいで。俺が知っていることは何でも教えてあげるし、俺も知らないことは一緒に考えよう。でもその前に、お名前を教えて欲しいな」


「あっ、ごめんなさい。私はミル、9歳です」


「俺はトキオ、冒険者です。もっと教えてあげたいけど、この後孤児院の方も見に行かなくちゃいけないから、ごめんね」


「ついていってもいいですか?」


「別にかまわないけど・・・」


 そう言うと謎の天才少女ミルは俺の袖を掴む。9歳児に懐かれました・・・悪い気はしない。



「庭を整地していただきありがとうございました。そろそろ孤児院の方へ向かいましょうか。んっ、ミルどうかしましたか?これからトキオさんには孤児院の方を見学していただくので皆と遊んできなさい」


 マザーループの言葉にミルは袖を掴んだまま俺を盾にするように隠れる。


「さあ、ミル。トキオさんは忙しいから邪魔をしてはいけませんよ」


「やだ。トキオ先生がついていっていいって言ったもん!」


「!?・・・・・・・」


「トキオ先生?」


「知らないことを色々教えたくれるから、トキオは私の先生だもん!」


 ミルの言葉に心臓が飛び跳ねる。感情が零れ落ちそうで思わず手で口を覆ったが、離れぬよう必死に俺の袖を掴むミルの姿を見ると涙が頬を伝った。


「どうされました、トキオさん」

「大丈夫、トキオ先生」


 慌て「不動心」を強く意識する。


「な、何でもありません。それよりマザーループ、子供の好奇心は押さえつけるのではなく育むものです。俺はミルも一緒でかまいませんよ」


「トキオさんがかまわないのであれば・・・」




 思い出した。ずっと蓋をして心の奥に押し込んでいた俺の夢を。


 先生になりたかった。

 両親のような先生になるため大学の教育学部で学んでいた。その夢が潰えたあの日、一番大切なものを守ると決めたあの日、全ては終わった筈だった。


 俺の能力が足りなかった。俺の努力が足りなかった。夢は叶わないことの方が多い。諦めたのは俺だ。誰のせいでもない、俺が諦めたのだ。妹は関係ない、俺が決断したのだ。


 俺は先生になれなかったことを妹のせいにしようとしているのか・・・自分自身に腹が立った。許せなかった。二度と思い出さないと心に固く誓った。


 そんな俺に、夢を叶えられなかったことを妹のせいにしようとした俺に、創造神様が、妹が、もう一度人生をくれた。


 充実した人生を送れと。


 ミルが、孤児院が、思い出させてくれた。


 俺にとっての充実した人生を。



 次は何が見られるのか好奇心に満ちた笑顔で袖を掴むミルと目が合う。この少女は、情けない兄貴に妹が遣わしてくれた天使かも知れない。


「ミル、ありがとう」


「何が?」


「なんでもない」


 妹よ、俺は今新たな人生の目標を決めたよ。


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